
松井 大輔
(監修者経歴)
東京大学 醍醐研究室卒業、株式会社ゼロック 代表取締役、東京大学 先端学際工学専攻 博士課程、EPD検証員、省庁事業や上場企業のLCA関連コンサルティング業務等幅広く対応
企業がCO2排出量を削減する手段には、「活動量の抑制」、「排出原単位の改善」、そして「炭素除去(固定)」の3つがあります。しかし近年、これらに加えて“自社の技術が社会全体の排出削減にどれだけ貢献したか”を示す「 削減貢献量 」が、ブランド価値と事業成長を同時に高める新たな指標として注目されています。
本記事では削減貢献量について、概要から参考となるガイドライン、そして事例まで詳しく解説していきます。削減貢献量について知見が深まる内容となっていますので、企業担当の方はぜひご一読ください。
削減貢献量とは?

削減貢献量とは、CO2を含むGHG(温室効果ガス)排出削減に優れた製品の使用による、排出削減量を定量的に評価しようという考え方です。
よりわかりやすくいうと以下になります。
- この製品がなかったら、社会全体のGHG(温室効果ガス)排出量が増えていたに違いない
- この製品があるから、社会全体のGHG(温室効果ガス)排出量がこれだけに抑えられている
削減貢献量のガイドライン

削減貢献量には目安となるガイドラインが存在しており、国際的に公表されているものと、国内で制定されたガイドラインがあります。ここではそれぞれのガイドラインを詳しくご紹介していきます。
国際的なガイドライン
国際的なものでは、「WBCSD」が公表している、「Guidance on Avoided Emissions」が、最新のガイドラインです。
国内ガイドライン
国内では日本LCA学会、経済産業省、そして各業界団体がそれぞれ削減貢献量のガイドラインを公表しているものの、定義や算定方法は統一されていません。現在、多くの企業が参照していると考えられる日本LCA学会と経済産業省の定義は、いずれも「環境負荷の低い製品・サービスが、従来品(ベースライン)と比較してライフサイクル全体でどれだけ温室効果ガス排出を削減したか」を定量化する点で共通しています。
【日本LCA学会の定義】
環境負荷の削減効果を発揮する製品等の、原材料調達から廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体での温室効果ガス排出量をベースラインと比較して得られる排出削減分のうち、当該製品の貢献分を定量化したもの
【経済産業省の定義】
環境性能が優れた製品・サービス等が提供されることにより、それに代わる製品・サービス等(ベースラインシナリオ)と比べた温室効果ガス排出削減・抑制への貢献分をライフサイクルでの比較により定量化したもの
両者の定義は一見同じに見えますが、実務上重要なのは ライフサイクルの範囲設定 や ベースラインの選定方法 といった細部の違いです。これらの前提条件によって算定結果は大きく変動するため、企業が削減貢献量を対外的に示す際には、どのガイドラインを採用し、どのような前提で算定したのかを明確にすることが重要です。
| 発行機関 | 文書名 | 発行年 |
|---|---|---|
| 日本LCA学会 | 温室効果ガス排出削減貢献量算定ガイドライン | 2022年3月 |
| 経済産業省 | 温室効果ガス削減貢献定量化ガイドライン | 2018年3月 |
| 一般社団法人日本自動車部品工業会 | JAPIA「LCI 算出ガイドライン第二版」 | 2016年4月 |
| 一般社団法人 電子情報技術産業協会電子部品部会ESG委員会 | 電子部品の GHG 排出削減貢献量算定に関するガイダンス | 2022年7月 |
| 一般社団法人電子情報技術産業協会 | ITソリューションによるCO2排出抑制量定量化のためのフレームワークに関する報告書 | 2017年3月 |
削減貢献量ガイドラインの主張の違い
削減貢献量の定義において、最も重要なのはが「ベースライン」であり、さらに「比較対象をどこにするか」です。
これらについては、温室効果ガス排出量の国際的な標準化を示す「GHGプロトコル」と、各業界においては下記のように記載に違いがある状況です。
| ライフサイクルに評価対する姿勢 | 組織・業界 | ガイドライン上の記述 |
|---|---|---|
| ライフサイクル考慮 | GHGプロトコル | 完全なライフサイクル評価の実施を求めるものではない |
| ライフサイクル原則 | 経済産業省 | 原則として、それぞれに関わる製品・サービス等のライフサイクル全体が算定範囲となる |
| ライフサイクル原則 | ⽇本LCA学会 | ライフサイクル全体における評価結果を⽐較することが必要である |
| ライフサイクル原則 | 電機・電⼦(IEC TR 62726) | GHG削減の重要な影響を特定するために、評価対象製品と⽐較対象製品のライフサイクル段階のGHG排出量を⽐較することを推奨する |
| ライフサイクル原則 | 化学(ICCAガイドライン) | 全てのライフサイクルが考慮されることが必要であり、⽐較相⼿と同⼀のプロセスは除外してもよい |
| ライフサイクル原則 | 鉄鋼(⽇本鉄鋼連盟の事例) | 鉄鋼製造、鋼材輸送、製品製造、製品利⽤について分析・評価を実施 |
削減貢献量に対する課題

削減貢献量には、以下のような課題も存在します。それぞれを詳しく解説していきます。
- ダブルカウント
- 優れた製品は売れるので、全体で見るとCO2は増える
- 自社に都合のいい見せ方をしている
そのため削減貢献量を活用したい企業は、これらの課題を想定しつつ算定や情報公開を行う必要があります。
ダブルカウント
ダブルカウントは、最終製品の使用段階におけるCO2削減貢献量を、製造者がするのか、使用者がするのか、という課題です。
例えば、従来比で使用時のCO2排出量を半減させたエアコンを考えてみましょう。
エアコンメーカーは、自社製品が使用段階で排出量を50%削減できたとして、その削減貢献を主張します。しかし、排出量半減の主要因が、内部部品である熱交換器の性能向上によるものであれば、熱交換器メーカーもまた「自社部品がCO2排出量を半減させた」と主張する可能性があります。
この場合、同じ削減効果をエアコンメーカーと部品メーカーの双方が主張することになり、結果としてダブルカウントが発生します。このような重複計上を最小化するための考え方が 寄与率 です。寄与率を用いることで、最終製品の削減効果を関係企業間で適切に按分し、透明性の高い削減貢献量の評価が可能になります。
※寄与率とは、全体全体の変化や変動を「100」としたとき、その中の個別の要素がどれくらいの割合(%)で影響を与えているかを示す指標
参照:経済産業省
優れた製品は売れるので、全体で見るとCO2は増える
優れた製品であればあるほどよく売れるため、結果的にその製品によってCO2排出量が増えてしまう可能性があります。
自社に都合のいい見せ方をしている
削減貢献量を主張する企業の多くは、自社に都合の良い情報のみを公表する傾向があるという課題があります。実際の公表事例については後述しますが、削減貢献量の示し方には企業ごとにばらつきがあり、結果として自社に有利なデータだけを選択的に提示しているのが現状です。
削減貢献量算定の手順

ここからは削減貢献量の算定までの手順について解説していきます。基本的なステップは下記のようになります。

1:目的の設定
環境負荷の算定や見える化をするにあたり、目的の設定が最も重要といえます。目的によって、最終的なアウトプットの形や算定方法、根拠とする数値が変わってくるためです。
2:定量化対象の設定
評価対象となる製品・サービスの機能や内容を明確にするためには、機能単位を適切に設定することが重要です。機能単位とは、製品を使用することで得られるベネフィットを定量化した指標を指します。
例えば冷蔵庫であれば、容量、耐用年数、製氷機の有無などが機能単位に該当します。これらは、冷蔵庫が提供する価値を客観的に示す要素となります。
環境負荷を比較する際には、評価対象と比較対象の機能単位を揃えることが不可欠です。機能単位が異なるまま比較しても、製品として提供する価値が異なるため、環境負荷の評価結果に意味がなくなります。
また、削減貢献量は製品・サービスのライフサイクル全体で評価することが望まれます。評価対象が部品や素材などの中間財である場合には、それらが組み込まれる最終製品を明示したうえで評価することで、より説得力のある結果につながります。
3:ベースラインシナリオの設定
ベースラインシナリオとは、評価対象製品やサービスが普及しなかった場合に、最も起こりうる仮想的なシナリオのことです。
ベースラインシナリオの設定においては、下記のようなものを用いることで、説得力のあるシナリオとなります。
- 市場に存在する他の製品・サービス等
- 法規制等で規定された基準値(例:トップランナー基準)
- 製品・サービス等の業界平均値
4:定量化の範囲・内容の設定
評価対象製品・サービスの排出量とベースライン排出量の定量化においては、主に下記の3点について注意する必要があります。
- 製品・サービスのライフサイクル全体を算定範囲とする
- 一部の温室効果ガスのみを対象とする場合には、その理由を明確にする
- 評価対象製品・サービスとベースラインシナリオのライフサイクルのフロー図を用いて、対象となる範囲を明確にする

5:削減貢献料の累積方法
評価期間における削減貢献量の累積方法においては、販売期間、使用期間をそろえた2通りの考え方があります。それぞれ長所と短所があり、目的に応じていずれの方法を選択した上で、どちらを採用したかを明確にすることが重要です。
| フローベース | ストックベース | |
|---|---|---|
| 長所 | ・評価年の⽣産量に対応するCO2排出量のポテンシャル評価が可能 ・データ(評価年の⽣産量)の⼊⼿が⽐較的容易 | ・評価年の排出量に対応する削減貢献量を実績の算定が可能 ・過去の情報によりベースラインを設定出来るため、将来予測がなく、⽐較的不確実性が低い |
| 短所 | ・評価年の排出量に対応する削減貢献量の算定不可(時差が存在) ・将来のベースラインを設定する必要があるため、⽐較的不確実性が⾼い | ・過去にさかのぼって⽣産、販売された製品の累積稼働量等の各種データ収集が困難 |
6:削減貢献量の定量化
削減貢献量の定量化については、後述する方法で算定を行います。
削減貢献量の算定方法

ここからは削減貢献量の算定方法について解説します。
フローベースの場合
フローベースの場合、削減貢献量は下記の式で表します。
① 削減貢献量(サービス・製品単位)= ③ベースライン排出量 - ②評価対象製品・サービスの排出量
①:製品・サービス等単位での削減貢献量
②:評価対象製品・サービス等のライフエンドまでを考慮した温室効果ガス排出量
③:ベースラインシナリオに関する製品・サービス等のライフエンドまでを考慮した温室効果ガス排出量
また、組織単位で削減貢献量を定量化する場合には、「①製品・サービス等単位での削減貢献量」に普及量を乗じることで、算定することができます。
④ 削減貢献量(組織単位)= Σ (①i 削減貢献量(製品・サービス等単位) × ⑤i 普及量)
④:組織単位での削減貢献量(フローベース)
⑤:評価対象製品・サービス等の評価期間における普及量
なお、i は当該組織が定量化の対象とする評価対象製品・サービス等を表します。
ストックベースの場合
ストックベースの場合は、下記の式によって削減貢献量を表すことができます。
① 削減貢献量(組織単位)= ③ ベースライン排出量 - ② 評価対象製品・サービス等の排出量
①:組織単位での削減貢献量(ストックベース)
②:評価期間における評価対象製品・サービス等の温室効果ガス排出量
③:評価期間におけるベースライン排出量
また、「②評価対象製品・サービス等の温室効果ガス排出量」については、以下の式で算定することができます。(③の算定式も同様)
② 評価対象製品・サービス等の排出量= Σ (④i, 各段階での排出量 × ⑤i, 各段階での個数)
④:評価期間に発生する評価対象製品・サービス等の各段階での排出量(特定の段階が対象となる場合はその段階における排出量)
⑤:評価期間における評価対象製品・サービス等の各段階にある個数(例:使用段階の場合は、製品・サービス等の評価期間における稼働数)
ここで、i は定量化の対象とする評価対象製品・サービス等のライフサイクルにおける各段階を表します。
なお、算定方法について、日本LCA学会と経済産業省のガイドラインの違いとして「寄与率」を考慮するかの記載に違いがありますが、今回は経済産業省のガイドラインを参考に解説してます。
【調査結果】企業の削減貢献量の公表値

ここでは、企業が実際にどのような形で 削減貢献量を表現し、公表しているのかを紹介します。
環境負荷への関心が高い電子機器メーカーを中心に調査した結果、削減貢献量を公表していた企業のうち、売上あたりの削減貢献量が上位となった8社を、下記の表にまとめました。
| 企業名 | 表現方法 | 影響領域 | 売上当たりの削減貢献量 (t-CO2/億円) | 評価年 | 算定方法 |
|---|---|---|---|---|---|
| 横河電機 | CO2排出抑制貢献量 | CO2 | 20,125 | 2020 | ‐ |
| BASF | enables customers to reduce their GHG emissions | GHG | 6,263 | 2018 | ‐ |
| 安川電機 | 製品によるCO2排出削減貢献量 | CO2 | 1,819 | 2020 | ○ |
| 三菱電機 | 製品使用時のCO2削減貢献量 | CO2 | 1,765 | 2020 | ○ |
| アズビル | お客様の現場におけるCO2削減効果 | CO2 | 1,191 | 2020 | ○ |
| デルタ | Delta products that had helped clients save 2.01 billion kWh of electricity-the equivalent of reducing emissions by 1.02 million metric tons of CO2e. | CO2 | 853 | 2020 | ‐ |
| 富士通 | 温室効果ガス(GHG)排出量の削減貢献量 | GHG | 691 | 2014 | ○ |
| TDK | 環境貢献量、CO2排出削減貢献量 | GHG | 178 | 2020 | ○ |
※調査結果を全て確認したい方は弊社の無料相談へお問い合わせください。
調査の結果、削減貢献量については複数のガイドラインが存在し、統一的なルールがないことから、各社の表現方法や計算方法が大きく異なることが明らかになりました。また、算定方法が非開示であったり、開示されていても算定の根拠となる数値の決定プロセスが示されていなかったりするケースが多く、客観的な信頼性を十分に担保できていない状況です。
さらに、算定にあたって ガイドラインへの準拠や、第三者レビューの実施を行っている企業はほとんどなく、現状では各社が独自の基準で削減貢献量を公表していることがわかります。
企業事例
ここでは株式会社ゼロックが、削減貢献量の活用において支援させていただいた企業事例をご紹介します。
バリュエンスホールディングス株式会社
バリュエンスグループは、循環型経済への移行、気候変動の抑制、自然との共生を重要な環境課題と捉え、環境基本方針を策定しています。
バリュエンスホールディングス株式会社が取り扱う時計・ジュエリー・バッグなどのラグジュアリー製品は、優れた素材と技術によって長く価値が受け継がれる特性を備えています。こうした製品をリセールによって再流通させることで、新たな資源採取や製造に伴う環境負荷を抑制し、社会全体の環境負荷削減に貢献できると考えています。
当社は、日本LCA学会の「温室効果ガス排出削減貢献量算定ガイドライン」を主な参考として、製品循環が生み出す環境価値を削減貢献量の手法で定量化し、「Resale Impact」として開示しています。
詳細はこちらをぜひご覧ください。
リセールサービスの環境価値を可視化する削減貢献量算定方法論の策定支援
三井デザインテック株式会社
三井デザインテック株式会社は、住宅・オフィス・ホテルなどの空間デザイン・設計・施工、リニューアル工事を手がけ、エネルギー消費や温室効果ガス排出の抑制を重視した設計・施工を推進することで、脱炭素社会の実現に貢献することを目指しています。
その取り組みの一環として、家具の設計から使用後の循環までを包括的に支援する新サービス「CIRCULAR FURNITURE」を開始しました。特注家具を対象とした削減貢献量を算定するための「算定方法論」を策定し、あらゆるアイテムで算定根拠やロジックを開示できる仕組みを整備しています。設計・製造、CFP算出、DPP実装、トレーサビリティ、再資源化までを一気通貫で支援する、業界初の取り組みとして高い注目を集めています。
詳細はこちらをご覧ください。
業界初「CIRCULAR FURNITURE」を支える—特注家具のCFP削減量算定方法論と算定ツールの開発
自社製品の削減貢献量開示には適切な算定を
企業が自社製品の環境価値を効果的に伝えるうえで、削減貢献量の公表は非常に有効なアプローチです。
すでに環境負荷の低い製品を開発している、あるいは開発を進めている企業であれば、削減貢献量をCSR報告書や製品カタログに掲載することで、投資家・顧客に対し、サステナビリティを重視する企業姿勢を明確に示すことができます。
ただし、削減貢献量の算定にあたっては、関連する ガイドライン を適切に参照し、目的に応じた範囲設定と算定方法を正しく選択することが不可欠です。これらが不十分な場合、競合企業や業界団体から指摘を受ける可能性があり、せっかくの取り組みが逆効果となりかねません。
株式会社ゼロックでは、削減貢献量の算定支援やアドバイザリーに加え、環境負荷の見える化、脱炭素経営の推進など、企業のサステナビリティ戦略を総合的にサポートしています。
もし、自社だけで算定や公表方法を整えることに不安がある場合は、ぜひ一度ご相談ください。削減貢献量を「企業価値向上の武器」として活用できるよう、最適な形でご支援いたします。












