松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
Uが開発している「PEF(製品環境フットプリント)」についてご存じでしょうか。
環境フットプリントとは、LCA手法を通じて製品等の環境負荷を視覚化する手法です。サプライチェーンがグローバルに展開される時代、EUの「PEF」に関して日本も無関係ではありません。
そこで今回は環境フットプリントの基礎知識から、EUの「PEF」についての目的や規則、そして今後の動向まで詳しく解説します。
PEF(プロダクト・エンバイロメンタル・フットプリント)とは
PEF(Product Environmental Footprint)とは、EUが開発している環境フットプリントのひとつで日本語に訳すと「製品環境フットプリント」です。EUは環境領域への影響を評価する手法を策定するにあたり、「製品環境フットプリント(PEF)」と「組織環境フットプリント(OEF)」の2つ手法を提供しています。
ここではまずは環境フットプリントについて基本的な意味や種類を解説し、PEFについて概要や策定された背景などを解説していきます。
環境フットプリントとは
そもそも環境フットプリントとはなんでしょうか。フットプリント(footprint)とは足跡のことで、「占有領域」や「活動の及ぶ範囲」という意味があります。
環境フットプリントとは、直訳すると「環境の足跡」という意味になります。人間は地球上で生活するために、自然から多くの資源やエネルギーを消費しています。環境フットプリントとは人間活動が環境に対してどれくらいの負荷をかけているのか足跡をたどり、数値化して評価するための手法です。
環境フットプリントの種類
環境フットプリントにはいくつか種類が存在しますが、代表的なのものは次の2点です。それぞれを簡潔にご紹介します。
カーボンフットプリント
カーボンフットプリントとは「炭素の足跡」という意味です。その名の通り製品やサービスの温室効果ガス排出量をLCAを通じてCO2に換算して数値化します。地球温暖化を抑止するために重要なCO2排出量を把握することに特化した環境フットプリントで、世界で多く導入されています。
エコロジカルフットプリント
エコロジカルフットプリントは、「生態系を踏みつけている足跡」という意味になります。人間が資源を消費する量(需要)とバイオキャパシティと呼ばれる地球が生産・吸収する量(供給)を数値化し、比較することで環境にどれくらいの負荷をかけているかを評価します。
地球の表面積に対して人間の経済活動がどれくらい環境に影響を及ぼしているかを可視化可能です。現代の人間の消費活動を支えるには、地球1.7個分が必要と言われています。
カーボンフットプリントについてはこちらで詳しく解説していますのでご覧ください。
PEFとはEU(欧州連合)製品環境フットプリントのこと
PEFは製品やサービスの環境負荷を評価する手法で、EUにおいて最も信頼性が高く比較検証可能な方法のひとつと言われています。気候変動をはじめとして、水や大気、資源、土地利用等の環境領域を評価することが可能です。
PEF策定の背景と目的
EUがPEFを策定している背景には、製品を対象とした環境影響の評価方法や表示ラベルを欧州で統一するという目的が挙げられます。そのためには科学的根拠に基づいた共通のルールを開発する必要がありました。
PEFが策定された目的を具体的に示すと次のようになります。
- 生産システムによる環境への悪影響を削減する
- 生産プロセスの最適化と環境への問題領域の特定を行う
- 低コストで環境性能評価を普及する
- 環境分析のコスト削減を実施する
欧州グリーンディール政策
PEF促進にはEUが掲げる欧州グリーンディール政策が関連しています。欧州委員会は2030年までに1990年比で、排出量を55%以上削減するという新たな目標を打ち立てました。そしてEU をいち早く気候中立国(温室効果ガス排出を実質ゼロ)にするためにグリーンビジネスの成長を謳い、多額の予算を投入しています。
そのために必要なネットゼロ技術と製品の製造能力を拡大するためにもPEF推進の重要性が高まっているのです。
PEFはLCAに基づく手法
製品の環境への影響を評価するための手法としてはすでにLCA( ライフ サイクル アセスメント)が存在します。PEFもLCAに基づき行われます。そのためLCAとPEFでは何が違うのかわからないという方もいるようです。
ここではLCAについて簡単に解説し、LCAとPEFの違いについて解説していきましょう。
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは
LCAとは簡単に言うと製品やサービスの一生(ライフサイクル)を通じて環境負荷を評価する方法です。いわゆる製品の「揺りかごから墓場」までの環境評価を行います。
- 製品製造の資源の採掘段階
- 製品に使用される部品や材料が製造・精製される過程
- 製品が出荷され消費者のもとへ販売される過程
- 製品を消費者が使用し修理・メンテナンスを受ける過程
- 製品が廃棄され、さらにリサイクルされるまで
LCA(ライフサイクルアセスメント)についてはこちらでより詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
PEFとLCAの違いとは
PEFの方法論はLCAに基づくため、算定には一般的なLCAの算定を使用します。ただし、一部の規格においては解釈上の疑問が生じ、結果の一貫性や比較可能性が損なわれる可能性もあります。例えば、自社製品のLCA算定結果をもちいて、競合他社が公表しているLCA結果と比較しようとしても、それぞれの算定結果に至るまでに設定している算定方法や2次データベースが異なると、同一の基準で比較することはできなくなります。
そのため、EUは製品カテゴリー間で統一したルールを規程し、より製品を厳格に評価できるよう多くのステークホルダーの協力を得てPEF規則(PEFCR)を開発しています。PEFはLCAと同じく科学的な根拠に基づき製品の環境評価を行えますが、LCAと比較して次のような違いがあります。
- PEF は製品カテゴリ固有の要件と標準化されたルールに従っている。そのため結果の比較可能性は高いが、算定ルールが厳格である
- LCA とPEFではシステム境界が異なる。LCAは研究の目的と範囲に応じて測定基準が変わるがPEFの手法はPEF規則に則り、製品のライフサイクル全体をカバー可能。
- 耐用年数終了段階への対処が異なる。LCAが準拠する国際規格ISO 14044 では製品の廃棄、またはリサイクルなど耐用年数終了段階を考慮する必要があるとのみ規定されている。しかしPEF は耐用年数終了プロセスの具体的なアプローチと公式を提供している。
- PEF はデータベースによる比較可能性を提供するため、同製品内でのカテゴリでのベンチマークに適している
PEFCR(製品環境フットプリントカテゴリー規則)の定義
PEFの規則は「PEFCR(製品環境フットプリントカテゴリー規則)」と表記され、特定の製品カテゴリに対する詳細なガイドラインを提供しています。
ここでは実際のPEFCRの定義や影響領域について解説していきましょう。
PEFCRの定義とは
前述したようにPEFCRはLCA手法に準拠しているため、すでに国際規格ISO14025などの類似ルールが存在しています。しかし類似ルールとの混同を防ぐために、独自のルールや評価方法があるPEFCRという新たな名称がつけられたのです。
これまでのLCA手法は、すべての製品において環境性を主張するための統一されたルールや根拠、具体性が十分ではありませんでした。あらゆる領域や複数の製品に対処できるように、一貫したルールや妥当性を定義したものがPEFCRです。
参照:環境省「環境フットプリント(EF)のパイロット段階におけるEU 製品環境フットプリント(PEF)の実施ガイダンス」
PEFCR の影響領域
PEFCRの影響領域と16の項目を表にまとめました。
影響領域 | 項目 |
生態系 | 酸性化 陸地の富栄養化 淡水の富栄養化 海洋富栄養化 海洋富栄養化 |
人間の健康 | オゾン層破壊 人体への毒性、癌以外の影響 人体毒性による癌への影響 粒子状物質電離放射線 光化学的オゾン生成 |
気候変動 | 地球温暖化 |
天然資源 | 鉱物資源の枯渇 再生不可能なエネルギー 資源の枯渇 土地の使用 |
水 | 水不足によるフットプリント |
製品カテゴリ
PEFの対象となる具体的な製品カテゴリを参考にご紹介します。
バッテリー/アキュムレータ・装飾用塗料・温水・冷水供給管・家庭用洗剤・中間紙製品・IT機器・レザー・フットウェア・PVエネルギー発電量・断熱材・Tシャツ・ビール・コーヒー・乳製品・食糧生産動物の飼料・海洋魚 (販売終了)・肉類(ビーフ、ポーク、ラム)・オリーブオイル・ペットボトルウォーター・パスタ・ペットフード(犬猫用)・ワイン等 |
PEFは製品カテゴリごとの固有の要件やルールに従います。具体的にいうとアパレルカテゴリなら、シャツやドレス、アクセサリー、ブーツ等の履物に至るまで細かくカバーすることが可能です。
PEFの動向と日本への影響
PEFの開発は進行中であり現在はパイロット(移行)フェーズ ですが、2024 年末までに移行段階を完了する予定です。
そのためPEFの導入は、EUにおいてもまだ義務ではありません。しかしすでに建設産業では PEF 基準による事業活動を行うなど、積極的に以降を行っている分野もあります。
実際の期限と実装段階が迫っているため、今後もPEFの最新動向を注視していく必要があります。
PEFの推移
【2008〜 2013 年】準備段階を経て、製品環境フットプリント カテゴリ規則 (PEFCR)策定
【2013~2019年】パイロットフェーズ策定・PEFCRの最初の実用テスト実施
【2019~2021年】移行期PFCRの大規模適用と統一ラベルの実施
【2021 年以降】EUの法律で PEF が義務付けられる地域・時期についての報告
【2024年度末】PEFに移行段階完了
日本企業への影響
PEFはEUにおける環境フットプリントですが、今後本格適用されればサプライチェーンがグローバルに展開する時代、日本においても影響が考えられます。
実際にEV等に使用される蓄電池(バッテリー)に対して、2023年から施行された「欧州バッテリー規則」に準じた環境フットプリントを行う必要が求められています。法規適合がなされていない場合は、製品をEU域内に持ち込むことはできません。
今後対象製品が拡大される可能性を考慮して、日本企業もいちはやく経営に脱炭素化を掲げ環境フットプリントの施策に取り組むことが重要です。
まとめ:EUの取り組みを知り経営に脱炭素化戦略を!
EUで導入しているPEFについて、基礎となる環境フットプリントの知識からLCAとの違いまで解説しました。
気候変動対策においてEUは世界に先駆けた取り組みを実施しており、日本においてもその影響は小さくありません。何よりも企業が脱炭素化を推進することは世界の潮流です。大企業、中小企業に関わらず経営戦略に脱炭素を組み込むことが重要な時代です。
株式会社ゼロックはLCAによる環境負荷算定から、認証ラベルの取得、そして脱炭素経営の支援を行っています。まずはお気軽にお問合せ・ご相談ください。