グリーンウォッシュとは│企業が注意すべき環境表現の観点を解説

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松井大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

目次

上場企業を中心に組織や製品の環境情報開示が求められる中、グリーンウォッシュという言葉を耳にすることも増えたのではないでしょうか。

グリーンウォッシュとは、「上辺だけ」環境配慮をしているようにみせかける企業の欺瞞的な環境活動のことです。環境情報の開示は自社の優位性をアピールする機会となるものの、その分外部から指摘を受けてしまうリスクも増えてきます。そのため、グリーンウォッシュについての知識を深め、適切な環境表現を行うことは、ステークホルダーからの信頼を得るためにも重要です。

この記事では、グリーンウォッシュの重要な観点や事例、具体的な対策まで解説します。

グリーンウォッシュとは

グリーンウォッシュとは

まずはグリーンウォッシュの概要について確認しておきましょう。

グリーンウォッシュの概要

グリーンウォッシュは英語では「Green Washing」となり、グリーンウォッシングとも呼称されます。汚れを白いもので覆い隠しごまかす言葉である「ホワイトウォッシング(White Washing)」に、環境を連想させる「グリーン(green)」を組み合わせた造語です。

つまり、グリーンウォッシュとは、「上辺だけ」環境配慮をしているようにみせかけ、実態が伴っていない企業の環境活動のことを指します。

今までは、商品に「環境に良い」と書いておけばある程度良い印象を得られていました。
しかし、環境情報を開示する企業が増えているだけに、「本当に環境によいのか」、「なぜそう言えるのか」といった見方をする人も同時に増えているのです。

グリーンウォッシュの歴史

グリーンウォッシュという言葉は、最近出てきた言葉のように感じる方も多いですが、その歴史は意外と古いです。
初めてグリーンウォッシュという言葉を提唱したのは、米国の環境保護活動家ジェイ・ウェスターベルドです。ジェイ・ウェスターベルドは、フィジーへ旅行中のホテルで、サンゴ礁保護のためにタオルを再利用しようとのメモを目にしました。しかし、当ホテルがリゾート開発を進めていることを進めており、本来の目的はタオル洗濯のコスト削減をすることでした。その3年後の1986年、ジェイ・ウェスターベルドが当ホテルをエッセイで批判し、その際に「グリーンウォッシュ」という言葉を用いました。
その後、1990 年代末頃からグリーンウォッシュに関する議論や研究がなされ、徐々に広がるようになりました。

そして、近年高まるカーボンニュートラルの機運を受け、大企業を中心に環境アピールを行う企業が増えてきたことで、再度グリーンウォッシュが注目を集めています。

グリーンウォッシュが抱えるリスク

グリーンウォッシュの重要性と危険性

それでは、グリーンウォッシュとの指摘を受けると、どのようなリスクがはらんでいるのでしょうか。ここでは、グリーンウォッシュの危険性と企業がグリーンウォッシュの観点で環境情報を考慮する重要性について解説します。

グリーンウォッシュのリスク

企業がグリーンウォッシュとの指摘を受けてしまうと、下記のようなリスクがあります。

  1. 消費者からの信頼を失い、不買運動に繋がる
  2. 投資家から失望売りが生じ、株価の下落に繋がる
  3. 社員が会社・経営者に失望し、疑念や反感を抱き始める
  4. 国の法規制等によっては罰則を受けてしまう
  5. 一度グリーンウォッシュとの批判を受けてしまうと、その後もイメージを改善することは容易ではない

これらが社会や企業に与えるダメージは大きく、長期的な経営への打撃となる可能性が高いです。「グリーンウォッシュ」へのリスクを予め把握し、環境情報開示の際にこの観点を考慮することはもはや当たり前になりつつあります。

なぜ今グリーンウォッシュが重要なのか

上記のような企業が抱えるリスクを把握しながら、なぜ今企業がグリーンウォッシュについても考慮する必要性があるのか、その社会的な重要性も踏まえておきましょう。

  1. グリーンウォッシュを行っている企業が存在すると、環境配慮に真剣に取り組んでいる企業の阻害になる可能性がある
  2. 環境情報開示が徐々に進む中で、その情報の「質」へ関心が高まっている
  3. 環境活動に取り組む企業が、上辺だけではない確かな環境活動を行っているか見極める基準が必要になっている。

特に1番の観点は非常に重要です。

例えばある企業が、広告として自社の製品を環境に配慮した製品だと明言しながら、実際には何の配慮もしていないとしたらどうでしょうか。その情報を基に商品購入をしてしまう消費者も一定数存在し、真剣に取り組んでいる企業から買うはずだった消費者が奪われてることにもなりかねません。

実際、中身の伴わない環境活動をほとんど行っていないにもかかわらず、環境情報を誇張する企業が多く存在するのも事実です。この記事をご覧になった企業担当者の方はこれらの観点も十分認識しておきましょう。

グリーンウォッシュの判断ポイント

グリーンウォッシュを判断する心構え

前段で解説したように、うっかりグリーンウォッシュに当たる行為を行っては、企業は社会への信頼を損ねます。そのため、どのような行為がグリーンウォッシュに当たるのか、参考となるガイドライン等を知っておく必要があります。

グリーンウォッシュ 7 つの罪

自社の環境表現がグリーンウォッシュに該当するかの判断をする目安の1つとして、2010年にカナダのTerrachoiceが発表した「グリーンウォッシュの罪」が参考になります。グリーンウォッシュの特徴を「7つの罪」という言葉で表現することで、消費者に多大なインパクトを与えた調査レポートです。以下に詳細を記載します。

項目内容
1. 隠れたトレードオフの罪懸念される他の重大な問題は隠しながら、有利な環境情報ばかりを用いてアピールすること
2. 証拠のない罪裏付け情報や計算式、第三者による信用性の高い認証によって立証できない環境配慮を宣伝すること
3. 曖昧さの罪単に「環境に良い」等、対象やその定義が曖昧であるため、人を誤認させる可能性がある方法で宣伝すること
4. 無関係の罪その内容自体は事実であっても、環境配慮を求める消費者には重要ではない、あるいは役に立たない情報であること。
5. 2つのうちましであるとする罪その製品単体で見ると環境にとって大きな害をもたらすにもかかわらず、さらに害悪である製品と比較して、環境に良いと錯覚させて広告すること
6. 偽ラベル崇拝の罪嘘または内容のないラベルを用いてを表示して製品の環境アピールをすること
7. 捏造の罪単なる虚偽による環境アピールで、○○認証と表示しているにもかかわらず、実際には未認証製品である等を指す。

参照:UL『Sins of Greenwashing』

企業が環境情報を用いてその優位性をアピールする場合は、外部から見て上記のような疑念を抱かれないか客観的にチェックし、その可能性がある場合は内容を再考することが必要です。

欧州「グリーンクレーム指令案」

欧州の欧州連合理事会(以下EU)では、2023年3月に欧州委員会が「グリーンクレーム(環境主張)指令」(案)を発表しました。企業の実態が伴わない「グリーンウォッシング」が横行するのを排除するために、環境配慮を科学的根拠に基づいて立証することを提案しています。

環境情報の表示、またそれに対する目が特に厳しいEUにおける規制案ですので、多くの企業がキャッチアップしておくべき内容です。

本規制案に関連し、欧州委員会の調査では、企業の環境に関する主張の53.3%が曖昧で誤解を招く、または根拠のない情報が蔓延している判明しています。 さらにEU全域および幅広い製品カテゴリにわたる製品の環境特性について明確さ、正確さ、検証可能なデータによって分析しましたが、その結果、主張の 40% には根拠がないことも分かったのです。

これらを背景に、製品やサービスについて環境表現を行う際は、環境影響を科学的、定量的、客観的に総合評価するLCA手法に基づいた環境データの開示の必要性が益々高まっています。

特に、製品・サービスの一部のみを過大にアピールした環境情報(例えば、ライフサイクルのうち、使用段階はCO2排出量ゼロ等)や企業自らが作成した環境ラベル等には注意が必要です。

さらに、EUのグリーンウォッシュの規制強化は、同指令の対象がEUの消費者に向けて環境訴求するすべての企業であるため、EU 域外に拠点があっても対象となります。消費者団体などは、この指令に基づき、法的措置をとることができるため、日本に拠点があってもEU消費者を対象とした企業は十分に注意する必要があるでしょう。

環境表示ガイドライン

日本においては、環境省より「環境表示ガイドライン」が策定されています。

本ガイドラインは、主に自社の宣言によって環境表示を行う企業や団体を対象にしています。自己宣言による環境アピールをする企業に対しては、タイプⅡ規格に準拠することを求めており、下記5つの事項を基本項目としています。

  • 誤認されるような曖昧な表現はしないこと
  • 主張する内容について、説明文をつけること
  • 環境主張の検証に必要なデータ・評価方法が提供できること
  • 製品または工程の比較表現を行う際は、LCA評価等により適切に行われていること
  • 評価・検証情報へのアクセスが可能であること

例えば、製品の包装に「この商品はエコです」と記載してあるだけでは、上記に照らして適切とは言えません。

  • 「エコ=環境にやさしい」とはどのような影響領域(地球温暖化、資源消費、廃棄物、酸性化等)における主張なのかわからない
  • どのような点が「エコ」なのかの説明がない
  • 「エコ」は定性的な表現なので、どのくらい環境に良いのかの数値データがない、または公開されていない

特に自社内だけで環境表現を検討する際、安易な環境アピールはこのような指摘を受けかねませんので注意しましょう。

グリーンウォッシュとの批判を受けてしまった事例

グリーンウォッシュ事例

過去にグリーンウォッシュとの批判を受けてしまった事例をご紹介します。

アディダス

海外事例アディダス

2021年、アディダスの販売するスニーカーがフランスの広告監視機関ARPPから、グリーンウォッシュであると指摘されました。問題となったのは「50%リサイクル」という表現と、「End Plastic Waste」のロゴです。「50% リサイクル」の具体的な内容が示されず明快ではなかったため、消費者に誤解を与えると言われました。また「End plastic waste」のロゴは、再生プラスチックを一部使用した製品を購入するだけで、「プラスチックごみを無くす」ことにはならないと指摘されたのです。結果的にアディダスは、明確な文章の追記をせざるをえませんでした。

広告における表現については製品の定義や範囲、量を明確化し、様々なとらえ方が生じないように検討することが大切です。

トヨタ

国内事例トヨタ

トヨタがベルギーで販売した自動車プリウスの広告に使用された「Zeroemissions low」という表現が、グリーンウォッシュであると指摘されました。実際のデータや法的規制値との関係を明示していないため、不正確で消費者を惑わすと、欧州で批判をうけたのです。当時この車種は、世界でトップレベルの燃費の良さであったにも関わらず、トヨタ自動車はグリーンウォッシュの指摘を受けて広告を取り下げることとなりました。

従来技術よりも環境負荷の低い製品の開発に尽力していたとしても、どのように伝えるかで不信感を持たれたり、誤認を受けてしまったりしてしまうこともあるため注意が必要です。

グリーンウォッシュ批判への対策

グリーンウォッシュを解決するには

グリーンウォッシュとの批判を受けてしまわないために、できる限りの対策を講じておくことは非常に重要です。これに限りませんが、グリーンウォッシュ批判への具体的な対策として次の3つ紹介します。

  1. LCA手法による検証
  2. 環境ラベルの活用
  3. 外部専門家の表現チェック

LCA手法による検証

先に述べた、欧州グリーンクレーム指令や環境表示ガイドラインでも触れましたが、近年製品・サービスに対するLCA評価の重要性が増しています。

LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、原材料調達、製造、流通、使用、廃棄・リサイクルまでを含めた製品のゆりかごから墓場までの環境影響を評価する手法です。LCA手法は定量的な評価が可能であるため、製品の比較や改善のためのホットスポット特定に有効です。

大企業を中心に、製品・サービスの環境情報を外部に開示する際は、LCA評価を行うことが当たり前になりつつあります。各ガイドラインでも重要視

LCAについてさらに詳しく知りたい方は、下記記事も併せてご覧ください。

LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?わかりやすく解説します

第三者認証を要する環境ラベルの活用

環境ラベルとは

グリーンウォッシュ批判の対策には第三者認証が必要となる環境ラベルを活用することも有効です。

環境ラベルとは、HPやウェブ、商品の説明書等を通じ、製品やサービスの環境に関する情報をわかりやすく伝える認証やマークのことです。主に3つのタイプに分類され、まとめると以下の表のようになります。

タイプ国際規格第三者認証ラベル種類特徴
タイプⅠISO14024エコマーク
ブルーエンジェル
ノルディックスワン
第三者が判定基準を用いて、合格した製品を認証する環境ラベル
タイプⅡISO14021事業者が独自におこなう環境主張。第三者によるチェックが入らない
タイプⅢISO14025エコリーフ
EPD
製品の環境負荷データを定量的に見える化。合否はない

このうち、タイプⅠとタイプⅢの環境ラベルは第三者の認証を要する環境ラベルです。タイプⅠ環境ラベルは第三者によって合否が判定されるものですが、タイプⅢ環境ラベルは第三者によって各環境ラベルの認証は要しますが、合否があるものではありません。

環境負荷の定量化に適した環境ラベル

【エコリーフ環境】

エコリーフは、ISO で定められるタイプⅢ規格に準拠した環境宣言です。エコリーフ環境ラベルは、環境負荷を LCA の手法によって定量的に算出し、情報を開示することが可能です。気候変動、酸性化、富栄養化、資源消費等の影響領域から3つ以上の開示が求められます。
特に建築業界では、エコリーフ取得によってLEED認証の観点項目になることから、注目を集めています。

【カーボンフットプリント】

カーボンフットプリントとは日本で制定された制度で、LCA手法を用いて環境影響を評価することはエコリーフと同様ですが、カーボンフットプリントは気候変動(地球温暖化)のみを対象領域としています。カーボンフットプリントのマークは計量の上にCO2量を表示する形で表現されており、カロリーを見るようなのと同じように、消費者にとって理解しやすい環境ラベルです。

外部専門家の表現チェック

自社で作成したタイプⅡ環境ラベルやプレスリリース、自社のみで算定したLCA算定は一度外部専門家のチェックを受けることをおススメします。

LCA評価手法や各ガイドライン、国際動向等を踏まえた環境表現は専門的な知識を必要とするため、企業内で解決することは非常に困難と言えるでしょう。そのため、自社の環境主張がグリーンウォッシュに当たらないか、「表現」や「数値の妥当性」、「誤認性」等についてチェックを依頼することも一つの方法です。

一度グリーンウォッシュ批判を受けてしまうと、企業イメージを回復することは容易なことではありませんので、コストをかける価値のある項目と言えるでしょう。

まとめ:正しい環境表現でグリーンウォッシュ批判を回避しよう

グリーンウォッシュによる危険性を回避し、企業の環境リスクを低減するためには、その環境表現の根拠と表現方法について、各ガイドラインを参照しながら熟考することが必要です。

しかし、環境負荷の算定や環境表現の判断には専門知識を要することが多いのも事実です。

株式会社ゼロックでは、LCA算定や環境ラベルの取得、グリーンウォッシュチェックまで、環境情報開示に関する幅広い支援を行っています。

「そもそも算定を進めることが難しい」、「自社だけで環境表現を行うことが不安」という企業担当者の方は是非お問い合わせください。

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