松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
世界的な異常気象、そして、未だ増え続ける温室効果ガスに対し十分な対応ができているとは言えない現在。
2022年に開催されたCOP27では新たな国際的合意やコミットメントが採択され、持続可能な開発や気候変動対策に関する具体的な道筋が示されました。
企業が社会と協調し、環境問題に取り組んでいくためには、COP27の採択事項やその影響を知っておくことはとても重要です。
この記事では、そもそもCOPってどういうものなのかという基本的な情報から、最新のCOP27の情報までを説明します。
COPは気候変動対策に関する国際的会議
環境問題について調べたり、関連する報道を見たりするなかで、COPというキーワードを知っていても、ぼんやりとしたイメージしかないという方も多いでしょう。
まず、そもそもCOPとは一体どういうものなのかを簡単に説明します。
気候変動枠組条約と締約国会議
COPはConference of the Parties(締約国会議)の略称です。締約国、つまり条約に参加している国で開かれる会議という意味ですね。そして、COPが指す条約とは気候変動枠組条約のことです。
様々な条約があるなかで、たんにCOP(締約国会議)と言った場合に気候変動枠組条約締約国会議を指すということは、それほど気候変動に関する国際協調が重視されているということの現れでしょう。
1992年、世界の気候変動に対応するため温室効果ガスの増加を防止し、大気中の温室効果ガスの濃度を安定させるという究極の目標の達成を目指し、気候変動枠組条約が国連で採択されました。
気候変動枠組条約は1994年に発効され、1995年には締約国による「気候変動枠組条約締約国会議(通称:COP)」の第1回が開催されたのです。
条約は200近い国と地域が締約しており、COPは新型コロナウイルスの影響により延期された2020年を除き毎年開催され、気候変動に対し締約国がとるべき対応が協議されています。
COPの歴史と果たしている役割
これまで過去に開催されたCOPでは、気候変動対策の取り組みに重要な合意がなされ、国際的な取り組みに指針となっています。
1995年に開催されたCOP1は、COP3までに「主に先進国における温室効果ガス削減目標を議定書等の形で結論づけること」を目標にスタートしました。そして、1997年に京都で開催されたCOP3において、有名な京都議定書が採択され、主に先進国に対し、2008年〜2012年を約束期間とする法的拘束力のある温室効果ガス削減目標が設けられたのです。
しかし、京都議定書では開発途上国には削減義務がなく、それらの国には温室効果ガスの排出量が多い中国やインドといった国が含まれていました。また、2001年には世界最大の排出国であるアメリカが京都議定書を離脱するといった問題も起こりました。
2007年には開催されたCOP13では、京都議定書の約束期間後に必要な新たな枠組みを作ることを目的として、パリ行動計画の合意が成立します。これにより、アメリカを含めすべての国が参加する気候変動に対する新たな枠組みができることが期待されました。
2009年に開催されたCOP15では「産業革命以前からの気温上昇を2℃以内に抑える」という目標達成のため、先進国が開発途上国に資金援助を約束し、開発途上国も温室効果ガスの削減行動をとるというコペンハーゲン合意が成立しました。
しかし、すでに削減義務を負う先進国とそれ以外の開発途上国の主張には大きな隔たりがあり、最終的にアメリカと中国はコペンハーゲン合意に不参加となし、先進国と開発途上国の間には大きなしこりが残りました。
2015年に開催されたCOP21では、これまでにない画期的な協定であるパリ協定が締結されました。パリ協定では、ついに開発途上国を含むすべての締約国が排出削減の努力をすることに合意したのです。
このように、COPは様々な課題を抱えながらも、対立する各国の利害を調整し、気候変動対策、温室効果ガス削減に関する国際的な協調の場として重要な役割を果たしています。
COP27の重要性と影響
ここでは、2022年にエジプト・シャルム・エル・シェイクで開催された、最新のCOP27ではどのような合意が行われ、実際の各国政策などにどのような影響があるかをみていきましょう。
COP27の主要なテーマ
新型コロナウイルスによる経済的損失、ウクライナ戦争に伴うエネルギー危機といった危機が、気候変動対策にも大きな影を落とすなか、IPCCから気候変動を防ぐためには温室効果ガス削減の効果がまだまだ足りていないというデータが示されました。
そのようななか、COP27の主要なテーマは以下の4つです。
- 各国の温室効果ガス排出削減対策
- 気候変動対策にかかる資金の支援
- 各国が気候変動の影響にどのように適応していくか
- 気候変動に伴う損失・損害に対する基金の設立
全体的に過去に開催されたCOPでの合意事項等を踏襲しつつ、目標達成に向けて必要な事項の確認がなされました。また、気候変動に伴う損失・損害に対する基金にはじめて言及されました。
COP27の合意事項
COP27では先進国から開発途上国へ行う支援や世界全体の目標への取組みを確立する「シャルム・エル・シェイク実施計画」が採択されました。
今回決定された「シャルム・エル・シェイク実施計画」では、主に科学的知見と行動の緊急性、野心的な気候変動対策の強化と実施、エネルギー、緩和、適応、ロス&ダメージ、早期警戒と組織的観測、公正な移行に向けた道筋、資金支援、技術移転、パリ協定第13条の強化された透明性枠組み、グローバル・ストックテイク(GST)、パリ協定第6条(市場メカニズム)、海洋、森林、非国家主体の取組の強化等を含む内容が決定されました。
脱炭素ポータル(環境省):COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)の結果概要について
ここでは「シャルム・エル・シェイク実施計画」の内容を主要テーマごとに簡単に紹介します。
各国の温室効果ガス排出削減対策
COP27では2030年までに温室効果ガス削減を急速に進めるため「緩和作業計画」が策定されました。
パリ協定では産業革命以前からの気温上昇を1.5℃以内に抑えるという重要な目標が定められていますが、残念なことにこれまでの各国の温室効果ガス削減の成果を積み上げても、目標達成に必要な水準に達していません。
そのため、1.5℃目標達成の重要性を再確認し、各国の温室効果ガス削減目標とそのために必要な対策について見直しを図ることになりました。
2026年までに対策を実施するため、毎年開催するCOPで進捗を確認するとともに、年2回以上のワークショップを開催することなどが盛り込まれています。
気候変動対策にかかる資金の支援
COP15で合意されたコペンハーゲン合意では先進国が発展途上国に対し、温室効果ガス削減に必要な資金を年間1,000億ドル援助することになっていました。しかし、この資金援助額は達成されていません。
この問題を解決するため、隔年で進捗報告書を作成し将来的な年間1,000億ドルの資金援助の実現を目指すことになりました。
各国が気候変動の影響にどのように適応していくか
気候変動はすでにはじまっており、世界中で火災、洪水、干ばつ、海面上昇などの影響が報告されています。
温室効果ガスの削減など、気候変動を緩和する対策を行うだけでなく、すでに起きている気候変動の影響に適応していくことが求められています。
特に、開発途上国は先進国に比べて排出する温室効果ガスの量は少ないにも関わらず、異常気象に対して技術、資金面において先進国並の適応力がなくより大きな影響を受けてしまいます。
そのため、気候変動に対する適応力が低い脆弱な国に対して、必要な技術移転や資金援助を行うことが求められています。
気候変動に伴う損失・損害に対する基金の設立
これまでの温室効果ガス削除のための資金援助とは別に、気候変動に対して特に脆弱な国や地域に対して、損失・損害を補うための資金面援助を確実に行うため、ロス&ダメージ基金の設立が提言されました。
先進国が排出した温室効果ガスによって、開発途上国がより大きなダメージを受けることに対して、これまで先進国側は積極的な議論を避けていました。しかし、COP27ではロス&ダメージ基金の設立のため、COP28に向けて勧告を作成する委員会を設置することが決められました。
過去のCOPからの進展
前回のCOP26では参加各国がより野心的な自国の温室効果ガス削減計画を提出することが合意されましたが、COP27開催時には計画を提出していたのは193ヶ国中24ヶ国にとどまりました。
また、COP15で合意されたコペンハーゲン合意以降、先進国は開発途上国に年間1,000億ドルの資金援助が約束されましたが、この目標額は2022年になっても達成されていません。
COP27では、これまでのCOPで合意・採択された内容をより確実に実施していくため、気温上昇を防ぐという目標の重要性を確認するとともに、国別目標の強化や目標額に達していない資金援助に関して定期的な報告書の作成が定められたのです。
また、気候変動により危機に瀕している脆弱な開発途上国を金銭的に支援することが定められるなど、すでに起き始めている気候変動に適応するためのルール作りが始まりました。
こうした資金援助は、温室効果ガスはほとんど排出していないにもかかわらず、気候変動の影響を最も強く受ける島しょ国などが長年主張してきたものの、アメリカをはじめとした先進国側が反対してきたものです。
しかし、近年ではアフリカの干ばつや洪水による食料危機、パキスタンにおける国土の3分の1が水没し、1500人の死者を出した洪水など、気象災害で甚大な被害が起きています。
このままでは2030年までに開発途上国だけで最大5,000億ドルを超える経済的損失が発生する可能性を示す研究もあり、そうした被害を受ける開発途上国を支援する必要が認められ、歴史的な合意となったのです。
これからの課題と期待される成果
COP27では今までよりもさらに進んだ内容が合意され、気候変動に対する各国の対策がより進展することが期待されています。
国際的に合意された目標と課題
COP27では世界の気候変動対策を前進させるための様々な目標が合意されましたが、各国の利害の対立などの理由により明確にされなかったポイントもあり、今後に課題を残すことになりました。
パリ協定の1.5℃目標達成に向け各国の温室効果ガス削減目標の強化という方針は示されましたが、数値目標の設定は見送られ、今後のワークショップなどで検討されることになります。
また、開発途上国に対する支援を行うことは決まっているものの、資金はどの国がどの程度拠出するのか、支払い能力のある途上国・新興国も負担するべきかといった具体的な内容は決まっていません。また、限られた資金をいかに配分するのかという問題もあります。
2023年11月30日から、アラブ首長国連邦が議長国となり、ドバイでCOP28が開催されます。COP27で合意された内容がさらに具体的で実行力のある内容となることが期待されます。
日本政府の立場
日本が国連に提出している温室効果ガス削減目標は、50年までの温室効果ガス排出量実質ゼロ実現に向け、2030年度までに2013年度比で46%削減するというものです。
この目標は定期的に見直しを図り、段階的に数値を引き上げてきたものです。しかし、COP27で合意された削減目標の強化に関する議論が進めばさらなる削減目標の強化を求められる可能性が出てきます。
また、日本はアメリカ、中国に続きGDP世界第3位であり、開発途上国に対する資金援助に対し、相応の負担を求められることは確実です。
国内での対策、他国の支援の両面において、日本政府はこれまで以上の努力を求められるでしょう。
これからの企業に求められること
温室効果ガス削減など環境に配慮した経営が当たり前のものとなっている現代。政府の削減目標が強化されればそれに合わせて企業ごとの削減目標の見直しといった動きが出てくることは確実でしょう。
温室効果ガス削減というと経済活動の縮小や環境対策にかかるコストの増加など、企業にとって不利なものと思われるかもしれません。
確かに、法規制に対応したり業界団体の自主規制に応えた最低限の対策をしたりと、コンプライアンス上避けることができないものに消極的な対応をしているだけでは、対応の度にコスト増となるだけで負担に感じるでしょう。
しかし、積極的な環境対策を行い自社のビジネスに組み込むことができれば、企業の競争力を高め、さらには新たなビジネスチャンスにつながるはずです。
実際にCOP27の会場に開設された日本パビリオンでは、多くの日本企業が出展し、日本の環境問題に対する技術をアピールしました。
また、直接環境対策技術とは関係がないと思われる業態であっても、様々な取り組みにより必ず温室効果ガスを削減することは可能です。
脱炭素経営に舵を切り、業界内で一歩進んだ先進的な取り組みにより温室効果ガスを削減し、その効果をアピールすることができれば、投資家や消費者に対し投資活動や環境問題に貢献できるという価値を提示でき、資金調達や商品・サービスのマーケティングに大きな効果があります。
さらに、今後はサプライチェーン全体(Scope 3まで)の温室効果ガス排出量測定が当たり前になり、取引先の環境問題への取り組みまでが自社の責任となってきます。そうなれば、材料や製品の購入先として環境問題に積極的に取り組んでいる企業を選択しなければならなくなります。
こうした時代の流れを考えれば、環境問題に対応しない企業は生き残りが難しい時代となっていくことは間違いありません。
まとめ
気候変動対策の必要性は年々高まっており、COPで合意される目標値も更新される度により高い数値になっています。
そのようななかでは、法令や業界団体の自主規制などを守るだけの消極的な環境対策では持続可能性の高い価値ある企業であることを示すことはできません。脱カーボン経営に向けて先進的な取り組みを行い、企業価値をアピールしていくことが必要です。
しかし、脱炭素経営になにが必要なのか、具体的になにをすればいいのかわからないという企業担当者の方も多いことと思います。
ゼロックでは脱炭素経営をトータルで支援しています。これから環境問題に力を入れたいとお考えの方はぜひ無料相談にお申し込みください。