松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
企業が環境配慮、特にCO2をはじめとした温室効果ガス排出削減のデータを公表する動きが広がっています。
しかし、各企業がバラバラの基準でデータを公表しても、自社に有利なデータになりかねず、企業間の比較もできないため、有効なデータになりません。
そこで注目されているのがCDPです。CDPは第三者の立場から各企業の環境配慮に関するデータを公開する組織です。
この記事ではCDPとはなにか、企業はCDPにどのように対応すべきかなどを説明します。
CDPとはなにか?
まずは基礎知識としてCDPとはなにかを説明します。
企業の気候変動関に関する情報を公開するNPO
CDPは2000年にイギリスで設立された環境非営利団体(NGO)です。企業の温室効果ガス削減や気候変動に対する取り組み状況を収集し公開することを目的としてます。
発足当初は各企業に質問書を送り温室効果ガスの排出量や気候変動に対する対応などの情報を収集し公開していました。現在では、温室効果ガス排出量だけでなく、水セキュリティ質問書、フォレスト質問書と活動の幅を広げています。
このため、元々は「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(Carbon Disclosure Project)」という名称でしたが、今はカーボンだけではないとの理由から略称のCDPを正式名称としています。
CDPの活動は世界的に注目され、年々拡大してきました。
現在では世界中で18,700以上の企業、1,100以上の都市・地域等が、CDPを通じて情報公開を行っており、その数はどんどん増えています。
日本でも2005年から活動を開始しており、すでに多くの企業がCDPを通して情報公開をしています。
企業への質問と情報公開
CDPの主な活動は企業に質問書を送って回答を収集し、それをまとめて公開することです。第三者による統一された基準での情報公開は、各企業の環境配慮の状況を見極める重要なデータと見なされています。
このため企業や投資家が意思決定をする際にはCDPスコアもチェックの対象となってきます。現在の企業はサプライチェーンまでを含めた温室効果ガス削減を求められているため、取り引きをするにあたって適切な環境問題対策をしているかを確認されることも増えてくるでしょう。
このように適切な情報公開を行うことはこれからの企業にとって非常に重要なことなのです。CDPが公開しているデータは、CDPのホームページにある回答検索・閲覧機能で見ることができるため、CDPを通して情報公開をすればとても強力なアピールになるはずです。
CDPの3つの質問書
CDPの質問書には「気候変動質問書」「フォレスト質問書」「水セキュリティ質問書」の3つの質問書があります。
質問書はCDPのホームページからダウンロードできますが、ここで簡単に説明します。
CDP気候変動質問書
CDPが発足当初から各企業に送って回答を得ているものです。
気候変動質問書では主に温室効果ガスの排出量や削減目標、温室効果ガス排出量の算出方法などに関する質問がなされます。また、気候変動の影響で企業が受けるリスクと対策といった項目も確認されます。
こうした質問を通して、その企業が適切な気候変動対策を行っているかを確認し、企業の気候変動に対する理解を促進させるという目的があります。
質問書の回答は、CDPにより審査され、独自のスコアリングによりランク分けされます。情報の公開時にはこのCDPスコアを合わせて公開されるため、その企業がどの程度の気候変動対策を行っているかを判断する指針となります。
CDPフォレスト質問書
フォレスト質問書は元々、「グローバル・キャノピー(Global Canopy)」というNGOが実施していた内容ですが、2013年にCDPに統合されました。
フォレスト質問書では森林関係のリスクが企業に与える影響や企業の取り組みについて質問がなされます。コモディティ(商品)の生産・調達・消費・販売などの活動による森林減少・森林劣化への影響について、自社のみならずサプライチェーンまでを含めてどのように取り組んでいるかが重要なポイントとなります。
フォレスト質問書についてもCDP独自のスコアリングが行われ、質問書の結果とともに公開されます。
CDP水セキュリティ質問書
水は人々の生活に必ず必要なものですが、水源の不足や人的活動に起因する水質汚染により、十分な水にアクセスできない人々がいます。
CDPでは、世界の水需要の増加と水資源の不足、水ビジネスの増加などの水リスクに対応し、安定的な水資源の確保と管理に寄与するため、水セキュリティ質問書により各企業からの回答を収集し公開しています。
水セキュリティ質問書では事業活動に伴う水の消費量などの他、水リスクに対する対応なども確認されます。
主に製造過程で多くの水を使用する企業や、水資源に影響を与える可能性がある事業を行っている企業に対し質問が行われます。
世界の投資家も注目するCDPの活動
CDPが公開する情報は世界的にも大きく注目されており、年々その影響力は強くなっています。今後はCDPを通して情報公開をしていること、そのスコアが一定水準以上であることが求められるようになってくるでしょう。
多くの有名投資家・機関投資家が参加している
CDPの活動には多くの有名投資家や機関投資家が資金が参加しており、投資先の選定においてCDPの公開する情報を活用しています。
2020年は、515を超える機関投資家(運用資産総額106兆米ドル強)が参加しているとされており、日本でも三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、りそな銀行などが参加しています。
企業は資金調達の面からも環境問題に取り組み、CDPの質問書をはじめ、適切な情報公開を行っていくことが求められる時代になっているのです。
ESG投資の重要なポイントとみなされている
投資の新しいトレンドとしてESG投資に注目が集まっています。ESGは環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉で、環境問題に積極的に取り組む企業に対して投資を行うという意味です。
今後、中長期的に企業が成長していくためには環境問題にも積極的に取り組み持続性のある事業活動を行う必要があり、現在は経営がうまくいっているように見える企業でも環境問題に取り組んでいない企業は投資の対象からはずそうという考え方が広まっています。
世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もESG投資を重視すると発表していますし、民間の証券会社などでもESG投資をうたう商品が出はじめています。
こうしたESG投資において、CDPを通して情報公開をしているか、その内容やCDPスコアはどうかといったことが重要なポイントとみなされているのです。
CDPによる企業のスコアリング
CDPでは、企業に対し質問書の回答を集めるだけでなく、集めた情報を基にスコアリングをし、以下のランクをつけています。
- リーダーシップレベル(A⁻、A)
- マネジメントレベル(B⁻、B)
- 認識レベル(C⁻、C)
- 情報開示レベル(D⁻、D)
- 未回答(F)
Aランクであれば、環境問題に対する取り組みが優れており、他の企業に対する手本となるレベルに達しているということであり、Dランクはただ情報を公開しているだけということです。
このようにCDPの質問書に回答した企業はランク付を行い公表されるため、その企業が社会全体で見たときにどの程度の水準にいるのかが明確にわかるようになっています。
ただ質問書に答えるだけでなく、環境配慮に力を入れCDPスコアを上げることにより、投資家や取引先の企業、消費者などにアピールすることができます。
企業がCDPの質問書に対応するメリット
CDPの質問書に回答するのは非常に手間がかかり人件費などのコストも発生します。しかし、CDPの質問書に対応することは様々な面でメリットがあります。
メリット①環境に配慮した企業である証明
CDPの質問書に回答し環境配慮に関する情報を公開することはそれだけでも環境問題に積極的に取り組んでいる証明となります。
もちろんCDPスコアは高いに越したことはありませんが、一般的な水準でもまず情報公開を行うこと自体が環境に配慮する姿勢を示すことになります。
とはいえCDPスコアが最低ランクのDとなるとさすがにイメージアップにつながらないので、適切な目標設定を行うなど、スコアアップを目指していきましょう。
メリット②投資家へのアピールや資金調達への活用
環境に配慮したサスティナブルな企業に投資するESG投資が新しいトレンドとなっており、これからの資金調達には環境に配慮した企業である証明が重要になってきます。
特にCDPの公開する情報公開やスコアは世界中の投資家から注目されているため、CDPを通して情報が公開されているかどうかが投資を受けられるかどうかのポイントにもなってくるでしょう。
さらに、サステナビリティ・リンク・ローン制度により、金融機関からの融資においても、環境に配慮した企業は金利面など有利な条件で資金調達が可能となります。
実際に花王はCDPのスコアで最高評価をとる事で資金調達に役立てているといった報道などもあります。
メリット③環境に配慮した企業活動の指針
CDPの気候変動質問書では、企業の現在の活動だけでなく、将来に向けて適切な目標設定ができているか、温室効果ガス排出量の算定は適切かといった項目もチェックされます。
こうした第三者の審査を受けることで将来に向けた環境配慮の指針となります。
また、CDPスコアアップを目指すことで、環境配慮に対する目標がより具体化され、環境に配慮する企業としての成長につながります。
まとめ
企業が気候変動対策に関する情報を公開する動きは世界的に高まっており、今後は事業活動を続けるうえで必須となってきます。
また、2015年にはG20の要請によりTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が設立されており、日本でも気候関連財務情報を開示することが当たり前になっていくはずです。
CDP質問書により情報を公開することにより、自社が環境に配慮する企業であることを証明できるだけでなく、TCFDに準拠した開示への準備にもなります。
しかし、CDP質問書への回答は専門的な内容も多く、社内の調査・情報整理にもコストがかかります。さらに、情報を公開してもCDPスコアが最低ランクのDとなり、情報を開示しているだけと評価されればさすがにイメージアップとはなりません。
適切な目標設定や情報公開を行い、環境配慮を企業の成長へとつなげていくためにどのようにすればいいかわからないという場合はコンサルタントを活用するなど、外部の専門家に依頼することも必要になってきます。
株式会社ゼロックでは企業の気候変動対策について総合的にフォローいたします。興味のある企業担当者の方はぜひ一度お問い合わせください。