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排出原単位(排出係数)とは?概要からデータベースの種類まで解説

公開日 2022.10.27 最終更新日 2024.09.09

松井 大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

排出原単位とは?

排出原単位とは?

排出原単位の概要

排出原単位とは、経済活動量あたりの温室効果ガス排出量のことで「排出係数」とも呼ばれています。

温室効果ガス排出量を算定する方法は、実測値を利用する方法と、排出原単位を利用する方法があります。

可能な限り実測値を使用する方が望ましいですが、製品の輸送に伴う温室効果ガス排出量や事務所の電気使用に伴う温室効果ガス排出量等、事業活動に伴う温室効果ガス排出量を実測したり、取引先からデータを収集するのは容易ではありません。

また、サプライチェーン全域の排出量を把握するのはあまり現実的ではありません。

そこで、排出原単位として、輸送距離・重量1t・kmあたり〇〇t-CO2、電力1kWhあたり〇〇t-CO2といった値を温室効果ガス排出量算定に用いることで、幅広く企業が環境負荷算定に取り組めるようになっています。

具体的には、排出原単位が一覧にまとまった排出原単位データベースを用いて算定しますが、排出原単位データベースにはいくつかの種類があり、算定の目的に応じて使用する排出原単位データベースを選定することが重要です。

排出原単位はLCAやScope3算定に必要

先述の通り、排出原単位は活動量当たりの温室効果ガス排出量のことですので、その値に算定対象となる製品・サービスや組織全体の活動量を掛け合わせれば、温室効果ガス排出量を算定することができます。

項目内容
LCA(ライフサイクルアセスメント)製品を対象として原料調達・製造・物流・販売・廃棄までの排出量を評価すること
Scope1,2,3原料調達・製造・物流・販売・廃棄並びに資本財・出張・通勤などの事業者の組織活動全体を対象とした温室効果ガス排出量(サプライチェーン排出量)を評価すること

LCAとScope1,2,3の主な違いは、算定する対象です。

どちらの算定をするにせよ、現在は排出原単位を用いて算定することが一般的となっています。

排出原単位データベースとソフトウェア

排出原単位データベースやソフトウェア

排出原単位データベースとソフトウェアの違い

排出量算定の検討にあたって、排出原単位データベースとソフトウェアを混同する場合がありますので、簡単に違いについて記載します。

データベースは単位当たりの温室効果ガス排出量の値を一覧化したものです。

ソフトウェアは、そのデータベース等と連携して算定を簡略化することが目的です。

同じデータベースを参照するソフトウェアであれば排出原単位の計算式が異なることはなく、あくまでも決められた数値計算やその解析結果を速く、わかりやすく、見やすく行うための道具です。

一般的にイメージしやすいソフトウェアの例に「エクセル」があります。

エクセル自体にデータを持っているわけではなく、使用者が所有しているデータを保存したり、それを用いて計算したり、解析するために利用すると思います。

排出源単位ソフトウェアは必要なデータベースと既に繋がっているエクセルというイメージで、さらに排出量算定に特化した使いやすさが特徴です。

排出原単位データベースの種類

LCA(ライフサイクルアセスメント)Scope3における排出原単位は、一般的に以下の順で精度が高まるとされています。

  1. 自社で実際のデータを測量し、その一次データを利用する
  2. 工業会などが発表しているデータ(例えば、日本アルミニウム協会が、アルミニウムの原単位を公表)を利用する
  3. データベース(積み上げ式)を利用する
  4. データベース(産業連関表)を利用する
種類メリットデメリット
産業連関法(3EID等)・簡便に全製品を網羅
・産業区分の物量を金額で推計したものであり、金額ベースでの算定が可能
・その産業における平均的な製品・サービスの環境影響を把握するのに適している
・価格変動によって算定結果が変わってしまう
・産業別に分類されたデータであるため、粒度は荒く、詳細の内訳を把握することは難しい
積み上げ法(IDEA、Ecoinvent 等)・ライフサイクルの各段階で投入した資源・エネルギー(インプット)と排出物(アウトプット)を物量ベースで収集・集計しているため、高精度
・実態に即した環境影響を把握するのに適している
・データの収集に労力がかかる
・算定に時間を要する
産業連関法と積み上げ法のメリットデメリット

先述の通り、排出原単位データベースには複数種類があるため、自社の算定目的に合わせて使い分けることが大切です。

排出原単位データベースをいくつか見ていきましょう。

3EID

排出原単位データベースやソフトウェアの「3EID」

3EIDは日本の産業連関表を用いて算出した原単位を一覧化したデータベースです。

各部門の単位生産活動(百万円相当の生産)に伴い発生する環境負荷量を示しています。

単位は「t-CO2/百万円」で表現され、これに製品等の単価(百万円/固有単位)を乗ずる方法で、固有単位あたりのCO2排出量を計算することができます。

3EIDのCO2排出量/固有単位

3EIDを用いたCO2排出量/固有単位は、各部門におけるライフサイクルのうち、生産プロセスにおいて直接的・間接的に発生するCO2排出量を合計して算出されます。

産業連関分析を用いることで、全ての生産プロセスを対象とすることができるので、例えば金属品の場合には採掘等に伴うCO2排出量も、原則として算定に含んでいます。

3EIDの注意点

一方、3EIDの原単位には製品の使用時に発生する排出量は含まれていません。

そのため、使用時に発生する排出量が必要な場合は別途加算する必要があります。

例えば「乗用車」部門の使用時の排出量を算定したい場合、3EIDに含まれる化石燃料の発熱量、CO2排出係数、大気汚染物質の排出係数を用いて、走行に伴うガソリンや軽油の燃焼による排出量を算定することができます。

また、生産プロセスについても、製品を製造する際に使用される建築物、機械、及び装置等の固定資本形成に伴うCO2排出量は含まれていません。

そのため、これらの算定をしたい場合は、3EIDの原単位と産業連関表の数値を使って、年間のどの固定資本形成に伴って、どれほどの排出があったかを計算する必要があります。

産業連関表の付帯表に「固定資本マトリックス」があり、この付帯表からどのような固定資本形成に対して、産業連関表の各部門から年間で何百万円の投入があったかを知ることができます。

そして、この金額を各部門の原単位に乗じることによって、その年の固定資本形成に伴う排出量を逆算して求めることができます。

3EIDを用いた算定においては、製品の単価に比例して排出量が大きくなってしまうため、例えば同一部門に該当する商品AとBがあり、Aの方が製造時の環境負荷が大きいが価格がBの1/2だった場合、Aの排出量はBの1/2として計算されてしまいます。

無料でオープンな3EID

このように、状況によっては算出される数値に誤差が発生しやすくはあるもの、無料でオープンになっているため使いやすく、3EIDは大まかに数値を算定してみたい場合等に利用するのに適しています。

IDEA

排出原単位データベースやソフトウェアの「IDEA」

IDEAは、産業技術総合研究所、産業環境管理協会によって共同開発された日本のデータベースです。

IDEAの分類

高い網羅性・完全性・代表性・透明性を目的として開発されており、3EIDと比べて分類がより細かくなっています。

例えば、3EIDの品目ではひとくくりに「米」に分類されるものが、IDEAでは「玄米」や「精米」「稲わら」という品目まで分類されています。

最新情報を得られるIDEA

また、インベントリデータは経年変化とともに、1年ごとに更新データを提供される予定ですので、最新の情報を用いた算定が可能になります。

IDEAの特徴

IDEAの主な特徴としては、以下の通りです。

  • 日本国内の全ての事業(一部サービスを除く)における経済活動を網羅的にカバー
  • 全データセットを「日本標準産業分類」を中心とした分類コード体系で整理
  • GHGや酸性化、オゾン層破壊、水資源、土地利用等の170以上の基本フローで主要影響領域をカバー
  • データセット数4,700以上の解像度でLCAを強力に支援。算定者のデータ収集負荷を大幅に軽減。
  • GHGprotocolのThirdPartyDatabasesとして登録されているなど、国際的にも認知向上が進められている

このように、日本の平均的な製造方法やサービスに基づくデータとなっており、日本でのLCA実施の際の利用に適しています。

実際のプロセスデータを積み上げることを第一に目指し、それが実施できない場合は統計など文献を活用して、とにかくデータを網羅的に作成し、どんな製品やサービスでも必ず何らかのデータを参照できるようにしていることが強みになっています。

IDEAは有料データベース

なお、IDEAは産業技術総合研究所のLCA活用推進コンソーシアムの会員になり、特別会費を支払うことで利用することが出来ます。

2022年に6年ぶりのアップデートとなる「IDEAVer.3」がリリースされており、今回のアップデートにより、品目が大きく増えました。

IDEAは有料ではあるものの、高い網羅性と解像度を有しているため、外部公表や環境ラベル取得等を目的とする際の利用に適しています。

例えば、カーボンフットプリント(CFP)では、指定データベースとしてIDEAを採用しています。

Ecoinvent

排出原単位データベースやソフトウェアの「Ecoinvent」

Ecoinventは、多様な国と部門を含む海外のデータベースとして、欧米を中心に広く使われています。

データセットは複数の専門家のレビューを受け、信頼性が高く、科学的に正確で透明性が高い国際的なインベントリデータを提供する事を目的として開発が行われています。

海外での認知度が高いデータベースですので、グローバル事業がメインで、海外に向けてEcoinventを用いて算定していることをアピールしたい場合にも有効です。

排出原単位ソフトウェアの種類

SimaPro

排出原単位データベースやソフトウェアの「Simapro」

Simaproは世界で最も広く使われているLCAのソフトウエアです。

解析結果を様々な切り口で切り替えて表示できる直感的なユーザーインターフェースであり、LCA実施者の幅広いニーズに柔軟に対応するソフトウェアになっています。

選べるデータベース

排出原単位は、Ecoinvent、IDEAのデータを搭載しており、Ecoinvent+IDEA、Ecoinventのみ、IDEAのみの3種類の契約形態から選ぶことができます。

国際的で信頼性の高いSimaPro

SimaProはオランダの環境コンサルタントPReConsultants(プレコンサルタント)社が開発し、1990年の初版リリース以降、現在では80カ国以上のユーザーに使用されています。

日本ではTCO2株式会社が総販売代理店として、販売ならびにサポートを行っています。

使いやすいSimaPro

多くの複雑な計算や表示の切り替え操作、タブの切り替え、プルダウンの変更は全てボタンひとつで行えます。

また、これらの分析結果の表やグラフ、図や表などは全てエキスポート可能なので、そのままLCAの報告書に利用できます。

simapro1

また、製造プロセスに改善を加えた時のその後の影響の変化なども、元データの変数を一部変更するだけで簡単に比較、分析できます。複数のモデルを同時に検証することもできます。

simapro2

さらに、搭載している影響評価手法や、データベースは、海外のものも含め豊富な品揃えです。

欧州環境フットプリント(PEF、OEF)に対応した影響評価手法が新たに搭載されるなど、更新も続いています。

SimaProは有料ソフトウェア

価格に関しては、商用か教育用か、さらにライセンスの期間やオプションサービスの有無、使用するデータベースのバージョンなどによって細かく変動します。

詳しくは日本版ウェブサイトを参照してみましょう。

MiLCA

排出原単位データベースやソフトウェアの「MiLCA」

MiLCAは産業環境管理協会が開発した、日本のライフサイクルアセスメント(LCA)支援ソフトウェアです。

直感的な操作感

MiLCAでは、マウスによる直感的な操作によって、サブシステム(四角)と製品(丸)と呼ばれる図形をつなぎ合わせながらライフサイクルフロー図を描き、製品システムをモデル化していきます。

それぞれの図形に対して、原料、エネルギー、資源、廃棄物の流量や輸送の情報を入出力として加えれば、あとは計算ボタンを押すだけでインベントリ分析結果が表示されます。

結果はテキスト形式でエクスポートしたり、Excelにコピー&ペーストすることもできます。

MiLCA

一般的な特性化モデルに加え、統合評価手法として日本版被害算定型影響評価手法(LIME2)が搭載されており、特性化、被害評価、統合化の結果は数値だけでなくグラフでも表示されます。

さらには、複数の製品やプロセス(ケーススタディ)を環境負荷と経済性の両面で比較評価し、分析結果をエコマップと呼ばれる分析図で見える化することも可能です。

その他にも、社内のBOM(BillofMaterials)データが一括登録できるインポート機能、自社の機密情報を隠しながら自社提供素材、部材、部品に関するLCAデータ提供をする機能、LCA報告書作成支援機能等も備えています。

なお、MiLCAもIDEAのデータを搭載しています。

自社の目的に合わせたデータベース・ソフトウェアの選定を

自社の目的に合わせたデータベース・ソフトウェアの選定を

ここまでLCA(ライフサイクルアセスメント)Scope1,2,3算定に使用する排出原単位、そのデータベース・ソフトウェア等について解説してきました。

繰り返しになりますが、重要なことは自社の算定目的を事前に明確化し、その目的に合わせてデータベースやソフトウェアを選定することです。

しかし、その検討の中で専門的な知見や経験が必要となる場面が多いのも実情です。

また、実際に国際規格に則った算定を行う際も、料理のレシピの「適量」のようなものが多く存在するため、実施者のレベルによって結果が大きく異なってしまう側面があります。

そのため、せっかく企業として環境負荷低減に向けた取り組みを行ったにもかかわらず、場合によっては外部から指摘にあってしまうようなリスクをはらんでいるのです。

本記事を参考に、より最適なデータベース・ソフトウェアを採用していきましょう。

株式会社ゼロックでは、LCA(ライフサイクルアセスメント)Scope3算定からSBT認定脱炭素経営支援までワンストップでご提供可能です。

排出源単位のデータベースやソフトウェアに関してお悩みの方は、当社までお気軽にお問い合わせください。

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