脱炭素経営とは?メリットや具体的な取り組みを解説

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松井大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

目次

脱炭素経営とは?メリットや具体的な取り組みを環境コンサルタントが解説

脱炭素経営とは?

脱炭素経営とは、事業活動における温室効果ガスの排出量を『実質ゼロ(カーボンニュートラル)』にすることを目指して、企業が経営戦略や事業方針を策定する取り組みのことです。

これまで、企業による環境対策はCSR活動(企業の社会的責任)として単なるコストと見なされていました。

しかし、様々な法規制やESG投資の高まりもあり、今や環境対策として脱炭素経営を進めることで企業価値の向上に繋がり、将来の事業リスクを減らすことができるという考え方に変わってきています。

脱炭素経営に取り組む企業

例えば、米国のトップ企業であるAppleやGoogleは既にカーボンニュートラルを達成しており、両社とも2030年までに事業全体を通じて、気候変動への影響をネットゼロにすることを目指しています。

国内では、トヨタが「2050年には、世界で販売する新車が排出するCO2(二酸化炭素)を2010年に比べて90%減らす」ことを目標に、電動車の開発に力を入れています。

グローバル企業がこうした対応をする背景にあるのは、機関投資家・消費者・社会からの脱炭素化の要請に応え続けなければ自社が選ばれなくなる、つまり製品・サービスを購入してもらいにくくなったりすることで、事業活動を継続できなくなるという危機感からです。

関連記事:【経営者必見】ESG経営とは?投資家の評価を下げないために心がけるポイントを解説!

脱炭素経営に取り組む4つのメリット

脱炭素経営に取り組むことで得られる4つのメリット

では次に、脱炭素経営に取り組むメリットを具体的に見ていきます。

脱炭素経営は自社の売上アップにつながる

脱炭素社会への転換によって、法人・個人に限らず新たな市場やニーズが日々生まれています。

このような市場機会を適切に捉えることで、新規事業の創出や新商品開発に繋がり、企業の売上向上につなげることができます。

具体的には、再エネや省エネ設備はもちろんのこと、EV用バッテリーから、企業向けCO2排出量見える化ツールなど多岐に渡ります。

既存の事業においても、自社製品のCO2排出量を低減させることで、他社との差別化をすることができ、環境負荷の低い商品を求めている顧客や取引先への売上げアップの効果が見込めます。

このように、自社製品やサービスの温室効果ガスを実質ゼロにする、または削減することは他社との競争優位性の獲得に繋がり、結果として売上をアップされる要因となり得るのです。

新たな資金調達の機会獲得

企業がこれから資金調達を行う場合、投資にしろ融資にしろ脱炭素経営を推進することで有利になることは間違いありません。

世界のESG投資の運用資産額が年々上昇しており、2021年度時点では121兆ドルにまで膨れ上がっていることが下記のグラフからわかります。

世界のESG投資の運用資産額
引用:TCFDを活用した経営戦略立案のススメ

例えば、国内では日本⽣命保険が2050年までに投資先のCO2排出量ゼロを目指すとしており、社債と株式の投資先については、排出削減の取組みを促し、未対応の場合は売却も検討予定(2021年1月)と発表しています。

また、資産運用会社最大手の米ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、投資先の企業トップ宛てに送付する書簡で「短期、中期および⻑期的な温室効果ガス削減目標の設定やTCFDに準拠した情報開示」を要請しています。

自社のブランドイメージの向上

脱炭素経営で企業のイメージアップ

脱炭素経営を進めることで、消費者や従業員、求職者からのイメージ向上するというメリットもあります。

消費者は SDGs(持続可能な開発目標)に貢献する企業・製品・サービスの選好が増えつつあり、金額が高くても環境に良いものを買う人が増えています。

目先の価格の安さや機能だけでなく、長期的な視点で社会全体のことを考えた企業の姿勢を評価してもらうことで、自社のファンの獲得や認知度のアップに繋げることができます。

また、企業で働く従業員についても自社の脱炭素に向けた取り組みへの関心が高まっています。

脱炭素社会への転換は世界的な潮流のため、脱炭素に取り組んでいる会社で働くことには価値があるという考え方が社会で広まっています。

関連記事:【SDGs】企業の取り組み方を本音で解説します

脱炭素経営で気候変動リスクを回避

気候変動による異常気象や生物多様性の喪失は企業経営にとって全社を挙げた明確なリスクと位置づけられています。

世界経済フォーラム(WEF)「グローバルリスクレポート2022」のトップ10リスクを見ると、世界の経営層が気候変動に関する環境リスクを重要視していることがわかります。

世界経済フォーラム(WEF)「グローバルリスクレポート2022」
引用:TCFDを活用した経営戦略立案のススメ

脱炭素経営の取り組みである、TCFD提言では将来にわたる気候変動リスクを予測してシナリオ分析に基づく計画の策定が必要になります。

つまり、脱炭素経営を進めることで、気候変動によるリスクを回避すると同時に、適切なリスクを考慮した事業を実施できるということになります。

関連記事:TCFDとは?環境コンサルがわかりやすく解説

脱炭素経営の主な4つの取り組み

では次に、脱炭素経営の具体的な取り組みについて紹介します。

脱炭素経営の代表的な取り組みとして、TCFD、SBT、RE100、インターナルカーボンプライシングの4つが挙げられます。

TCFD、SBT、RE100に取り組んでいる日本の企業の状況は以下の通りであり、世界トップクラスとなっています。

脱炭素経営の主な3つの取組み
引用:環境省HP

TCFDとは

TCFDとは「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指します。

企業に対して、気候シナリオを用いて、自社の気候関連リスク・機会を評価し、経営戦略・リスク管理へ反映し、財務上の影響を把握・開示することを求めるものです。

TCFD提言に沿った情報開示は、一般にTCFD開示と呼ばれています。

TCFD開示では、以下の4項目を開示推奨項目としています。

ガバナンス   気候関連リスク・機会についての組織のガバナンス
戦略気候関連リスク・機会がもたらす事業・戦略、財務計画への実際の/潜在的影響
リスク管理 気候関連リスクの識別・評価・管理方法
指標と目標 気候関連リスク・機会を評価・管理する際の指標とその目標
経済産業省HPより作成

2022年4月に、東証市場再編後のプライム市場上場企業に対して、TCFD提言に基づくリスク情報の開示が実質的に義務化されました。

⽇本の賛同数は世界第⼀位であり、多様なセクターの企業が賛同を表明しています。

TCFD賛同上位の国などの図
引用:TCFDを活用した経営戦略立案のススメ

SBTとは

SBTのロゴイメージ

SBTとは、パリ協定が求める⽔準を達成するために、企業が設定する温室効果ガス排出削減⽬標のことです。

2022年3月31日時点で認定企業数は世界で1,267社あり、うち日本企業は173社となており、世界で第3位となっています。

SBTに取り組むことで、パリ協定に整合する持続可能な企業であることをステークホルダーに対して
分かり易くアピールできるというメリットがあります。

SBTは大企業だけでなく、中⼩企業も取り組むことのできる目標設定となっており、取り組みの手引も分かりやすく資料にまとめられているので、比較的取り組みやすい目標と言えます。

費用としては、通常の⽬標妥当性確認サービスはUSD9,500(外税)、中小企業の場合は1回USD1,000(外税)となっています。

関連記事:【保存版】SBTの申請方法とポイントを具体的に解説

RE100とは

RE100のロゴイメージ

RE100とは「Renewable Energy 100%」の略称で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブのことを指します。

RE100基準電力の供給には、太陽光、風力、バイオマス、水力、地熱の5種類があります。

《世界のRE100加盟企業》

アップル、アドビ、Meta(フェイスブック)、ナイキ、UBSなど290社

《日本のRE100加盟企業》
富士通、アサヒ、ソニー、イオン、花王、ヒューリックなど66社

環境省は、2018年にRE100に公的機関としては世界で初めてアンバサダーとして参画し、RE100の取組の普及のほか、自らの施設での再エネ電気導入に向けた率先的な取組やその輪を広げていくこととしています。

関連記事:RE100とは?概要やメリットについて3分で解説!

インターナルカーボンプライシングとは

インターナルカーボンプライシング(IPC)とは、企業の内部(インターナル)で炭素について価格付けを行う取り組みです。

インターナルカーボンプライシング
引用:インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン

企業が経営判断や意思決定を行う際に、あらかじめ設定した炭素価格を用いたインセンティブを与えることで、脱炭素経営を推進するための仕組みとなります。

候変動関連目標(カーボンニュートラル/SBT/RE100)*に紐づく企業の計画策定に用いる手法であり、脱炭
素推進へのインセンティブ、収益機会とリスクの特定、あるいは投資意思決定の指針等として活用される

2018-2019年にかけて、世界で1,500社以上が導入または2年以内の導入を検討しており、2020年では2,000社以上に拡大しています。

関連記事:ICP(インターナル・カーボンプライシング)とは?最適価格をコンサルタントが解説

脱炭素経営に役に立つ情報サイト

脱炭素経営に役に立つ情報サイト

ここまで、企業が脱炭素経営に取り組む意義や基本的な取り組みについて説明して来ましたが、いかがでしたでしょうか。

脱炭素経営については、環境省や経済産業省が積極的に情報公開を進めており、制度や仕組みをイチから理解するためのソースが豊富にあります。

ぜひ、下記のサイトや資料を参考に脱炭素経営を進めて頂ければと思います。

グリーンバリューチェーンプラットフォーム(脱炭素経営に関する情報プラットフォーム)

サプライチェーン排出量 概要資料(PDF/445KB)

SBT 概要資料(PDF/428KB)

RE100概要資料(PDF/665KB)

WMB関連資料(PDF/393KB)

中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック-温室効果ガス削減目標を達成するために-Ver.1.1[PDF:5.8MB]

TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド 2021年度版[PDF:21.8MB]

SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブック 2021年度版[PDF:33.7MB]

インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン~企業の脱炭素・低炭素投資の推進に向けて~(2022年3月更新)[PDF:8.2MB]

グリーンファイナスポータル

脱炭素化事業支援情報サイト(エネ特ポータル)

また、脱炭素経営について詳しく知りたいという企業様はぜひ、専門的なコンサルティングを行います弊社株式会社ゼロックまでお問合せください。

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