
松井 大輔
(監修者経歴)
東京大学 醍醐研究室卒業、株式会社ゼロック 代表取締役、東京大学 先端学際工学専攻 博士課程、EPD検証員、省庁事業や上場企業のLCA関連コンサルティング業務等幅広く対応
要約
- 時間単位のマッチング案は支持22%、不支持70%となり反対が優勢だった
- 供給可能性要件も支持30%にとどまり、企業・業界団体は慎重に評価した
- GHG Protocolは複数のマーケット基準指標を検討し、改定案を再設計する
概要:Scope2改定は「厳格化一本線」から再設計へ
GHG Protocolは2026年7月、Scope 2ガイダンス改定案に対するパブリックコンサルテーションの結果を公表しました。
約1,100件、56か国から寄せられた回答では、マーケット基準に導入予定だった「時間単位のマッチング(hourly matching)」への支持は22%、不支持は70%でした。「供給可能性(deliverability)」も支持が30%、不支持が59%となり、特に企業・業界団体から実装コストやデータ整備への懸念が強く示されています。
一方、ロケーション基準で「利用可能な中で最も精緻な排出係数」を使う案は支持が40%、不支持が42%と拮抗しました。
結果を受け、GHG Protocolは単一案をそのまま進めるのではなく、異なる目的・主張に対応する複数のマーケット基準指標を検討しています。
| 論点 | 当初の改定案 | パブコメ結果 | 公開情報からみる今後の見通し |
|---|---|---|---|
| 時間単位のマッチング (hourly matching) | ・原則として、証書等の契約手段を電力使用と「同じ時間」に対応させる案 ・時間データがない場合は、負荷プロファイルで補完する設計 ・小規模組織については、適用除外も検討 | 支持:22%、 不支持:70% | ・一律義務化のまま進む可能性は低い ・複数指標や適用除外、段階導入などを組み合わせる可能性 |
| 供給可能性 (deliverability) | ・消費地点へ物理的に供給可能とみなせる発電源からの調達を求める案 ・国境等の広い市場区分よりも、系統接続や送電可能性を反映した市場境界を重視する設計 | 支持:30% 不支持:59% | ・地域境界を精緻化して厳格な指標を残す可能性 ・または、地域差を認める設計へ調整される可能性 |
| ロケーション基準 排出係数 | ・公開・無料・信頼できる範囲で、「最も精緻な排出係数」の使用を必須とする案 ・地域粒度を優先し、次に時間粒度を重視する階層を設ける内容 ・さらに、消費ベースの排出係数を優先する考え方を提示 | 「最も精緻で利用可能な係数の使用」 支持:40% 不支持:42% | ・データ入手可能性や既存法令との整合を踏まえた緩和策が検討される可能性 |
| 残余ミックス・ フォールバック | ・契約手段等でカバーされない電力には、契約済み属性等を除いた残余ミックスを使う案 ・残余ミックスがない場合は、系統平均ではなく「化石燃料ベース係数」を適用する案 | 「化石燃料ベース係数の使用」 支持:46% 不支持:39% | ・二重計上防止の目的は残りやすい ・一律の化石燃料係数は地域別に再設計される可能性 |
「当初の改定案」は2025年10月のScope 2パブリックコンサルテーションに付された提案内容を要約しています。いずれも当時の最終決定事項ではありません。
数値はGHG Protocolの2026年8月25日更新版集計に基づきます。
「公開情報からみた今後の見通し」は、GHG Protocolが公表したパブリックコンサルテーションの結果や関連資料をもとに当社が予測したものであり、GHG Protocolが正式に決定・公表した内容ではありません。
背景:なぜ「年単位の再エネ証書」だけでは足りないのか
現行のScope 2 Guidance(2015)は、購入電力等の間接排出を、系統平均に基づくロケーション基準と、契約・証書を反映するマーケット基準の二本立てで報告します。
改定案では、現行ルールで認められてきた年単位の証書マッチングを見直し、大規模組織には時間単位のマッチングと、消費地点へ電力が届き得る地域からの調達を求める案が示されました。
さらに、標準供給サービス(SSS)の配分、残余ミックスの定義強化、残余ミックスがない場合の化石燃料ベース係数も提案されていました。
これらは算定精度を高め、二重計上を防ぐ一方、電力・証書データの粒度や監査対応を大きく変えるため、2025年10月から2026年1月のパブリックコメントで実務負担が主要論点となりました。
コンサルタントによる解説
現時点で、時間単位のマッチングがそのまま義務化されると決まったわけではありません。パブリックコンサルテーションでは実務負担への懸念が多く、GHG Protocolは複数のマーケット基準アプローチを検討しています。
一方、企業側は「年間の電力使用量と再エネ調達量が一致している」ことだけでなく、いつ電力を使用し、どの地域の電源・証書で対応したのかを説明できる準備を進めることが重要です。
具体的には、30分・1時間単位の電力使用量、発電地点、証書の対象時間、PPA等の契約条件を整理し、使用電力と再エネ調達を時間・地域別にひも付けられる状態を確認しておくとよいでしょう。最終ルールが緩和された場合でも、こうしたデータ整備はScope2算定の透明性や再エネ調達の根拠説明に活用できます。
日本への直接的な反映時期は現時点で未定です。統合草案は2027年第2四半期にパブリックコンサルテーションに付され、最終版は2028年第4四半期の公表が予定されています。
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参考文献
- Scope 2 Public Consultation Feedback (Greenhouse Gas Protocol, 2026)
- Scope 2 Public Consultation Summary of Feedback (Greenhouse Gas Protocol, 2026)
- Scope 2 Public Consultation Feedback Summary: Executive Summary (Greenhouse Gas Protocol, 2026)
- Upcoming Scope 2 Public Consultation: Overview of Revisions (Greenhouse Gas Protocol, 2025)
- Summary of ISB Meeting #23 (Greenhouse Gas Protocol, 2026)
- Corporate Accounting and Reporting Standard (Version 3.0): Standard Development Plan, Version 2.0 (Greenhouse Gas Protocol, 2026)
- Scope 2 Guidance (Greenhouse Gas Protocol, 2015)
- Scope 2 Public Consultation Overview Document (Greenhouse Gas Protocol, 2025)












