松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
カーボンリサイクルとは?
カーボンリサイクルとは、CO2を資源ととらえて、排出したCO2を回収し、多様な炭素化合物として再利用することです。
カーボンリサイクルの概要
企業にもカーボンニュートラルが求められている中、CO2排出量自体を完全にゼロとすることは現状では無謀です。
例えば、日本の2020年度エネルギー供給は、石油が6.3%、石炭が31.0%、LNG(液化天然ガス)が39.0%と、化石燃料による火力発電が76.3%を占めています。
また、2030年には火力発電割合56%(2015年策定時)と想定しており、宣言をした2050年カーボンニュートラル時にも火力発電自体をゼロにすることは考えていないでしょう。
そもそも、カーボンニュートラルは温室効果ガス(主にはCO2)の排出量と吸収量・除去量のバランスを保った状態、「全体として」温室効果ガス排出をゼロにすることです。
再生可能エネルギーは、発電時に温室効果ガスを排出しないエネルギーですが、少なからず火力発電が必要で、そのままではカーボンニュートラルを達成できない場合、吸収量または除去量を増やすしかありません。
カーボンリサイクルは、直接的にCO2削減に繋がることはもちろん、「吸収量または除去量」を増やすためにも今後重要となる技術です。
関連記事:カーボンニュートラルとは?意味や現状をわかりやすく解説
カーボンリサイクルの利用先
一口にカーボンリサイクルといっても、何か特定の分野のものではなく、あらゆる分野に適用できる考え方であり、多種多様です。
カーボンリサイクルのコンセプト
カーボンリサイクルのコンセプトについて説明するため、前提として「CCU」を簡単に解説します。
「CCU」は「Carbon dioxide Capture, Utilization」の略で、分離・回収したCO2を利用しようというものです。
CCUは「EOR(原油増進回収技術)」という手法が一般的でした。
石油を回収する手順には、石油の自然噴出による「1次回収」、外圧を加えることで石油を汲み上げる「2次回収」、石油に物理的または化学的な変質を加えることで回収する「3次回収」があります。
このうち、EORは3次回収に該当し、簡単に言えば「石油を柔らかくして押し出すことで石油回収率を高めるもの」ですが、その方法は様々。
また、一般的にCCUはドライアイスや溶接などに直接利用する方法です。
しかし、このような方法には利用できるCO2量に上限があります。
そこで、CO2を「資源」として再利用することで、大気中のCO2量を抑制するのが「カーボンリサイクル」なのです。
なお、分離・貯留したCO2を利用しようというものをCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)といいます。
カーボンリサイクルの具体的な利用先
カーボンリサイクルの利用先としては、化学品、燃料、鉱物、その他が想定されています。
化学品
ウレタンや、プラスチックの一種でCDなどにも使われるポリカーボネートといった「含酸素化合物(酸素原子を含む化合物)」が考えられています。
また、バイオマス由来の化学品や、汎用的な物質であるオレフィン(ポリプロピレンやポリエチレンなどの樹脂の総称)も利用先となりえます。
燃料
光合成をおこなう小さな生き物「微細藻類」を使ったバイオ燃料や、バイオマス由来のバイオ燃料がCO2の利用先として考えられています。
鉱物
コンクリート製品などを製造する際に、その内部にCO2を吸収させ、「コンクリート製品」や「コンクリート構造物」に利用することが考えられています。
その他
バイオマス燃料とCCSを組み合わせる「BECCS」、海の海藻や海草がCO2を取り入れることで海域にCO2が貯留する「ブルーカーボン」などが考えられています。
これらは総称して「ネガティブ・エミッション」と呼ばれています。
カーボンリサイクルとCCSの違い
CCUは、分離・回収したCO2を利用しようというものでしたが、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は、回収したCO2を貯留する技術です。
発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入します。
なお、カーボンリサイクルを実行するにあたっては、CO2を分離・回収する技術は非常に重要です。
CO2回収プラントの実績では日本企業がトップシェアを誇っており、グローバルに活躍できる日本産業という観点でもカーボンリサイクルは日本にとって優位性がある状況です。
また、大気中からCO2を直接回収する技術(DAC)についても、日本をはじめ各国で技術開発がはじまっています。
カーボンリサイクル技術ロードマップを見てみよう
「カーボンリサイクル技術ロードマップ」は、カーボンリサイクル技術について「目標」「技術課題」「タイムフレーム」を設定し、国内外に共有するものです。
2019年6月に策定されましたが、必要に応じた改訂がなされています。
カーボンリサイクル技術ロードマップの内容を知ってしておくことで、今後カーボンリサイクルが向かう方向性や活用方法を把握し、自社ビジネスに活かすことができます。
ここでは、個別技術についての記載は避けますが、大まかに今後向かう流れを掴んでおきましょう。
なお、下記内容は2021年7月改訂の内容を反映したものです。
カーボンリサイクルの今後
カーボンリサイクル技術ロードマップでは、フェーズ1・フェーズ2・フェーズ3までの3つの区分に分けて、各フェースで実現すべき事項をまとめています。
フェーズ1(~2030年)
フェーズ1では、将来に向けたカーボンリサイクルの研究・技術開発・実証をメインとしています。
インパクトの大きい高付加価値製品の製造技術や、水素が不要な技術を重点的に行います。
また、CO2を分離・回収する技術も重要ですので、力を入れていく予定となっています。
フェーズ2(2030~2040年)
フェーズ2では、2030年に普及する技術を低コスト化します。
また、安価な水素供給を前提とした2040年以降に普及する技術のうち、需要の多い汎用品の製造技術に重点を置いていきます。
- 化学品(ポリカーボネート等):CO2削減量の更なる削減
- 燃料(バイオジェット燃料等):現状から8分の1から16分の1にコストダウン
- 鉱物、コンクリート(道路ブロック等):現状から3分の1から5分の1にコストダウン
フェース3(~2040年)
フェーズ3では、更なる低コスト化や中長期で普及を目指すものの研究・技術開発を行っていきます。
需要が大きい製品に拡大していくため、大量のCO2消費も期待できます。
また、2040年ごろから下記の製品の普及が開始する予定です。
- 化学品:汎用品(オレフィン、BTX等)
- 燃料:ガス・液体(メタン、合成燃料等)
- 鉱物:コンクリート製品(汎用品)
2021年7月改訂のポイント
カーボンリサイクル製品の普及時期
中長期に普及を目指すもの(汎用品)の普及時期を、開発の進展・加速を踏まえ、「2040年頃」に前倒しています。
より早めにカーボンリサイクルについてキャッチアップしておく必要が出てきました。
新たな技術分野
DAC(大気中からCO2を直接回収する技術)や合成燃料(CO2と水素を合成して製造されるカーボンフリーな脱炭素燃料)について、開発が進展・加速している状況を踏まえ、ロードマップ上に新たに追記しました。
国際連携
国際連携が進展している状況を踏まえ、その取組内容を追記しました(カーボンリサイクル産学官国際会議の開催、米国・豪州・UAEとの協力覚書の締結、日米気候パートナーシップの締結等)。
カーボンリサイクル本格普及に向けて企業ができること
現在はまだ研究・開発段階であるため、カーボンリサイクルに関わっている企業は少ない割合ですが、それ以外の企業でもできることはいくつかあります。
以下は企業のカーボンリサイクル取り組みの一例です。
環境負荷の見える化
本来、カーボンニュートラル実現には、そもそも石炭火力をやめることが一番です。
つまり、カーボンリサイクルは最低限必要な石炭火力に対する対応策と言えます。
そのため、基本的なスタンスは、まずは自社の事業活動において、どの段階でどのくらい温室効果ガスを排出しているのかを把握し、できる限りその排出量を減らすことから始めるべきです。
なお、算定の際は、自社単体だけではなく、原料調達から製造、物流、販売、廃棄に至る、企業の事業活動の影響範囲全体のサプライチェーン排出量について考慮することが重要です。
関連記事:Scope3(スコープ3)とは?概要や算定方法を分かりやすく解説
カーボンリサイクル由来の製品を選択
主に研究・開発の段階であるカーボンリサイクルですが、いくつか実用化されている製品もあります。
自社に取り入れられる製品がありそうなら、カーボンリサイクル由来の製品に代替するもの一考です。
例えば、コンクリートにCO2を取り込み固定化させる技術はすでに開発され、舗装ブロックに使われています。
価格が通常のコンクリートと比較して2~3倍のため、今後は低コスト化が求められますが、逆に言えば、まだ外部へのアピールという意味では先行者利益がある時期です。
他にもCO2を再利用した容器やパソコンの外装等、いくつか実用されている製品がありますので、自社に活用できないか検討してみましょう。
しかし、検討の際は、その製品を利用することで本当にCO2排出量が削減できるのかということをよく吟味することは重要です。
例えば、カーボンリサイクル製品の製造や廃棄にかかるCO2排出量が、もともと利用していた製品の排出量よりも大幅に大きい場合、CO2を再利用していたとしてもむしろ代替しないほうが良い場合もあるかもしれません。
そのような観点からも、LCA(ライフサイクルアセスメント)手法を用いて、環境負荷を算定することは重要です。
関連記事:LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?わかりやすい徹底解説
カーボンニュートラル実現に向けて、各企業が行動を!
ここまでカーボンリサイクルについて説明してきましたが、直接的に開発や研究ができる企業の割合は少ないでしょう。
まだ研究段階である部分が多いため、まずはサプライチェーン排出量を算定のうえ、削減目標設定・実践を行うほうが現実的かもしれません。
株式会社ゼロックでは、国際基準に則ったScope算定はもちろん、削減のための脱炭素経営支援までワンストップで提供可能です。
本腰を入れて、脱炭素を実践したい企業様はもちろん、何か取り組みたいけど何からしたら良いかわからないという企業様もお気軽にお問い合わせください。