【2023年】省エネ法はなぜ改正した?ポイントを解説

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松井大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

目次

省エネ法はなぜ改正した?ポイント解説のイメージ

省エネ法は、改正に改正を重ねていくため、現時点でどの内容を知っておけばいいのか不安な方も多いのではないでしょうか。

このコラムでは、2022年の5月に国会で可決・成立し、2023年度から施行が予定される改正省エネ法を2023年現在の視点から解説していきます。

省エネ法とは

省エネ法とはエネルギーの合理化を目指す法律

エネルギーの「合理化」を目指す

省エネ法とは「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」を意味します。

現在、会話などにおいて省エネ法という名称が利用されていますが、正式名称が示す通り「合理化」という側面が強い法律です。

また、その手段として用いているのは、基本的に「規制」です。

この法律に基づいて、事業者には様々な制約がかけられています。

きっかけは石油危機

そもそも、私たちの生活やそれを生み出す産業にはエネルギーの利用がかかせませんが、日本には化石燃料がほとんどありません。

そのため、多くは輸入に頼ることになり、特に日本の産業は石油に依存していました。

そこに、中東の戦争を契機とした石油危機(1973年~)が発生します。

この石油危機により、数か月で原油価格がなんと4倍にもなりました

日本の産業は石油に依存していたため、経済的や国民の生活に大きなダメージが与えられました。

省エネ法の制定

そこで、エネルギーをいかに効率化して利用するか、海外の動向のリスクを低減するか、国としての取り組みが必要になりました。

「内外におけるエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応じた燃料資源の有効な利用の確保に資するため、工場等、輸送、建築物及び機械器具等についてのエネルギーの使用の合理化に関する所要の措置、電気の需要の平準化に関する所要の措置その他エネルギーの使用の合理化等を総合的に進めるために必要な措置を講ずることとし、もって国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的としています。

経済産業省 資源エネルギー庁 省エネ法の概要より

1979年当時の内容においては、主に以下の2点が定められました。

  • エネルギー(熱・電気)管理指定工場の指定
  • 住宅・建物分野、機械器具分野の判断基準制定

現在制定当時の内容を振り返る必要はありませんが、省エネをしっかり進めようとする動きが国として開始されます。

改正を繰り返しながら「省エネ」先進国へ

改正を繰り返す省エネ法

省エネ法のポイントは、どんどんと改正が加えられていることかもしれません。

  • 1979年
  • 1983年改正
  • 1993年改正
  • 1998年改正
  • 2002年改正
  • 2005年改正
  • 2008年改正
  • 2013年改正
  • 2018年改正
  • 2022年改正

1973年に制定されてから、直近の2022年改正までに9回改正が行われてきました。

また、建築物に関する規定は2017年より建築物省エネ法に移行しています。

省エネ法の最近の大きなポイントは、2011年の東日本大震災をもとにした電力のコントロールの観点でしょう。

省エネ法では、2013年の改正で「電気の需要の平準化」というキーワードが盛り込まれるようになりました。

このように、その時々の情勢に合わせて、省エネ法は改正を加えられています。

そして、エネルギー資源に乏しい日本だからこそ、その内容は世界的にみても厳しく、現在では省エネ先進国へとなっているのです。

温対法と省エネ法の違い

温対法と省エネ法の違い

省エネ法について調べている方なら「温対法」との違いが気になる人もいるかもしれません。

以下に、簡単ですが目的や内容の違いをご紹介しておきます。

項目温対法省エネ法
正式名称地球温暖化対策推進法エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律
目的地球温暖化や環境への悪影響を減らすことエネルギー節約、無駄使いを減らし効率化
内容脱炭素、温室効果ガスの削減や再生可能エネルギーの促進、持続可能な社会の構築に関する方針や目標を策定し、実行するための法律エネルギー効率の向上やエネルギーの無駄遣いを防ぐための基準や規制を設ける法律。具体的な省エネ策を推進。
温対法と省エネ法を比較

現在の省エネ法のポイント

向上の省エネ推進のイメージ

まずは、2022年改正前の省エネ法がどのようになっていたかを確認しましょう。

現行の省エネ法においても、引き継がれている内容は多くあります。

対象エネルギー:燃料・熱・電気

エネルギー種対象例対象外例
燃料・原油及びガソリン
・可燃性天然ガス
・石炭及びコークス
・バイオ由来燃料
・蒸気・温水
・太陽熱
・地熱
電気・石炭火力発電を含む電気
・太陽光発電
・廃棄物発電
経済産業省「省エネ法におけるエネルギー」を基に改編

省エネ法が対象としていたエネルギーは、燃料・熱・電気の3つです。

ポイントは、もともと省エネ法において、非化石エネルギーは対象となっていたことです。

もちろん、非化石エネルギーのみを利用することで、化石燃料由来のエネルギーを削減できる場合には、その削減は把握されます。

省エネ法 エネルギー使用者への直接規制

省エネ法 エネルギー使用者への直接規制
経済産業省「省エネ法が規制する分野」より

省エネ法は、「直接規制」と「間接規制」に分けられています。

ここでいう「直接」をサプライチェーン排出量におけるスコープ1~3と関連付けると、

  • スコープ1
  • スコープ2
  • 自社が荷主になるスコープ3

にあたります。

荷主となるケースを入れているのは面白いですね。

関連記事:Scope3(スコープ3)とは?概要や算定方法を分かりやすく解説

工場や運輸部門はエネルギーを大量に消費するため、多くの制約がかけられています。

  • エネルギー消費原単位を年平均1%以上改善することが「努力目標」
  • エネルギー使用量が原油換算で年1500kl/年以上の事業者は、使用状況などを定期報告しなければならない
  • 評価が低い事業者には、国による指導や立入検査

なお、多くの日本企業はしっかりこの規制を守っています。

クラス事業者数割合
S6,434 者56.6 %
A3,719 者32.7 %
B1,217 者10.7 %
C4者0.04 %
2019年度事業者クラス分け評価制度の結果 (経済産業省)を改編

工場等規制においては、事業者クラス分け評価制度(S~C4段階)を実施しています。

2019年報告(2014~2018年度実績)の結果を見ると、何かしらの対応が要とされるBクラス、Cクラスの事業者は合計1221者(約10%)でした。

一方、多くの事業者がSクラスとなっています。Sクラスは省エネ補助金の大企業申請要件ともされており、ここ数年はずっと50%以上の事業者がSクラスです。(ただし近年は割合が低くなっています)

これが、日本が省エネ先進国と言われるゆえんです。

省エネ法 使用者への間接規制

省エネ法 使用者への間接規制
経済産業省「省エネ法が規制する分野」より

続いて、使用者への間接規制についてです。

主に2つの内容に分かれています。

  • トップランナー制度
  • 一般消費者に対する省エネ情報提供

詳しい説明は割愛しますが、どちらも共通することは、「消費者が使う電力などをいかに削減するか」という部分です。

事業者が直接利用するエネルギーではないため「間接」という言葉が利用されているのですね。

同様にサプライチェーン排出量と揃えると、スコープ3の消費者の使用部分にあたります。

省エネコミュニケーション・ランキング制度

省エネコミュニケーション・ランキング制度のイメージ

一般消費者への情報提供において、直近では、2022年4年4月から、省エネコミュニケーション・ランキング制度の運用が開始されました。

面白いのは、省エネのランキングではなく、省エネ「コミュニケーション」のランキング制度であることとです。

電力会社・ガス会社などの、エネルギー小売事業者を対象にしたランキング制度ですが、このような情報開示のルールがさらに様々な業種にも求められるようになるかもしれません。

2022年改正の背景

省エネ法2022年改正のイメージ

省エネ法は、その時々の出来事や社会情勢に合わせて改正がされていきました。

それでは、2022年の改正はどのような経緯だったのか。

いくつかの背景を確認してみます。

2050年カーボンニュートラル目標

2050年カーボンニュートラル目標

最も大きい改正の背景は、今話題のカーボンニュートラルです。

世界的な潮流を踏まえ、日本でも2050年カーボンニュートラル目標が掲げられました(2020年)。

エネルギーと温室効果ガスは切っても切れない関係のため、省エネ法でもカーボンニュートラルへの道筋と合致するルール作りが求められることになりました。

これにより、今までの「省エネ」の観点だけではなく、再生可能エネルギーによる「創エネ」の観点が重要となります。

エネルギー需給構造の変化

エネルギー需給構造の変化
今後の省エネ法について(資源エネルギー庁)より

続いて、ここ数年でエネルギーの需給構造が変化したことが背景として挙げられます。

  1. 太陽光等変動再エネの増加による供給構造の変化
  2. AI・IoTなどのデジタル化進展による技術の変化
  3. 電力自由化などによる制度の変化

たとえば、住宅用の太陽光発電システムは、ここ10年で普及率は2倍以上になっており、今後も伸びが想定されています。

住宅用太陽光発電
普及率
20062.4 %
20124.1 %
20157.0 %
20187.5 %
20219.2 %
住宅用太陽光発電システム設置状況アンケート結果(マイボイスコム株式会社)より

エネルギー関係束ね法が成立

エネルギー関係束ね法について
電気新聞デジタル記事を改編

以上の背景を踏まえて、省エネ法を含めた「エネルギーに関係するルール」をまとめて改正しようとする動きになりました。

  1. エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)
  2. エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(高度化法)
  3. 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(JOGMEC法)
  4. 鉱業法
  5. 電気事業法

そして2022年5月、エネルギー関係束ね法が成立しました。

閣議決定された内容は、経済産業省のページで確認することができます。

正式名称は「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案」ですので、改正内容としては、省エネ法がメインといえるでしょう。

新しい省エネ法はこうなった

省エネ法改正のポイントイメージ

さて、新しい省エネ法はどうなるのか、経済産業省が2021年末に公表している「今後の省エネ法について」を基に説明していきます。

主な観点は、3つあります。

「非化石エネルギー」を含むすべてのエネルギーを対象

もともと日本のエネルギーは、ほとんど海外からの化石燃料の輸入に頼っていました。

それがオイルショックを契機にリスクが表面化し、「化石燃料由来のエネルギーの合理化」を目的とした省エネ法が生まれました。

結果、太陽光発電やバイオマス発電などといった非化石エネルギーは省エネ法の対象外となっています。

一方、最近は非化石エネルギーの割合を増やす動きが高まっています。

そのためには、例えば水素を海外から輸入する必要があり、今まで「一次エネルギー」とされていたエネルギー以外も調達リスクにさらされる危険性があります。

そこで、合理化の対象を「非化石エネルギーも含めたすべてのエネルギー」へと範囲の定義をしなおす必要があります。

非化石エネルギーへの転換をする必要がでる

非化石エネルギーへの転換を図解

カーボンニュートラル達成を考えたときには、エネルギー使用量を下げることだけではなく、エネルギー使用のうち化石エネルギーの割合を下げることが求められます。

今までは、RE100SBTなど企業の自主的な努力にゆだねられていますが、これを法として指定しようというのが、今回の省エネ法における大きな方向転換です。

今までは上図における①の部分がより注目されていましたが、今後は②非化石エネルギーの拡大についても目標が定められる予定です。

具体的な方策としては、現状の省エネに関することとある程度近い内容です。

  1. 非化石エネルギーの利用率の向上
  2. 製造プロセスの電化、水素化等
  3. 購入エネルギーの非化石化
  4. 特定事業者は上記の計画書・定期報告書を提出

4により手間が増えることはもちろんですが、1~3の理解をする必要があることがポイントかと思います。

実際の目標設定においては、SBT等とは異なり「事業の現実性」は意識されることになると思います。

どの企業においても達成不可能な目標等はおかれず、事業ごとの特殊性やクレジットの利用などを考慮しながら、あくまで脱炭素取組の相対的な企業間比較に収まると思われます。

事業者ごとに目標を設定します

電気の原単位(排出係数)が時間ごとに変わる

電気の原単位(排出係数)が時間ごとに変わるイメージ

ここはとても面白い内容です。

今の電力の原単位(排出係数)は、時間ごとに変わることはありません。

しかし、実際に系統(電線)を流れる電力は、その時間に応じて原単位は異なるはずです。

上の図を見ていただくとわかりやすいですが、例えば太陽光発電がたくさん発電している昼間においては、再エネの割合が多くなり、石炭による火力発電の割合は低くなります。

一方、日が陰り、けれど皆が電力をたくさん使う夜間においては、再エネの割合が減り火力発電の割合が増えるでしょう。

項目
再エネ多い少ない
火力少ない多い
原単位低い高い

再生可能エネルギーは、どうしても時間や場所に依存してしまうため、「ベース電源」や「調整電源」になることができません。

そこで、電気の需給バランスに応じて、排出係数を調整することで、電力の需給バランスの標準化を狙おうというものです。

要は、「電気が余っている時間に使った電気は、環境負荷がゼロ」のような仕組みが出来上がる予定です。

ただ、ここについては、このような環境負荷を定量する枠組みであるLCAの中でも「Consequential(帰結的)なLCA」と呼ばれる部分に近い話だと思われます。

専門家による深い議論がまだまだ必要でしょう。

2023年4月より施行

以上、省エネ法の頭から最新の改正内容までをまとめました。

特に、脱炭素・カーボンニュートラルの枠組みにおける改正内容がふんだんに盛り込まれているため、企業自体の構造改革(GX:Green Transformation)が必要になる企業も多いかもしれません。

2023年の4月から施行されている(定期報告は2024年度報告開始)ため、関係者の方々は早めに不安点を解消しておきましょう。

省エネ法についてわからない部分があれば、ぜひお問合せください

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