松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
Scope3とは
Scope3とは、企業がサプライチェーンにおける温室効果ガス排出量を算定する際の、事業活動に関連した間接的な責任範囲のことを指します。
サプライチェーン排出量はScope1+Scope2+Scope3の計算式で表すことができ、Scope3は、Scope1とScope2以外の間接排出と言い換えることもできます。
Scope1は燃料の燃焼や工業プロセスに伴い事業者自らが排出した温室効果ガスであり、Scope2は電力会社などの他社から共有された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出です。
企業が温室効果ガス排出量を算定しようと思ったとき、Scope1とScope2がイメージしやすいですが、事業活動を行う上では、原材料調達から製造、物流、販売、廃棄・リサイクルといったサプライチェーン全体を考慮することが重要であり、Scope3も欠かせない概念となります。
むしろ、自社内の排出よりも、上流・下流での排出量の方が多いことが大半となっています。
関連記事:Scope3(スコープ3)とは?概要や算定方法を分かりやすく解説
Scope3のカテゴリー分類
カテゴリー | 項目 | 内容例 |
---|---|---|
1 | 購入した製品・サービス | 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達 |
2 | 資本財 | 生産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上) |
3 | Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー活動 | 調達している燃料の上流工程(採掘、精製等)調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等) |
4 | 輸送、配送(上流) | 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主) |
5 | 事業から出る廃棄物 | 廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での輸送(※1)、処理 |
6 | 出張 | 従業員の出張 |
7 | 雇用者の通勤 | 従業員の通勤 |
8 | リース資産(上流) | 自社が賃借しているリース資産の稼働(算定・報告・公表制度では、Scope1,2 に計上するため、該当なしのケースが大半) |
9 | 輸送、配送(下流) | 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売 |
10 | 販売した製品の加工 | 事業者による中間製品の加工 |
11 | 販売した製品の使用 | 使用者による製品の使用 |
12 | 販売した製品の廃棄 | 使用者による製品の廃棄時の輸送、処理 |
13 | リース資産(下流) | 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働 |
14 | フランチャイズ | 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2 に該当する活動 |
15 | 投資 | 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用 |
「Scope3はScope1とScope2以外の間接排出だ」と先述しましたが、実際に算定する際にどこまで算定すればよいのか困ってしまうかもしれません。
そこで、GHGプロトコルでは、Scope3の算定範囲を15のカテゴリーに分類しており、このすべてのカテゴリーを算定できれば、Scope3の温室効果ガス排出量を見える化できることになります。
なお、環境省・経済産業省の基本ガイドラインでは、従業員や消費者の日常生活を指す「その他」という独自カテゴリーもあります。
関連記事:GHGプロトコルとは?排出量算定はGHG削減の第一歩
Scope3-カテゴリー7とは
Scope3-カテゴリー7は、「従業員の通勤」です。
- 自動車
- 電車
- 地下鉄
- 飛行機
- 自転車
- 徒歩
また、コロナをきっかけに急増したリモートワークから生じる排出量を算定に含めてもよいとされています。
Scope3の算定方法
Scope3組織的範囲の設定
Scope算定をする際は、出資比率基準、財務支配力基準、経営支配力基準のいずれかを用いて、算定対象となる組織単位を特定します。
そして、まず親会社で基準を決定し、それを全ての組織レベルに適用します。
項目 | 内容 |
---|---|
出資比率基準 | 出資比率に応じて算定します。出資比率は所有権の割合を表しているため、そこで得られる利益と生じるリスクを反映させようという趣旨です。 |
財務支配力基準 | 事業の財務方針および経営方針を決定する力を持つ場合、算定の対象とします。例えば、事業が財務諸表上で完全に連結されている場合には、GHG排出量算定の目的上もその事業者はその事業に対して財務支配力を持っていることになります。議決権の影響が勘案されるため、出資比率が50%未満の場合でも財務支配力を有する場合があります。 |
経営支配力基準 | 経営支配力基準とは、事業者が自らの経営方針を導入して実施する権限を有している事業の排出量100%について報告責任を持ちます。ただ、経営支配力を持つということは、その事業に関して必ずしもすべての意思決定の権限を持っていなければならないということではありません。例えば大きな投資は議決権をもつ全出資者の承認が必要という場合にも経営支配力基準を満たしていることはあります。 |
Scope3基準年の設定
次に、いつからいつまでの温室効果ガス排出量を基準とするかを決める必要があります。
多くの企業はある事業年度単年としますが、数年間の平均値を選択することも可能です。
GHGプロトコルでは、信頼性の高いデータを入手できる年の中で最も過去の年を基準年として選択すべ
きとしています。
正確なデータの定義は難しいですが、1990年のような昔の年度を基準年とすると、信頼性が高く、検証が可能なデータを入手することは困難とされています。
Scope3再計算
算定結果に大きな影響を及ぼすような構造的変化が生じた場合は、基準年排出量の再計算を実施する必要があります。
- 合併、買収、及び事業からの撤退
- 基準年の排出データに重大な影響を及ぼす結果となる計算手法の変更や、排出係数/活動データの正確性の向上
- 重大な不整合や、重大な影響を及ぼすことにな算定不備の発見
温室効果ガスの算定結果は基準年と比較したりしながら方針策定をすることが重要であり、上記のような変化があった際は遡及的に再計算しないと、検証に一貫性がなくなってしまいます。
重要なことは一貫性や整合性であるため、仮に合併があったとしても全体に及ぼす影響が少ない場合は、再計算をしなくてもさほど問題ありません。
具体的に「どの程度が重大であるか」についてはGHGプロトコルで明記されていないものの、カリフォルニア・クライメイト・アクション・レジストリでは、排出量変化10%を重大性の基準としています。
Scope3-カテゴリー7の算定方法
温室効果ガス排出量は、「活動量×排出原単位」で算定することができ、これが基本式となります。
「活動量」は事業者の活動の規模に関する量のことであり、電気の使用量や貨物の輸送量等がこれにあたります。「排出原単位」は活動量あたりの排出量を指します。
算定は下記のいずれかひとつを選択し行います。
手法 | 内容 |
---|---|
燃料ベース手法 | 通勤で消費した燃料量に適切な排出原単位を乗じる |
距離ベース手法 | 通勤の移動距離とその移動方法のデータを従業員から収集し、その方法に応じて適切な排出原単位を乗じる |
消費ベース手法 | 通勤における移動手段別の国内平均データに基づいた通勤の排出量推計を行う |
一方、特に従業員数が多い企業では、各従業員から燃料量や移動距離/移動方法の細かい情報を収集し、算定するのは難しい場合もあります。
そこで、通勤による排出量が、スクリーニング算定により、事業全体に及ぼす影響が大きくないと判断される場合には、平均データ手法を用いるのもよいでしょう。
平均データ手法の場合、下記の活動量データを収集します。
- 従業員数
- 平均的従業員の 1 日当たりの平均移動距離
- 従業員が使用する通勤方法の平均的内訳
- 年間の平均勤務日数
この活動量に各通勤方法の排出原単位を乗じて算定します。
この排出原単位は、通常、乗客移動距離kmあたりの排出量として表現されています。
Scope3-カテゴリー7における企業事例
株式会社クックパッド
温室効果ガス排出量削減策として策定したものではないかもしれませんが、株式会社クックパッドは会社から2km圏内に居住する社員に対して、毎月3万円の住宅補助が支給しています。
また、指定の対象エリアに引っ越す場合に、50万円の近距離奨励金も別途支給されます。
住宅手当を廃止する企業が増えていますが、今後は企業のScope3削減方法の1つとして、近距離手当が支給されることも増えるかもしれません。
通勤時間の長さは従業員のストレス状況にも大きく影響するものの1つです。
環境負荷を減らしながら、従業員の幸福度を高める有効な施策になるでしょう。
Scope3算定から企業の環境負荷低減を始めよう!
ここまでScope3のうち、カテゴリー7について解説してきました。
企業がサプライチェーン排出量削減を検討する場合、まず現状を正しく把握することがスタートになります。
ただ、その「正しく」算定することが難しい分野で、算定者によって解釈が異なる部分も多くあり、それに伴って算定結果が数倍変わってくることもよくあります。
株式会社ゼロックでは、専門的知見を基に、Scope3算定はもちろん、LCAや企業のカーボンニュートラル化支援まで幅広く対応可能です。
興味がある企業の方はぜひお問い合わせください。