IPCC第6次報告書をわかりやすく解説します

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松井大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

目次

IPCC第6次報告書をわかりやすく解説

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次報告書が2021年~2022年にかけて報告されています。

前回の第5次報告書(AR5)が2013年~2014年でしたので、およそ8年ぶりの更新です。

世界的にSDGsなども盛り上がる中、気候変動に関する最前線の科学的知見がどうなっているのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

この記事では、IPCCの第1次報告書から第5次報告書を読んだことのなくても、わかりやすく把握できるように解説していきます。

なお、企業の担当者もしくは学生が気になる部分をまとめていきますので、正しさよりも簡単でわかりやすい言葉を用いて表現することを優先しています。

細かい表現が気になる方は、ぜひ原文をご覧ください。

第6次報告書のまとめ

IPCCとは

IPCCとは
IPCCホームページ

気候変動に関する科学的な知見を提供する組織

IPCCとは、「Intergovernmental Panel on Climate Change」の略であり、日本語では「気候変動に関する政府間パネル」と呼ばれます。

世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された国連の組織です。

名前からはわかりづらい機関ではありますが、重要なのは以下の点です。

  1. 科学的に妥当な
  2. 気候変動(climate change)の原因や将来リスクを
  3. 政府に情報提供することを目的とし
  4. 195の国と地域が参加している(2022年7月現在)

近年、多くの政府は、気候変動に関する政策判断が求められています。

これは世界規模の現象でもあるため、自国だけではなく、国家間の関係にも影響します。

しかし、気候変動はその因果関係や将来のリスクが自明なものではないため、まだまだ様々な研究が現在進行形で進められている段階です。

そのため、現状の政策決定者にとっては、何を参考にするべきなのか、全ての研究に目を通し意思決定に用いるのは非常に困難です。

透明性と妥当性のある報告書

そこでIPCCは、多くの科学者や政府が参加し、多くの科学論文を評価することで、透明性と妥当性を持った報告書を作り上げます。

これは、皆の合意によりできた科学情報の結論であり、意思決定に利用しやすいものとなります。

だからこそ、IPCCの報告書の内容は大きな注目を集めているのです。

なお、IPCCは独自の調査は実施していません。

あくまで科学的な合意を作ることに価値を置いた組織といえるでしょう。

IPCCの組織図

IPCCの組織図
IPCCの組織図(IPCC HPより)

IPCCは世界的に信頼のある組織となっていますが、上の図のように複数のグループにより構成されています。

ここでは、特に報告書に関係のある、3つのワーキンググループと、1つのタスクフォースを簡単に見ていきましょう。

第一作業部会(Working Group Ⅰ:WGⅠ)

ワーキンググループⅠは「Physical Science」に軸を置いています。

気候システム・気候変動について原因や将来予測についての科学的な情報を提供することが目的です。

「Physical Science」が入っているとおり、自然科学的な根拠を抑えにいっています。

すなわち、IPCCの最も核となる情報といえるでしょう。

2022年現在の共同議長は、フランスのValérie Masson-Delmotteと中国のPanmao Zhaiが務めています。

第二作業部会(Working Group Ⅱ:WGⅡ)

ワーキンググループⅡは、「Impacts, Adaptation, and Volnerability」に軸を置いています。

「影響」「適応」「脆弱性」という言葉のとおり、WGⅠと比較すると、人間活動や生態系に注目していることが特徴です。

気候変動が、どのように人間に影響が及ぶのかや、どのようなリスクがあるのかをまとめています。

私たちの生活に直結する情報ですので、気候変動を身近なものと感じる人にとって、最も気になる情報かもしれません。

2022年現在の共同議長は、ドイツのHans-Otto Pörtnerと南アフリカのDebra Robertsが務めています。

第三作業部会(Working Group Ⅲ:WGⅢ)

ワーキンググループⅢは、「Mitigation of Climate Change」に軸を置いています。

日本語であらわすと「緩和策」となります。

温室効果ガスの削減方法についての評価や、DAC(Direct Air Capture)などの除去技術について網羅的にまとめています。

どの程度の削減可能性があるのかや、その際のコストなどにも注目しています。

「脱炭素」の枠組みの中でビジネス改革を求められる企業の方にとって最も有意義な情報となるでしょう。

2022年現在の共同議長は、インドのPriyadarshi R. ShuklaとイギリスのJim Skeaが務めています。

Task Force(TFI)

TFIは、1998年に設立されたグループであり、国が排出する温室効果ガスの計算や、その算定方法についての取りまとめ、ガイドラインの開示等を行っています。

報告書では、たとえば「土地利用変化」による温室効果ガスの排出の計算等、LCA(ライフサイクルアセスメント)などでも基本となる情報が開示されています。

2022年現在の共同議長は、日本の田辺 清人(IGES)とペルーのEduardo Calvo Buendíaが務めています。

なお、IPCCの組織について詳細が気になる方は、IPCCとはどのような組織か英語のHPをご覧ください。

IPCCの報告歴

IPCCは、1990年に公表した第1回を初めとして、今回の第6次報告書までで6回の報告を実施してきました。

報告書略称公表年
第1次評価報告書FAR1990年
第2次評価報告書SAR1995年
第3次評価報告書TAR2001年
第4次評価報告書AR42007年
第5次評価報告書AR52013年~2014年
第6次評価報告書AR62021年~2022年
IPCCの報告歴

第6次評価報告書では、2022年の7月時点でまだ統合報告書は報告されていませんが、WG1~WG3報告書が既に公表されています。

おおむね5~10年スパンでの更新となっており、次の第7次報告書は2030年頃が見込まれます。

2030年をターゲットに動いている企業にとっては、今回の第6次報告書が最後の参考文書になるため、特に意識して読みたいところです。

IPCC第6次報告書の一覧

IPCC第6次報告書の一覧

このような大掛かりな報告書では良くあることですが、一回だけ一つの報告書が公表されるわけではありません。

数年かけた作成期間を経て、順々に内容が公開されていきます。

特に、第6次報告書には3つの種類があります。

  • 評価報告書
  • 統合報告書
  • 特別報告書等

また、ワーキンググループごとの報告書が存在していたり、日本の場合は「和訳」がされたりすることもあります。

第6次報告書の公的な資料をまとめましたので、全体感を掴みたい人は確認してください。

英語原文

報告書種類報告機関報告書名公開日
評価報告書 (WGⅠ)IPCCClimate Change 2021: The Physical Science Basis2021年8月9日
評価報告書 (WGⅡ)IPCCClimate Change 2022: Impacts, Adaptation and Vulnerability2022年2月28日
評価報告書 (WGⅢ)IPCCClimate Change 2022: Mitigation of Climate Change2022年4月4日
統合報告書IPCC※予定
2022年9月
1.5℃特別報告書IPCCGlobal Warming of 1.5 ºC2018年4月4日
土地関係特別報告書IPCCClimate Change and Land2019年8月8日
海洋・雪氷圏特別報告書IPCCSpecial Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate2019年9月25日
温室効果ガスインベントリに関する方法論報告書IPCC2019 Refinement to the 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories2019年5月13日
IPCC第6次報告書の報告形式一覧(英語原文)

日本語訳

報告書種類報告機関報告書名公開日
評価報告書 (WGⅠ)気象庁政策決定者向け要約(SPM)2022年5月12日
評価報告書 (WGⅠ)気象庁ヘッドライン・ステートメント(HS)2022年5月12日
評価報告書 (WGⅡ)環境省政策決定者向け要約(SPM)2022年3月18日
1.5℃特別報告書環境省1.5℃の地球温暖化 政策決定者向け要約2019年8月1日
土地関係特別報告書環境省気候変動と土地 政策決定者向け要約2021年3月 29日
海洋・雪氷圏特別報告書環境省変化する気候下での海洋・雪氷圏 政策決定者向け要約2021年3月29日
IPCC第6次報告書の報告形式一覧(日本語訳)

なお、上記以外にも他の組織が改編したうえでグラフを作成したりすることも多々あります。

そのため、今自分たちが見ているのはどの報告書なのか?最終版なのか?本当に正しい情報なのか?ということは、常に意識する必要があります。

気象庁がまとめているIPCC第6次評価報告書の引用のガイドラインでもありますが、特に企業の方は、情報源もさかのぼれるようにしておくことをお勧めします。

WGⅠ(自然科学的根拠)の内容

第6次報告書WGⅠ

それでは、報告書の具体的な内容を見ていきましょう。

評価報告書の中で最初に公表されたのが、第一作業部会(WGⅠ)の報告書です。

2021年に公表されたこともあり、日本語の要約が存在しています。

まとめ

  1. 報告書では、「確信度」と「可能性」を定義している
  2. 地球温暖化の原因が人間にあることは疑う余地がない
  3. 5つの将来シナリオを用意している
  4. どのシナリオでも地球は温暖化する
  5. GHG排出量をゼロにした後も、維持そして削減(ネガティブ)が必要
  6. 世界の大きな方向性(パリ目標)は変わらない

「確信度」と「可能性」を定義している

IPCCの報告書では、できるだけ客観的な表現をするために言葉の基準を定めています。

特に「確信度」と「可能性」については重要であり、文章を読む際に意識する必要があります。

「確信度」の基準

IPCC第6次報告書による確信度の基準
IPCCによる確信度の基準(AR6 WG1 参考資料 別添3:気象庁

IPCCの報告書で用いられる確信度とは「見解の一致度」と「証拠」の2つのレベルの組み合わせにより決まります。

どの程度妥当なのか?どの程度確実なのか?ということを表現する際に、斜体で記載します。

最終的には、5段階の確信度で表現され、それぞれ日本語と英語は下記のような関係です。

日本語英語
確信度が非常に高いvery high confidence
確信度が高いhigh confidence
確信度が中程度medium confidence
確信度が低いlow confidence
確信度が非常に低いvery low confidence

「可能性」の基準

続いては「可能性」に関する記載です。

こちらはもっとわかりやすく、確率により明確に言葉が分類されます。

確率日本語英語
99~100 %ほぼ確実virtually certain
90~100 %可能性が非常に高いvery likely
66~100 %可能性が高いlikely
33~66 %どちらも同程度の可能性about as likely as not
0~33 %可能性が低いunlikely
0~10 %可能性が非常に低いvery unlikely
0~1 %ほぼあり得ないexceptionally unlikely
IPCCにおける可能性の定義

たとえば、お医者さんに「手術は成功します(可能性が非常に高い)」と言われたとき、どう感じるかは人それぞれです。

しかし、本基準によれば「20回に1回くらいは失敗するかもしれないが、20回に19回くらいは成功するでしょう」という具合に解釈できます。

逆に言えば、ほぼ確実と言っていないため「1%未満に抑えることはできないんだな」と思うこともできます。

なお、先ほどの確信度と同様に、本定義で用いる可能性は斜体で表現します。

地球温暖化の原因が人間にあることは疑う余地がない

1850年~1900年を基準とした世界平均気温の変化
1850年~1900年を基準とした世界平均気温の変化
WG1 SPM 暫定訳(文部科学省及び気象庁)より、図SPM.1を転載)

今回の報告書で最も注目を浴びたのは、この部分かもしれません。

地球温暖化が起きていることはもちろん、人間の活動が温暖化に影響を与えていることを「疑う余地がない」と表現しました。

It is unequivocal that human influence has warmed the atmosphere, ocean and land.

IPCC AR5 WGⅠSPM p.4, A.1

実は、いままでの報告書でも、人間が地球温暖化に及ぼす影響について言及していたのですが、ここまでの強い言葉ではありませんでした。

報告書日本語表現(気象庁訳)英語表現
1990第1次報告書上昇を生じさせるだろう
1995第2次報告書影響が全地球の気候に表れている
2001第3次報告書可能性が高い(66~100 %)likely
2007第4次報告書可能性が非常に高い(90~100 %)very likely
2013第5次報告書可能性が極めて高い(95~100 %)virtually certain
2021第6次報告書疑う余地がないunequivocal
人間活動が及ぼす温暖化への影響についての評価

人間による影響が間違いない以上、人間により温暖化を止めることができることも間違いないのかもしれません。

なお、「地球温暖化のすべての原因が人間」ではないことに注意は必要です。

5つの将来シナリオを用意している

気候変動を考える際には、すくなくとも数十年スパンでの長期的な目線が必要となり、将来を予測する必要があります。

しかし、将来の社会がどうなっているかはもちろん誰にもわかりません。

そして、その振れ幅は結果を大きく変える可能性があります。

そこで、気候変動を予測する際にはいくつかの「シナリオ」を設定し、そのシナリオごとに結果を確認することが一般的です。

IPCCの第6次報告書のWGⅠでも、2つの観点の組み合わせで、5つの将来シナリオを設定しています。

  • 共通社会経済経路(Shared Socio-economic Pathways:SSP)
  • 2100年の放射強制力(≒ 大気中のCO2濃度)
シナリオ社会経済放射強制力
SSP1-1.9持続可能な発展(SSP1)1.9 W/m2
SSP1-2.6持続可能な発展(SSP1)2.6 W/m2
SSP2-4.5中道的な発展(SSP2)4.5 W/m2
SSP3-7.0地域対立的な発展(SSP3)7.0 W/m2
SSP5-8.5化石燃料依存型の発展(SSP5)8.5 W/m2
第6次報告書での5つのシナリオ

細かいシナリオの説明はここでは割愛しますが、一つだけ重要な点は、シナリオの実現可能性は評価していないということです。

「もし私が総理大臣だったら~」の仮定と同じレベルかもしれないことには注意してください。

どのシナリオでも地球は温暖化する

5つのシナリオにおける二酸化炭素の排出量推移
5つのシナリオにおける二酸化炭素の排出量推移
(WG1 SPM 暫定訳(文部科学省及び気象庁)より、図SPM.1.4(a)を転載)
5つのシナリオにおける世界平均気温の変化
5つのシナリオにおける世界平均気温の変化
(WG1 SPM 暫定訳(文部科学省及び気象庁)より、図SPM.8(a)を転載)

5つのシナリオがあることをお話ししましたが、どのシナリオにおいても2015年時点よりも地球温暖化が進むことが想定されています。

最も二酸化炭素の排出量が抑えられるシナリオの水色の棒グラフ(SSP1-1.9)においても、今よりも温度が高いことがわかるでしょう。

そして、黄色から赤色のグラフにおいては、2015年時点からさらに1~4℃ほど気温が上がることがわかります。

ただし、SSP1のシナリオ2つにおいては、いわゆるカーボンニュートラルが達成され、2050年以降平均気温が下がる方向に向かうこともわかります。

また、その中でも、早くCO2の排出がゼロになるSSP1-1.9シナリオのほうが、温度上昇の上限が低いこともわかります。

地球温暖化を考えるうえでは、重要なことは2点です。

  • 温度が一定もしくは減少に向かうことができるか
  • どの温度で上昇が止まるか

「1.5℃目標」のように、産業革命以前と比較してある水準まで気温上昇を抑えるのであれば、カーボンニュートラルを達成するだけではなく、いつ達成するのかも重要であることがわかると思います。

GHG排出量をゼロにした後も、維持そして削減(ネガティブ)が必要

累積CO2排出量と世界平均気温上昇量の関係
累積CO2排出量と世界平均気温上昇量の関係
(WG1 SPM 暫定訳(文部科学省及び気象庁)より、図SPM.10を転載)

カーボンニュートラルを目指すことを考える人の中には「0」をターゲットにしていて、その先のことを気にしていない人は多いでしょう。

しかし、IPCCが示す「カーボンニュートラル」は、あくまで過程であることに注意しなければなりません。

カーボンバジェット

CO2排出量を考える際に重要な言葉として「カーボンバジェット」という言葉があります。

上の図のとおり、地球温暖化は単年のCO2排出量に依存するのではなく、累積でどれくらい排出したかにこそ直接依存します。

そのため「地球温暖化を○○℃に抑えるには、累積のCO2排出量を△△に抑えなければならない」という言い方をすることが可能です。

この際の△△こそが、カーボンバジェットです。

累積CO2排出量を削減する

つまり私たちは、ある年においてカーボンニュートラルを達成するだけではなく、それを永続的に続く見込みがあるかを検討する必要があります。

たとえば、ある企業が2030年に何かのオフセットを用いて「カーボンニュートラル」を表現したとします。

しかし、そのオフセットは2031年も、2050年も、さらにその先も活用することができるでしょうか。

本当の意味で温暖化に対する人間活動の影響をなくすためには、人間による「累積排出量」をゼロにする必要があります。

そのため、単年で考えたときには、カーボンネガティブを続けることすら必要なことなのです。

世界の大きな方向性(パリ目標)は変わらない

いままで、第一作業部会の報告内容を見てきました。

この報告書では、パリ目標を目標とする根拠がより示されたと言えるでしょう。

何か大きな自然科学的事実が明らかになったことはないため、WGⅠにより世の中の大きなトレンドが変わることはないでしょうが、トレンドがより加速していくことはあるのかもしれません。

WGⅡ(影響・適応・脆弱性)の内容

第6次報告書WGⅡ

続いて、WGⅡの内容を見ていきます。

ここでは、影響・適応・脆弱性という観点が報告されています。

まとめ

  1. 気候変動により悪い影響が起きている
  2. 地球温暖化により「リスク」が増加する
  3. 発展途上国の人々がより大きいリスクにさらされている
  4. 適応策は重要とされるが、その優先順位は示されていない
  5. 気候変動対策のキーワードは「レジリエンス」
  6. 時間との闘い。次の10年間が勝負。

気候変動により悪い影響が起きている

気候変動が人間システムに及ぼす影響
気候変動が人間システムに及ぼす影響
(WG2 SPM 暫定訳(文部科学省及び気象庁)より、図SPM.2を転載)

さて、地球温暖化や気候変動を考える際によくある議論が、そもそも地球温暖化はいけないことなのか?という議論です。

寒がりの人にとっては、地球が温かくなったほうが過ごしやすいかもしれませんし、北海道の人は暖房費が抑えられているかもしれません。

WGⅡは、まさにこの気候変動と人間や生態系の関係を見る部門なので、まずはこの結論を確認しましょう。

上の図は、3×4=12個の人間システムにおいて観測された気候変動の影響を示しています。

「ー」のマークがある部分が、悪影響が増大していることを表しています。

「±」のマークは、悪い影響も好ましい影響も起きていることを表しています。

また、色の違いはその確信度を示しており、濃い色ほど確信度が高いことを意味しています。

ここで、12個の影響領域は省略してプラスとマイナスの個数だけに注目すると、以下のような関係があることがわかります。

地域よい(+)両方(±)悪い(-)
世界全体0110
アフリカ0012
アジア0210
オーストラレーシア029
中南米029
ヨーロッパ039
北米039
小島嶼(しょうとうしょ)0012
北極域039
海に近い都市006
地中海沿岸地域019
山岳地域028
気候変動が人間システムに与える影響ごとの領域数

結論、どの地域においても、そしてもちろん世界全体においても、悪い影響が多いことがわかります。

地球温暖化によりリスクが増加する

先ほどは、現時点で判明している気候変動と人間社会の影響を確認しました。

それでは、今後地球温暖化が進んだ場合、私たちはどのようなリスクにさらされるのでしょうか。

RFC=リスクをグループ化するフレームワーク

IPCCでは、2001年の第3次評価報告書において、地球温暖化が進んだ場合のリスクをまとめるフレームワーク、Reasons for Concern(RFC)を開発しました。

第6次報告書では、下の5つの異なる視点の懸念材料(Reasons for Concern:RFC)から、リスクを評価しています。

RFC英語日本語
1Risks to unique and threatened systems固有性が高く脅威にさらされているシステム
2Risks associated with extreme weather events極端な異常気象
3Risks associated with the distribution of impacts地域的なリスクの偏在
4Risks associated with global aggregate impacts世界全体のリスク
5Risks associated with large-scale singular events大規模な特異事象
5つのRFC

このフレームワークを踏まえて地球温暖化のリスクがどう報告されているか、確認してみましょう。

全ての懸念材料において、非常に高いリスクを持つ

地球温暖化と懸念材料(Reasons for Concern:RFC)の関係
地球温暖化と懸念材料(Reasons for Concern:RFC)の関係
(WG2 SPM 暫定訳(文部科学省及び気象庁)より、図SPM.3 (a)(b)を転載)

上図のとおり、地球温暖化が進むにつれて、どのRFCにおいてもリスク/影響が高まることが確認できます。

たとえば、1.2℃~4.5℃までの温暖化水準においては、5つのRFCすべてが「非常に高いリスク」と評されています。

第5次報告書においては、同条件において「非常に高いリスク」とされたのは2つのRFCだけでした。

ここ数年の間に、リスク評価は悪い報告に動いています。

5℃温度があがると、最大半分の種が絶滅する

生態系に与える影響の一つで私たちが理解しやすいものに「種の絶滅」があります。

報告書によると、中期~長期的なリスク(2041年~2100年)の一つに生物多様性がありますが、温暖化が進むにつれてそのリスクが上がることがわかります。

地球温暖化水準絶滅種の割合
1.5 ℃3~14%
2 ℃3~18%
3 ℃3~29%
5 ℃3~48%
2100年までの期間における陸域生態系の絶滅リスク(分母:数万種類)

地球温暖化が1.5℃に抑えられた場合の絶滅種の割合は最大14%ですが、それが5℃になると48%の種が絶滅する可能性があります。

発展途上国の人々がより大きいリスクにさらされている

ダメージを受けやすいのは後進国の人々

気候変動は、地域によりその影響が大きく異なります。

よく言われる話ではありますが、地球温暖化を引き起こしている一番の要因が先進国である一方、地球温暖化の被害を受けやすいのは後進国の人々です。

IPCCの第6次報告書では、以下のように記載されています。

  • 気候変動に対する生態系及び人間の脆弱性は、地域間及び地域内で大幅に異なる(確信度が非常に高い)
  • 約 33~36 億人が気候変動に対して非常に脆弱な状況下で生活している(確信度が高い)
  • 開発が大幅に制限されている地域や人々は、気候ハザードに対し脆弱性が高い(確信度が高い)

気候正義(Climate Justice)についての言及

気候正義についての言及を解説

この文脈で出てくるのが「気候正義」という言葉です。

耳にしたことのある人もいるかもしれませんが、IPCCが正義についてどのように記載しているのか、確認してみましょう。

気候正義は、気候変動への対処において権利に基づいた考え方を実現するために開発と人権を関係づける正義から成る。

WG2 SPM 暫定訳(文部科学省及び気象庁)6P

気候正義という言葉は、様々な場所や文脈で使用されていますが、3つの原則を含んでいるとしています。

  1. 配分的正義(distributive justice):個人間、国家間、世代間での負荷や便益の配分
  2. 手続き的正義(procedural justice):誰が意思決定をおこなうのか、だれが参加するのか
  3. 認識(recognition):多様な文化や考え方への尊重や公正な配慮

IPCCの報告書において気候変動の解決策が提示されるときには、実行可能かつ、この気候正義の原則に即したものであることが強調されています。

適応策は重要とされるが、その優先順位は示されていない

適応策とは

地球温暖化の対策には、大きくわけて緩和策(mitigation)と適応策(adaptation)の2つが存在します。

緩和策適応策
概要温暖化の原因をなくしにいく策
(根本治療)
温暖化が起きたときの被害を低下させる策
(対処療法)
省エネ
GHG排出量の削減
ヒートアイランド現象の抑制
災害が起きたときのハザードマップの整備
水不足対策としての水資源の確保
土砂災害をなくす堤防設置
重要度
即効性
地球温暖化に対する緩和策と適応策

病気と同じく、根本的な解決となる緩和策が最も重要ですが、そう簡単に実現できるものではありません。

また、前述した通り、気候変動は過去の排出蓄積が将来にわたり寄与するため、いますぐに温室効果ガスの排出量をゼロにしたところで地球温暖化は避けられません。

そこで、温暖化が起きてしまった時に、私たちの社会システムをうまく調整して被害を最小化できるような適応策が重要となるのです。

また、対応が可能な策を事前に準備しておくことで、絶対に対応が不可能な被害を見積もることも可能となります。

「適応」とは、「現実の気候または予想される気候およびその影響に対する調整の過程。人間システムにおいて、適応は害を和らげもしくは回避し、または有益な機会を活かそうとする。一部の自然システムにおいては,人間の介入は予想される気候やその影響に対する調整を促進する可能性がある」

気候変動適応情報プラットフォーム

適応策の具体例

適応策としては、具体的に以下のような適応策が示されています。

一般的に有効とされる適応策を見ていきましょう。

リスク適応策の具体例
水の氾濫早期警戒システムの構築
堤防
食料の入手可能性と安定性の低下栽培品種の改善
都市農業
海面水位上昇計画的な移住
電力システム安定性の低下発電の多様化
スマートグリッド
人間の健康被害暑熱健康行動計画の策定
気候変動リスクと適応策の具体例

IPCCにおける適応策への言及内容

IPCCによると、現在の適応策の多くは一定の結果を生み出しているものの、短期的な気候リスクを優先しすぎているとしています。

また、適応策の実行可能性や、各適応策の限界も示しています。

しかし、どのような適応策がより重要で、どこまでやることが最適なのかについては言及していません。

適応にはどうしてもお金や合意形成が必要となります。

政治的判断としてどのような策をとることが妥当なのか評価が難しいことを表しているかもしれません。

気候リスクを低減させるキーワードは「レジリエンス」

気候と人間社会と生態系の関係と、レジリエントな開発への移行
気候と人間社会と生態系の関係と、レジリエントな開発への移行
(WG2 SPM 暫定訳(文部科学省及び気象庁)より、図SPM.1を転載)

WGⅡにおいて最も強調されている言葉が「気候にレジリエントな開発(Climate Resilient Development)」です。

ここでいうレジリエントとは、社会や生態系が気候変動に対して強靭であることを意味していますが、大事なことはその目的や目指すべき世界です。

上の図は、レジリエントな開発をしたときの気候、人間社会、生態系の関係性を表しています。

現状は、左側の円の通り、以下のような関係があることがわかります。

  • 人間社会は温室効果ガスを排出している
  • 気候変動が人間社会に損失と損害を与える
  • 気候変動が生態系に損失と損害を与える
  • 人間社会は生態系に直接損失と損害を与えている

現状の世界では、気候変動によって、人間と生態系に損失が発生する動向にあります。

しかし、気候にレジリエントな開発をすることで、右側の図のような状態を目指そうねということを言っているのです。

また、IPCCでは、気候にレジリエントな開発とSDGsの関係についても言及しており、気候にレジリエントな開発がSDGs達成に寄与すると付け加えています。

時間との闘い。次の10年間が勝負。

気候と人間社会と生態系の関係と、レジリエントな開発への選択肢
気候と人間社会と生態系の関係と、レジリエントな開発への選択肢
(WG2 SPM 暫定訳(文部科学省及び気象庁)より、図SPM.5を転載)

一方、そのような機会がどんどんと少なくなっていることも同時に報告されています。

様々な適応策は、温暖化が進むにつれて効果が薄くなることが報告されており、早くやれば早くやるほど効果のあるものになります。

また、CO2排出量の部分と同様ですが、気候にレジリエントな開発は現在までの社会的選択の累積結果をもとに決まります。

あるタイミングでいきなり判断をしたところで、すぐには達成ができないのです。

その意味で、上の図のように開発の経路は連続的になっており、既に下に位置している場合、上に上がることは簡単なことではありません。

具体的に、地球温暖化の水準が1.5℃を超えると徐々に達成が困難になることを示しています。

次の10年間における選択や対策によって、どの程度レジリエントな開発が可能となるかが決まるのです。

Societal choices and actions implemented in the next decade determine the extent to which medium- and long-term pathways will deliver higher or lower climate resilient development (high confidence)

WGⅡ SPM.D.5

WGⅢ(緩和)の内容

第6次報告書WGⅢ

最後に、WGⅢの内容を見ていきます。

ここでは、先ほども少し話のあった「緩和」という観点が報告されています。

まとめ

  1. 世界全体でのGHG排出量は増え続けている
  2. SDGsを同時に達成するためには「一人あたりGHG排出量」の低下が必須
  3. 低炭素技術の価格は下がってきている
  4. GHG排出は増加し続け2100年に+3.2℃になる
  5. 「本気出す」のは2030年まで先延ばししても大丈夫(かも)
  6. 2030年カーボンハーフの炭素価格は「1トン100ドル」

世界全体でのGHG排出量は増え続けている

2019年のGHG排出量は59ギガトン

1990年から2019年までのGHG排出量推移
1990年から2019年までのGHG排出量推移(WG3 SPMより、図SPM.1(a)をもとに作成)
※土地利用変化及び林業はCO2-LULUCF、化石燃料由来はCO2-FFIを意味する

上の図をみていただくと明らかですが、世界のGHG排出量は増え続けています。

特に、化石燃料由来のGHG排出量が増えていることがわかります。

一方で、2000年~2009年の成長率に比較すると、2010年~2019年の成長率が低かったことも示されています。

※他の報告書では、コロナウイルスの影響により2020年のGHG排出量は減少したものの、2021年において再度増加したことが報告されています。

なお、GHG排出量については、ここで示されている数値の桁数だけでも覚えておくと便利です。

  • 私達が1年に排出するGHG排出量の目安:10トン
  • 日本が1年に排出するGHG排出量の目安:10億トン
  • 世界が1年に排出するGHG排出量の目安:数百億トン

また、上の図の通りCO2は温室効果ガスの大部分(約8割)を占めていますので、CO2排出量の桁数の場合でもこの桁数の感覚さえ持っておけば大丈夫です。

東アジアのGHG排出量が増えてきている

世界のGHG排出量推移(地域別)
世界のGHG排出量推移(地域別)(WG3 SPMより、図SPM.2aを転載)

温室効果ガスの排出量は、地域によって大きく異なります。

上の図は、さきほどのGHG排出量を地域別に示したものです。

2019年時点においては、Eastern Asia(東アジア)が最も大きいことがわかります。

一方、1990年時点においてはTOP3に入っていませんでした。

順位1990年2019年
1位北米東アジア
2位ヨーロッパ北米
3位東欧・中央アジア中南米

東アジアにおいてGHG排出量が増えた最も大きい理由は、中国です。

なお、ここでのEastern Asiaに日本は含まれていませんので注意しましょう。

SDGsを達成するためには「一人あたりGHG排出量の低下」が必須

全ての地域が先進国地域と同じだけの排出をするとどうなるか?

2019年における人口別GHG排出量とGHG増加ポテンシャル
2019年における人口別GHG排出量とGHG増加ポテンシャル
(WG3 SPMより、図SPM.3cをもとに作成)

続いて、GHG排出量をもう少し分解して考えてみたいと思います。

上の図は、縦軸に一人あたりのGHG排出量、横軸に人口としてGHG排出量をとった図です。

「GHG排出量=一人当たりGHG排出量×人口」の関係から、面積がGHG排出量を示しています。

面積でみたときに、確かに東アジアが一番大きいことがわかる一方、縦軸はそこまで大きくないこともわかります。

また、日本が含まれる地域も2位にランクインしていることがわかるでしょう。

一般的に「一人が排出するGHG」は、モノの消費量やエネルギーの消費量が大きい先進国が高くなる傾向があります。

さて、ここまでが実績値ではありますが、よく言われる話として「他の地域の人も日本人のような生活を送るとどうなるのか?」という評価があります。

上の図はその結果を簡単に推測できるようになっています。

  • 一人あたりのGHG排出量が増えると、グラフは上に伸びる
  • 人口が増加すると、グラフは右に伸びる

人口が増えない場合においても、今の北米のGHG排出量に全員が合わせた場合、地球上のGHG排出量は何倍にも増えることになるのです。

一人あたりGHG排出量の減少と幸福度の両立が求められる

SDGsを達成するための持続可能な発展の経路
SDGsを達成するための持続可能な発展の経路(WG3 TSより、図TS.1を転載)

まだまだ「発展」をする必要があるなか、それでもGHGは下げないといけない。

このデカップリングが今後は求めらるとIPCCはしています。

上の図は、横軸が「発展度」、縦軸が「一人あたりGHG排出量」のときの各地域の位置を示しています。

円の大きさは、GHG排出量の総量です。

先ほどの話のとおり、現状幸福な地域ほど一人あたりGHG排出量が多いことがわかります。

IPCCでは、この左側の地域の人々が右側を目指すとき、すなわち後進国が発展する際に、上にいってはいけないことを示しています。

また合わせて、先進国の地域の人々においても、現状の幸福度を満たしながら、一人あたりGHG排出量を下げる経路を取る必要があります。

SDGsの達成には、このような経路を取る必要があるのです。

低炭素技術の価格は急激に下がっている

低炭素技術の価格低下

さて、緩和策の動向で最も期待が持てるのは「低炭素技術(low-emission technologies)」の値段が下がり続けていることかもしれません。

特にエネルギーの部門においては、上の図のようにコストの低下により世の中の導入が実際に推進されています。

ただ、全体に対する割合においてはまだまだ低い状況であり、上で並べたグラフはどれも数パーセント未満のオーダーです。

なお、いわゆる「デジタル化」については、プラスの面、マイナスの面のどちらも与えうるとIPCCは指摘しています。

GHG排出は増加し続け2100年に気温+3.2℃になる

続いて、私たちの将来はIPCCでどう予測されているのか。

将来にわたる経路(シナリオ)を見てみましょう。

まず、そのための前提知識として、フォアキャストとバックキャストを簡単に説明します。

フォアキャストとバックキャスト

環境業界では一般的に、フォアキャスト的な経路の描き方とバックキャスト的な経路の描き方が存在します。

分類内容実現可能性
フォアキャスト現在からの積み上げで将来を予測する考慮する
バックキャストある目標を達成するときの経路を逆算する考慮しない
フォアキャストとバックキャスト

私たちが「将来予測」という際にイメージするのは、フォアキャスト的なシナリオです。

現状がこの状態にあって、そこからこう動いていく可能性が高い。

だから将来はこうなっていく、と順々に物事を筋道立てていきます。

天気予報でも、人口推計でも、ほとんどの将来予測はフォアキャスト的にシナリオを描いて道筋がたてられます。

一方、バックキャスト的なシナリオは、目標ありきです。

たとえば「2050年にGHGを0にする」という目標を置いたら、そこと現時点(数百億トン)をどう結んだらいいのかを考えます。

途中経路には相当な困難が待ち構えている可能性もありますが、目標に向かっていくためにはその困難を乗り越えます。

バックキャスト的な経路の立て方のいいところは、途中で経路を外れた場合に「目標を達成できないこと」を認識し修正できることです。

IPCCでの4つの経路

経路別GHG排出量の推移
経路別GHG排出量の推移(WG3 SPMより、図SPM.4をもとに作成)

WGⅢでは、上の図のとおり4本のモデル経路を示しています。

赤い経路はGHG排出量が増え続け、それ以外の経路はGHG排出量が低下していることがわかります。

モデル経路GHG排出量
(2030年)
GHG排出量
(2050年)
GHG排出量
(2100年)
政策を実施した場合566159
2℃目標達成(2030年から急激)5418-3
2℃目標達成40215
1.5℃目標達成3191
モデル経路ごとのGHG排出量の中央値(ギガトン/年)(WG3 図SPM4より抜粋)

この中で、赤い経路は「フォアキャスト」的な経路であり、それ以外の経路は「バックキャスト」的な経路です。

赤い経路は、現在宣言されている国の政策が実現された場合のシナリオですが、それでも地球のGHG排出量は減少に転じないことがこのグラフからわかると思います。

1.5℃目標や2℃目標を達成するための経路との乖離から、いかにカーボンニュートラルを達成することが困難であるかがわかるでしょう。

政策目標レベルでは2100年に+3.2℃になる

バックキャスト的なシナリオにのれば、目標のとおり1.5℃から2℃目標を達成することはできるかもしれません。

一方、現状の政策目標が達成されるレベルでは、2100年の気温上昇は2.2℃~3.5℃(中央値+3.2℃)としています。

私たちは、今の目標レベルを達成することはもちろんのこと、それ以上の改革が求められているのです。

なお、世界全体でみたときには、日本が占めるGHG排出量は数パーセントであり、かつ今後はさらに割合が低くなると想定されます。

スコープ3が注目されるように、日本での目標達成はもちろんのこと、他の地域における排出量をいかに減らすかが求められていくのかもしれません。

「本気出す」のは2030年まで先延ばししても大丈夫(かも)

モデル経路GHG排出量
(2030年)
GHG排出量
(2050年)
GHG排出量
(2100年)
政策を実施した場合566159
2℃目標達成(2030年から急激)5418-3
2℃目標達成40215
1.5℃目標達成3191
モデル経路ごとのGHG排出量の中央値(ギガトン/年)(WG3 図SPM4より抜粋)

一つ、今回の報告書における特徴をお話しします。

先ほどのバックキャスト的なシナリオの中に、2℃目標は達成するが、「2030年まではGHG排出量をそんなに減らさなくて大丈夫」なシナリオが入っていることです。

第6次報告書から入ったこのシナリオが意味することは、私たちの猶予が少しだけ伸びたということかもしれません。

一方で、その代償に2030年以降は急激な減少が求められ、2050年時点においては年間18ギガトンと20年間で約1/3の削減をする必要があります。

意思決定者にとっては、2030年で低くなっていなくても最悪のケースを想定しなくてよくなったことは安心材料だとは思いますが、次の世代にしわ寄せがでないようにすることは意識する必要があるでしょう。

2030年カーボンハーフの炭素価格は「1トン100ドル」

緩和策のGHG削減ポテンシャルとコスト
緩和策のGHG削減ポテンシャルとコスト(WG3 図SPM7より抜粋)

企業の担当者にとって、もっとも気になる部分はここかもしれません。

IPCCでは、2030年時点においてGHG排出量を50%減らすときの炭素価格(カーボンプライス)は「100ドル/トン-GHG」としています。

これは、1トンのGHGを削減するときに、100ドルの費用がかかることを意味します。

逆にいえば、日本においても2030年時点で100ドルほどの炭素税がかけられる可能性があることも意味しています。

ただし、これはあくまでハーフのため、ネガティブを目指すとなると、ここから加速度的に価格は上昇することは注意が必要です。

しかしその場合でも、たとえば温暖化を2℃に抑える経済的な利益は、緩和にかかるコストを上回るともIPCCは示しています。

コストを認めながらなるべく有利な選択肢を選びつつ、さらなる削減技術に投資が進んでいく。そんな世の中の傾向が見て取れるでしょう。

第7次報告書の内容は私たちにかかっている

ここまで、第6次IPCCの報告書を総合的に見ていきました。

まだまだ参考にしていない報告書はありますし、細かい部分は書ききれていませんが、現状の科学の全体感は理解いただけたのではないでしょうか。

次の第7次報告書は2030年前の公表が予定されています。

今回の報告書の方向からどのように変わるのか、注目されます。

また、私たち自身が当事者としてその数値の一端を担っていることにも忘れてはいけません。

今見ていただいている企業の担当者、個人の方々、そして私たち環境を専門にしている会社が一丸となって取り組んでいければと思います。

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