【製造業/工場】カーボンニュートラルの重要性や取り組み事例を解説

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松井大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

目次

製造業におけるカーボンニュートラルの重要性とは?取り組み事例も解説

政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」により、経済界の脱炭素への取り組みは加速しています。

なかでも工場を持つ製造業におけるカーボンニュートラルの取り組みは不可欠ですが、その重要性を理解している方は多くありません。

そこで今回は、製造業におけるカーボンニュートラルの重要性と取り組むべき施策について解説し、さらに実際の製造業の企業取り組み事例をご紹介します。

製造業のカーボンニュートラルの重要性について知見を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。

本記事でわかること

  • 日本の温室効果ガス排出量(CO2換算)は、産業部門によるものが一番多い
  • 製造業がカーボンニュートラルを実現するためには、DX化の推進・GHGプロトコルによる温室効果ガス排出量の視覚化・事業環境変化への素早い対応が重要
  • 製造業のカーボンニュートラルを実現には、新たなイノベーション創出・省エネルギー化実現・企業の環境価値を向上というメリットがある

カーボンニュートラル宣言とは

カーボンニュートラル宣言とは

まずは国内の脱炭素化を推進するきっかけとなった「2050年カーボンニュートラル宣言」について簡潔に解説します。

また、岸田内閣の「新しい資本主義」の施策には、カーボンニュートラルの実現も掲げられているため、併せてご紹介します。

世界に発信された日本のカーボンニュートラル宣言

2020年10月に菅総理によって「2050年カーボンニュートラル宣言」が臨時国会で表明されました。

「2050年カーボンニュートラル宣言」の最大の意義は、世界に向けて日本が脱炭素化を実現するという発信を行ったことです。

これにより世界中のカーボンニュートラルを目指す国と情報を共有し連携が可能になりました。

脱炭素化という地球規模の課題は一国で解決できるものではありません。

特に企業のサプライチェーンがグローバルに発達している現代において、パートナー企業国との協力は欠かせません。

「2050年カーボンニュートラル宣言」は、日本が世界とカーボンニュートラルを目指すための大きな一歩となりました。

日本が取り組む新しい資本主義とは?

岸田内閣は経済政策として「新しい資本主義」を掲げています。

重要とされているのは「成長と分配の好循環」であり、「社会課題の解決」と「経済成長」の2本が柱です。

施策のなかにはカーボンニュートラルの実現も盛り込まれており、「エネルギー供給構造の変革だけでなく、産業構造、国民の暮らし、そして地域の在り方全般にわたる、経済社会全体の大変革に取り組み」が謳われています。

今後は、そのためのイノベーション推進や、スタートアップ実現に力を注ぐ方針です。

なぜ製造業の脱炭素化が重要なのか?

製造業の脱炭素の重要性

企業の中でも特に製造業の脱炭素化が重要と言われている背景には、以下の3つの理由が挙げられます。

  • 部門別CO2排出量は産業界がトップ
  • 多くのステークホルダーと連携が可能という強み
  • 2050年グリーン成長戦略の推進

それぞれを詳しく解説していきましょう。

部門別CO2排出量は産業界がトップ

温室効果ガスの大部分を占めるのはCO2です。

環境省の報告によると、2020年度の日本のエネルギー起源によるCO2排出量は10億4,400万トン(CO2換算)でした。

そのうち部門別にみると、電気・熱配分後のいわゆる間接排出量が、産業部門で約35%となりトップを占めました。

製造業では製品を生産し工場を稼働させるために、膨大な熱エネルギーを使用し大量の温室効果ガスを排出します。

製造業は経済界の根幹をなすと言っても過言ではないため、将来的な温室効果ガス削減を実現するためには製造業の取り組みが必須なのです。

部門別CO2排出量イメージ

引用:環境省「2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要」

多くのステークホルダーと連携が可能という強み

多くのステークホルダーやサプライヤーと係わりながら生産活動を行う製造業は、カーボンニュートラルの取り組みにおいても多様な場面で影響力を発揮できます。

脱炭素推進を多数のステークホルダーと連携して行えば、業界全体の環境価値向上や、消費者への意識改革へとつながり、経済社会システムの変革を促すリーダーシップをとることが可能です。

ステークホルダーやサプライヤーとの連携が強い製造業が、カーボンニュートラル達成をすれば、サーキュラーエコノミー(循環型経済)社会の実現の可能性は大いに高まるでしょう。

 2050年グリーン成長戦略とは

「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」とは、脱炭素推進をきっかけに産業構造自体を見直し、さらに新たなビジネスチャンスの成長の機会へとつなげるための取り組みです。

2050年までに成長が期待される14の分野に重点を置き、イノベーションの創出や産業システムの転換を促進することが狙いです。

2020年にはグリーンイノベーション基金が設立され、2兆円近い予算でこれらの14分野の支援を行うことが決定しました。

その他にもカーボンニュートラルに向けた投資促進税制や、グリーンボンドの取引を活発化させる「グリーン国際金融センター」の設立などが構想されています。

カーボンニュートラルに関わる市場が今後拡大することは間違いなく、製造業界も素早いアクションが必要です。

経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

引用:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

製造業が取り組むべきカーボンニュートラルの施策とは

製造業のカーボンニュートラル施策

製造業がカーボンニュートラルを実現するためには、その場限りではない現実的な以下のような施策が求められます。

  • DX化の推進
  • GHGプロトコルによる温室効果ガス排出量の視覚化
  • 事業環境変化への素早い対応

それぞれどのような施策なのかを見ていきます。

DX化の推進

DX化を推進しAIなどの情報通信技術を活用し、現場の装置や設備の稼働状況をリアルタイムで把握することは、製造業における属人化のリスクを減らすことにつながります。

DX化で現場の状況に迅速に対応できれば、エネルギーコストの削減につながり生産力をたかめ、温室効果ガス削減に効果を発揮します。

また、製造業はサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算出する必要があるため、データをどのように集めるかも課題となります。

DX化を推進することはサプライヤーや物流、製品の使用まであらゆる場面でのデータの収集、集計に役立ちます。

GHGプロトコルに準拠した温室効果ガス排出量の見える化

GHGとは温室効果ガスのことです。

企業の温室効果ガス排出量算定と報告は、国際基準の「GHGプロトコル」で規定されており、特にサプライチェーン排出量が重視されています。

サプライチェーン排出量とは、事業活動に伴う温室効果ガス排出量のことで「Scope」と表現されます。製造業の事業活動はScope1から3すべてに該当します。

GHGプロトコルによる温室効果ガス排出量の視覚化
Scope1自社が排出する温室効果ガスで直接排出ともいう。エネルギーの燃焼や製造過程での排出等
Scope2他社から供給された電気や熱の使用により排出されるもの。間接排出と呼ばれる
Scope3Scope1.2以外の間接的な排出をいう。事業家活動全般の他社の排出等
引用:環境省「サプライチェーン排出量全般」

カーボンニュートラルへの取り組みは、自社がどの程度の温室効果ガスを排出しているのかしっかりと把握したうえで行うことが大切です。

そのためにはLCA(ライフサイクルアセスメント)を通じた温室効果ガス排出を確認することが必要となります。

LCAとは、資材の調達から加工まで、そして製品の製造から廃棄に至る全ての過程での環境負荷を定量的に評価する方法です。

自社の事業活動や製品製造の過程で、どのくらいの温室効果ガスが排出されているかを数値で知ることができれば、より具体的なカーボンニュートラルへのロードマップが見えてきます。

LCA(ライフサイクルアセスメント)については、こちらの記事でわかりやすく解説しております。
関連記事:LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?わかりやすく解説します

国内外におけるカーボンニュートラルへ情勢の把握

カーボンニュートラルを達成しつつ、製造業界が国際競争力を維持し強化していくためには、世界的な環境課題への取り組みに対して敏感になることが必要です。

もはや企業は環境課題への取り組みを抜きにして、国際競争を勝ち抜くことはできません。

政府は2022年には、基礎素材関係の業界団体・企業6者からヒアリングをなどを行い、今後の日本の素材に限らない様々な分野での変革を始めています。

特に、鉄鋼・化学等の製造業界は日本の経済を支えてきた重要な存在であり、カーボンニュートラル対策による事業環境変化にいち早く対応する必要があります。

たとえば、CDP、SBT、RE100等の国際的な気候変動イニシアティブに参加し、世界や国内の各種脱炭素についての最新動向を知ることも一つの方法です。

企業の具体的な脱炭素経営についてはこちらの記事も参考にご覧ください。
関連記事:脱炭素経営とは?メリットや具体的な取り組みを解説

製造業がカーボンニュートラルを実現するメリット

製造業がカーボンニュートラルを実現するメリット

ここでは製造業がカーボンニュートラルを実現することで得られるメリットをご紹介します。

主なメリットは以下の3つです。

  • 新たなイノベーションを創出する
  • 省エネルギー化を実現する
  • 企業の環境価値を向上する

新たなイノベーション創出

製造業がカーボンニュートラルを実現することは新たなイノベーション創出につながります。

経団連によると産業部門の各業界では、すでにカーボンニュートラルに向けて以下のようなビジョンが打ち出され、イノベーション創出に向けた動きが開始されています。

分野ビジョン
鉄鋼ゼロカーボン・スチールの実現に向けて、⾼炉などの設備のCO2の抜本的削減に加えてCCUSの開発を行う。さらに「⽔素還元製鉄」といった超⾰新的技術開発に挑戦する。
化学化学の潜在⼒を発揮し、地球規模の社会課題を解決し持続可能な社会の成⻑に貢献するイノベーションの創出を推進・加速していく。CO2の原料化、廃棄プラスチック利⽤など。
製紙再⽣可能エネルギーの利⽤拡⼤や効率の高いパルプ製造⽅法の開発などの⾰新的技術を推進。独自の取り組みとしては⽊質バイオマスから得られる環境対応素材の開発・利⽤によるCO2排出量削減も実施。
電機・電子多様な事業分野を通じて気候変動・エネルギー制約にかかる社会課題の解決を行う。脱炭素化技術の⾰新(スマートグリッド、パワー半導体他)、⾃動運転⽀援システム、スマートファクトリーなどの情報ソリューションの実装推進
出典:経済広報センター「経団連カーボンニュートラル行動計画」

省エネルギー化

温室効果ガスの削減を実現するということは自社のエネルギーシステムを見直すということです。

事業においてエネルギー消費の無駄はないか、どれだけ電力を使用しているかなど、改めて確認することで見えてくるものがあります。

しかし、そのためには自社のエネルギー使用量を数値化し、可視化しなくてはいけません。それにより、徹底した管理を行えばエネルギー削減につながり省エネ化が実現します。

また、使用エネルギーをクリーンエネルギーである再生可能エネルギー(以下再エネ)に転換することも有効です。

電力の再エネ化は世界的な流れであり、国内でも再エネ活用を企業に推進しています。企業が再エネを利用するには「再エネの導入」「再エネ電力の購入」「再エネ電力証書の購入」などの方法があります。

企業価値の向上

カーボンニュートラル実現に向けてさまざまな取り組みを行うことは、社会や消費者に向けて広く環境価値向上をアピールすることになります。

特にESG投資家は、環境配慮を行わない企業に対して厳しい目を向けており、今後環境に対しての取り組みを行わない企業は資金調達さえ困難になるかもしれません。

世界のESG投資額を集計しているGSIAの報告よれば、2020年の世界のESG投資総額は全体で35兆3千億ドルにも及び、2018年の総額からは15%、2016年の総額からは55%の増加となりました。

企業の環境価値を向上することは、このようなESG投資価値も同時に生み出します。

出典:GLOBAL SUSTAINABLEINVESTMENT REVIEW 2020

こちらの記事も参考にご覧ください。
関連記事:ーボンニュートラルはおかしい?よくある矛盾と問題点

製造業のカーボンニュートラル取り組み事例紹介

製造業の取り組み事例

ここからは、工場を持つ製造業の企業における取り組み事例をご紹介します。

三菱重工サーマルシステムズ株式会社

三菱重工サーマルシステムズ株式会社は、空調メーカーに先駆けて、低GWP(地球温暖化係数)冷媒を使用した冷凍機の開発や、年間のCO2排出量を抑えることが可能な高性能ターボヒートポンプの製造など、環境負荷低減を図る製品の開発を行っています。

出典:三菱重工サーマルシステムズ株式会社「サステナビリティ」

オムロン株式会社

Scopeごとの目標を定めた取り組みを実施。

Scope1.2では2030年度は2016年度比で65%削減、Scope3では2030年度は同じく2016年度比で18%削減が目標です。

企業の再生可能エネルギー転換への取り組みとしては、国内だけではなく中国、イタリア、インドネシアの14拠点で、太陽光発電を推進しています。

省エネ対策としては設備改善・設備投資を積極的に行い、自社のCO2削減を行っています。

出典:オムロン株式会社「サステナビリティ」

岩谷産業株式会社

「Iwatani J-クレジットプロジェクト」の創設や、製造業に対してサプライチェーン全体のCO2排出量を可視化できるクラウドサービスの提供などを実施しています。

また、水素の持つ可能性に早くから着目し、燃料電池自動車(FCV)向けの水素ステーションの設置、さらに水素発生装置、純水素燃料電池の開発を行い積極的な温室効果ガス削減に取り組んでいます。

出典:岩谷産業株式会社「低・脱炭素ソリューション」

東洋紡株式会社

GHG排出量の Scope1.2削減率46%以上(2013年度比)の目標を掲げて、2050年度にネットゼロ達成を目指しています。

風力発電用の洋上ケーブル・燃料電池車の電池接着シート、 大規模蓄電池用電極材、 水素関連材料などの開発を行い、新規ソリューション分野に参入しています。

出典:東洋紡株式会社「サステナビリティ」

カーボンニュートラルに対する企業の取り組み事例に関しましてはこちらの記事もご覧ください。
関連記事:企業のカーボンニュートラルの取り組みとは?事例も紹介

製造業のカーボンニュートラルまとめ

カーボンニュートラル実現のために製造業の取り組みが如何に重要かを解説し、どのような施策を講じればいいのかを紹介しました。

世界のカーボンニュートラルへの機運はいよいよ高まっており、国内での取り組みも加速しています。カーボンニュートラルに取り組むことは、もはや企業の社会的責任と言っても過言ではありません。

本記事では製造業の企業事例を紹介していますので、ぜひカーボンニュートラルの自社への取り組みの参考としてください。

株式会社ゼロックでは、専門的知見を基にLCAや企業のカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みに対しての支援が可能です。

ご興味がある企業担当者の方はぜひお問い合わせください。


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