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欧州バッテリー規則とは|目的や背景から日本への影響まで解説

公開日 2023.08.29 最終更新日 2024.07.26

松井 大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

バッテリー規制

EU(欧州連合)は、2020年にこれまでの「欧州バッテリー指令」に代わる「欧州バッテリー規則」案を発表しました。EUは欧州グリーンディールの取り組みの中核をなす「循環型経済行動計画」に基づき、「欧州におけるサステナブルな電池の生産」の推進を目指しています。

欧州バッテリー規則案の内容とはどのようなものなのか、概要や目的を解説します。特にEVバッテリーに関する規則は、日本への影響も少なくないため、参考にぜひご一読ください。

欧州バッテリー規則とは

EUは2020年12月10日に新たに欧州バッテリー規則を発表しました。欧州バッテリー規則とは簡単に言うと、「欧州におけるバッテリーの環境負荷を低減するためのルール」です。ちなみにバッテリーとは、電池や蓄電池全般を指します。

EUには従来、各加盟国の国内法化を通し実施していた電池や廃電池の管理法令「欧州バッテリー指令」がありました。しかし、欧州バッテリー規則は各加盟国の国内法化なしに、一律に規則を課す見通しで2026年から開始される予定です。

「カーボンフットプリント実施」「責任ある材料調達(デュー・ディリジェンス)」「リサイクル」に関する規則が提案されました。

欧州バッテリー規則の目的

欧州バッテリー規則の目的は、EU市場での電池の製造・リユース・リサイクルまでのライフサイクル全体を規則し、サステナブルな電池製造・安全性・競争力を確保することです。EUにおいて電池製品は、モビリティ部門に不可欠な戦略的製品であるため、環境配慮された電池製品は必須です。また、規則を制定することで、EUでのバッテリーの生産やリサイクル新技術への投資を活性化する狙いもあります。

さらに欧州グリーンディールの一環である「持続可能なスマートモビリティー戦略」の一つのEV(電気自動車)推進に向け、「欧州バッテリー同盟」を立ち上げるなど、バッテリー産業をEUの経済戦略の重要な柱として取り組んでいます。

欧州バッテリー規則制定の背景

欧州バッテリー規則が制定された背景には、EUが「欧州グリーン・ディール」で掲げた2050年までの温室効果ガスの排出実質ゼロへの目標があります。さらに2030年までに電池需要は14倍となり、EUは需要の17%を占める可能性があると考えていることが挙げられます。そのため、EUは将来的にEVが自動車産業の主力となることを見据え、電池の環境負荷低減や循環利用を推進し、バッテリー産業市場の環境配慮の世界先行を目指しています。

ただし、規則の最大の目的はバッテリーの環境負荷低減とはいえ、EUが環境配慮を武器に世界に先駆けてバッテリー市場を席巻したいという考えがあることは否定できないでしょう。

欧州グリーンディールについて

欧州グリーンディールとは

欧州バッテリー規則の根源にはEUの「欧州グリーンディール」政策があります。「欧州グリーンディール」とは、気候変動や気温上昇などの地球温暖化による課題をチャンスに変えることで、包括的で持続可能な経済に転換するためのEUの取り組みです。

欧州グリーンディールの概要

EUは温室効果ガス排出が実質ゼロとなる 「気候中立」を2050 年に達成するという目標を掲げ、2030 年に向けた EU 気候目標の引き上げや関連規則の見直しを実施しました。欧州グリーンディールとは、そのための行動計画を取りまとめたものです。

EUの重要な環境政策であるとともに、エネルギーや産業、運輸、農業など、幅広い政策分野を対象とした欧州経済社会の構造転換を図る包括的な新経済成長戦略でもあります。

新循環型経済行動計画とは

欧州グリーンディールの重要な政策のひとつに「新循環経済行動計画(New Circular Economy Action Plan)」があります。これはサーキュラーエコノミー実現のため、EU加盟国に適用される法律の一つです。

循環型経済行動計画には具体的な行動計画が策定されており、取り組みの一つに「循環型経済への転換余地が大きい分野の具体的な法整備」があります。この施策は「バッテリーとモビリティに対する継続的な利用可能性の向上と循環型モデル」への移行を謳っており、欧州バッテリー規則に大きく関連しています。

欧州バッテリー規則の対象や強化内容は?

ここでは欧州バッテリー規則の対象と新たに強化された規則内容をご紹介します。

規則対象となるバッテリー

規則案では全てのEV用バッテリー、および2kWh以上の産業蓄電池が対象です。その他詳しい規則対象を以下にまとめました。

規則対象バッテリー
産業用電池・廃ポータブル電池・主に車両および機械に使用する電池・EV(電気自動車)・電気自転車・電動バイク・電動スクーター・産業用バッテリー(2キロワット時を超えるもの)他

また、規則案ではEV用バッテリーは電子上の記録である「バッテリーパスポート」を介して性能や耐久性、カーボンフットプリントなどに関する情報を伝えることが定められています。

規則強化の具体的内容

従来の欧州バッテリー指令から、欧州バッテリー規則で強化された具体的な内容をご紹介します。欧州バッテリー規則ではほとんどのバッテリーが対象となっており、特にLCAにおける規定が強化されています。

製品設計に対する義務化

EVバッテリーや産業用充電池を対象に以下の点が義務化されました。

  • 2024年7月1日開始:製造者や製造工場の情報、バッテリーとそのLCA各段階でのCO2総排出量、さらに第三者検証機関の証明書などを含むカーボン・フットプリントの申告を行う
  • 2026年1月1日開始:LCAでのCO2排出量の大小の識別を容易にするための性能分類を表示すること
  • 2027年7月1日開始:LCAでのカーボン・フットプリントの上限値を導入すること

産業用バッテリー・車載用蓄電池に関しての義務化

EVバッテリーにコバル・鉛・リチウム・ニッケルを含む場合や、産業用バッテリー、車載用蓄電池に関しては次の点が義務化されました。

  • 2027年1月1日開始:原材料のうち再利用された原材料の使用量表示を行うこと
  • 2030年1月1日開始:再利用された同原材料のそれぞれの使用割合の最低値の導入を行うこと

電池のリサイクル(回収)目標

規則では、ポータブル電池の回収目標は2027年に63%で、2030年には73%となっています。さらに輸送手段用電池の回収目標は2028年で51%、2031年には61%が目標です。リチウムの回収目標は、2027年までに50%、2031年までに80%となっています。

カーボンフットプリントとの関連

欧州バッテリー規則では、カーボンフットプリントの申告や上限値の導入が義務付けられます。ここではカーボンフットプリントについて簡単に解説し、欧州バッテリー規則での重要性を解説します。

カーボンフットプリントとは簡単に

カーボンフットプリントマーク

出典:CFPプログラム

カーボンフットプリントは、カーボン(CO2)に特化して環境影響を評価する方法です。日本では環境ラベルとしての認証制度になります。

LCAに基づき、製品の温室効果ガス排出量から除去・吸収量を除いた値をCO2 排出量相当に換算し数値化したものを、わかりやすく「視覚化」して伝える取り組みがカーボンフットプリントです。視覚化された情報の判断は消費者に委ねられることが特徴です。企業は透明性の高い明快な情報を開示することで、多くの消費者の信頼を得られるため、近年多くの企業がカーボンフットプリントに取り組んでいます。

こちらの記事も参考にご覧ください。

カーボンフットプリント・CFPとは?実際の検証員が解説します

カーボンフットプリントの申告

欧州バッテリー規則では、電池の製造・廃棄時のカーボンフットプリントの表示が義務づけられています。24年7月以降は、製品に対する第三者の検証機関が証明したカーボンフットプリントを提出しなければ、EU域内では電池や電池を搭載したEVも流通できなくなる可能性があります。

そのため、EUで電池の製造やEVの販売を行いたい企業は、製品のLCAにおけるカーボンフットプリントを実施し申告しなくてはいけません。カーボンフットプリントによる情報の開示が重要になります。

カーボンフットプリント上限値の導入

EUは、カーボンフットプリントについて市場の現状や環境評価を鑑みた上限値の導入を求めています。しかし、たとえ同じタイプのバッテリーであっても機能や技術要件が違うため、同じ基準・上限値を設けることは不可能だという声も上がっています。

そのため、カーボンフットプリントの算出方法については別途提案がなされました。具体的にはEVや定置型蓄電池に関しては用途に応じた製品カテゴリごとのルールを決める、他製品についてはEUのエコデザイン枠組みと同等の方法を用いる等が挙げられます。これにより、費用効果や温室効果ガス排出削減量を分析し、規則の有無が評価できるという提案です。

日本への影響と取り組みを紹介

欧州バッテリー規制とは

欧州バッテリー規則が開始されることで日本にはどのような影響があるのでしょうか。日本への影響と動向を詳しく見ていきます。

欧州バッテリー規則による日本への影響は

日本に対する規則の影響を、身近で需要の高いスマホやEVといった製品から紐解いて見てみましょう。

モバイル機器バッテリー

いまやなくてはならない通信機器スマートフォン。2026年に規則が予定されているのはEVバッテリーだけですが、今後はそれに留まらず携帯電話、スマホ、タブレットなどのモバイル機器も対象になる可能性があります。しかし、スマートフォンのほとんどがバッテリーの取り外しに対応していません。そのためリサイクルを義務付けられた場合は、薄型デザインのスマートフォンを維持できなくなるなどの影響が出る可能性があります。

EV(電気自動車)

日本の主要産業である自動車産業も現在EVの開発を促進しており、今後はEVの販売経路を海外に拡大していく予定です。さらにEV普及に伴い、車載用蓄電池の技術開発も進んでいます。しかし、2026年以降にEU域内でEVを販売する場合は、規則に伴いEV製造後のバリューチェーンについて環境データを管理して開示する必要があります。

また、バリューチェーンだけではなくサプライチェーンも管理の対象のため、製品のLCAに関するデータすべてを開示しなくてはいけません。これらの規則条件で不安視されているのは、一歩間違えると日本の貴重な技術やサプライチェーンなどの情報すべてが網羅されてしまう危険性を否定できないことです。企業はしっかりとした対応策を練る必要があるでしょう。

国内の蓄電池サステナビリティへの取り組み

日本はこのような海外の動向を受けて、国内の蓄電池産業の現状と課題について取り組むために「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」を発足しました。蓄電池はEVや再生可能エネルギーの主力電力化を達成するための重要インフラ技術の一つで、急速に開発が進んでいます。今後は2050 年のカーボンニュートラルの実現に向けて、世界的に需要が拡大していく可能性が高いため、それに併せた蓄電池製造の環境負荷低減の対策が必要です。

「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」は、カーボンニュートラル達成に向けたモビリティ領域でのEV化の重要性、EV化推進に向けた主要な取組みや課題を取り上げ、EVにとって欠かせない蓄電池のサステナビリティを促進し、海外の動向に対応していきます。

具体的な取り組みとしては、「蓄電池のスケール化を通じた低価格化」や「蓄電池のリユース・リサイクルの促進」「ライフサイクルでのCO2排出⾒える化や、材料の倫理的調達の担保、リユース・リサイクル促進等についての在り⽅」等があります。

参照:経済産業省「蓄電池産業の現状と課題について」

まとめ:企業は規則が開始される前にしっかりとした対策を取ろう

欧州バッテリー規則が開始されれば、EUの域内だけではなくあらゆる地域で影響が起きる可能性があります。日本の企業もカーボンフットプリントをはじめとした対策をとる必要に迫られるでしょう。

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