
松井 大輔
(監修者経歴)
東京大学 醍醐研究室卒業、株式会社ゼロック 代表取締役、東京大学 先端学際工学専攻 博士課程、EPD検証員、省庁事業や上場企業のLCA関連コンサルティング業務等幅広く対応
目次
世界的に環境負荷の低減が求められるなか、企業が自社の環境影響を開示する重要性はますます高まっています。なかでも国際的な環境ラベルである「 EPD(環境製品宣言) 」は、製品・サービスの環境影響を可視化できる仕組みとして注目され、国内外で取得企業が増加しています。
本記事では、EPDがどのような環境ラベルなのか、基礎知識から種類、取得の流れ、企業が得られるメリットまでわかりやすく解説します。さらに、日本の環境ラベルである「SuMPO EPD 」についても詳しく紹介します。
環境情報開示の強化やサステナビリティ経営を推進したい企業担当者にとって、しっかりと役立つ知識を網羅していますので、ぜひ参考にしてください。
EPD(製品環境宣言)とは国際環境ラベルのこと

EPD(環境製品宣言)の概要や、その重要性について解説していきます。
EPDの概要
EPD(Environmental Product Declaration:環境製品宣言)とは、製品の環境負荷を定量的に示す国際的な環境情報開示制度です。LCA(ライフサイクルアセスメント)手法に基づき算定された環境データを、第三者機関が検証し、透明性と比較可能性の高い形で文書化・公開します。
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは
LCAとは、製品やサービスの素材や原材料の調達から、製造、流通、消費、廃棄に至るプロセス全体の環境負荷を評価する手法のことです。定量的な評価を行えることが最大の特徴で、これにより、比較や最適化の検討を行うことができます。
LCAに関してはこちらの記事もぜひご覧ください。
「EPD Hub」とは? メリットや企業活用事例まで解説
なぜEPDは重要なのか
EPDは、製品やサービスの環境負荷をライフサイクル全体で定量化し、第三者が検証したうえで公開する仕組みです。信頼性の高いデータとして扱われるため、企業の環境情報開示において国際的に広く採用されています。世界的な脱炭素の潮流の中、サプライチェーン全体のカーボンフットプリントやSCOPE3の算定への要求は年々高まっています。そのためEPDの活用は世界的に進んでおり、重要性は一段と高まっています。
EPDの特徴
ここではEPDの特徴について解説していきます。
ISO 14025(タイプIII環境宣言)に準拠
ISO(国際規格)に規定のある環境ラベルは3種類で、それぞれ別のISOに基づきます。EPDは、第三者検証を受けた定量的環境情報を開示する仕組みで、製品のLCAにおける環境影響に関する情報を検証することができます。
| タイプ | ISO(国際規格) | 特徴 | 国内外事例 |
| タイプ1 | ISO14024 | 環境基準に対して第三者の運営機関が判定を行う。基準に合格した製品やサービスが認証される | エコマーク(日本)ブルーエンジェル(ドイツ)ノルディックスワン(北欧諸国) 等 |
| タイプ2 | ISO14021 | 各事業者が独自の環境主張を行うため、第三者の判定は行われない | 各事業者 |
| タイプ3 | ISO14025 | 基準に対する判断は行われず、定量的環境負荷データを視覚化し、評価は一般生活者自身が判断する | SuMPO EPD (日本)EPD (スウェーデン) IBU(ドイツ)Eco Passport(フランス)EPD Italy(イタリア)UL(アメリカ) |
対象製品
EPDは、製品やサービスのライフサイクル全体における環境負荷を定量的に開示する仕組みで、基本的にはあらゆる製品やサービスが対象です。具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 建材(コンクリート、鉄鋼、木材、断熱材など)
- 工業製品(機械部品、電子部品、設備機器)
- 消費財(家具、紙製品、包装材)
- 化学製品(樹脂、塗料、接着剤)
- 建設サービス(施工、解体)
- メンテナンスサービス
- 物流サービス
- リサイクルサービス
- エネルギー供給サービス
PCR(製品カテゴリー ルール)
PCR(Product Category Rules)は、特定の製品カテゴリーにおける EPD を作成するためのルール、要件、ガイドラインを提供します。同等の機能を持つ製品やサービスを共通の枠組みで整理することで、製品間の環境負荷や環境貢献を客観的かつ比較しやすい形で評価できるようにします。
EPD における LCA 算定ルールである PCR は、ISO 14027 に準拠して策定されます。温室効果ガス排出量だけでなく、オゾン層破壊、大気汚染、水資源利用など、多角的な環境影響領域を評価できる点が特徴です。また、第三者検証を経た LCA データとして、さまざまな情報開示や環境コミュニケーションに活用することが可能です。
機能単位
LCA の目的と検証範囲を決めるには、製品の機能を特定する必要があります。「製品機能」とは製品の性能や特性のこと。「機能単位」とは製品・サービスの機能や内容を明確にしたものです。一般的に機能単位は、評価する製品や規定の機能物理量、時間値、品質値等で構成されます。
例えば、「容量500リットルで耐用年数が9年、製氷機のある家庭用冷蔵庫」の場合は、「容量500リットルで耐用年数は9年、製氷機あり」が機能単位となります。
環境負荷を比較するためには、評価対象と比較対象の機能単位を等しくしなくては意味がないため、機能単位は重要です。
EPDの種類

EPD制度は国内外に存在します。ここでは主要なEPD制度の種類について詳しく解説していきます。
スウェーデン発の環境ラベル「 international EPD」

EPD は、1998 年にスウェーデンで政府支援の制度として導入されました。タイプ III 環境ラベルの認証プログラムとしては世界に先駆けた取り組みであり、運営は「スウェーデン環境管理評議会」によって行われています。
電子機器、食品、化学製品、建築材料など、多岐にわたる産業分野において、第三者認証機関による審査・登録が可能であり、国際的にも高い信頼性を有する制度として位置づけられています。
アイルランドが運営する「EPD HUB」
EPD Hubは、アイルランドに拠点を置く EPD の検証機関です。ISO 9001 認証を取得しており、厳格な品質管理基準のもとで運営されています。 EPD の検証は、利益相反のない独立した個人または団体によって行われることが求められますが、EPD Hub では検証者の完全な独立性が確保されている点が大きな特徴です。
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「SuMPO EPD」は、 日本発のタイプIII環境宣言

SuMPO EPDは、「一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)」が運営する日本のEPD認証制度であり、ISO 14040/44および ISO 14025 などの国際規格に準拠して設計されています。 2024年4月には、従来のエコリーフから名称を変更し、現在のSuMPO EPDとして運用されています。
SuMPO EPDの種類
SuMPO EPDで取得できるEPDの種類は以下のようになります。それぞれを詳しくご紹介します。
- 単一製品EPD
- グループ製品
- EPD 業界製品
- EPD Initial EPD(イニシャルEPD)
【単一製品EPD】
単一の事業者が単一の型番で扱う個別製品について取得するEPDを指します。組成・サイズ・色などが異なる場合は、同一製品とは見なされません。なお、単一製品EPDでは、特定のプロジェクトを対象としたEPDを取得することも可能です。
単一製品EPDは、以下のように分類されます。
- 特定サイト:特定の拠点で製造される場合
- 複数サイト:複数の異なる拠点で製造される場合
【グループ製品EPD】
単一の事業者が、類似する複数の製品を対象として取得するEPDを指します。 類似する製品は、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 適用するPCRが同一であること
- 機能が同一または類似していること
- 主要な生産工程が同一であること
- 製品の主要部品・原材料等の基本構成が同一であること
- 各ライフサイクル段階のLCIA結果が± 10%以内に収まること
【業界製品EPD】
特定の業界に属する同一カテゴリーの製品について、複数社のデータを加重平均値または上限値で開示するEPDを指します。工業会などの業界団体が主体となって取得することが可能です。ここでいう同一カテゴリーの製品とは、同一の sub-PCR に分類される製品を指します。
業界製品EPDは、特定の事業者や特定製品を対象としたものではなく、業界全体を代表する製品群の算定結果であることをEPD上に明記する必要があります。また、算定結果が特定の事業者や特定製品を代表するものであると誤解されるような表現をしてはなりません。
【Initial (イニシャル)EPD】
発売前の製品および発売後1年未満の製品を対象に、データ品質要求事項を満たさない場合であっても、一定の要求事項を満たすことによって取得できるEPDを指します。 なお、Initial EPDはデータ品質要求事項を満たすことが前提であるため、検証有効期間は 2 年間であり、原則として検証有効期間内に、通常のEPDを取得する必要があります。
LEEDやEPEATにも加点可能
SuMPO EPDは、LEEDやEPEATといった米国の認証制度の加点とすることも可能です。
【LEED(リード)】
LEED(リード)は、建築物の環境性能を第三者が認証するシステムで、「米国グリーンビルディング協会(U.S. Green Building Council)」の運営です。
SuMPO EPD宣言(EPD)が加点対象となっており、日本では「一般社団法人グリーンビルディングジャパン」が推奨しています。
5つの認証システムが設定され、さまざまなタイプのプロジェクトに対応が可能です。
| 認証システム | BD+C | ID+C | O+M | ND | HOMES |
| タイプ | 建築設計・建設 | インテリア設計・建設 | 既存ビル運用・メンテナンス | 近隣開発 | ホーム |
また、レベルには以下の4つがあり、獲得するポイント数で認証のレベルが決定します。
- プラチナ
- ゴールド
- シルバー
- サーティファイ
【EPEAT(イーピート)】
EPEAT(イーピート)は電子・電気製品関係の環境影響を総合評価する制度です。オレゴン州ポートランドにある「The Green Electronics Council (GEC)」がアメリカ電気電子学会(IEEE)が策定したIEEE1680という規格をもとに運営しています。
具体的な製品としては、コピー機やプリンター等の複合機、テレビやスマートフォン、パソコン、ネット環境の周辺機器などが対象です。
ゴールド、シルバー、ブロンズの3つのレベルで評価され、評価項目は以下のような内容になります。
- 資源・材料の選定
- 製品寿命やライフサイクル延長
- 省エネかどうか
- 環境に影響の可能性がある材料の削減・除去
- LCAとカーボンフットプリント
- 企業の環境パフォーマンスや社会的責任
米国では政府が電子製品を調達する際には、EPEAT登録製品を95%以上としなくてはいけないという決まりがあります。
参照:SuMPO環境ラベルプログラム「LCAベースの環境ラベルの国際動向」
EPDにより企業が得られるメリット

EPDを取得することで企業は以下のようなメリットを得ることができます。それぞれのメリットを詳しく解説していきましょう。
メリット①ホットスポットの特定
EPDの基盤となるLCA手法により、サプライチェーン全体で「どの工程」や「どの影響項目」の環境負荷が大きいのかを定量的に把握可能です。そのため改善すべき工程の優先順位付けや、環境負荷低減に向けた取り組みの合理化が可能となり、結果として事業全体の最適化が見込めます。
メリット②取引先からの情報開示要求への確実な対応
近年、企業には環境負荷に関する透明性の高い情報開示が強く求められており、特に建材分野ではデベロッパーや建設会社からの要求が増加しています。EPDを取得することは、こうした取引先からの要請に、適切かつ確実に応える手段となるだけでなく、環境情報を第三者認証に基づき開示することで、自社の信頼性・競争力の向上にも寄与します。
メリット③販路拡大への寄与
国内外の調達基準や新規契約条件において、製品の EPD の取得を求められるケースが増加しています。EPDは、環境配慮型製品であることを客観的に示す指標として有効なため、販路の拡大に繋がります。
EPDの取得方法【SuMPO EPDの場合】
ここからはEPDの取得方法を、国内のSuMPO EPDの取得の流れにそってご紹介していきます。
1.EPDを取得したい製品に該当するPCRの決定
EPDを取得したい製品に該当するPCRを探します。該当するPCRが無い場合は、PCRの改訂または新規制作を行う必要があります。
2.データ収集
該当するPCRおよびGPIに基づきデータを収集します。
3.算定ツール使用の申請
算定ツール使用申請書に必要事項を記載し申請した後、受け取った算定ツールにてLCA算定を行います。
4. 検証申請書を作成し、検証を開始
LCA算定の結果をもとに検証申請書とEPDを作成し、事務局へ提出します。申請書類が受理されると、アサインされた検証員による検証が開始され、その後、検証員の合否判定が事務局から通知されます。
EPDの現状と動向

国内外のEPDの動向や事例を詳しくご紹介していきます。
国内の現状と動向
2022年12月には、SuMPO EPDがEPD Internationalとのパートナーシップを締結し、EPDプログラム間相互認証に向けた協議を進めるなど、欧州の環境規制への対応を加速させています。またEPDプログラム間の相互認証に係る国際規格ISO14029をベースに米国や中国とも協調を図っています。2023年にはEco Platformにも加盟 しました。
海外の動向
世界には10万件以上のEPDが存在し、活用されています。近年では海外のEPDプログラムと連携し、国際規格の共通解釈や、EPDプログラム運営の整合を測る国際連携が増えています。米国では建築分野でEPDを必須とする建設材料の公共調達制度など、連邦政府をはじめ、州・自治 体レベルでも採用されています。
また欧州では、環境に関する主張の透明性と信頼性を確保するための欧州指令案で第三者検証や多領域評価の重要性を強調。 EPDの活用に関するパブリック コメントを言及しています。
企業事例
MAGIS
イタリアのデザインメーカー「MACGIS」は、家具製造に地元の自動車産業の廃棄物から得られるリサイクルポリプロピレンを使用。さらに、ほぼすべての「未使用または新しい」素材を排除しており、使用後は 100% リサイクル実施で、製品のEPDを取得をしています。
株式会社ライゼンエナジー
中国の「株式会社ライゼンエナジー」は、太陽光発電モジュールの開発で、業界をリードする低い出力熱係数、優れた低放射照度性能、および優れた PID 耐性を備えISO14001 環境管理システムの合格を主導しEPD取得を可能にしました。
出典:EPD ライブラリ
イケダコーポレーション
エコロジー建材の輸入・販売 経営支援を行っているイケダコーポレーションは、安全な建材を日本へと普及させる活動を実施している企業です。ドイツの新聞紙の再生紙と、木の製材時にでるおがくずを使って作られる環境に優しい壁紙オガファーザーを取り扱っています。
次世代に持続可能な未来を残すために、廃材や排水の最小化や、製造エネルギーの徹底的な削減などに全力で取り組み、EPDの認証を得ています。
前田建設工業株式会社
前田建設は製品・サービスにおいて、「供用・維持管理」での貢献から再生可能エネルギー製品、「原料の採取と輸送」の影響から木材製品、さらに「工場」「流通・運搬」の影響の大きさから第三者認証製品を重要視しています。
これらに取り組むことで、市場のシフトチェンジを促し、さらに各サプライヤーにグリーン調達の方針(EPD認証製品の推進等)の重要性を伝え、業界に貢献していきたいと考えています。
まとめ:国際的な環境ラベル取得で脱炭素経営へ前進!

製品環境宣言EPDについてさまざまな角度から解説しました。2022年12月には、SuMPO環境ラベルプログラムがEPD Internationalとのパートナーシップを締結し、EPDプログラム間相互認証に向けた協議を進める等、SuMPO EPD・CFPにおける欧州の環境規制への対応を加速させています。
株式会社ゼロックでは専門的な知見を活かし、国際規格に準拠した環境負荷の算定から、環境ラベルの取得まで支援提供を行っています。
SuMPO EPD・CFP取得に向けて相談してみたいという企業担当者の方は、お気軽にお問い合わせください。











