松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
アメリカのバイデン大統領が2050年までにカーボンニュートラルの実現の宣言や、日本政府の「グリーン成長戦略」など脱炭素社会に向けて国際社会は進んでいます。
その中でも脱炭素に関するビジネスが注目されてきていますが、脱炭素ビジネスに関して詳しい方は少ないのではないでしょうか。
そのため今回は脱炭素ビジネスについて解説します。
脱炭素ビジネスとは?
脱炭素ビジネスとは、脱炭素を実現に向けた取り組みをビジネスチャンスにすることです。
脱炭素を一言で言っても、幅広い意味や業界で活用が可能なため、多くの業種や業界でビジネスを展開できます。
例えば以下のような事業が脱炭素ビジネスです。
- 脱炭素に関する企業や事業への投資、資金援助
- 脱炭素に寄与する商品やサービスの開発
- 企業や団体への脱炭素活動に対するコンサルティングやサポート
脱炭素ビジネスのメリット
脱炭素ビジネスのメリットは3つ挙げられます。
- 金融機関からの融資が受けやすくなる
- 政府からの補助金や支援が受けられやすくなる
- 企業活動に発生するコストを削減できる
1.金融機関からの融資が受けやすくなる
金融機関も脱炭素に向けた動きをしており、融資をするときに有利に働きます。
また一部の銀行では、脱炭素経営を行う企業向けの融資商品も実在します。
きらぼし脱炭素応援ローン(きらぼし銀行)
きらぼし銀行が提供する「きらぼし脱炭素応援ローン」の対象者や金額、担保、保証人などは以下の通りです。
対象者 | 東京都環境局が所管する「地球温暖化対策報告書制度」について、当年度または前年度に報告書を提出している法人・個人事業主のお客さま |
用途 | 事業資金(運転資金・設備資金の両方に使用可能) |
融資金額 | 審査によって判断 |
金利の種類 | 1年目:固定金利 2年目:変動金利(2年目以降に再度固定金利を選択することはできません) |
融資利率 | きらぼし銀行所定の金利(初年度は所定の利率より0.1%低くなります。) |
融資期間 | 運転資金: 2年以上5年以内 設備資金: 2年以上10年以内 |
返済方法 | 元金均等返済 |
担保 | 必要に応じて |
保証人 | 融資窓口または担当者に問い合わせ |
その他 | ・融資後に要望した企業は、きらぼし銀行のページで商品利用企業一覧として企業名を掲載 ・審査の結果次第で融資ができない可能性あり |
ほくと脱炭素サポートローン(北都銀行)
北都銀行では長期間の融資が設定されており、設備資金に使う場合は20年の融資期間があります。
使用用途や保証人などは以下の通りです。
対象者 | 北都銀行の所定の条件を満たす法人および個人事業主の方 |
用途 | 下記①~⑦のいずれかに該当する運転資金または設備資金 ①再エネ発電設備(新設or中古)導入資金 ②再エネ電力導入・再エネ電源への変更資金 ③省エネ設備・EMS(エネルギーマネジメントシステム)導入資金 ④リサイクルプロセス導入資金 ⑤公用車・事業用重機等のEV化資金 ⑥CO2排出量測定関連資金 ⑦その他ESGに関連する運転・設備資金 |
融資限度金額 | 5億円 |
融資利率 | 北都銀行所定の金利 |
融資期間 | 運転資金:10年以内(1年以内の据置期間を含む。) 設備資金:20年以内(1年以内の据置期間を含む。原則、耐用年数範囲内。) |
返済方法 | 原則、元金均等毎月割賦返済。 期日一括返済は、融資期間1年以内の場合のみ可。 |
担保 | 原則不要。ただし、設備資金の場合には担保を徴求する場合も。 |
保証人 | 法人:代表者1名 個人事業主:原則不要 |
いわぎん脱炭素応援ローン(岩手銀行)
岩手銀行では3種類の融資商品を提供しており、それぞれ対象者や使用できる用途、融資期間が違います。
商品の内容 | 10年利子補給型 | 3年利子補給型 | 地域浸透型 |
対象者 | 利子補給制度利用について、資源エネルギー庁(執行団体:一般社団法人環境共創イニシアチブ)の承認が得られる法人 | 利子補給制度利用について、環境省(執行団体:一般社団法人環境パートナーシップ会議)の承認が得られる法人 | 当行が定める脱炭素に資する取組み(自社のCO2排出量を算定している、ISO14001の認証を取得している等)を行っている法人 |
用途 | 設備資金(エネルギー消費効率が高い省エネルギー設備の新設又は増設) | 設備資金(地球温暖化対策のための再エネ・省エネ設備投資) | 運転資金・設備資金 |
融資金額 | 10百万円以上100億円以内(1事業あたり) | 10百万円以上10億円以内(1案件あたり) | 10百万円以上2億円以内(1社あたり) |
利子補給内容 | 最長10年間、最大1.0% | 最長3年間、最大1.0% | 利子補給対象外 |
融資利率 | 岩手銀行所定の金利 | 岩手銀行所定の金利 | 岩手銀行所定の金利 |
融資期間 | 3年超20年以内(ただし対象設備の法定耐用年数の範囲内) | 3年超20年以内(ただし対象設備の法定耐用年数の範囲内) | 1年超7年以内 |
2.政府からの補助金や支援が受けられやすくなる
脱炭素経営を進めるときに、政府や自治体は補助金や支援を行っています。
主な補助金や支援の内容は以下の通りです。
- 脱炭素に向けたスタートアップの支援
- 工場や施設などの脱炭素化
脱炭素に向けて必要な人材の育成や資金援助をし、脱炭素ビジネスを実現するスタートアップ企業を後押しします。
また民間だけでなく、政府や自治体も巻き込み、地域全体の脱炭素に向けての支援も行います。
工場や事業者の設備更新や、エネルギー効率改善に向けた取り組みにも補助金の獲得が可能です。
環境省が推進しており、事業の補助率は脱炭素化促進計画策定支援が半分で、設備更新補助が3分の1です。(年度やプロジェクトによって、金額や補助率は違います。)
また補助の上限は、脱炭素化促進計画策定支援が100万円、設備更新補助が1億円となっています。
3.企業活動に発生するコストを削減できる
脱炭素ビジネスを推進する際、エネルギー消費量を確認し、非効率な設備などを改善しなければなりません。
改善を行えば、燃料費や光熱費の削減が可能なため、企業の活動にかかるコストも削減できます。
ただし削減できるコストと設備投資にかかるコストを比較しなければ、経営に悪影響を及ぼします。
脱炭素ビジネスのデメリット
脱炭素ビジネスのデメリットは以下の3つです。
- 初期費用や維持費用が高額
- 取引先との関係の見直しが必要
- 脱炭素を推進できる人材が希少
初期費用や維持費用が高額
脱炭素ビジネスを始めたり、脱炭素経営を実現するためには、温室効果ガスの排出量が少ない設備の導入などが必要不可欠です。
しかし脱炭素向けの設備は、高額なコストがかかり、簡単には導入できません。
また設備を導入するだけでなく、設備の維持や改善を行わなければなりません。
このようなコスト増加に対応できる企業は少ないため、融資や政府などから補助金や支援が必要です。
取引先との関係の見直しが必要
脱炭素を自社だけで実現するのは難しく、サプライチェーンと協力しなければなりません。
しかし脱炭素ビジネスを行う際、サプライチェーンが協力しなければ、取引の変更や新規取引先を見つけなければなりません。
新しい取引先を探すのが難しい場合もあるため、サプライチェーンにも協力してもらえるように、円滑な関係を作る必要があります。
脱炭素を推進できる人材が希少
脱炭素ビジネスや経営を行うためには、脱炭素に詳しい専門家が指導や音頭を取っていく必要があります。
また部署だけではなく、企業全体やサプライチェーンも含めた組織の中で影響力や調整が可能な人材は、非常に少ないです。
脱炭素を実現するためには、ある程度経営層に近い人材が式を取ることが必要になります。
脱炭素経営・ビジネスの事例
脱炭素ビジネスを行っている企業は多数あり、その中でも代表事例を紹介します。
- 日本製鉄
- トヨタ自動車
- 三菱重工
- セブン&アイ・ホールディングス
- アシックス
日本製鉄
日本製鉄は、2021年の中期経営計画で独自の取り組みとして、「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を公表しました。
「社会全体のCO2排出量削減に貢献する高機能鋼材とソリューションの提供」や「鉄鋼製造プロセスの脱炭素化によるカーボンニュートラルスチールの提供」という2つの価値を提供します。
また2030年には、2013年に比べてCO2総排出量を2013年比30%削減を目標として企業活動に取り組んでいます。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しました。
脱炭素や地球環境を保全するために以下の6つにチャレンジします。
- ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ
- 新車CO2ゼロチャレンジ
- 工場CO2ゼロチャレンジ
- 水環境インパクト最小化チャレンジ
- 循環社会・システム構築チャレンジ
- 人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ
三菱重工
三菱重工は、2040年にカーボンニュートラルを達成することを決めました。
CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の活動を推進し、CO2を大気中に放出するのを防ぎます。
CCUSとは、CO2回収(Carbon dioxide Capture)、転換利用(Utilization)、貯留(Storage)の略称です。
今後、三菱重工はCO2の削減だけでなく、CO2を回収する製品の開発も進めています。
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスは、店舗運営に伴うCO2排出量を2013年度比で2030年までに50%、2050年までに実質ゼロを宣言しました。
排出するCO2排出量の約9割は、店舗運営のための電気の使用から来ているため、省エネの設備の使用や創エネ、再エネ調達を重点的に進めています。
太陽光パネルの導入やLED照明の使用、水素ステーションの併設など、エネルギーの使用によるCO2排出を抑えています。
アシックス
アシックスは、2050年にカーボンニュートラルを、2030人にスコープ1~3の63%を削減することを発表しました。
事業所のエネルギー使用量削減やエネルギー効率の良い設備や車両の導入を積極的に進めています。
また一部の事業所では、太陽光パネルを設置しクリーンなエネルギーを使用しCO2排出削減にも貢献しています。
脱炭素経営・ビジネスを行う方法
環境省は、脱炭素経営やビジネスを行う方法として、以下の手順が推奨されています。
- 長期的なエネルギー使用の方針転換
- 短中期的な方法の確認
- 再生エネルギーの活用の検討
- 1~3の手順を削減計画に盛り込む
1.長期的なエネルギー使用の方針転換
脱炭素化をするためには、長期的にCO2の排出量を大幅に削減することが不可欠です。
省エネルギー対策のみでは、大幅に削減を目指すのは困難なため、将来を見据えつつ主要な設備の見直しが必要です。
具体的には以下の方法が挙げられます。
- 設備の電化
- バイオマスの利用を検討する
- 水素エネルギーの利用
ただし開発コストや技術開発の進捗状況、関連するインフラなどに応じて適切な設備の導入をしなければなりません。
例えば、水素の技術はまだ開発途上のため、商用として使うのが難しい設備も多いのが現状です。
2.短中期的な方法の確認
1つ目の長期的なエネルギー転換の方針を参考に、短中期的な省エネ対策を実行します。
現状の設備の稼働の最適化や、エネルギーロスが発生している工程を改善します。
省エネ対策として、設備の運用改善や部品の更新・機能付加、新しい設備の導入が不可欠です。
特に省エネに対して即効性のある方法は積極的に実行し、目標到達達成できるようにしましょう。
3.再生エネルギーの活用の検討
再生可能エネルギーはCO2の排出を大幅に削減でき、1つ目の手順と組み合わせると、大幅なCO2削減が可能です。
再生可能エネルギーの調達方法でできます。
- 小売電気事業者からの調達
- 自家発電
- 再エネ電力証書等の購入
特に多くの中小企業が導入している自家発電は、太陽光発電です。
本社や工場の屋根に設置し自家消費することで、電気代の節約になります。
他にも再生可能エネルギーの電力プランも小売電気事業者は、打ち出しています。
再エネ電気メニューを選択し購入することで、電気の調達に発生するCO2を低減可能です。
4.1~3の手順を削減計画に盛り込む
手順1〜3の検討結果をまとめ、脱炭素への対策として以下の3つを整理します。
- 想定される削減できるCO2量
- 必要な費用や投資
- 対策によって生じる光熱費の変化
作成した削減対策で目標が達成可能であるかどうかや、設備投資が経営を圧迫しないかどうかなどを確認しましょう。
また政府や自治体の補助金の活用も検討し、一定の負担低減や税負担の軽減の検討が望ましいです。
さぁ、脱炭素だ。
弊社は創業以来、環境分野の問題に取り組んでまいりました。
現在、脱炭素経営のコンサルティングやマーケティング、ソフトウェアを活用した脱炭素経営の推進が主な事業です。
企業や自治体、研究機関等様々な方と連携しながら、脱炭素社会の実現に向けて事業を推進しています。
私たちは、脱炭素分野の専門家として、皆様のGX・脱炭素経営を支援いたします。
今後脱炭素経営を考えている方は、ぜひ株式会社ゼロックに相談してみてはいかがでしょうか?