松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
欧州では、一部企業の環境に関する主張は信用に値せず、それらに対する消費者の信頼感はたいへん低いと報告されています。
そのような環境主張から消費者を保護し、グリーン移行に積極的に貢献できるための新案が必要とされ、2023年3月、欧州委員会から「欧州グリーンクレーム(環境主張)指令案」が発表されました。
欧州グリーンクレーム指令案とは、「グリーン移行における消費者のエンパワーメントに関する指令案」を補完するものです。
いわゆるグリーンウォッシュ(企業の実体の伴わない欺瞞的な環境主張)と呼ばれる行為に対して、厳しい措置を行う案と言えばわかりやすいでしょう。
企業は製品やサービスの環境影響をLCA(ライフサイクルアセスメント)で行うことが重要との規定もあり、グローバルに事業を展開している日本企業にも無関係ではありません。
今回は欧州グリーンクレーム指令案についてどのような内容かをご紹介しますので、ぜひご一読ください。
欧州グリーンクレーム指令の目的とは
環境先進国である欧州連合理事会(以下EU)では、グリーン移行に伴い企業の実態が伴わない環境主張「グリーンウォッシュ」が横行するのを排除するための規制を強化しています。
グリーン移行とは、欧州グリーンディール政策を根幹としたグリーン経済に移行するための取り組みです。
2020年の欧州委員会の調査では、企業の環境に関する主張の53.3%が曖昧であると報告されました。
さらにEU全域での幅広い製品カテゴリにわたる環境特性についても、明確性や正確性がなく、主張の40%には根拠がないことが判明したのです。
そのため欧州委員会は、2023年3月に主に次の3つの目的から欧州グリーンクレーム指令案を発表しました。
関連サイト:日本経済団体連合会「欧州グリーンディールとその対外的側面」
欧州グリーンクレーム指令案の3つの目的
欧州グリーンクレーム指令案の目的は以下の3つです。
- EUにおける環境情報保護のレベルを高めることで、循環型でクリーンな気候中立型経済へのグリーン移行の加速に貢献していく。
- 消費者と企業をグリーンウォッシュから保護し、消費者が信頼できる環境主張と環境ラベルの情報に基づいた購入決定を行うことで、グリーン移行の加速に貢献する。
- 環境に関する主張への法的確実性と国内市場での平等な競争条件を改善し、かつ自社の製品や持続可能な活動のために努力をしている事業者の競争力を強化し、グローバルに取引する事業者にコスト削減の機会を創出する。
グリーンウォッシュの問題点
グリーンウォッシュとは、「上辺だけの企業の欺瞞的な環境活動」のことで、次のような問題点が存在します。
- 消費者が商品やサービスを購入する際に、環境に関する正確な情報を得ることができず、環境に関する問題に主体的に参加や貢献することを阻害するため。
- 曖昧で誤解を招くような環境主張や商業コミュニケーションは、企業間の公正な競争に支障を招くため。
- 正しく環境に貢献している企業や環境により良い商品やサービスが認知されにくくなり、その結果 2050 年の実現を目指すカーボンニュートラルをはじめとした気候変動対策や、持続可能な社会の実現を阻害するため。
グリーンウォッシュに関してはこちらの記事で詳しく解説しておりますので、ご一読ください。
関連記事:グリーンウォッシュとは│企業が注意すべき環境表現の観点を解説
欧州グリーンクレーム指令の内容
グリーンクレーム指令案は、多くの項目や条項から成り立っています。
本記事では12の項目に分けて内容を紹介していきます。
欧州グリーンクレーム指令案の法的根拠
欧州グリーンクレーム指令案は、「欧州連合機能条約(TFEU)」の法的根拠に基づき提案されています。
法的根拠に基づいた高レベルの環境保護を基本としながら、EU域内市場の機能を確立、または確保することが目的です。
環境主張の補完性(非独占的能力の場合)
EU域内市場に一連の共通のルールを導入することで、経済運営者に平等な競争条件を確保します。
これにより、企業が環境主張を立証するためのアプローチがEU全体で大きく異ならずに済み、法的確実性がもたらされコンプライアンスが上昇します。
また、EUは加盟国の経験や民間の取り組みに倣って、市場全体にわたる製品やサービス、組織の環境影響を評価し、重要な環境主張の付加価値をもたらしつつ、政府と民間の連携によりコスト削減につなげます。
このようなEUの行動は、EU域内市場での環境保護のレベルを向上させ、EU内で事業を展開する企業に平等な競争条件をもたらします。
また、誤解を招きやすい複雑な分野の環境主張においては、不公正商行為指令の原則に基づいて、各国当局が直面する問題の負担を軽減することが可能です。
環境主張レベルの比例性
消費者が信頼できる環境情報に基づき製品購入を行い、サスティナブルな消費を促進することが欧州グリーンクレーム指令案の大きな目的です。
そのためには統一された要件に基づいた企業の環境主張が必要であり、それが消費者に向けた一般的な環境主張基準の向上につながります。
環境ラベルの使用の公平性を評価するための統一基準を権限ある国家機関が提供することにより、執行活動が促進され、高いレベルでの消費者保護が可能になります。
環境ラベルを発行する企業だけでなく、それらのラベルを申請する企業も不当なコストに直面することがなくなり、なおかつ企業にとって高度な法的確実性が保証されます。
ステークホルダー協議と影響評価等
欧州グリーンクレーム指令案の準備段階で、委員会はステークホルダーと環境影響評価を協議しました。
協議された主な内容をご紹介します。
- 一部の企業団体は、ISO14025 に従って運営される独立した認証や検証組織の使用を提案した。
- 大企業はEUの枠組みで請求に使用される通信手段に関しては、柔軟に対応すべきであると強調した。
- 環境NGOは、環境スコアがトレードオフを隠す方法であってはならず、避けるべきであると表明した。
- 消費者NGOは環境に関する主張は、タイプ1エコラベル、エコ・ライトハウス、EMAS、ISO14001などの既存のツールによって実証できる可能性があると指摘 した。
- 数人の公的機関の代表者は、ノルディック・スワンやEUエコラベルなどの「公式」エコラベルで主張を実証できるべきだと考えている。
- 国民にとっては認定機関による独立した認証や検証がわかりやすい選択肢である。
さまざまな問題に対処するために、以下のような政策オプションの組み合わせも提案されました。
- 最低基準セットを満たさない環境主張を禁止する。
- 企業は環境主張の特定の基準を満たすことで、消費者をグリーンウォッシュから確実に保護することができる。
- 最低限の透明性と信頼性の要件を満たさない環境ラベルを禁止する。
- 消費者が環境主張の曖昧なラベルやツールによって、誤解しないように信頼性を確保するべきである。
さらに、イニシアチブの準備の過程で、環境主張に関するEU規則の有効性と効率性を高めるために、以下の追加措置が定められました。
- 環境主張の最低限の基準を満たしつつ、EU市場で平等な競争条件の形成や市場で活動する企業の法的確実性を高め、負担軽減の保証についての検証メカニズムを確立する。
- 環境への影響に関する集計スコアは、 EU 基準の共通標準化手法から得た教訓実施を目的とし、さらにEU 基準のラベルを含む環境主張に限定して使用すること。
- 零細企業に対する不平等な影響を避けるため、実証に関する要件と通信に関する関連ルールから零細企業を除外する可能性を考慮する。
- 環境ラベルの蔓延を効果的に制限し、既存の公的制度の導入拡大と市場向けのEU基準のラベル要件の策定に重点を置くこと。
- 新しい民間制度の創設は、付加価値を提供する場合にのみ加盟国によって承認されるべきである。
- 国または地方レベルでの新たな公共制度の創設は禁止する。新しい公共制度は EU 基準のみで開発するべきである。
グリーンクレーム指令案実施で予想される影響
グリーンクレーム指令案が実施されることで、予想される影響についてもさまざまな観点から述べられています。
それぞれの内容をご紹介します。
中小企業への影響
グリーンクレーム指令案は、環境主張の立証と情報に関する最低限の要件を導入するものです。
企業は環境主張を商用コミュニケーションで使用する際には、事前に第三者による検証を受けなくてはいけません。
それにより、誤解を招く主張や虚偽の主張が排除され、適切な環境主張が実施されます。
しかし、そのような環境主張は企業によっては負担を増すことにもつながります。
特に中小企業への影響は小さくないため、欧州グリーンクレーム指令案では、中小企業が追加コストで不当に影響を受けることのないように措置を講じます。
具体的には零細企業への免除や、国内およびEUの裁判所で不当な環境請求に対しての救済を希望することが可能です。
さらに加盟国に対しては中小企業が提案の要件を適用する場合は、適切な支援措置を講じることも求めています。
具体的には財政的支援や、組織的・技術的支援などの手段へのアクセスを容易にすることで、中小企業がグリーン移行に参加しやすい環境を整えることが挙げられます。
なお、欧州グリーンクレーム指令案は銀行取引、クレジット、保険、再保険、職業上の規則など、金融サービスに関する環境主張には適用されません。
環境主張立証に対するコストへの影響
環境主張の最低基準を満たさない表示を禁止することは、消費者に提供される情報の信頼性の向上につながります。
欧州グリーンクレーム指令案では、ビジネスの信頼性の観点から最低基準を満たさない企業の申請は行わないようにする必要性を謳っています。
しかし、環境主張を立証するにはある程度のコストがかかります。
企業の環境主張にかかるコストへの影響として、以下が挙げられます。
ある製菓会社がライフサイクルに沿った製品の環境影響を主張するとします。
主張する内容は、ライフサイクルおよびバリューチェーン全体にわたる製品のGHG 排出削減量です。
たとえば製品のパッケージのリサイクル実施などと比較すると、これらの環境主張は投資額が比較にならないくらい高額になります。
このように主張する内容と性質と複雑さによって、環境主張への立証費用は大幅に変わる可能性があります。
製造に使用される材料の環境主張の立証費用が単純に500ユーロと見積もられたとしても、企業が自社製品を環境フットプリント手法で実施で主張することを決定した場合は、費用が約8,000ユーロまで値上がるかもしれません。
さらに企業単体ではなく、組織全体のフットプリントを実施する場合は、さらに高額となり約54,000ユーロに達するということもあり得ます。
環境主張にかかるコストは、企業のマーケティング戦略の一部であるため自主的な性質が大部分を占めます。
そのため市場全体での確実なコスト見積もりを行うのは困難です。
環境主張の伝達に対する影響
消費者に正確な環境主張が伝わるようにすることは、より明確かつ透明な企業の環境情報が伝達されるということです。
それにより、消費者の環境価値や福祉が向上することが期待されます。
企業のコストという点では、主張を実証するための正確な評価が実施されることで、情報伝達にに準拠するための追加コストが軽減され、実証コストのみの負担で済むようになります。
ラベル表示の枠組みに対する影響
欧州グリーンクレーム指令案では、すべての環境ラベルに最低基準を導入します。
最低基準導入でラベルの透明性と信頼性が高まれば、消費者の意思決定の質が向上します。
消費者は、持続可能性ラベルが貼られた製品が透明性と信頼性に関する最低限の要件を満たしていることが保証されることで、ラベルに対する信頼と理解を向上させることが可能です。
これらの措置により、確実性のない環境ラベルは淘汰されるため、適正な環境ラベルだけが残ることが期待されます。
ビジネスへの影響に関しては、すべての製品が同じ最低基準に従うことになるため、ラベルを表示する製品間の公平な競争へとつながります。
さらに環境ラベルを運営する組織間の平等な競争条件にも良い影響を与えるでしょう。
さらに、これまで加盟国は不透明または信頼性の低い環境ラベルやロゴの拡散を懸念がありましたが、これらの措置により国境を越えた貿易の障壁を軽減することが可能です。
企業は市場内で同様の規則に従う必要があるため、法的不確実性とコストが削減されます。
欧州グリーンクレーム指令案実施で、環境ラベルに関して最も期待される影響はEU全域での環境ラベリング制度の乱立を阻止し、域内市場の機能を改善することです。
第三者検証により予想される影響
独立した第三者検証機関によって実施される事前検証は、管轄当局のリソースに負担をかけることなく、提案の要件の施行を促進およびサポートすることが目的です。
「適合証明書」により、地方管轄当局は市場における主張の信頼性を、簡単にチェックすることができるようになります。
もしクレームがあった場合も有効な「適合証明書」が存在することで、通常の業務と比較して迅速に処理される可能性があり、執行コストの削減に貢献します。
環境主張を行う企業は、EU全域で認められた「適合性証明書」が法的確実性をもたらすため、EU内で必要な認証は1つだけですみます。
国内市場内で取引する企業にとっては、認証のプロセスが安価で容易になるというメリットがもたらされます。
SDGs進展への期待
グリーンクレーム指令案によって、国連の採択したサスティナブルな目標SDGsをより進展させることが可能になるでしょう。
特に持続可能な消費と生産パターンを確保するSDGs目標12「つくる責任、つかう責任」への責任と推進の向上が見込まれます。
なぜなら、グリーンウォッシュやグリーン移行に適合する不公平な商行為や環境ラベルから消費者をより良く保護し、グリーン移行を推し進めることにつながるからです。
また、気候変動対策に関するSDG 目標13「気候変動に具体的な対策を」においても、15年間でCO2に換算して、5 ~7トン近くの削減になることが期待されています。
具体的な範囲や要件
ここでは欧州グリーンクレーム指令案の具体的な適用範囲や要件についてご紹介します。
欧州グリーンクレーム指令案の適用範囲
欧州グリーンクレーム指令案の適用範囲は、企業と消費者間の商行為や、取引業者が製品、または取引業者について行う明示的な環境主張に基づくとされています。
環境主張の実証に関する要件
欧州グリーンクレーム指令案では、明示的な環境主張の実証は、主張が誤解を招くことを防ぐために選択された最低基準を満たす評価に基づくものとするとして、以下の要件を掲げています。
- 広く認められた科学的根拠と最先端の技術知識に依存すること。
- ライフサイクルの観点から見た影響、側面、パフォーマンスの重要性を示すこと。
- すべての重要な側面と影響を考慮してパフォーマンスを評価すること。
また、「ライフサイクル全体に対してなのか」「特定の段階のみなのか」「さらにトレーダーの活動全体に対してなのか」または「一部に対してなのか」それらすべてが正確なのかを実証する必要があります。そのための主な要件は以下の通りです。
- 環境主張が法律によって課される要件と同等ではないことを証明する。
- 企業の環境主張では、製品が環境的により優れた製品かどうかの情報を提供する。
- カーボンオフセットを透明性のある方法で報告することを義務付ける。
- 正確な一次情報または二次情報が含むこと。
- 零細企業は、環境要求事項の適合証明書の受け取りを希望しない限り、本条の要件から免除されること。
さらに、環境主張に関する比較のための要件を以下のように定めています。
- 製品の環境への影響、側面、または性能を比較評価するために、同等の情報が使用されること。
- 比較の対象となる製品は、トレーダーに対して同等の方法で製造された製品のソースやデータを使用すること。
- バリューチェーンで行われる製品比較は、比較される製品とトレーダーについて同等であることと、比較される製品とトレーダーについて最も重要な段階が確実に考慮されるようにすること。
- 環境への影響、側面、または環境パフォーマンスの範囲は、比較される製品およびトレーダーに対して同等であり、比較されるすべての製品およびトレーダーに対して最も重要な要素が確実に考慮されるようにすること。
- 比較に使用される前提条件は、比較される商品とトレーダーに対して一貫した設定が使用されること。
- 製品の環境への影響の改善を主張する場合は、以前の製品バージョンと比較して環境影響に対する改善の説明と基準年の記載が含まれること。
主張の種類が異なれば、必要な実証レベルも異なります。明示的な環境主張を実証するために使用される評価では、環境主張対象の影響を特定する必要があります。
それには製品のライフサイクル、または貿易業者の全体的な活動を考慮しなくてはいけません。
これは企業が環境に対して主張している点がライフサイクルの他の段階に影響を及ぼしていないか、または他の環境に対しても影響がないかを確認するために必要です。
一次データが不可欠
環境への評価が確実であるとみなされるためには、環境主張を行っている製品、または取引業者の環境負荷低減に大きく寄与しているかどうかの、企業固有の一次データが不可欠です。
なぜなら一部の国の消費者保護当局は、一次データが実証に使用されていない場合は、企業の環境主張に対して疑問を持つからです。
一次情報とは、トレーダーの活動を代表する1つ以上の施設から直接測定または収集された情報のことを指します。
指令案では、たとえ製品や業者の環境負荷低減に大きく貢献するプロセスであっても、一次情報が入手できず確認できない場合は、二次情報の使用が許可されるべきであると伝えています。
二次情報とは、文献研究や工学研究、特許などの一次情報以外の情報源に基づく情報です。
いずれにせよ一次データと二次データともに、平均データが高レベルの品質と精度を保っている必要があります。
環境主張の伝達に関するための要件
これらの要件は環境主張を行う企業にとって、環境上の情報不足や主張の利点を確実に実行するという目的をサポートするためのもので、次のように規定されています。
- 指令案に定められた実証要件に従って評価され、それぞれの製品またはトレーダーにとって重要であると特定された環境主張のみが対象である。
- 環境主張を行う場合は、環境への影響を軽減するために消費者が製品を適切に使用する方法に関する情報を含まれる必要がある。
- 環境主張の実証に関する情報には、企業活動や製品、主張対象となる内容、環境に対する負荷低減等、国際基準や基礎となる研究、計算、製品改良がどのように行われたのか等の情報を伴うものとする。
この場合も零細企業は、環境主張の「適合証明書」の受け取りを希望しない限り、裏付けに関する情報の提供に関する本条の要件から免除されます。
環境ラベルおよびラベル表示の枠組みに関する規定内容
ここでは環境ラベルとラベル表示の枠組みについての規定内容をご紹介します。
これらは消費者がグリーン移行を行うための提案および、欧州委員会の「不当商行為に関するガイダンスにある環境ラベル表示」を補完する要件となります。
環境ラベル制度の規定要件
欧州グリーンクレーム指令案は、あらゆるタイプの環境主張に適用される実証とコミュニケーションに関する要件に加えて、ラベルの禁止に関する消費者への権限付与要件に基づいて構築されています。
さらに、エコラベルの枠組みの品質を向上させるために追加の保護手段を提供しています。
単一市場における環境ラベルは200を超えると言われており、これらの乱立は消費者の混乱や市場の分断、さらに加盟国の要件遵守による負担の増大を招いています。
そのため消費者と企業の双方に利益をもたらすための対策の必要性が叫ばれました。
EUレベルでの要件の策定が行われ、累積的な環境影響を表す集計指標に基づいた評価、またはスコアを表示するラベルの使用が禁止されたのです。
以下が環境ラベル制度をさらに詳細に規定した要件になります。
- 所有権、意思決定機関、目的に関する情報の透明性とアクセス可能性に関する要件の設定。
- ラベルの付与の基礎となる基準は専門家によって作成され、利害関係者によって検討される必要がある。
- 苦情および解決のためのメカニズムを構築する。
- 規定を遵守しない場合の対処の手順不備や、永続的かつ重大な不遵守の場合には表示の撤回または一時停止の可能性がある。
さらに環境ラベルの普及とそれに伴う消費者の混乱に関して、次のようなラベル制度の普及を対象とする追加規定も導入されています。
- 新たな国または地域の公営制度の設立を禁止する。
- EU および第三国の民間事業者によって確立された新しい枠組みの検証手順は、国家当局によって評価され、環境への取り組み、環境への影響の範囲、製品カテゴリー グループまたはセクターの観点から付加価値を実証する場合にのみ検証されるべきである。既存の連合、国または地域の制度と比較して、中小企業のグリーン移行を支援する能力がある必要がある。
EU市場での運営を希望する第三国による新たな公的制度は、これらの要件を満たす必要があります。
制度は環境面での付加価値を確実に提供することを目的として、欧州委員会による事前の通知と承認を受けなくてはいけません。
環境主張とラベル表示枠組みの事前検証
環境に関する主張とラベルが使用される前に指令案の要件に準拠しているかどうかを、正式に認定された第三者検証機関が事前検証する必要があります。
事前検証により一般消費者に対して、企業の環境主張が信頼に値するかどうかを保証することが可能です。
欧州グリーンクレーム指令案では、第三者検証機関が満たさなくてはならない詳細な要件も定義されています。
第三者検証機関は、企業が提出した環境主張の内容を検証し「適合証明書」を発行するかどうかを決定します。
「適合証明書」はEU全体で認められ、域内市場情報システムを通じて加盟国間で共有されます。
これにより、企業は社内や市場全体で消費者に対して自社の環境主張のための商業コミュニケーションを実行することができます。
環境主張の「適合性証明書」は、企業の環境主張が他の加盟国の管轄当局によって異議を申し立てられないことが保証されます。
これらは、ガバナンス規定への準拠に関するラベル表示の枠組み検証にも適用され、欧州委員会においては「適合証明書」の形式を指定する実施法を採択する権限が与えられます。
明示的な環境主張の実証
EU加盟国の貿易業者が明示的な環境主張を実証するための保証について、以下の要件が掲げられています。
これらは環境主張が製品全体、製品の一部または製品の特定の側面に関連しているか。
または関連するトレーダーのすべての活動および活動の特定の部分または側面に関連しているかを、指定するためのものです。
広く認証された科学的信頼や正確な情報を使用し、関連する国際基準を考慮しています。
- 環境主張の対象となる製品やサービスが環境に及ぼす影響や、環境パフォーマンスがライフサイクルの観点から重要であることを実証する。
- 環境パフォーマンスについて主張する場合は、それらの評価に重要なすべての環境への原因や影響を考慮する必要がある。
- それらの主張が、製品カテゴリ内の製品、または業界内のトレーダーに法律によって課される要件と同等ではないことを証明する。
- 環境主張の対象となる製品、またはトレーダーが関連する製品カテゴリの製品が環境に対する影響削減について、特に優れているかどうかの情報を提供する。
- 環境主張の対象となる環境への影響や原因、または環境パフォーマンスの改善が、気候変動、資源消費と循環性、水と海洋資源の持続可能な利用と保護、汚染、生物多様性、動物福祉、および生態系に係るかどうかを証明する。
- 追加の環境情報として温室効果ガス排出量から使用されるカーボンオフセットを分離する。そして、それらのオフセットが排出削減、または排出に関連するかどうかを指定し、オフセットによる負荷計算が正しく行われ、気候変動に対する環境主張が反映されたかを説明する。
製品または取引業者が、他の製品または取引業者よりも環境負荷低減を行っている明示的な環境主張の比較実証を行う場合は、次の要件を満たさなければなりません
- 比較対象となる製品または取引業者の環境影響、環境側面または環境パフォーマンスを評価するために使用される情報およびデータは、請求の対象となるトレーダーと同等のものとする。
- 製品またはトレーダーの環境影響、環境側面、または環境パフォーマンスを評価するために使用されるデータは、同等の方法で生成または調達され比較が行われること。
- 比較される製品とトレーダーは、バリューチェーンに沿った段階の範囲では同等であるとする。さらにすべての製品とトレーダーに対して最も重要な段階が、確実に考慮されるようにすること。
- 環境への影響、環境側面、または環境パフォーマンスの範囲は、比較される製品および取引業者で同等であり、最も重大な環境影響、環境側面、または環境パフォーマンスがすべての製品および取引業者に対して確実に考慮されること。
- 比較に使用される前提条件は、比較される商品およびトレーダーに対して同等の方法で設定されること。
カーボンオフセット
欧州グリーンクレーム指令案では、カーボンオフセットに関して以下のように述べられています。
環境主張の中でも、気候関連の主張は特に不明確かつ曖昧になり、消費者を誤解させる傾向があることがわかっています。
そのため欧州グリーンクレーム指令案では、カーボンオフセット制度のみで環境主張を行うことを禁止しました。
企業は気候変動に関する環境主張を謳うとき「カーボンニュートラル」や「100%CO2補償」「ネットゼロ」になるなどの言葉を使用しますが、これらはカーボンオフセットによるものがほとんどです。
しかし、カーボンオフセットは、企業のバリューチェーンの外部で生成されるカーボンクレジットでのオフセットであり、自社の温室効果ガス削減に基づくものではありません。
しかもカーボンオフセット手法は多岐にわたり、一貫性に欠けます。
回避または削減されるはずの排出量に対しての過大評価や、二重カウントの重大なリスクにつながる可能性も否定できません。
これらの要因を考えたとき、カーボンクレジットでの環境負荷低減への信頼性は決して高いとは言えないのです。
カーボンオフセットによる環境主張は、消費者に誤解を与える結果となりかねず、オフセットを行うことで、企業はむしろ自らの事業やバリューチェーンにおける排出量削減活動に消極的になるという弊害を生みます。
企業は、世界的な気候変動緩和目標に確実に貢献するために、オフセットに依存するのではなく、自社の事業とバリューチェーン全体での効果的な排出削減を実行しなくてはいけません。
そのため欧州グリーンクレーム指令案では、気候変動関連の主張については追加の環境情報として、取引業者が使用するカーボンオフセットに関しては温室効果ガス排出量とは別に報告することが求められています。
化学物質
化学物質管理に関しては以下のように記述されています。
人間の健康と環境への重大な害、特に消費者製品での使用を回避および防止するために、最も有害な物質の使用は最終的にEU内で段階的に廃止されるべきです。
欧州グリーンクレーム指令案では、有害な化学物質を含む混合物や物質を「無毒」「無害」「無公害」「環境に優しい」などと表示することを禁じています。
さらにそれらの物質や混合物が有害でないことを示す記述や、物質の分類が一致しないような矛盾する記述に対しても同様です。
加盟国に対しては、それらの義務を確実に履行することを求めています。
これらの措置は、EUの「持続可能性のための化学物質戦略」に掲げている基準によるもので、今後は関連する法律全体に適用されていく予定です。
そうなれば関連する製品がバリューチェーンを通じてEU域内の消費者に販売される場合は、製品に含まれる化学物質情報の開示が必要となります。
つまり今後はたとえ消費者に対して直接製品の販売を行わない企業でも、それらの情報開示を行わなければならない可能性が予測されます。
検証機関の規定と要件
企業の環境主張を検証するための検証機関については次のように定められています。
- 検証機関は、EUの規制に従って認定された「第三者検証機関」とする。
- 認定には、以下の要件への適合性の評価が含まれるものとする。
検証機関が満たさなければならない要件は次の通りです。
- 検証機関は環境主張を主張する製品、または関連する取引業者から独立している必要がある。
- 検証機関のトップレベルの管理者や実行責任者は、検証活動に関連した判断の独立性または誠実さと矛盾する可能性のある活動を行わないこと。
- 検証機関および職員は、誠実性を保ち必要な技術的能力によって検証を行い、判断や結果に影響を与える可能性のあるあらゆる圧力や誘因、特に金銭的影響を受けいれてはいけない。
- 検証機関は必要な専門知識、設備、およびインフラストラクチャを備えている必要がある。
- 検証タスクの実行を担当する適切な資格と経験を備えた十分な数の職員を配置する必要がある。
- 検証の担当者は、検証作業を実行する際に得られるすべての情報に関して職業上の秘密を遵守しなくてはならない。
- 検証機関が特定の業務を下請けする場合や子会社に頼る場合は、下請け業者ならびに子会社の業務に対して全責任を負い、下請け業者または子会社が実行する作業を評価および監視する必要がある。
コンプライアンス監視措置と苦情処理
コンプライアンス監視と苦情処理の主な要件は以下の通りです。
- 加盟国の管轄当局は、連合市場において行われた明示的な環境主張および適用された環境ラベル表示スキームの定期的な検査を行うものとする。それらの結果レポートはオンラインで公開されること。
- 加盟国の管轄当局は、この指令に定められた義務の違反を発見した場合、この指令に定められたすべての関連要件を網羅する評価を実施するものとする。
- 管轄当局は、明示的な環境主張、または環境ラベル表示スキームの実証、および伝達が指令案に定められた要件を満たしていない場合は貿易業者に通知すること。
罰則
欧州グリーンクレーム指令案における罰則規定は以下の通りです。
EUは法令に基づいて加盟国の義務を損なうことなく、欧州グリーンクレーム指令案に従って採択された国内規定の違反に適用される罰則の規則が定めています。
そして、それらの履行を確保するために必要なあらゆる措置を講じ、効果的で適切な抑止力を行使します。
違反の場合に課される罰則の種類とレベルを決定する際には、加盟国管轄当局は以下の点を十分に考慮しなくてはいけません。
- 侵害の性質、重大性、範囲および期間を考慮する。
- 侵害の故意または過失の性質や、消費者が被った損害を軽減、または救済するために業者がとった措置を考慮する。
- 責任を負う個人、または企業の財務力を考慮に入れること。たとえば責任を負う法人の総売上高や個人の年収によっての判断が必要。
- 責任者による侵害から得られる経済的利益を考慮する。
- 事件の状況に該当するその他の悪化要因または緩和要因を考慮する。
- 国境を越えた加盟国での侵害に対しては、トレーダーに課せられる罰金を考慮する。EUの規制によって確立されたメカニズムを通じて、侵害に該当する場合はかかる罰則に関する情報を入手可能である。
さらに加盟国は、この指令の違反に対する罰則および措置には以下の規定が含まれるものとします。
- 違反行為から得られる経済的利益を事実上剥奪する罰金、および違反を繰り返す場合には罰金の水準を引き上げる。
- 当該商品の取引によりトレーダーが得た収益の没収を行う。
- 公共調達プロセスおよび入札手続き、補助金、譲歩を含む公的資金へのアクセスから最大 12 か月間一時的に除外されるものとする。
- 加盟国はEUの規制に従って罰金が課される場合、当該罰金の最高額が関連する加盟国におけるトレーダーの年間売上高の、少なくとも 4% を確保するものとする。
LCA(ライフサイクルアセスメント)の重要性
ここまで、欧州グリーンクレーム指令案の内容を、12の項目に分けて詳しく解説してきました。
欧州グリーンクレーム指令案では、グリーンウォッシュ回避のために特にLCA(ライフサイクルアセスメント)での環境負荷削減や調査を行うことの重要性が述べられていました。
「ライフサイクル」とは、原材料の調達または天然資源からの生成、製造、保管、流通、修理、アップグレードまで含めた製品の誕生から寿命までの一連のプロセスを意味します。
LCAの基礎知識や重要性についてこちらの記事に詳しく解説しておりますので、ぜひご覧ください。
関連記事:LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?わかりやすい徹底解説
まとめ
欧州グリーンクレーム指令案について、可能な限りわかりやすく内容をまとめてご紹介しました。
日本におけるグリーンウォッシュ規制に対しても、欧州グリーンクレーム指令案が多大な影響を与える可能性が高いため、この先も動向を注視する必要があります。
本記事で欧州グリーンクレーム指令案についての知見を深め、いざというときに慌てることなく自社のグリーンウォッシュ対策を行ってください。
しかし、環境に対する専門的な知識がなければ具体的な対応策を取ることが難しいのも事実です。
そのような場合は外部専門家によるアドバイスが大いに有効です。
株式会社ゼロックでは、LCAにおける環境負荷算定の専門性と環境ルールの情報ネットワークを駆使し、貴社の環境経営を大きく支援可能です。
ぜひ、お気軽にお問い合わせ下さい。