森林によるCO2吸収量を推進する取り組みとは?企業事例も解説

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松井大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

目次

地球温暖化を抑止し持続可能な社会を構築するためには温室効果ガスの排出量の削減が必須です。

温室効果ガス削減には、森林等によるCO2吸収量を増加させることが重要であり、特に脱炭素を推進する企業はそれらの活動に貢献することが望まれます。

今回は森林によるCO2吸収量や計算方法、企業としてCO2吸収量増加にどのように取り組めばいいのか事例を含めて、具体的に解説します。

温室効果ガスの排出量・吸収量・除去量

まずは温室効果ガスの排出量や吸収量について解説していきましょう。

温室効果ガスの排出量・吸収量とは

温室効果とは、地球の表面の大気が太陽から来る熱を保持し、一定の温度を保つ効果のことを言います。これらの効果がある大気中の気体のことを総じて「温室効果ガス」と呼び、主なものはCO2(二酸化炭素)です。

温室効果は地球の表面の温度を一定に保つという役割がある一方で、温室効果ガスが大量に発生することで、地表の温度が過度に上昇し地球温暖化が加速するという問題があります。産業革命以前よりすでに地球の平均気温は約1度上昇したと報告されています。

そのため、温室効果ガスを過度に発生させないように、排出量や吸収量、除去量について、環境経営に取り組む企業はしっかりと把握しておくことが重要です。

世界における温室効果ガス排出量と吸収量

それでは世界における温室効果ガスの排出量や吸収量はどのようなものなのでしょうか。ここではIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告をもとに解説していきます。

世界の人為的温室効果ガス排出量

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、人為的な温室効果ガスの排出量が過去30年間増え続けていると報告しています。1850~2019年の累積CO2排出量は2400±240GtCO2に上り、このうちの42%が1990年以降の排出です。2010〜2019年の世界の人為的温室効果ガス排出量は過去最大となりました。

特に先進国全体の温室効果ガス排出量はピークに達していると言われており、一刻も早い削減の実現が望まれます。このまま温室効果ガスの増加が続けば、21世紀中に地球温暖化による気温上昇は1.5℃を超える可能性を否定できません。温暖化を2℃より低く抑えるには、2030年以降の急速な緩和努力の加速に頼るしか方法がなくなります。

世界の人為的温室効果ガス排出量

引用元:環境省「IPCC第6次評価報告書の概要」

温室効果ガスのうちメインとなるCO2の世界の排出量は、2020年度の段階で約314億トンにもなりました。そのうち上位3位を占めるのは、「中国」「アメリカ」「インド」です。日本も5位につけているため、先進国として真剣に取り組む必要があります。

世界の二酸化炭素排出量

引用元:全国地球温暖化防止活動推進センター「世界の二酸化炭素排出量(2020年)」

世界の温室効果ガス吸収量

では、世界の温室効果ガスの吸収量はどのようになっているのでしょうか。森林による吸収量は樹齢や種類によって異なりますが、IPCCによると2050年まで世界の森林が吸収する炭素量は、化石エネルギー燃焼による炭素排出量の10〜20%に相当すると言われています。

森林によるCO2吸収量のほかに、近年ブルーカーボンによる吸収量も注目されています。ブルーカーボンとは海藻やマングローブ林等、海洋生物が吸収する炭素のことを指します。

ブルーカーボンについての記事はこちらになりますので、ぜひご覧ください。

カーボンニュートラルの定義

温室効果ガスの削減において最も重要となるのがカーボンニュートラルの考え方です。カーボンニュートラルとは、一言でいうと「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」です。

具体的に解説しますと、人間が生活するうえで排出されるCO2をはじめとした温室効果ガスを可能な限り削減する努力をしたうえで、削減できなかった分を森林保全や植林による吸収量で実質「ゼロ」にする取り組みと状態を指します。

日本では2020年に菅元首相が「2050カーボンニュートラル宣言」を行ったことでにわかに注目を浴び、産業や企業への脱炭素化推進のきっかけとなりました。

カーボンニュートラルに関してはこちらで詳しく解説していますので、ご覧ください。

CO2を吸収・除去する技術ネガティブエミッション

森林によるCO2吸収のほかに温室効果ガスの回収や貯留を行い、大気中のCO2を除去する方法も存在します。2050年までにCO2排出を実質ゼロにするためには、企業や家庭でのCO2排出量削減だけでは困難なため、大気中に存在しているCO2を除去することが不可欠です。

このように大気中のCO2を吸収・除去する技術を「ネガティブエミッション技術」と呼びます。代表的なものをいくつかご紹介しましょう。

CCS排気ガスや大気中のCO2を回収し地中に貯留する技術
DACCS大気中のCO2を回収・分離しCCSによって貯留を実施する
BECCSバイオマス燃料の燃焼排気ガスに対してCCSを実施する

ネガティブエミッションの工学的プロセスによる技術開発は近年促進しており、今後のCO2除去量の寄与に期待が高まっています。

CO2吸収源としての森林の重要性

森林の重要性

温室効果ガスのメインであるCO2を最も吸収するものとして期待されているのが森林です。ここではCO2吸収源として森林が注目されている背景や、森林によるCO2吸収量の算定方法をご紹介します。

森林のCO2吸収量が注目される背景

2022年10月に、英国グラスゴーにて開催された「国連気候変動枠組約第 26 回締約国会議(COP26)」では2030年までに森林減少に歯止めをかけるための共同宣言「森林・土地利用に関するグラスゴー・リーダーズ宣言」が発表されました。

気候変動対策としての森林保護の重要性が謳われ、各国が協力することを宣言する内容で、11月末には140か国が協力を宣言しています。

森林は成長する過程で多くのCO2を吸収します。そのため若い樹木が増加すればCO2吸収量も拡大することが可能です。しかし1990年から2000年までの10年間で、約9400万ヘクタールの森林が失われているという現実があります。

森林のCO2吸収能力を向上させるためにも、多くの国が協力して植林活動や森林保護を行うことが重要です。

森林によるCO2吸収量は

関東森林局によると林齢50年の杉の人工林面積1ヘクタール当たりの炭素貯蔵量は170トン、1本当たりでは約190kgになるそうです。これは1年間平均で1本当たり約3.8kgの炭素(約14kgの二酸化炭素)が吸収される計算になります。

ここから年間の森林のCO2吸収量を、参考に表にまとめました。

【森林による年間のタイプ別CO2吸収量】

タイプ排出量(年間)吸収に必要な木の本数
人間一人分約320㎏約23本
自家用車約2300㎏約160本
1世帯約6500㎏約460本

森林によるCO2吸収量の計算方法

森林のCO2吸収量の計算式は以下になります。

  • 吸収量(炭素トン/年)=幹の体積の増加量(m3/年)×拡大係数×(1+地上部・地下部比)×容積密度(トン/m3)×炭素含有率

森林の1年間の幹と枝や葉、根などの増加した量から炭素の増加量を算定します。ただし拡大係数や容積密度は樹木の種類によって異なります。また、森林は広大な面積を有しているため、全てのCO2吸収量を算出することは困難です。

森林のCO2吸収量推進のための取り組み

森林のCO2吸収量推進のための取り組み

CO2の吸収源となる森林を増やすことはCO2吸収量を増加させます。ここでは森林のCO2吸収量推進のためにどのような取り組みがあるのか、国内の施策を含めて解説します。

森林保護や植林活動の推進

CO2吸収源となる森林保全には官民一体で取り組むことが非常に重要です。世界に目を向けると特に中国の森林保全活動は目覚ましく、中国政府は2030年までに森林蓄積量を60億m3増やすことを目標としています。またサハラ砂漠では緑化運動として「緑の長城計画」等が行われています。

また、植林はもちろんのこと、適切な伐採や間伐もCO2吸収には重要です。間伐採を実施することで、日光が行き届き森林の成長が促進され、吸収するCO2の量も増加します。多様な森林保護や植林活動が推進されることが、CO2排出量削減へとつながっていくのです。

木材産業におけるグリーン成長の実現

日本では、2050年カーボンニュートラルを視野に「グリーン成長」の実現を目指す森林・林業基本計画が策定されました。グリーン成長の施策には次のような5つのポイントがあります。それぞれを簡単に解説します。

  1. 森林資源の適正な管理・利用

再造林や複層林化を推進することで、循環利用を進めながら多様で健全な森林の姿へ誘導し、同時に天然生林の保全管理や国土のレジリエンス化、森林吸収量確保に向けた活動を行います。

  1. 「新しい林業」に向けた取組の展開

「新しい林業」として、伐採から再造林・保育に至る収支のプラス転換を行い、「長期にわたる持続的な経営」を目指していきます。

  1. 木材産業の競争力の強化

外材等に対抗できる国産材製品の国際的な競争力を向上するために、供給体制を整備します。さらに多様なニーズに応える多品目製品の供給を行い、地場競争力を高めていきます。

  1. 都市等における「第2の森林」づくり

中高層建築物等に木材を利用することで、都市における炭素を貯蔵し温暖化防止につなげていきます。

  1. 新たな山村価値の創造

森林サービス産業を育成することで山村地域における人口の拡大を目指していきます。また、集落を維持するため、農林地の管理や利用などに積極的に協働活動を推進していきます。

日本の取組【森林×脱炭素チャレンジ】

林野庁では「森林×脱炭素チャレンジ」を実施しています。カーボンニュートラル実現のために、森林によるCO2吸収量の確保や強化を行い適切に整備、保全することがねらいです。そのためには経済活動を担う企業の参画が重要な要素です。

「森林×脱炭素チャレンジ」では、企業や組織による森林づくり等を「脱炭素」の重要な施策として顕彰することで、より多くの企業等に森林づくりにチャレンジしてもらうきっかけとしています。

企業事例

企業事例

ここでは実際に植林や森林保全を行っている企業の事例を3つご紹介します。

大和ハウス工業

自然環境との調和を掲げている大和ハウス工業は、2030年までに建築物の木材の調達に伴う森林破壊をゼロにし、2055年までには材料調達による森林破壊を完全になくすことを目指しています。

そのため、「森林破壊ゼロを掲げるサプライヤーからの木材購入」や「原産国における先住民、労働者の権利、安全に配慮した木材を取り扱うサプライヤーからの調達」等の方針を掲げています。

参照:大和ハウス工業株式会社「森林破壊ゼロの達成に向けた木材調達の方針を策定」

株式会社NTTドコモ

NTTドコモは、自然保護活動として「ドコモの森」づくりを推進しています。全国47都道府県、49か所に「ドコモの森」を設置し、毎年、ドコモグループ社員が、現地の森林管理署・管理団体の協力を得て継続的な活動を実施しています。

具体的には「ドコモふれあいの森」のゴミ拾い等の整備活動の実施。また木々の生育環境の見守り等を行っています。

参照:NTTドコモ「サステナビリティ」

株式会社山形銀行

森林×脱炭素チャレンジ2023で優秀賞を受賞した「株式会社山形銀行」は、県が推進する「やまがた絆の森づくり」に賛同し、森林整備への支援や県内の信用金庫と連携した植林活動などを実施。さらに違法伐採が疑われる事業への投融資は行わない方針を表明しました。

また間伐材したものは県内の集成材工場等に運ばれ、約1割が建築用材として使用。残りはバイオマスとして有効利用することで、地産地消による循環型の地域資源の活用を可能としました。

参照:林野庁「森林×脱炭素チャレンジ2023 受賞者レポート」

まとめ

CO2排出量の減少は、脱炭素の取り組みに欠かせません。そのためにCO2吸収量や除去量を高めることが必要となります。しかし森林によるCO2吸収は重要であると叫ばれる一方で、人間の手によりアマゾンなどの熱帯雨林が急速に失われている現実があります。

脱炭素経営を目指す企業は、持続可能な社会構築に貢献するためにも率先して森林保全を行うことが求められていくでしょう。

脱炭素経営やカーボンニュートラルについて詳しく学び、自社の環境価値を高めたいという企業担当者の方は、専門的な知見を持つ弊社にぜひお気軽にお問い合わせください。

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