
松井 大輔
(監修者経歴)
東京大学 醍醐研究室卒業、株式会社ゼロック 代表取締役、東京大学 先端学際工学専攻 博士課程、EPD検証員、省庁事業や上場企業のLCA関連コンサルティング業務等幅広く対応

1:SBT(Science Based Targets) とは?
・SBTの概要・意義(ほかのものと何が違う。認定のためにScope3算定が必要)
・認定企業は大企業が中心に増えており、今後も増えそう。(ただ、他のものと比べると重要度は低い。)
2:SBTの認定基準と認定の流れ
・認定基準(レベルとして3段階ぐらいに分かれる。具体的な数値、ただし、罰則はない。基準年の設定が大事)
・取得の流れ(概要の理解、費用がかかる)
・注意点がある(全部英語。ルールが頻繁に変わる。毎年報告が必要、まずはコミットから)
3:メリット
・1-4
4:SBT認定の開示事例
・SBTの事務局の公式HPで開示される
・実際の企業の開示方法
4:結局、SBT認定は取得した方がいいのか?
・結論、企業によって異なる。
・取得を考えているなら
企業に脱炭素経営が求められる昨今において、単に自社内で温室効果ガス削減に努力するだけでなく、対外的な宣言を行い、ステークホルダーに認知してもらうことも重要です。
この記事では、温室効果ガス排出削減目標の国際的イニシアチブの1つであるSBTについて、紹介していきます。
これからSBT認定の取得を考えている方、企業として脱炭素に向けた行動をしたいけど何をしたら良いかわからない方は是非参考にしてください。
SBT(Science Based Targets)とは?

SBTの概要
SBTとは「Science Based Targets」の略で、5~10年先を目標年として企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことです。
この削減目標はパリ協定により掲げられた水準(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準に抑え、1.5℃に抑えることを目指すもの)と整合されたものであることが求められます。
SBT認定を取得した企業は、投資家や取引先に対して、パリ協定に整合する持続可能な企業であることを対外的にわかりやすくアピールすることができます。

関連記事:【5行でわかる】パリ協定とは?達成できない?各国の目標についても解説
SBTで削減が求められる1.5℃目標を達成するためには、年率4.2%の温室効果ガス削減が必要になります。
つまり5年後が目標年なら21%、10年後が目標年なら42%の削減が求められますので、企業としては大きな覚悟が必要です。
この基準は、以前であればパリ協定2℃水準、つまり年率1.23℃~2.5℃の削減で良かったのですが、2021年に公表されたIPCC第6次報告書の内容を踏まえて、より厳しい目標水準へと変更されたと言われています。
なお、企業が排出するCO2だけでなく、メタンやフロンも含む「GHG(温室効果ガス)」が排出削減の対象となっている点に注意が必要です。
SBT認定では、サプライチェーン排出量と呼ばれる「SCOPE1~3」の全てが算定・削減対象となっています。
SCOPE1~3とは、自社の排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量のことです。

つまり、事業者は自社で使用する電気やガスの使用による排出だけではなく、原材料の調達や輸送、製品の使用や廃棄といって上流から下流に至る排出全てにおいて、算定、削減、報告の必要があるということになります。
サプライチェーン排出量の算定は、GHGプロトコルという温室効果ガス排出量の算定の国際的なルールによって定められており、SBT認定取得時の報告もこれに準拠することが求められます。
関連記事:Scope3(スコープ3)とは?概要や算定方法を分かりやすく解説
関連記事:GHGプロトコルとは?排出量算定はGHG削減の第一歩
SBT認定企業数は日本が世界一多い
SBTは世界的に影響力のある4つの機関により運営されている信頼性の高いイニシアチブで、パリ協定に整合したわかりやすい目標設定です。
2023年日本国内のSBT参加企業

上記のグラフを見ると分かる通り、SBT参加企業は世界・日本共に年々増加しています。
SBTには、運営機関の審査を経た「認定」と、2年以内にSBT認定を取得すると宣言する「コミット」という2つの状態があります。
世界の参加企業数では、ハードルの低いコミットが多いのですが、日本ではしっかりと認定を取得している企業が多いのが特徴です。
また、世界・日本共に近年参加企業数の増加ペースは加速しており、SBTが注目を集めていることがわかります。
今後は参加企業数はさらに増えていくことが予想されます。
さらに、国別でみると、認定数上位は日本、イギリス、アメリカの順位となっており、日本は認定取得数では第1位となります。
業界的には、世界的に食料品企業が多いですが、日本は電子機器や建設業の企業による参加が多いのも特徴の一つです。
| 国(認定企業数順) | コミット | 認定 | 合計 |
|---|---|---|---|
| イギリス | 395 | 592 | 987 |
| 日本 | 76 | 601 | 677 |
| アメリカ | 341 | 397 | 738 |
| ドイツ | 168 | 195 | 363 |
| フランス | 116 | 177 | 293 |
| スウェーデン | 100 | 186 | 286 |
| デンマーク | 59 | 64 | 123 |
SBTの認定基準と認定の流れ

対象
SBTの取得可能対象は特になく、すべての企業・団体を対象にしています。
削減範囲
冒頭で説明した通り、SBTでは自社の温室効果ガスだけではなく、サプライチェーン全体の排出量削減が求められます。
サプライチェーン排出量は、Scope1・Scope2・Scope3の合計値で算出されます。
| スコープ | 内容 |
|---|---|
| Scope1 | 自社内部での燃料の燃焼により直接排出される温室効果ガスの排出量 |
| Scope2 | 電力会社などの他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出量 |
| Scope3 | 事業者の上流にある購入物の生産、輸送、ならびに、事業者の下流に位置する製品の輸送、使用、廃棄等での全体的な間接温室効果ガスの排出量(Scope1、Scope2以外の間接排出) |
なお、企業全体(子会社含む)のScope1及び2をカバーする、すべての関連する温室効果ガスが対象です。
基準年・目標年
ただし、Scope3がScope1〜3の合計の40%を超えない場合には、Scope3⽬標設定の必要はありません。
基準とする年はデータが存在する最新年とすることが推奨されています。
また、目標となる年は申請時から最短5年、最長で10年とされていますが、長期目標の提出も推奨されています。
目標水準
| 項目 | 目標レベル |
|---|---|
| Scope1,2 | 1.5℃︓少なくとも年4.2%削減 |
| Scope3 | Well below 2℃︓少なくとも年2.5%削減 |
Scopeを複数合算(例えば1+2または1+2+3)した目標設定が可能ですが、Scope1+2及びScope3でSBT水準を満たすことが前提となります。
Scope1,2の⽬標は、セクター共通の⽔準としては「総量同量」削減とする必要があり、Scope3の⽬標は、総量削減・排出原単位削減・サプライヤー/顧客エンゲージメント⽬標のいずれかを満たす「野⼼的な」⽬標を設定することが求められます。
その他の認定要件
- 他者のクレジットの取得による削減はSBT達成のための削減に算⼊できない
- 削減貢献量はSBT達成のための削減に算⼊できない
- Scope2について、再エネ電⼒を1.5℃シナリオに準ずる割合で調達することは、Scope2排出削減⽬標の 代替案として認められる
- 企業全体のGHG排出状況を毎年開⽰報告が必要
- 最低でも5年ごとに⽬標の⾒直しが必要
①Commitment Letterを事務局に提出(任意)
必須ではありませんが、まずコミットメントレターを事務局に提出します。
先述の通り、コミットとは2年以内にSBT設定を行うという宣言です。
コミットした場合には、SBT事務局・CDP・WMBにウェブで公開されるので、温室効果ガス削減に努力しようとしている企業であることは外部にアピールすことができます。
➁目標を設定し、申請書を事務局に提出
「Target Submission Form」という目標認定申請書を提出し、審査日をSBTi booking systemで予約します。

申請書の記載事項は以下の12項目です。
- 目標の妥当性確認(次頁参照)に関する要望
- 基本情報(企業名、連絡先など)
- GHGインベントリに関する質問(組織範囲など)
- Scope1,2に関する質問
- バイオエネルギーに関する質問
- Scope3に関する質問
- 算定除外に関する質問
- GHGインベントリ情報(Scope1,2,3排出量)
- 削減目標(Scope1,2,3目標)
- 目標の再計算と進捗報告
- 補足情報 申請費用の支払情報
目標設定するためには、現状を把握することから始まりますので、基準年のScope1,2,3排出量を算定する必要があります。
算定する際は専門家やコンサルタントと相談しながら、GHGプロトコル企業基準に則った方法で算定しましょう。
社内に専門家がいない場合は外部へ委託するとスムーズに認定取得ができます。
また、申請のフォーマットは全て英語で書かれているため、英語が苦手な方はGoogle翻訳などを使うことをおすすめします。
③SBT事務局による目標の妥当性確認・回答(有料)
SBT事務局が認定基準への該否を審査し、メールで回答(否定する場合は、理由も含む)します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 評価対象企業 | ・一次審査(申請書の記載事項に問題が無いか確認するもの)を通過した企業 ・発展途上国に本社が所在する企業は申請費用が免除 |
| 評価対象目標 | ・目標を全てのSBT基準に照らして評価 |
| 目標認定申請書 | ・空欄項目はNG |
| レビュー実施者 | ・目標妥当性確認チーム(必要に応じてテクニカルワーキンググループやリーダーシップチームも参加) |
| 提供されるフィードバック水準 | 詳細なフィードバックが以下の形式で、評価の段階ごとに提供される ・申請内容が基準に合致していなかった場合に、非適合箇所に対処するための推奨事項を含む包括的な目標妥当性確認レポート ・公式決定文書 ・リクエストに応じて、SBTiのテクニカルエキスパートとの60分間までのフィードバック |
| 回答期間 | ・妥当性確認が開始してから30営業日以内に発行 |
④SBT等のウェブサイトにて公表

企業には認定の日(SBT事務局からの資料送付時)から1か月以内に、SBTiウェブサイトでの公表日が割り当てられます。
これは認定承認のメールで通知されます。
なお、企業がこの日付に合意しない場合、企業は認定された目標を6カ月以内に公開しなければなりません。
⑤排出量と対策の進捗状況を年一回報告・開示
開示した後は、実効あるのみです!
上場企業は何も進捗がないと、株主総会等で指摘をされてしまう可能性も発生してきます。
SBTは結果ではなく、目標を設定した段階で外部に公開することに意義があります。
毎年開示ですので、先延ばしにすることも難しい仕組みになっています。
⑥定期的に目標の妥当性の確認
5〜10年の目標ですので、当然大きな変化が生じる場合もあります。
少なくとも5年に1度は再評価を行い、必要に応じ目標を再設定しましょう。
SBT認定の4つのメリット

1:機関投資家からの評価向上・資金調達コストの低減
SBT認定を取得することで、「パリ協定に整合した形で温室効果ガス排出量削減に尽力している企業」ということを分かりやすく投資家にアピールすることができます。
特に、機関投資家は環境や社会に対しての企業の取組姿勢を投資判断の要素として既に加えています。
2021年9月には、計29.3兆ドルもの資産を運用する金融機関220社が、環境影響が大きい約1,600社に対して、SBTを設定するよう求めました。
日本からも日興アセットマネジメントや三井住友DSアセットマネジメントが参加しており、三井住友DSアセットマネジメント責任投資オフィサーの坂口淳一氏は「今後SBTを設定できないことが企業にとって重大なリスク要因になる」とまで発言しています。
また、最近ではサステナブル目標達成に応じて金利などを優遇する融資なども増えており、SBTへの取り組みが資金調達に有利に働くことがわかります。
2:CDP評価の向上
投資家からの評価と重複する部分もありますが、SBT認定を受けていると、CDP質問書における「リーダーシップ」の得点を獲得することができます。
CDPとは、英国の国際的な環境非営利団体(NGO)のことで世界の企業に対し、二酸化炭素排出量や気候変動への取り組みに関する質問書を出すことで情報を収集・開示ことを主な活動内容としています。
CDPの点数を高めることで、多くの機関投資家に定量的なアピールができるといえます。SBT認定を受けていると下記の質問項目で得点を獲得することができます。
| 評価基準 | SBT認定に対する評価 |
|---|---|
| リーダーシップ | 4.1a, 4.1bの両方またはいずれかにおいて、1.5℃/WB2℃目標の場合1点獲得(フルポイント)、2℃目標の場合0.5点獲得 |
| マネジメント | 4.1a, 4.1bの両方またはいずれかにおいて2点獲得 さらに、目標対象範囲がCompany-wideで1点(フルポイント) |
| 認識 | 「科学的根拠に基づいた排出削減目標ですか?」の質問に対して、下記の回答であれば 4.1a, 4.1bの両方またはいずれかにおいて1点獲得(フルポイント) ◆ はい、この目標はSBTiに認定されています ◆ はい、当社では科学的根拠に基づいた目標であると認識していますが、SBTiのレビューを受けてはいません ◆ はい、当社では科学的根拠に基づいた目標であると認識しており、今後2年以内にSBTiの審査を受けることに宣言し ています 下記の回答であれば4.1a, 4.1bの両方またはいずれかにおいて0.5 ◆ いいえ、しかし今後2年以内に科学的根拠に基づいている目標を設定する予定です |
| 情報開示 | – |
関連記事:CDPとは?気候変動に関する情報公開やCDPスコアも解説
3:サプライチェーン調達リスク低減
SBT認定企業は自社の直接排出だけでなく、Scope3の削減目標も設定する必要があるため、自社の取引先に対してSBT認定を取得させることを掲げる企業も存在します。
つまり、SBT認定を取得をすることはこういった顧客の声に答えることになり、自社の販売におけるリスクの低減や販売網の拡大にもつながることになります。

4:社内の脱炭素モチベーションの向上
SBT認定を取得するということは、社内外に対してCO2排出量の削減目標を宣言することになります。
企業内では、省エネ・再エネ導入や環境貢献製品の開発といったミッションがトップダウンで実行されることになります。
そして、SBTは野心的な目標水準であり達成のために社内的な機運やモチベーションの高まりや、画期的なイノベーションが起きやすくなります。
SBTにはこうした社内的な波及効果もあり、海外企業ではこうした狙いを持ってSBTを取得する企業もあり、実際に新製品や新規事業の開発に繋がったケースもあります。
SBT認定の開示事例
明治ホールディングス株式会社

Scope1・2の削減⽬標と削減に向けた取り組み
【⽬標】2030年度までに、2015年度⽐で42%削減。
【取組】トップランナー設備への更新・導⼊等の省エネ。太陽光発電設備等の創エネ。再⽣可能エネルギー電⼒の購⼊等も進める。
Scope3の削減⽬標と削減に向けた取り組み
【⽬標】:2030年度までに、2019年度⽐で、カテゴリ1,4,9,12を13.6%削減。
【取組】⽣産効率の向上、容器包装の軽量化、物流の効率化など。
Scope1・2・3の排出量の状況
SCOPE1:29万 t-CO2(7%)
SCOPE2:44万 tCO2(11%)
SCOPE3:326万 tCO2(82%)

信越化学⼯業株式会社

Scope1・2の削減⽬標と削減に向けた取り組み
【⽬標】GHGを⽣産量原単位で2025年に1990年⽐で45%に削減する目標を設定。
※グループ全体で54%にまで削減達成。
【取組】
2050年のカーボンニュートラルを⾒据え、徹底した省エネルギー、創エネルギーに挑戦。
- 省エネルギーで⾼歩留まりの⽣産⼯程の開発
- ⾼効率、超⾼効率機器の導⼊
- 天然ガスによるコージェネレーション設備の導⼊増
- 太陽光発電設備の導⼊増
- 再⽣可能エネルギー由来の電⼒の購⼊
Scope3の削減⽬標と削減に向けた取り組み
カテゴリー1と12を対象。
カテゴリー1は削減はサプライヤーと協働。
カテゴリー12はリサイクルの促進する。
Scope1・2・3の排出量の状況
SCOPE1:1,774千 t-CO2(11%)
SCOPE2:4,593千 tCO2(28%)
結論、SBT認定を取得するべきか否か


SCOPE3:9,778千 tCO2(61%)

ここまでSBT認定の概要やメリット、認定基準について説明してきました。
この記事でご説明したように、SBT認定の取得は企業の脱炭素経営を進める上で一番初めに取り組むべき優先順位の高い取り組みと言えます。
弊社株式会社ゼロックでは、GHGプロトコルに準拠したScope1~3の算定はもちろん、排出削減計画の策定や削減方法のご提案など脱炭素経営全般のご支援をワンストップでご提供が可能です。
本腰を入れて脱炭素を実践したい企業様はもちろん、何か取り組みたいけど何からしたら良いかわからないという企業様もお気軽にお問い合わせください。












