松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
企業が消費者に向けて自社の事業活動における環境主張を行う場合に、最適な情報表示を推進する重要な役割を果たすのが環境表示ガイドラインです。
環境表示ガイドラインは、国際規格の考え方に基づき策定されており、企業が確実で正確な環境活動の情報を表示するための指針となります。
環境問題が複雑化するなか、企業と消費者が円滑な環境コミュニケーションを行うためには、環境表示ガイドラインが非常に重要です。
本記事では環境表示ガイドラインについての知見を深め、さらに企業の適切な取り組み方についても学ぶことが可能です。ぜひご一読ください。
環境表示ガイドラインとは
まずは環境表示ガイドラインの概要、そして策定された背景や目的について解説していきましょう。
環境表示ガイドライン概要
環境表示ガイドラインは、企業が自らの表現や宣言によって行う環境表示に対して、どのような情報が必要なのか、どのような点に配慮しなければならないのかを指針を環境省がまとめたものです。
本ガイドラインでは、環境主張を行う企業に対して、国際規格であるタイプⅡ規格へ準拠した環境表示が求められていますが、第三者機関が運営する環境省ラベルであっても、認証ではなく、一定の基準や使用条件を満たす場合に企業が自ら環境ラベルを使用して環境主張をする場合は本ガイドラインの対象となります。
環境表示ガイドライン策定の背景
環境表示ガイドライン策定の背景には、環境ラベルの情報開示による以下のような課題がありました。
- さまざまな環境ラベルが氾濫しており、消費者にとっては意義や重要性が伝わりづらく、事業者にとってはどの環境ラベルを選択したらいいのか判断が難しい
- 企業の自己宣言による環境主張は、ISO/JIS Q 14021タイプⅡ環境ラベルとして国際的にルール化されているが、この規格に準拠しているものが少ない
- 環境ラベルには、正確性や情報に対するエビデンスの明確性が重要であるにもかかわらず、その基準が明確でない
このような課題を解決するために、環境省で環境表示の統一的な方法やあり方についての検討が行われました。そして平成20年に情報提供や将来的な方向性について、策定された最初の環境表示ガイドラインがまとめられました。その後改訂が施され、より有効に活用されるよう平成25年3月に再改訂が行われ、現在に至ります。
環境表示ガイドライン策定の目的
環境表示ガイドラインの重要な目的は、主に次の2つになります。
- 環境表示が消費者にとってわかりやすく、価値のある情報として機能すること
- 企業が適切な環境情報を開示するために必要な体制を構築し、ステークホルダーとの環境情報に関するコミュニケーションを深めていくこと
環境表示ガイドラインは、企業のグリーンウォッシュ(偽の環境主張)を防止し、企業と消費者の環境コミュニケーション形成を促します。また持続可能な循環型社会を構築し、消費者のグリーン購入を促進する手立てとして有効です。
グリーン購入法との関連
環境表示ガイドラインは、そもそもグリーン購入法を促進するために必要となる情報提供のあり方等についてまとめられたものです。
グリーン購入法とは、2000年5月に制定された「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」のことを指します。循環型経済による持続可能な社会の構築を目指し、国民が自ら率先して環境物品等を優先的に購入することで、供給・需要の双方から環境市場の拡大を促進するための法です。
グリーン購入法の促進は、SDGsやESG経営が重視される昨今非常に重要であり、そのためにも企業は環境表示ガイドラインに沿った透明性の高い環境表示が必要です。
環境表示ガイドラインのポイント
ここでは環境表示ガイドラインのポイントを、次の2つの項目から解説していきます。特に国際規格への準拠は重要なのでしっかりと把握しましょう。
- 対象・適用範囲
- 国際規格への準拠
①対象・適用範囲
環境表示ガイドラインの対象となる事業者は、「製造事業者」「輸入事業者」「販売事業者」 及び独占禁止法に規定される「事業者団体」です。事業者自らの判断で第三者機関が運営する環境ラベル等を使用する場合においても、環境表示ガイドラインの対象となり、タイプⅡ規格に該当する要求事項基準や使用条件を満たすことが求められます。
そのほか景品表示法の対象となる環境表示や、商品自体と事業活動やイメージ広告、企業姿勢に至るまで環境表示ガイドラインの適用範囲になります。
②国際規格への準拠
環境表示ガイドラインは原則として、ISO/JIS Q 14020(一般原則)及びISO/JIS Q 1402(タイプⅡ規格)に準拠することが定められています。
特に事業者が自己宣言による環境主張を行 う場合はタイプⅡ規格の要求事項として、次の5 つの基本項目が求められます。
- あいまいな表現や環境主張は行わないこと
- 環境主張の内容に説明文を付けること
- 環境主張の検証に必要なデータおよび評価方法が提供可能であること
- 製品または工程における比較主張はLCA評価、数値等により適切になされていること
- 評価および検証のための情報にアクセスが可能であること
1に関する具体例では、「自然や地球にやさしい」「グリーンな製品」等の耳当たりのいい言葉で、環境への配慮をほのめかす主張をしてはならないことが提示されています。具体的なデータも示さず曖昧な表現を使用することは消費者への誤解を生み、結果的にはグリーンウォッシュ(偽の環境主張)であると批判されかねません。
そのほかにも製品や工程における環境主張は、LCA手法により行うことが適切である等、具体的な指針が示されています。
また、次の3つのケースについても、タイプⅡ規格の要求事項が求められます。
- シンボルマークを使用する場合
- メビウスループのシンボルを使用する場合
- 特定の用語を用いた主張を行う場合
さらに国際規格と併せて望ましいとされている推奨事項は 次の3つです。
- 国際規格に即したLCA評価
- 環境表示に関する情報開示
- 第三者機関等が運営する認証システム等のシンボルマークに関しては、説明文を記入またはトレースできるようにすること
引用:環境省「環境表示ガイドライン【平成 25 年 3 月版】」
環境表示で企業が取り組むべき対策
それでは企業の環境ガイドラインに沿った適切な環境主張の取り組みとはどのようなものでしょうか。次の3つの視点から企業が取り組むべき姿勢について解説していきます。
- LCA・CFP算定による環境主張開示
- 環境ラベルを取得する
- 正確でわかりやすい情報公開
- 外部コンサルによるグリーンウォッシュチェック
①LCA・CFP算定による環境主張開示
環境表示ガイドラインでは、企業の事業活動のLCAにおける情報開示の重要性について示されました。ここではLCA手法について詳しく解説し、さらに脱炭素化を推進するための情報開示に大いに役立つCPF(カーボンフットプリント)手法について紹介します。
LCA(ライフサイクルアセスメント)手法
LCAとは、正確にはLife Cycle Assessment(ライフサイクルアセスメント)と言います。原材料調達から生産・輸送・素材製造・販売・リサイクルまで含めた製品の一生に対して、環境負荷を評価する手法のことです。
消費者への環境主張開示において何より大切なのは、企業の製品やサービスへの環境活動が一目瞭然であることです。一部をきり取った曖昧な情報では消費者は納得しません。明確な根拠を示し、企業が行った情報開示に対して理解を深めてもらう必要があります。そのためには製品やサービスを総合的かつ定量的に評価した、LCAにおける環境負荷軽減や優位性を判断した表示であることが望ましいと言えます。
LCA手法は、国際規格ISO14040シリーズに準拠した手法であるため、信頼性の高い定量的な評価の環境主張開示が可能です。企業が正確で明確な環境主張を開示するために最適な手法と言えるでしょう。
CFP(カーボンフットプリント)手法
CFP(カーボンフットプリント)とは、事業活動等のCO2排出量を算定するための手法の一つで、日本で制定されました。CFP手法は、製品やサービスLCAにかけての温室効果ガス排出量を算定し、「定量的」に表すことが可能です。そのため、脱炭素化を推進している企業が環境表示ガイドラインに沿った環境主張を行うのに適しています。
先に述べた「LCA」との違いは「影響領域」の範囲が異なります。LCAは地球温暖化(GHG排出量)だけではなく、資源消費や生物多様性といった影響領域も定量化が可能ですが、CFPは地球温暖化だけに着目しています。
さまざまな領域への影響を把握することは重要ですが、まだ地球温暖化に注目が集まっているのが現状です。
②環境ラベルを取得する
企業が環境主張をするのに、最も一般的な方法が環境ラベルの表示です。
環境ラベルとは簡単に
環境ラベルとは消費者に対して自社の製品やサービスが、環境に配慮した製品であることを示すマークや認証のことです。企業はホームページやウェブ、商品の説明書等を通じ、消費者に分かりやすく製品やサービスの環境に関する情報を伝えます。環境ラベルによる環境主張を希望するすべての企業は、国際規格である ISO/JIS Q 14020と、 ISO/JIS Q 14021に準拠したラベルを使用しなくてはいけません。
環境ラベルに関する国際規格の3つの分類を下記の表にまとめました。
タイプⅠ | タイプⅡ | タイプⅢ | |
ISO | ISO14024 | ISO14021 | ISO14025 |
第三者認証機関 | 有 | 無 | 有 |
例 | エコマークブルーエンジェルノルディックスワン | エコリーフEPD | |
特徴 | 第三者が判定基準を用いて、合格した製品を認証する環境ラベル | 事業者が独自におこなう環境主張。第三者によるチェックが入らない | 製品の環境負荷データを定量的に見える化。合否はない |
第三者機関による環境ラベル具体例
環境ラベルの運営主体は「国や第三者機関の運営」「事業者団体等が実施」「個々の事業者が自ら実施する環境ラベル」の3つに分けられます。
ここでは第三者機関による環境ラベルの具体例をいくつかご紹介します。
【エコマーク】
エコマークは、財団法人日本環境協会が 1989 年より開始した国内最初の環境ラベルです。商品のジャンル毎に認定基準が策定されており、ISO が定めるタイプI規格に準拠した国内唯一の制度です。 LCA手法を通して環境負荷が少なく、環境保全に役立つことが認定された製品にのみ表示が許可されます。
【エコリーフ環境ラベル】
2002 年に社団法人産業環境管理協会が運用を開始した環境ラベルが「エコリーフ環境ラベル」です。ISO で定められるタイプⅢ規格に準拠した環境宣言であり、LCA の手法によって環境負荷を 定量的に算出し、情報を開示する制度になります。開示されるデータの評価は、読み手または購買者に委ねられているという特徴があります。
③正確でわかりやすい情報公開
企業は消費者に正確な環境情報を公開するために、公式ホームページ等で環境表示における定量化された情報や根拠となるデータ等を、積極的に開示する必要があります。具体的であることはもちろん、一般消費者にも理解しやすい内容であることが望ましいでしょう。
④外部コンサルによるグリーンウォッシュチェック
環境表示ガイドラインは企業のグリーンウォッシュの危険性を避けるためにも重要であることはすでに述べました。しかし、どのような事例がグリーンウォッシュに当たるのかの判断は非常に難しく、企業内で解決することは困難です。
そのため、LCA手法や環境ラベルの取得など専門的な知識を持った外部専門家にグリーンウォッシュのチェックを依頼をすることもひとつの手です。
グリーンウォッシュに関してはこちらの記事にも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
グリーンウォッシュとは│企業が注意すべき環境表現の観点を解説
まとめ:環境表示ガイドラインを意図を理解して適切な環境主張を!
企業が製品やサービスの環境情報を開示するために重要な環境ガイドラインについて、詳しく解説しました。SDGsへの取り組み促進をはじめとして、消費者の環境意識は年々向上しており、企業への環境活動への視線は厳しさを増しています。
企業は自社が行った環境活動に関する情報を、正確に明快に消費者に伝える必要があります。そのためには、LCA手法やCFPによる環境評価を行うことが重要と言えます。しかし、それらを行うには専門的な知識やノウハウが必要です。
株式会社ゼロックは、LCA手法やCFPによる環境評価をお手伝いすることが可能です。
環境負荷算定の専門性と環境ルールの情報ネットワークを駆使し、攻めと守りの両面で貴社の環境経営をご支援します。
環境表示に関してお困りの企業担当の方は、是非お気軽に株式会社ゼロックにお問い合わせください。