
松井 大輔
(監修者経歴)
東京大学 醍醐研究室卒業、株式会社ゼロック 代表取締役、東京大学 先端学際工学専攻 博士課程、EPD検証員、省庁事業や上場企業のLCA関連コンサルティング業務等幅広く対応
要約
- Googleより公開された「Gemini」の環境負荷は、1プロンプトあたり、電力消費量0.24Wh、CO₂排出量0.03g、水消費量0.26mLであり、公開されてきた理論推計値より1桁以上低かった。
- 効率改善が急速に進んでおり、1年間で Gemini のGHG排出量は急激に削減され、約1/44に減少した。
- AIの環境フットプリント算定では、GPUなどアクセラレータの電力量だけではなく、CPU・待機サーバー・データセンター冷却・電力変換ロスといったフルスタックのエネルギー構造を含めるべきである。
ビジネスでも利用が広がる生成AIツールと環境影響
生成AIの急速な普及により、AIは専門家だけのツールから、誰もが日常的に使うインフラへと変わりつつあります。その中心にある大規模言語モデル(LLM)は、検索、文章作成、プログラミング支援など、多様な業務を代替・補完し始めています。これまで生成AIにおける環境負荷の議論するにあたり、その焦点は巨大なモデルを育てる段階、いわゆる学習プロセスに集中していました。しかし、膨大なユーザーが毎日AIへ質問し、文章を生成するようになったことで、今では「AIを使う瞬間の処理(=生成)」にスポットが当たっています。
こうした状況を受け、1回のAI利用あたりにどれだけ電力を使い、どれだけ温室効果ガスや水資源の負荷が生じるのかを定量化しようとする試みが世界各地で始まっています。当初は、チップ性能やモデル規模を前提にした机上の概算が中心でしたが、最近ではベンチマーク環境で実測を行う取り組みも登場し、透明性向上に向けた第一歩が踏み出されました。ただし、その多くは研究室レベルの実験条件であり、実際の商用サービスの運用実態を反映しているとは言い難いのが現状です。
さらに大きな課題となっているのが、「どこまでをAI推論のエネルギーとして数えるのか」という算定範囲です。GPUの消費電力だけを見るケースもあれば、CPU・メモリ、ピーク対応のための待機サーバー、さらにはデータセンターの冷却や電源ロスまで含めるアプローチもあります。この“算定境界”が統一されていないため、似たようなタスクでも研究ごとに算定値が数倍から一桁以上異なる例も報告されています。生成AIが社会インフラとして定着していく中で、モデルやサービスを公平に比較できる共通の物差しを整えることが課題となっています。
Googleが業界初、「Gemini」の環境負荷を開示
こうした中、Googleが自社の生成AIサービスである「Gemini Apps」を対象に、実際のユーザー利用データにもとづいて、AI利用時時のエネルギー消費・温室効果ガス排出・水使用量を詳細に分析しました。特徴的なのは、単にGPUの電力量だけを見るのではなく、CPUやメモリ、ピーク対応のために待機しているサーバー群、さらにデータセンターの冷却や電力変換ロスまで含め、「AIが動くときに、裏側で実際にどれだけインフラが動いているか」を丸ごと算定した試みです。
その結果、Gemini Apps におけるテキストプロンプト1件あたりの電力消費量(中央値)は 0.24Wh という数字が示されました。これは、これまで外部から推計されてきた値(おおよそ1〜6Wh)に比べてかなり小さい水準です。その背景には、モデル側と推論方式の両面での効率化があります。たとえば、必要な計算だけを選択的に動かす Mixture-of-Experts、軽量なモデルで下書きを行い大きなモデルで確認する Speculative Decoding、過去の計算結果を再利用する KV キャッシュといった工夫により、同じ品質の回答を、より少ない計算量で実現できるようになっています。
さらにGoogleは、モデルやソフトウェアの改善だけでなく、データセンターのPUEを1.09まで高める取り組みや、再生可能エネルギーの調達拡大も同時に進めています。その結果、同じようなユーザーリクエストに応答する場合でも、1年前と比べて1プロンプトあたりのCO2排出量は約1/44まで低くなったと報告されています。

上図は、代表的な大規模言語モデル(LLM)を、性能と電力消費量の両面から比較したマップです。縦軸はモデルの回答品質を示すスコア、横軸は「1kWhあたりに処理できるプロンプト数」を示しており、右に位置するほど少ない電力で多くの応答が処理できる、つまり電力効率の高いモデルであることを意味しています。
図を見ると、GoogleのGeminiが右側に大きく伸びていることがわかります。これは、他のモデルに比べて同じ電力量でも圧倒的に多くの応答処理が可能であることを示しています。また青い帯状の表示は、計測方法の違いによって効率値が変動する範囲を表しており、従来の部分的な測定方法と、今回採用された包括的な測定方法の両方で高い効率性が確認されたことがわかります。
ビジネスのインフラになりつつあるAIにも環境負荷の視点を
ChatgptやGeminiを代表とする生成AIツールは、もはや仕事や生活に欠かせないものとなりつつありますが、これまでその環境影響を考える人は少なかったのではないでしょうか。
今回のGoogleによる開示は、「AIを使うとどれだけ環境負荷が発生するのか」を具体的な数字として示した、業界にとって重要な一歩と言えます。今後、さらに繰り返し利用されることが想定されるAIだからこそ、各企業がその環境負荷を把握し、環境負荷の低いAIツールを選定することが求められてきます。
性能や利便性に加えて「どれだけ環境に配慮したAIなのか」が選定基準に加わる未来は、そう遠くないのかもしれません。
参考文献
Google(2025)Measuring the environmental impact of delivering AI at Google Scale.












