カーボンバジェットとは│企業が把握しておきたい概念について解説

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松井大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

目次

脱炭素経営を目指すうえでカーボンバジェットという考え方が注目されているのをご存じですか。

カーボンバジェットとは、地球温暖化による気温上昇対策において、一定の目標を打ち立てた場合に排出できるCO2量の上限を意味します。

今回はカーボンバジェットの考え方から注目される背景までわかりやすく解説します。さらに気候変動対策において「決定的な10年」と呼ばれる2030年までに、企業は何をすべきなのかを具体的にお伝えします。

ぜひ本記事でカーボンバジェットについての知見を深め、脱炭素経営への一助としてください。

カーボンバジェットとは

カーボンバジェットについて解説

それでは早速、カーボンバジェットに関して、意味や考え方、注目されている背景について解説していきましょう。

カーボンバジェットとは「CO2排出量の上限」

バジェット(budget)とは、一定期間に使い切る「予算」や「経費」をあらわす英単語です。カーボンバジェット(Carbon Budget)は直訳すると「炭素の予算」になります。

カーボンバジェットとは、気候変動対策において気温上昇をある一定の数値に抑え込んだときに、残りどれくらいの量のCO2を排出できるかの上限値を示すための指標です。

わかりやすく例えるなら、自社に100万円の予算がありそのうちの50万円を使用した場合は、残りの50万円でやりくりをせねばなりません。カーボンバジェットの基本的な考え方もそれと同様です。

カーボンバジェットが注目される背景

カーボンバジェットが注目されている背景には、温室効果ガス排出で加速する地球温暖化と気温上昇リスクが挙げられます。

地球温暖化による気温上昇のリスク

2023年の世界の平均気温は観測史上最高となりました。EU(欧州連合)の「コペルニクス気候変動サービス」の報告によりますと、産業革命前の平均から1.48℃も上回ったと言われています。

このままでは2050年までに平均気温は2℃まで上昇する恐れがあります。そうなると人間が地球上で生活すること自体が、困難になってしまうかもしれません。2023年には国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「もはや地球温暖化を通り越して地球沸騰化時代の到来」とまで叫びました。

世界が協働して気候変動対策を行うためにも、カーボンバジェットでCO2排出量の上限値を把握することは、ますます重要となっています。

地球温暖化による気温上昇のリスク

引用:気象庁「世界の年平均気温偏差の経年変化(1891〜2022年)」

カーボンバジェットの現状と課題

カーボンバジェットの現状と課題とはなにか

各国は気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」に基づき、産業革命前からの気温上昇を1.5℃までに抑えるという共通目標を掲げ、対策を開始しています。しかし、取り組みには課題も存在します。

ここではカーボンバジェットの現状や、CO2削減対策の課題について解説していきましょう。

「決定的な10年」とは?CO2排出量の上限はわずか

IPCCによる「CO2排出量および平均気温の増加のシナリオとカーボンバジェット」では、世界の平均気温上昇を50%の確率で1.5℃以内まで抑えるには、CO2排出量は残り約約580 GtCO2(580億tCO2換算)しかないことを示しています。(下図参照)

世界の年間CO2排出量は約40Gt(40億億tCO2換算)と言われています。このまま対策が進まなければ2030年までに残りのバジェットを使い切ってしまうかもしれません。

また2020年から2030年までの気候変動対策は「決定的な10年」とも呼ばれています。それは2030年に温室効果ガス排出量を少しでも抑止することで、2030年以降の地球温暖化を1.5℃に抑えるための課題が小さくなるからです。

しかし、その10年もあとわずかとなっています。

これ以上の気温上昇を防ぐために地球温暖化の要因であるCO2排出量の削減は、まさに喫緊の課題と言えるでしょう。

「決定的な10年」とは?CO2排出量の上限はわずか

引用:IPCC AR6 SPM

排出ギャップ

すでにCO2排出量のバジェットは余裕がある状況ではありません。しかし地球温暖化を抑制するための削減目標と、各国の掲げる削減目標には大きな隔たりがあるのが現状です。

要するに温室効果ガス削減量の理想と現実では多大な差が存在します。この差は「排出ギャップ」と呼ばれ、削減対策の深刻な課題のひとつです。

「排出ギャップ」の原因はさまざまですが、各国間の排出量の不平等問題や算定方法の違いが挙げられます。例えばロシアとアメリカの排出量と比較して、インドの CO2換算量は半分以下です。また先進国と新興国が加盟する「G20」では、全体の平均 7.9トンに対し後発開発途上国は平均 2.2 トン、開発途上国は平均 4.2 トンでした。

さらに削減目標は各国の状況に合わせ設定されるため、CO2の全体的な排出量の算定を困難にします。

COP26グラスゴー気候合意は、各国に2030年削減目標の「再検討と強化」を求めました。しかし、各国の進捗は十分とは言えない状況です。国際社会は協力してこの「排出ギャップ」を埋めていかなくてはいけません。

CO2排出量削減に関する世界と日本の動向

カーボンバジェットに関する世界と日本の動向を解説

「排出ギャップ」の課題は大きなものですが、世界や日本は決して手をこまねいているだけではありません。「決定的な10年」となる2030年までに、どのような対策を実施するのか動向を見てみましょう。

世界各国の動向

主な国の削減対策目標と内容を表にまとめましたので、ご覧ください。

国名温室効果ガス削減2030年目標詳細
EU-55%以上(1990年比)「欧州グリーンディール政策」等
アメリカ-50 ~ -52%(2005年比)「インフレ削減法」、「インフラ投資雇用法」を実施
中国1. CO2排出量のピークを2030年より前にすることを目指す2. GDP当たりCO2排出量を-65%以上(2005年比)非化石エネルギー消費の割合を2030年25%、2060年80%まで到達
インドGDP当たり排出量を-45%(2005年比)2030年までに再生可能エネルギーを全エネルギーの50%にまで到達
英国-68%以上(1990年比)「グリーン産業革命に向けた10項目」実施
韓国-40%(2018年比)「カーボンニュートラル・グリーン成長推進戦略」、「カーボンニュートラル・グリーン成長技術革新戦略」を実施
南アフリカ2026年~2030年の排出量を3.5~4.2億tまで2030年までに石炭使用比率を6割未満に減少、再生可能エネルギーの比率を増やす予定
ブラジル-50%(2005年比)ブラジル初のカーボンクレジット認証機関の設立を行う

引用:外務省「気候変動」

日本の動向

日本はすでに国際社会に向けて「2050カーボンニュートラル宣言」を発信しています。温室効果ガス削減においては、2013年度と比較して「-46%削減」が目標です。さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく意向です。

そのため政府は企業が気候変動を推し進めるための「グリーン成長戦略」を掲げました。そして産業の14の重要分野ごとに高い目標を設定したのです。現状の課題と今後の取組を明記し、基金2兆円の予算を組み、税、規制改革・標準化、国際連携など、あらゆる政策を盛り込んだ実行計画を策定 しています。

脱炭素化を経済の足かせとするのではなく成長のチャンスとして捉え、民主導の市場ルール等をいち早く確立し、温室効果ガス削減において世界のリーダーシップとなることを目指しています。

企業として取り組むべき3つのポイント

カーボンバジェットとそれに関連する内容を解説してきました。CO2排出量の削減がいかに急務であるか理解できたのではないでしょうか。世界の脱炭素への取り組みを推し進めるためにも、企業としてCO2排出量削減に取り組むことは重要です。

それではCO2排出量を削減するために、企業としてはどのようなことに取り組めばいいのでしょうか。

  1. 再生可能エネルギー・イノベーションの促進
  2. 企業単位のScope1.2.3の排出量削減
  3. SBTi(SBTイニシアチブ)の認定取得

ここでは上記の3つにポイントを置き、企業が取り組むべき内容を紹介していきます。

再生可能エネルギー・イノベーションの促進

経済活動に使用されるエネルギーの大半は、化石エネルギーによるもので大量のCO2を排出します。そのため、できるだけCO2を排出しない再生可能エネルギー(以下再エネ)への転換が重要です。かつて再エネ導入にはコストがかかると考えてられていました。しかし、近年再エネにかかるコストはかなり減少しています。

また複雑な国際情勢のなか、燃料費はいつ高騰するかわかりません。しかし、自社で再エネを推進しておけば環境負荷低減に繋がるだけではなく、いざというときの電力確保にも有効です。

また、前述したグリーン成長戦略のGXリーグ基本構想で政府は、「2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取り組みを経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けて、経済社会システム全体の変革」を謳っています。そのため脱炭素に向けたイノベーション創出を促進し取り組むプレイヤーと積極的な協働が計画されています。

さまざまな補助金制度も打ち出されており、脱炭素化はもはや経営の負担ではなく、新たなイノベーション促進のためのビジネスチャンスでもあるのです。

企業単位のScope1.2.3の排出量削減

CO2排出量削減は自社のみで実施するのではなく、サプライチェーン全体で行うことが重要です。他事業者との連携を強化し、企業単位のScope1〜3においてCO2排出量削減を実施することができれば環境負荷低減施策の選択肢が増えます。サプライチェーンがグローバルに展開される時代、サプライチェーン全体の排出量を削減することは、世界規模の排出量削減に繋がります。

サプライチェーン排出量のScope1~3についてはこちらの記事で詳しく解説しておりますので、ぜひご覧ください。

SBTi(SBTイニシアチブ)の認定取得

CO2排出削減の取り組みとして国際イニシアチブへの参加も有効な手立てとなります。

SBT(Science Based Targets)は科学的根拠に基づいたGHG (温室効果ガス) 削減を推進するための国際的イニシアチブです。科学的根拠に基づいた気候変動対策を推奨している信頼の高いイニシアチブのため、企業の確実なCO2排出量削減につなげることが可能です。

弊社ではSBT認定取得の支援も行っております。こちらもぜひご覧ください。

まとめ

CO2排出量の上限の指標となるカーボンバジェットについて知見を深めることは、企業として具体的な脱炭素経営を推進することに繋がります。

持続可能な社会を次世代に引き継ぐためにも、企業として脱炭素経営に取り組むことはもはや義務といえるでしょう。

株式会社ゼロックは、企業利益につながる脱炭素経営を推進するための専門的なノウハウを多く培っています。

サプライチェーン排出量の算定やSBT認定取得に関しても支援が可能ですので、導入を検討している企業担当の方はぜひお気軽に弊社にお問合せください。

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