
松井 大輔
(監修者経歴)
東京大学 醍醐研究室卒業、株式会社ゼロック 代表取締役、東京大学 先端学際工学専攻 博士課程、EPD検証員、省庁事業や上場企業のLCA関連コンサルティング業務等幅広く対応
目次
要約
- 「目標設定」中心から、「実行・透明性・継続改善」重視へ
- Scope3は、削減目標だけでなくサプライヤー連携や調達施策の実行が重要に
- 算定範囲・除外根拠・削減ロードマップを説明できるデータ管理が重要に
SBTiは「目標を立てる基準」から「実行する基準」へ
SBTiは2026年6月11日、企業向けネットゼロ基準の最新版「Corporate Net-Zero Standard Version 2.0」を公開しました。今回の改定最大のポイントは、単なる目標の宣言にとどまらず、事業計画や設備投資、サプライヤー対応といった「実行フェーズ」への踏み込みが明確化された点です。
具体的には、Scope3における複数の目標手法の容認、データに対する第三者保証、脱炭素への移行期間中に出続けてしまう排出への責任などが重要な論点となっています。
2027年2月からV2.0での申請受付が開始され、2028年2月以降の新規申請・更新申請では、V2.0の利用が必須となる見込みです。既にSBT認定を取得済みの企業についても、次回更新や5年レビューを見据え、算定根拠や移行計画を早期に見直すことが望まれます。
SBTi ネットゼロ基準 V2.0の4つの特徴と実務への影響
| 主な特徴 | 内容 | 企業に求められる対応 |
|---|---|---|
| ①「目標設定」から「具体的な実行」へ | 目標を立てて終わりではなく、どのように実現し、改善を続けていくかという実行プロセスがより重視されます。 | 目標の数値だけでなく、削減計画、進捗管理、社内の推進体制を説明できる状態にしておくことが重要です。 |
| ② サプライチェーン全体(Scope1〜3)での「直接削減」を最優先 | 自社の排出(Scope1・2)に加え、サプライチェーン全体(Scope3)についても、直接的なCO2削減を最優先とする考え方が明確化されました。直接的な削減が難しい領域では、他の手段で補完するという優先順位も示されています。 | Scope1・2の削減に加え、Scope3のうち調達や物流などの主要排出源を特定し、取引先を巻き込んだ具体的な削減策を進める必要があります。 |
| ③ 完璧でなくても「最善の努力」を評価 | 企業がコントロールできない外部要因によって計画が遅れる場合でも、状況を透明性高く開示し、目標達成に向けて最善の努力を続けることが求められます。 | 計画通りに進まない場合でも、遅延の理由や代替策、追加で講じる対応を論理的に説明できるようにしておくことが重要です。 |
| ④ 移行期間中に出続けてしまう排出への対応 | 脱炭素へ移行する途中段階で、どうしても発生し続けるCO2排出についても、企業が責任ある対応を取ることが評価される仕組みが導入されています。 | 削減しきれないCO2排出について、対象範囲や対応方針を整理しておくことが重要です。ただし、こうした対応は補完的な位置づけであり、あくまでも直接的な排出削減を優先する必要があります。 |
出典:Science Based Targets initiative「The SBTi releases Corporate Net-Zero Standard V2.0 to accelerate corporate climate action」を基に作成。
Scope3と移行計画は、脱炭素経営の重要課題に
SBTiは、企業の温室効果ガス削減目標を科学的知見と整合させる世界的な枠組みです。これまで多くの企業は、「2030年までに〇%削減する」といった長期的な目標設定そのものに注力してきました。
しかし実務の現場では、Scope3算定における一次データの不足やサプライヤーとの連携、さらには再エネ証書・カーボンクレジットの取り扱いなど、目標達成を阻む多くの壁が存在します。V2.0は、こうした現場の制約を考慮しつつも、企業が取り得る選択肢を整理し、毎年の進捗開示や未達の要因に対する論理的な説明を求める設計へとアップデートされました。
これは、気候目標が「広報やサステナ部門だけの発信テーマ」ではなく、経営・調達・製造・財務部門が一体となってデータと予算を管理する「全社課題」へ移行したことを意味しています。
コンサルタントによる解説
LCAやCFP、Scope3算定の実務から見ると、今回のSBTi V2.0改定で特に重要なのは、目標の高さだけでなく、その根拠となるデータをどこまで管理・説明できるかが問われるようになる点です。
今回の改定により、ISO 14040 や ISO 14044 に基づいた算定のもとで、原材料調達から製造、廃棄に至るプロセスのどこに排出のホットスポットがあるのかを、正確に特定することが必要となります。LCAやCFP算定に基づくデータ整備は、Scope3削減計画の実効性を高める有力な手段です。
今後、欧州の新たなサステナビリティ開示規制であるCSRDや、国際的な開示基準であるISSB、さらにはGHGプロトコル改定といったグローバルルールの運用が本格化します。それに伴い、企業の移行計画の妥当性や「第三者保証の有無」がより重視されるようになります。
ここで注意すべきは、目標未達時の説明責任です。SBTiに法的な罰金はなく、今回の改定では、やむを得ない事情による計画実行の遅延も許容されるようになりました。ただし、遅延の理由や代替策を説明できなければ、投資家や取引先から、移行計画の実効性に疑問を持たれる可能性があります。SBTiの枠組みにおいても、今後は単に目標を掲げるだけでなく、進捗、障壁、改善策を継続的に示すことが重要になります。
日本企業にとっても、海外顧客やステークホルダーからSBTi整合の確固たる証拠を要求される場面は増える可能性が高いと考えられます。 まずは、自社のScope1〜3の算定範囲、除外の根拠、そして削減ロードマップが、「新基準の検証に耐えうるか」を見直すことが必要です。まだ対応を始めていない企業は、算定範囲と主要排出源の確認から着手することが重要です。
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参考文献
The SBTi releases Corporate Net-Zero Standard V2.0 to accelerate corporate climate action
Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 (Main Page)
The Corporate Net-Zero Standard V2.0 is here: what comes next
Corporate Net-Zero Standard V2 FAQs












