カーボンハンドプリントとは?意味やCFPとの違いについて解説

松井大輔
松井大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

目次

企業が炭素の排出量削減に取り組む際の新しい指標として登場した”カーボンハンドプリント”。

2022年に開催されたCOP27や、2023年に開催されたG7サミットなどでも言及され、世界的にも注目が集まっています。

まだまだ先進的な内容でもありますが、既に一部の企業では算定等に取り組んでいる重要な概念です。

そこで、この記事ではカーボンハンドプリントの意味や具体的な取り組みの事例を紹介します。

カーボンハンドプリントとは?

カーボンハンドプリントのイメージ

「カーボンハンドプリント」は低炭素な製品やサービスを利用することで回避される炭素の排出量を示す新しい指標です。

企業単位のGHG排出量の場面においては、自社の製品・サービスが社会全体のGHG排出削減に貢献した量として、「Scope4」といった表現をすることもあります。

GHGプロトコルの発行団体であるWBCSDでは、「GUIDANCE ON AVOIDED EMISSIONSavoided emissions」(削減貢献量)と呼ばれています。

使用することで回避される炭素の排出量

一方、GHGプロトコルの発行機関でもあるwbcsdでは、「Guidance on Avoided Emissions」を発行したうえで、これらの概念をAvoided Emissions(削減貢献量)と定義しています。

カーボンハンドプリントの例

電力を例にとると、再生可能エネルギーによる電気を売っている電力会社は、その電気を購入した企業や消費者が排出するはずだった炭素を削減することに貢献しています。

今では、単純にその製品やサービスにどれくらいのGHG排出量を要するかという観点でしか見られていませんでしたが、他の企業や消費者の排出するはずだった炭素の排出量まで考慮し、その削減効果を表現するのがカーボンハンドプリントです。

カーボンハンドプリントの算定・開示に取り組むことで、自社の製品やサービスの環境側面での優位性を定量的に表現することができるため、環境に良いと思われる製品を開発したけどどう表現したらよいかわからないという企業にとっては有効でしょう。

カーボンフットプリントとの違い

カーボンハンドプリントというキーワードに聞き馴染みがない人の多くは、カーボンフットプリントを思い浮かべるのではないでしょうか。

カーボンフットプリントは、製品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルまでGHG排出量を算定・開示する仕組みです。

カーボンハンドプリントは、カーボンフットプリントと混同されることもありますが、GHG排出量の見ている観点が異なりますので注意しましょう。

カーボンハンドプリント(削減貢献量)のルール整備

カーボンハンドプリントは、ポジティブな環境情報として、購買選定したり、公表企業を投資対象にしたりと、その利用に注目が集まっています。

一方で、先進的な取り組みのため、その算定方法がバラバラであり、自社で都合のいい見せ方をしている、実態のないマーケティングの手法に過ぎないという批判も受けてきました。

また、製品・サービスを提供する企業とそれを利用する企業で炭素削減量がダブルカウントとなり、実際よりも多い削減量が報告されるとの懸念もありました。

カーボンハンドプリントに関する議論は以前からあり、日本の産業界では2000年代から製品・サービス・技術による炭素排出量の削減をアピールしてきました。

業界団体が中心となりカーボンハンドプリントを算定するためのガイドラインを策定、さらに2018年には経済産業省もガイドラインを策定するなど積極的に取り組んできたのですが、前述のような批判から国際的にはなかなか普及しなかったのです。

しかし、社会全体での炭素排出量ネットゼロを目指し、持続可能な社会を実現するためには、これまで以上に積極的に、企業がより優れた気候変動に対するソリューションを開発し、提供していく必要があります。

そのためにカーボンハンドプリントのような考え方の必要性が認められ、国際会議などの場で、その重要性が確認されるようになってきたのです。

2023年3月にはWBCSDからカーボンハンドプリント(削減貢献量)の算出や報告に関するガイダンスが発行されました。

これまでも様々な団体がガイダンスを発行してきましたが、排出量算定のグローバルスタンダードであるGHGプロトコルを発行したWBCSDのガイダンスは今後グローバルスタンダードとなっていく可能性が高いでしょう。

2023年4月には、日本で開催されたG7広島サミットにおいて、”事業者自身の排出削減のみならず「削減貢献量」を認識することの価値を共有”したことが成果とされ、その重要性が確認されました。

このように、カーボンハンドプリントは世界的に注目を集めており、さらに、その活用の下地も整いつつあります。すでに日本でも、カーボンハンドプリントの現在の数値や将来に向け目標を公表している先進的な企業も登場しています。

削減貢献量についてはこちらの記事でよりくわしく説明しています。

カーボンハンドプリントの事例

炭素削減貢献量のイメージ

それでは、すでにカーボンハンドプリントに取り組んでいる先進的な企業の例を紹介します。

なお、出典元の情報では削減貢献量と称されているものが多いですが、カーボンハンドプリントと同様の方向性の指標です。

YKK AP

YKK AP

サッシメーカー大手のYKK APでは、断熱性能の高い窓などの製品によって冷暖房にかかるエネルギーを削減し、ネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)やネット・ゼロ・エネルギービル(ZEB)の普及に貢献することで、炭素排出量削減に貢献するとしています。

対象製品の削減貢献量を算定・公表しているだけではなく、将来的な目標を定めており、2024年度に696千t-CO2を計画しています。

メルカリ

メルカリ

メルカリは、東京大学インクルーシブ工学連携研究機構と共同でメルカリの取引を通じて削減に貢献したGHG排出量を算定し、公表しています。

削減貢献量は先進的な取り組みであるがゆえに、外部専門家の知見を活かしながら、ルールに則った、妥当性のある数値を算定することはステークホルダーから見ても信頼度が上がるでしょう。

衣類やスニーカー、電子機器等のカテゴリー別での削減貢献量を算定する他、日本/米国それぞれでの削減貢献量も開示しています。

出典:メルカリと東京大学、「メルカリ」の取引による温室効果ガスの削減貢献量を算出

オリックス

気候変動の問題ではエネルギー分野は特に重要視されている分野と言えるでしょう。電力エネルギー、熱エネルギーをはじめとしたエネルギーの多くは、長年その発生時に多くの炭素を排出するものでした。

そのため、エネルギートランジション(クリーンエネルギーへの転換)により炭素排出を抑えることが世界的に重要な課題となっています。

オリックス
出典:環境関連データーオリックス株式会社

エネルギー分野の大手であるオリックス株式会社は再生可能エネルギー事業による削減貢献量を公表しており、2022年3月期には約429万トン、2023年3月期には約466万トンもの炭素排出量削減に貢献したとしています。

オリックスグループ全体の炭素排出量(Scope1,2)の総量は2023年3月期で約112万トンとしており、実に354万トンも削減貢献料が排出量を上回っていることがわかります。

さらに、再生可能エネルギーによる削減貢献量は年々拡大しており、今後もさらに伸びていくことが予想されます。

増加するカーボンハンドプリントを公開する企業

今や多くの企業が製品やサービスを開発・提供するにあたって炭素排出量削減や環境負荷低減に取り組んでいます。

そのようななか、カーボンフットプリントだけでなく、カーボンハンドプリントの成果を公表する企業が増えています。

これまで紹介した事例以外でも、多くの企業が気候関連財務情報開示(TCFD)のなかで削減貢献量についても公表しています。

2021年度のCO2削減貢献量は、COVID-19の影響からの各用途販売量の回復に伴い、前年度比49%増の2.46百万t-CO2となりました。

出典:気候変動への取り組み(TCFDに基づく開示)-帝人グループ

<環境価値>
2022年度は、製品使用時CO2削減量は目標2.5万トンに対して実績は2.8万トンでした。CO2削減貢献量は目標64.4万トンに対して実績は62.4万トンでした。
2025年度は、製品使用時CO2削減量を2.3万トン、CO2削減貢献量は 80万トン(自社製品ライフサイクルにおけるCO2排出量以上)とする目標を設定しています。

出典:気候関連財務情報開示(TCFD)ーコミカミノルタ

気候関連財務情報開示(TCFD)への対応はすでに大企業では当たり前になってきていますが、今後はカーボンハンドプリントの測定と情報開示も重要なポイントなっていくでしょう。

カーボンハンドプリント(削減貢献量)算定は有効だが注意も必要

カーボンハンドプリントは自社製品のポジティブな環境表現ができ、それ自体が大きなモチベーションとなる重要な考え方です。

しかし、カーボンハンドプリントはポジティブな数値を公表する分、外部からの指摘リスクが高い分野でもあります。過大に有利な数値を公表しているとの誤解を受ければ逆効果にもなりかねません。

そのため、カーボンハンドプリントの算定には専門的な知識が特に必要です。

ゼロックでは、カーボンフットプリントを算定はもちろん、国際規格を参照しながら、カーボンハンドプリント(削減貢献量)も算定が可能です。算定や開示方法に不安を持っている企業担当者の方はぜひ一度無料相談にお申し込みください。

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