CBAM(炭素国境調整措置)とは|概要や計算方法まで解説

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松井大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

目次

EU(欧州連合)により2026年に本格適用が開始されるCBAM(炭素国境調整措置)についてご存じでしょうか。

CBAMとは、EU域外からの輸入品に対して、温室効果ガス排出量に応じた関税の賦課が行われる制度です。

EU域外と域内での炭素価格の差額をなくし、温室効果ガスの規制の緩い国に対しても気候変動対策を促すことが目的です。そのためEU域内でビジネスを行う日本企業にも影響が考えられます。

そこで今回は、CBAMについて、概要や対象製品、排出量の計算方法。そして企業としてどのような対策を行えばいいのかを具体的に解説しますので、ぜひご一読ください。

EUによるCBAM(炭素国境調整措置)とは

EUによるCBAM(炭素国境調整措置)とは

EU は、2026年にCBAMを最終的な制度として適用することを発表しました。ここではCBAMの概要や目的、背景について解説します。

CBAMとは

CBAMは日本語で「炭素国境調整措置」と訳されます。簡単に言いますと「国境で輸入品に対して、炭素の差額分の支払いを義務付ける」ということです。この場合の炭素とはCO2(二酸化炭素)をメインとする温室効果ガス(GHG)を指します。

CBAMでは、EUに輸入される特定の製品の生産時に発生するGHG排出量に対して、EUの対価に見合った価格を支払う必要があります。EU域外からの輸入品に対するGHG排出量の価格は、EU域内生産の価格と同等であることが求められます。

EUの気候変動目標が確実に達成されることを推進するための措置です。

それではなぜEUはそのような措置をとるのでしょうか。それには世界的なカーボンプライシングの広がりが挙げられます。

CBAM施行の目的と背景

CBAMの目的と背景には、カーボンプライシングの拡大によるカーボンリーケージの問題が挙げられます。ここではCBAM策定の背景に深くかかわるカーボンプライシングとカーボンリーケージ、欧州グリーンディール政策について、詳しく解説しましょう。

カーボンプライシング

カーボンプライシングとは、GHG排出量に見合った金銭的負担が発生する仕組みです。GHG排出量にコストを発生させることで、GHGを大量に排出する企業に対して排出量削減を促進することが狙いです。

地球温暖化抑止のためには、企業の経済活動におけるGHG排出量を低減させることが非常に重要になります。そのためカーボンプライシングは世界的に導入が加速しています。日本でも2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、2033年には排出権取引が導入される予定です。

しかし、カーボンプライシングが拡大するにつれ、カーボンリーケージへの懸念が叫ばれるようになりました。

カーボンリーケージ

コストのかかるカーボンプライシングを避けたい企業は、GHG排出規制の緩やかな国に事業活動の基盤を移すことがあり得ます。そうなると自国のGHGは削減されても国外での排出量が増えるカーボンリーケージ(炭素漏洩)が起こります。

実際に欧米でのGHG排出量は低下していても、開発途上国では急激に排出量が増加しいるという報告があります。これは規制の緩い開発途上国に事業活動を移した企業の影響があることは否定できません。カーボンリーケージが発生すると、EUの削減目標に悪影響を与えます。さらに世界全体での排出量増加にもつながりかねず、さらなる環境悪化を招く恐れがあります。

EUはこのような事態を防ぐために、CBAM制度を策定したのです。

欧州グリーンディール政策

「欧州グリーンディール政策」とは、2050年までにEUが世界をリードした気候中立を達成することを目指した包括的な政策案です。パリ協定でのGHG排出量を2030年までに1990年⽐で40%削減するという目標を大きく引き上げ、55%削減⽬標を掲げました。

EUは目標を達成するために推計年2600億ユーロの追加投資を行う予定で、CBAMはこの「欧州グリーンディール」政策の施策の一つです。

CBAMの対象分野と計算方法

CBAMの対象分野と計算方法

CBAMの対象となる製品群は現時点では一定の分野に限られており、対象製品群に関連する企業は注意が必要です。また、今後範囲の拡大が見込まれているため、現時点では対応が必要ない企業についても内容を把握しておくことは重要です。ここからは、CBAMの対象分野や計算方法をご紹介していきます。

CBAMの対象製品 

CBAMの対象製品選択には、製品のセクターがカーボンリーケージの重大なリスクに晒されるものか、最大規模のGHG排出の一つであるか等が考慮されています。また、生産コストに占める炭素コストの割合が高い素材や電力なども対象です。

現段階での対象品目は以下の6点です。対象となる炭素の種類と対象排出量も明記しました。

分類対象製品対象となる炭素CBAM適用後の対象排出量
鉄鋼凝結鉄鉱石・フェロアロイ類・鉄鋼製ネジ・ボルト・ナット等CO2直接排出のみ
アルミニウムアルミニウムの塊・アルミニウムの粉・アルミニウムのフレーク・アルミニウムの棒および形材・アルミニウムの線・アルミニウムの板・シートおよびストリップ等CO2 とパーフルオロカーボン(PFC)直接排出のみ
肥料硝酸および硫硝酸・ 無水アンモニアおよびアンモニア水・ 硝酸カリウム・窒素肥料(鉱物性肥料および化学肥料)等CO2 と亜酸化窒素(N2O)直接・間接
セメントカオリン系粘土・セメントクリンカー・白色ポートランドセメント(人工着色の有無を問わない)・ポートランドセメント・アルミナセメント・水硬性セメントCO2直接・間接
電力電気エネルギーCO2直接・間接
化学水素CO2直接排出のみ

CBAMの排出量計算方法 

ここからはCBAMにおける排出量の計算方法をご紹介します。CBAMの排出量の計算方法は製品ごとの対象排出量によって変わり、体化排出量によって算定されます。体化排出量とは、EU 域外から域内に輸入された対象製品の生産に伴い排出されるGHG排出量です。

算出方法は、次の3つになります。

  1. 電力以外の製品の直接体化排出量
  2. 間接体化排出量
  3. 輸入電力の体化排出量

直接排出量に基づいた算出

電力以外の対象製品の体化排出量の算出には、以下の計算式が適用されます。

製品の体化排出量の計算式
製品の体化排出量 =直接排出量+(間接排出量)+(投入材料の体化排出量)÷製品の活動レベル(生産量)
投入材料の体化排出量の計算式
投入材料の体化排出量 = (各投入材料の質量 × 各投入材料の体化排出量)の総和 

製品 1 トン当たりの体化排出量をCO2に 換算して算出します。間接排出量が必要なのはセメントと肥料になり、実施法令が規定する投入材料がある製品については投入材料の体化排出量も必要です。

デフォルト値を使用して算出

実際の排出量データを取得できない場合は、デフォルト値を適用し、排出量を算出します。電力以外の製品で使用可能です。デフォルト値とは、CBAM 実装において移行期間中に輸入業者が必要な情報をすべて持っていない場合に必要な値です。実際の排出量を算出できない場合に限り、デフォルト値を使用した算出が可能です。

デフォルト値は次の3つのいずれかを使用します。

  1. 各製品の輸出国ごとに定める平均排出単位(排出集約度)に準じ、原価に上乗せした値。
  2. 対象製品を生産する EU‐ETS の施設で実績が最も低い事業所における平均排出単位に基づく値。
  3. 域外国の特定の地域特性に適合したデータにより、最適なデフォルト値を決定できる場合はそれに準じた値。

電力の体化排出量と間接排出量の算出に使うデフォルト値

電力と間接排出量の算出に使うデフォルト値は、製品の生産に使用される電力について、次の3つの平均値に基づいて計算した値を使用します。

  1. EU の電力網の排出係数
  2. 電力生産国の電力網の排出係数
  3. 電力生産国の価格設定源の CO2 排出係数

参照:日本貿易振興機構「EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)

CBAMの本格適用は2026年 から

EUがCBAMを本格運用するのは2026年からの予定です。事前に対策を講じておくためにもCBAMのおおよそのスケジュールを把握しておきましょう。

移行期は2023年10月から2025年12月まで

CBAMは本格適用前に移行期間を設けています。移行期間中、事業者はEU域内に対象製品を輸入する四半期ごとにCBAM報告書を提出しなくてはいけません。報告書には対象製品の輸入量や製造過程での排出量などを記載します。ただし、移行期間中のCBAM証書納付義務はありません。

日程スケジュール
2023年10月 移行期間の開始
2024年12月まで欧州委員会は対象製品における川下製品のうち 、CBAM 規則の対象に追加を検討すべき製品を特定する
2025年1月 輸入事業者による認可申告者の申請及び管轄当局による認可を開始する
2025年12月欧州委員会は CBAM 規則の適用に関して欧州議会と EU 理事会に報告書を提出し、適用範囲の拡大などの見直しを実施する
2025年12月移行期間の終了
2026年1月以降CBAM 規則の本格適用を開始する
2034年CBAM に完全に移行する

CBAMによる日本への影響は?

CBAMによる日本への影響は?

CBAM における義務は、EU域外から対象製品を輸入する EU域内の事業者を対象に実施されるものです。輸入事業者は、対象製品を輸入するために認可を申請しなくてはいけません。

認可申告者となることで、体化排出量の報告や CBAM 証書の購入・納付を行うことができます。日本の企業もEU域内でビジネスを行いたい場合は認可の申告が必要になります。

現時点でのCBAMの対象製品のEUへの輸出量は多くないため、日本に与える影響は少ないと考えられています。しかし鋼材を用いる自動車・自動車部品・産業機械等への適用拡大、そして2025年末には、有機化合物・ポリマーへの適用拡大が検討されています。

適用が拡大された場合、日本からEUへの主要輸出品の大半がCBAMの対象となる可能性は否定できません。その場合はCBAMの認可を申請し、必要な炭素価格を支払う必要があります。日本は、自社の製品が対象となるかどうか今後もEUの動向を注視していくことが重要です。

企業がとるべき具体的対策

CBAM企業の対策

それでは企業はCBAMに対してどのような対応を行えばいいのでしょうか。

何よりも重要なのは自社のGHG排出量を把握し、自社に合った脱炭素の施策を検討することです。ここでは企業に有効な3つの具体的対策をご紹介します。

1.脱炭素への知見を深める

企業はCBAMをはじめとした世界の脱炭素化への知見を深めておく必要があります。脱炭素化の流れは今や世界的な潮流であり、それに乗り遅れることは自社に大きな損失を招きます。

特に、CBAMは今後対象製品やルールが変わる可能性も大いにありますので、細かいチェックと理解が必要になります。

2.LCA・CFPを実施する

CBAMはカーボンプライシングの今後を大きく前進させるものです。そして、カーボンプライシングを行うにあたっては、算定品質の高いLCA・CFPが重要になります。

まずは、各国の規約やガイドラインを参照し、方法論や仕組みを把握することから把握してみるのも良いでしょう。

ただ、内容がかなり専門的な分野になりますので、算定経験のない企業は専門家に相談してみるのが良いでしょう。

3.専門家へアドバイスを求める

CBAMは移行期間中であり、先進的な対応であるため、企業が独自に動くのはかなり難しいでしょう。そのため、製品単位の環境負荷算定への知見が深い専門家へアドバイスを求めるのが得策でしょう。

しかし、CBAMは、環境分野のコンサルティング業界のなかでも対応ができる企業が限られているのが現状です。

そのような中、株式会社ゼロックでは、サプライチェーンを通じたCBAM対応の支援実績があり、最新のCBAM状況を踏まえたアドバイス・支援が可能です。CBAM対応の方針が定まらない企業は、現在置かれいる状況や課題を相談してみることをお勧めします。

まとめ:CBAMにも対応可能な気候変動対策を!

気候変動対策の先駆けであるEUが取り組むCBAMについて、あらゆる角度から解説しました。グローバルにビジネスが展開される時代、世界の脱炭素についての知見を深めることはますます重要になっています。

しかし、実際に具体的な対策を講じるためには専門的な知識が不可欠です。

株式会社ゼロックでは、CBAM対応やLCA算定、さまざまな観点からご支援が可能です。
脱炭素経営を実践したいという企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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