
松井 大輔
(監修者経歴)
東京大学 醍醐研究室卒業、株式会社ゼロック 代表取締役、東京大学 先端学際工学専攻 博士課程、EPD検証員、省庁事業や上場企業のLCA関連コンサルティング業務等幅広く対応
要約
- パリ協定採択から10年、温暖化の抑制目標達成が困難に
- COP30では化石燃料の段階的廃止が提案され、議論が加速
- 気温上昇1.5度の目標達成には各国の新たな行動が求められる
COP30での化石燃料廃止提案と現状
2025年は、パリ協定採択から10年の節目の年です。世界気象機関(WMO)は、2024年が観測史上もっとも暑い年となり、産業革命前と比べて気温が約1.55℃高かったと報告しており、2015~2024年の10年間がいずれも史上最暖クラスとなっています。すでに年平均気温ベースで1.5℃に一時的に到達した年も出てきており、1.5度目標への「残り時間」が急速に縮まっていることが示されています。
その一方で、UNEPの「Emissions Gap Report 2025」によれば、各国が現在の政策だけを続けた場合の気温上昇見通しは今世紀末に最大約2.8℃、各国が提出済みのNDCを完全に履行したとしても約2.3~2.5℃に達すると試算されています。つまり、「パリ協定前の3℃超の世界」よりは改善したものの、1.5℃シナリオとはまだ大きなギャップが残っているというのが現状です。
こうした状況を踏まえ、COP30ではブラジルの環境大臣マリーナ・シルヴァ氏が、化石燃料の段階的廃止に向けた自発的ロードマップの策定を各国に呼びかけています。彼女はこの取り組みを気候危機に対する「倫理的な応答(ethical answer)」と位置づけ、義務的な一律規制ではなく、各国が自国の事情に応じてコミットメントを示す「自発的・自律的な枠組み」として議論を進めようとしています。英国・ドイツ・デンマーク・ケニア・コロンビア・フランス・マーシャル諸島など約60か国がこの構想への支持を表明している一方、産油国を中心に約40か国が慎重姿勢を崩しておらず、国際社会の利害調整が難しいことも改めて浮き彫りになっています。
パリ協定の目標と現実的な課題
パリ協定が採択された2015年当時、各国の約束だけを積み上げると、気温上昇は3℃以上に達するとの試算もありましたが、その後の追加コミットメントにより、現在の気候計画ベースの気温上昇見通しは「3℃弱」まで引き下げられたと国連は評価しています。それでもなお、1.5℃目標とのギャップは大きく、UNEPは「1.5℃に抑えるには2035年までに2019年比で世界の温室効果ガス排出量を55%削減する必要がある」と指摘しており、現状の各国計画ではとてもそこまで到達しないと警鐘を鳴らしています。
現在、100を超える国が2050年前後のネットゼロ目標を掲げており、これらの国で世界排出量の約8割を占めるとされていますが、法制化された長期戦略として位置づけられている国もあれば、政治的コミットメントにとどまる国もあり、目標の「質」にはばらつきがあります。特に、化石燃料に強く依存する産油国・新興国では、エネルギー転換と産業構造転換を同時に進める必要があるため、政治的な合意形成が難しく、COP30でも「化石燃料廃止」そのものへの強い法的拘束力のある合意には、なお慎重な見方が大勢を占めています。
こうした背景から、1.5℃目標を「事実上あきらめる」のか、「技術的には可能である」というIPCCのメッセージを信じて行動を加速するのかが、COP30以降の大きな争点になりつつあります。
企業に求められる新たな行動と対応
こうした国際的な状況を踏まえると、企業には単に自社排出量を削減するだけでなく、「どのシナリオに沿って、どの程度のスピードで削減を進めるのか」を説明することが一層求められていきます。国レベルでは、すでに約140か国がネットゼロ目標を掲げており、企業レベルでも世界の大手上場企業約2,000社のうち1,200社超がネットゼロもしくはそれに準じる長期排出削減目標を公表しているとされています。今後は、単なる宣言ではなく、LCAやカーボンフットプリント(CFP)、Scope1~3を通じて、サプライチェーン全体の排出プロファイルを定量的に把握し削減計画と整合しているかを示すことが、投資家・取引先からの信頼につながります。
同時に、EUではCBAM(炭素国境調整メカニズム)が2023年10月から移行期間に入り、2025年末まで四半期ごとの排出量報告が義務づけられています。2026年以降は輸入品に対して実際に炭素コストを負担する本格運用が始まる予定であり、鉄鋼・アルミ・セメントなどエネルギー多消費産業を中心に、LCAベースでのデータ開示や削減取り組みの「証拠」を求められる局面が増えていきます。さらに、EUDR(EU森林破壊防止規則)は2025年12月から大企業・中堅企業に適用され、牛肉・大豆・木材・パーム油など7品目について「2020年以降に森林破壊に結びついていない」ことの証明が求められる見込みです。
日本企業にとっても、これらの規制は「海外の話」ではなく、輸出やサプライチェーンを通じて直接ビジネスに跳ね返ってきます。パリ協定の目標達成が難しい現状だからこそ、①自社および主要サプライヤーのScope1~3排出量の把握、②LCA・CFPを活用した製品別の環境負荷の可視化、③CBAMやEUDRなど海外規制を見据えたデータ整備とトレーサビリティの確立といった取り組みを前倒しで進めることが、中長期的な競争力の源泉になっていくと考えられます。
参考文献
- https://wmo.int/news/media-centre/wmo-confirms-2024-warmest-year-record-about-155degc-above-pre-industrial-level
- https://climate.copernicus.eu/copernicus-second-warmest-april-globally-global-temperature-still-more-15degc-above-pre-industrial
- https://www.unep.org/news-and-stories/story/world-likely-exceed-key-global-warming-target-soon-now-what
- https://www.theccc.org.uk/publication/progress-in-adapting-to-climate-change-2025/
- https://iiasa.ac.at/news/nov-2025/new-climate-pledges-only-slightly-lower-dangerous-global-warming-projections
- https://sdg.iisd.org/news/new-ndcs-narrow-emissions-gap-but-gap-remains-large-unep-report/
- https://www.climatechangenews.com/2025/11/13/cop30-roadmap-away-fossil-fuels-support-next-step-unclear-belem-brazil/
- https://www.un.org/en/climatechange/reports
- https://www.livescience.com/planet-earth/climate-change/its-official-the-world-will-speed-past-1-5-c-climate-threshold-in-the-next-decade-un-says
- https://www.un.org/en/climatechange/net-zero-coalition
- https://climateactiontracker.org/global/cat-net-zero-target-evaluations/
- https://www.unep.org/resources/emissions-gap-report-2024
- https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism_en
- https://www.time2market.net/blog/all-you-need-to-know-about-the-eus-cbam-regulation
- https://icapcarbonaction.com/en/news/eu-adopts-simplifications-cbam-rules-ahead-compliance-phase-starting-2026
- https://trade.ec.europa.eu/access-to-markets/en/news/application-eudr-regulation-deforestation-free-products-delayed-until-december-2025
- https://www.maersk.com/news/articles/2025/10/01/european-union-deforestation-regulation
- https://www.wri.org/insights/explain-eu-deforestation-regulation












