松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
需要が増えるライフサイクルアセスメント(LCA)
いま、カーボンニュートラルやSDGsの広がりを背景に、ライフサイクルアセスメント(LCA)の算定需要が高まっています。
環境負荷を低減するためには、まずは現状を把握することが第一歩。
現状を把握するためには、適切な算定方法に則ることが大切です。
LCAは、製品やサービスを原材料生産、輸送、素材製造、組み立て、使用・修理、解体、焼却・埋め立て・リサイクルといったライフサイクル全体で環境負荷を評価する手法です。
一方、LCAを実際に行うには専門的知識が必要とされ、LCAを国際基準で行うことができる人は日本国内でもまだまだ少ないのが現状です。
そのため、LCAがどのように算定されるのか、依頼者はどのようなことを行う必要があるのか等のイメージを掴めず、会社内での検討が進まない1つの要因になっています。
そこで、この記事では「おにぎり」のLCA算定例を参考に、LCA実務について紹介していきます。
検討対象が食品以外であっても考え方は同じです。
これから、自社でも環境負荷低減に向けた取り組みを検討したいという企業の方はぜひご覧ください。
関連記事:LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?わかりやすく解説します
ライフサイクルアセスメント(LCA)算定の流れ
それでは、ライフサイクルアセスメント(LCA)がどのような流れで行われるか、その手順について大まかに見ていきましょう。
この手順は国際規格であるISO14044に規定されています。
なお、製品・サービスのLCAにおいて、下記手順は1度回せばOKというものではなく、相互に何度も往復するイメージで行われます。
そして、最終的に報告書の提出とレビューが求められます。
(1)目的・調査範囲の設定
LCAを行うに際しては、自社内で目的を明確化することが非常に重要です。
なぜなら、その目的によって工数やアウトプット、データベースのレベル感が変わるため、引いては算定にかかる費用もそれに応じて変わってきます。
例えば、カーボンフットプリントの取得が目的であれば、積み上げ型のデータベース(IDEA等)を利用することが望ましいとされています。
裏を返せば、目的が明確化されていない状況では、仕様を決定することができません。
そのため、「とりあえず世間的に環境負荷対策をした方がよさそうだけど、どのように事業に活かしたらよいかわからない」という場合は専門家とともに方針策定から始めるとよいでしょう。
国際規格ISOでは、用途、実施理由、伝える相手、比較主張を行うかどうかを明記することとなっています。
(2)インベントリ分析
インベントリ分析とは、対象製品について様々なデータを収集し、環境負荷項目に関する入出力明細一覧を作成し、算定をすることです。
ライフサイクルフロー図の作成
「ライフサイクルフロー図」は、製品の製造から輸送・販売・使用・廃棄・リサイクルといった全ライフサイクルの流れを図にしたものです。
自社事業の流れの図解ですので、依頼者にて作成可能ですが、実際に算定してもらう専門家にライフサイクルフロー図作成のサポートを依頼することもできることが多いです。
ライフサイクルフロー図は、主に「プロセス」と「そのプロセスからの生産物」で構成されます。
データの収集
ライフサイクルフロー図を作成したら、それぞれ投入される資源、それによって排出される物質、廃棄物のデータを収集します。
基本的に自社でライフサイクル全てのデータを集めることは不可能であるため、日本平均値など、代替性を持つ「2次データ」を利用するケースが多いです。
データの収集方法は、プロセスごとに原料やエネルギー、環境負荷物質のインプット・アウトプットを調べていく「積み上げ法」と、原材料や製品の価格を集計して、産業連関表を用いて推計する「産業連関法」があります。
積み上げ法は1つ1つのプロセスについて検討するため、精度の高い分析が可能になりますが、その分の費用がかかります。
産業連関法は、全産業がおよそ400の部門に分類されており、比較的手間は少ないものの、詳細の品目ごとの評価は難しく、積み上げ法との算定結果と倍ほど変わることはよくあります。
データの集計
データを作成したら、各プロセスのフローに従い、インプットとアウトプットのデータを各工程のアウトプットが次のインプットとなるように計算します。
そして、各プロセスのデータを合算し、対象とした環境負荷項目についてライフサイクルデータを作成します。
(3)影響評価
ここでやっと環境影響の評価に入ります。
具体的には、「活動量×排出原単位」の計算式で算定を行います。
活動量は、先ほどインベントリ分析で作成したデータを、排出原単位は既存データベースを利用します。
地球温暖化に寄与する物質がCO2だけでないように、特定の影響領域(地球温暖化、オゾン層破壊、酸性化等)に寄与する物質は1種類だけではありません。
よって、対象とする影響領域ごとにおける、物質ごとの影響評価を合算する必要があります。
なお、現在は企業がLCAを行おうとするとき、地球温暖化を影響領域とする場合が多いです。
関連記事:排出原単位(排出係数)とは?概要からデータベースの種類まで解説
(4)解釈
解釈とは、インベントリ分析と影響評価の結果を基に、妥当性やデータの精度をチェックするとともに、その結果から何がわかったのか、どのようなことが事業に反映できるのか等を検討します。
LCA算定はあくまで現状の把握でしかないため、それを基に「どうするのか」、「どうやってやるのか」が重要であり、難しいところです。
先述の通り、(1)~(4)の手順は繰り返し行い、目的を決めなおしたり、算定方法を再検討しながら、自社にあった環境負荷低減の方針策定に近づけていきます。
おにぎりのライフサイクルアセスメント(LCA)算定例
それでは、簡単にわかりやすく「コンビニのおにぎり(梅)」を例に、LCAのイメージを掴んでみましょう。
なお今回、数値については、おにぎり(梅干し)1個の「生産」に係わる負荷のみ記載しています。
LCAインベントリ分析
製造段階でのデータのインプット/アウトプットは上図の通りです。
お気づきかもしれませんが、原材料・エネルギー等が「量」で記載されていますので、積み上げ法でのデータとなります。
米120g、海苔2g、梅干し5g、塩0.5g、包装材1.5g、電力0.01kWhを投入して、おにぎり(梅)が1個製造していることがわかります。
LCA影響評価
先程の投入データ量が「活動量」となり、これに「排出原単位」を乗じることでそれぞれの影響領域における環境負荷を評価します。
積み上げ式の排出原単位データベースの代表例である「IDEA」を用いていますが、排出原単位の値を利用するにはライセンスが必要となるため、ここでは黒塗りしています。
同じような算定を各フローで行うと、下図グラフのように、どの段階でどのくらいの環境負荷が生じているかを見える化できます。
LCA算定結果と解釈
今回の算定結果から、次のようなことが考えられそうです。
- 原材料(米を除く)の調達と店舗の販売における負荷が大きい
- 運用上の課題として、コンビニエンスストアは新商品が多い業態であり、ある程度パターン化できる工程については共通数値にて管理していく必要がある
- 算定上の課題として、各工程における輸送段階においては、混載便がほとんどであり、原材料単体やおにぎり単体での算出は難しくなってるため、今後は算定が現状よりしやすくなるような管理手法を検討する必要がある
これらを基に、生産工場や販売するお店に太陽光を設置して電力の排出原単位の値を低減させたり、生産フローを見直す等、LCAをおこなうことで、何をすれば効率的におにぎりの環境負荷が減らせるかの検討が初めてできるのです。
ライフサイクルアセスメント(LCA)を通じて環境負荷見える化
ここまでライフサイクルアセスメント(LCA)の流れや算定例について解説していきましたが、イメージは掴めましたか?
現在世の中で求められている環境負荷低減を実践するためには、まずなによりも現状の把握が欠かせません。
そしてLCAは、環境影響を定量的に評価できる優れた手法です。
LCAによる見える化により、脱炭素の第一歩を踏み出すことができるのです。
そして、今までお話しした通りLCAには高度な専門性が必要なため、当記事を参考にしていたきながら専門家への依頼を検討してみましょう。
株式会社ゼロックでは、LCAやScope3算定から、環境ラベルの取得、SBTの設定まで幅広く企業の脱炭素経営支援を行っています。
具体的に取り組みたいことが決まっている方はもちろん、企業としてSDGsや環境に対して取り組みたいけど何をしたらよいかわからない、という方までお気軽にお問い合わせください。