松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
パリ協定の名前を聞いたことがある人は多いと思いますが、内容や各国の目標について説明できる人は少ないと思います。
この記事では、パリ協定についていまさら人に聞けない方のために、冒頭で簡単に概要を1分でわかるように解説します。
後半で詳しい説明をするので続けて知りたい方は、ぜひ最後まで読んでください。
パリ協定とは?要点を5行で解説
パリ協定の要点は、集約すると下記の5つになります。
- 2015年にフランス・パリで採択された。
- 京都議定書に代わる、2020年以降の温室効果ガス排出(GHG)削減のための新たな国際的な枠組み。
- 歴史上はじめて、全ての国が参加する公平な合意。
- 世界共通の目標として、2℃目標の設定、1.5℃に抑える努力を追求する。
- 全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新する義務がある。
重要な点は、歴史上はじめて、気候変動枠組条約に加盟する196カ国全ての国が参加することをルール化した公平な合意であるという点です。
そして、科学的根拠に基づいて、21世紀末のなるべく早期に世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロ(カーボンニュートラル)にすることを目標として定めたものがパリ協定になります。
日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指す
日本では、2020年に当時の菅総理大臣により、2050年までに「カーボンニュートラル」、脱炭素社会の実現を目指すことがを宣言されました。
加えて、2030年まで温室効果ガスの排出を46%削減することを目標にしています。(カーボンハーフ)
パリ協定における、世界各国の目標と2050年ネットゼロへの表明状況は以下の通りです。
国 | 2030年目標 | 2050年ネットゼロ |
---|---|---|
中国 | (1)CO2排出量のピークを2030年より前にする (2)GDP当たりCO2排出量を-65%以上(2005年比) | CO2排出を2060年までにネットゼロ |
アメリカ | -50 ~ -52%(2005年比) | 表明済み |
日本 | -46%(2013年度比) | 表明済み |
インド | GDP当たり排出量を-45%(2005年比) | 2070年ネットゼロ |
ロシア | 1990年排出量の70%(-30%) | 2060年ネットゼロ |
EU加盟国 | -55%以上(1990年比) | 表明済み |
韓国 | -40%(2018年比) | 表明済み |
カナダ | -40 ~ -45%(2005年比) | 表明済み |
メキシコ | -22%(BAU比)(無条件) -36%(BAU比)(条件付) | 表明済み |
ブラジル | -50%(2005年比) | 表明済み |
オーストラリア | -43%(2005年比) | 表明済み |
イギリス | -68%以上(1990年比) | 表明済み |
サウジアラビア | 2.78億t削減(2019年比) | 2060年ネットゼロ |
ポイントとしては、世界の温室効果ガス排出量の30%を占める中国が、2030年まではCO2排出量を増やすと宣言している点です。
また、中国、インド、ロシア、サウジアラビアを除いたほとんどの国が、2050年までにネットゼロ:カーボンニュートラルの達成を表明しています。
各国の政策や法律はパリ協定で掲げた目標を踏まえたものとなるため、市場環境を把握する上で各国がどのような目標を掲げているのかを把握することは大事になってきます。
パリ協定と京都議定書の違いは?
パリ協定は、1997年のCOP3で採択された「京都議定書」の後継となるもので、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みです。
COPとは「Conference of Parties(国連気候変動枠組条約締約国会議)」の略です。
1995年に第1回目が開催され2022年度には27回目を迎えています。
2023年11月には28回目が開催される予定です。
COPでは、温室効果ガス削減のための国際的な枠組みについて、政府関係者だけではなく産業界・環境保護団体・研究者等も参加し、ディスカッションが行われます。
では、具体的にパリ協定と京都議定書は何が違うのかをみていきましょう。
パリ協定 | 京都議定書 | |
---|---|---|
採択年 | 2015年 | 1997年 |
採択会議 | COP21 | COP3 |
目標 | 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする | 温室効果ガスを2008年から2012年の間に、1990年比で約5%以上削減する(国ごとに異なる) |
対象国 | 全ての国と地域 | 先進国のみ |
特徴 | ・各国がボトムアップで自主的に削減目標を決定 ・達成義務を設けず、努力目標とする(罰則なし) ・進捗状況に関する情報を定期的に報告(プレッジ&レビュー方式) ・途上国にも自主的な資金提供を奨励 | ・トップダウンで排出削減目標が課せられる ・世界で始めてのGHG排出削減に関する「約束」 ・アメリカは後に脱退 ・削減目標を達成できなかった国には、罰則が適用される |
パリ協定が策定された背景
パリ協定が採択された背景には、温室効果ガス排出による地球温暖化の加速とそれに伴う気候変動のリスクが挙げられます。
気候変動のリスク上昇の危険性について詳しく解説しましょう。
気候変動リスクの上昇
引用:気象庁「世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2022年)」
気象庁により2022年の世界の平均気温の基準値は(1991年から2020年までの30年間の平均値)、1891年に統計を開始してから6番目に高い値となったことが報告されました。
さらに、世界の年平均気温は100年あたり0.74℃の割合で上昇していることがわかっています。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による第5次評価報告書では、CO2の累積排出量と世界の平均気温の上昇は、ほぼ比例関係にあることも伝えられています。
もし世界の平均気温が、今より2℃上昇したら、人間が地球上で生活していくことは困難と言われており、世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えることは喫緊の課題なのです。
長期的な大幅な温室効果ガスの排出削減と、今世紀末までにCO2をはじめとした温室効果ガスの排出を0にするためにも、COP21で策定されたパリ協定の意義は大きいと言えます。
各国はパリ協定を達成できるのか?
では、パリ協定で掲げられた目標を各国は達成できるのでしょうか。
結論から言うと、日本を含め今のままでは多くの国が2050年にネットゼロ(カーボンニュートラル)を達成するのは難しいと言われています。
現状、宣言されている目標やシナリオの多くは、実現可能性を考慮しない「バックキャスティング」の考え方で設定されています。
バックキャスティングとは
バックキャスティングとは、未来の目標を決めた上で、そこから逆算して今何をすべきかを検討する手法です。
最終的なあるべき姿を想定して、逆順に必要な工程を洗い出すことで「現在こうするべき」と判断できます。
「目的を先に、手段を後から」考える思考法で、目的志向で効率的な計画立案に有効な考え方のひとつです。
達成可能性についての想定
経産省によると、
「カーボンニュートラル」は、本当に実現できるのでしょうか。実のところ、「2050年までに達成」という目標は、大変困難な課題です。
経済産業省資源エネルギー庁「カーボンニュートラル」って何ですか?
と書かれています。
また、産総研の分析によると、
カーボンニュートラルの実現可能なシナリオを分析しようとしたところ、答えが求まりませんでした。
これは、従来想定されていたCO2大幅削減可能なエネルギー技術の導入だけでは、カーボンニュートラルは達成できないことを意味しています。
産総研「日本の2050年カーボンニュートラル実現に向けたシナリオ分析」
上記やその他の論文をみても、2050年のカーボニュートラルの達成のためには、ゼロエミッション電源比率を100%にした上で、DACCS・BECCSといったネガティブエミッション技術が必須ということがわかります。
もちろん今後、このような技術が発展すれば多くの国と地域でカーボンニュートラルを達成できる可能性が高いのですが、現状ではまだ実用化されていないのが実情です。
シナリオ達成は白紙?
さらに憂慮すべきは、仮に全ての国がパリ協定に掲げている目標を達成したとしても、世界全体では、2050年にカーボンニュートラルを達成するシナリオは描けていないということです。
上記のグラフの水色の線(STEPS)は中国以外の各国が、現状掲げている温室効果ガス排出目標を達成した場合のシナリオになります。
2050年時点を見ると、2020年と温室効果ガスの排出量はほとんど変わっていないことがわかります。
1.5℃目標を達成するためには、2050年までに温室効果ガスを世界でネットゼロにする必要があるのですが、そもそも、パリ協定で各国が掲げている目標を達成したとしても、パリ協定の目標である1.5℃目標は達成できない可能性が高いということになります。
関連記事:カーボンニュートラルはおかしい?よくある矛盾と問題点
現状を踏まえて企業は何をすべき?
そのような状況の中で、企業はどのように行動すればいいのでしょうか。
結論から言うと、SBT認定の取得といったパリ協定に整合した目標設定をするべきです。
関連記事:SBTとは?認定取得の意義についてコンサルタントが解説
先述した通り、パリ協定は世界中の国々によって採択された国際的な枠組みです。
政府、企業レベルでもパリ協定を基準にして社会や経済が動いているため、企業として、ここに賛同しているアピールをすることは非常に重要です。
弊社では、SBTの取得支援をはじめとして、RE100やTCFDシナリオ分析など企業の脱炭素経営を幅広く支援しています。
また、社内にLCA(ライフサイクルアセスメント)の専門家がおり、SCOPE3の算定だけでなく、製品単位の環境負荷の見える化も得意としています。
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