
松井 大輔
(監修者経歴)
東京大学 醍醐研究室卒業、株式会社ゼロック 代表取締役、東京大学 先端学際工学専攻 博士課程、EPD検証員、省庁事業や上場企業のLCA関連コンサルティング業務等幅広く対応
目次
要約
- 製品・サービスのカーボンフットプリント(CFP)の算定方法を定める「JIS Q 14067:2026」が新たに制定
- JIS Q 14067はLCA規格であるJIS Q 14040・14044と整合
- CFP算定結果を、製品開発、排出削減、製品・サービスの選択などに活用しやすくなることが期待される
概要
2026年3月、経済産業省は、日本産業規格(JIS)の制定・改正内容を公表し、その中で製品のCFPの算定に関するJIS Q 14067を新たに制定したと発表しました。CFPとは、製品またはサービスのライフサイクルにおける温室効果ガス排出量を指します。
これまでCFPはISO規格をベースに各企業・各スキームで運用されてきましたが、今回のJIS化により、国内における算定ルールの共通基盤が明確化されました。
本記事では、JIS Q 14067の制定の目的、関連規格との関係、そして企業実務に与える影響について整理します。
CFP算定の国際規格を国内規格として整備
近年、企業活動や製品・サービスに伴う温室効果ガス排出量などの環境情報は、経営判断、投資判断、商品選択など幅広い場面で活用されています。2050年カーボンニュートラルに向けて、企業や自治体による排出量削減とその可視化も広がっており、持続可能な投資や消費を後押しする役割が期待されています。
従来、CFPは国際規格であるISO 14067をベースに運用されており、各国・各業界で適用できるよう柔軟性を持たせた設計となっています。一方で、その柔軟性により算定範囲やデータの扱いに企業ごとの差が生じやすく、「同じCFPでも比較しにくい」という課題がありました。
今回制定されたJIS Q 14067は、こうしたばらつきを抑え、日本国内で統一的に運用できる基準として整備されたものです。特に、サプライチェーン全体でのデータ連携や、制度対応・対外説明のしやすさという点で重要な意味を持ちます。
以下に、既存のISO 14067と新たに制定されたJIS Q 14067との違いをまとめます。
| ISO 14067 | JIS Q 14067 | |
| 位置づけ | 国際規格 | 日本国内の国家規格 |
| 目的 | CFP算定の国際的な原則を示す | 国内で統一的に運用できる基準を整備 |
| 特徴 | 柔軟性が高く解釈の幅があるため、企業ごとにばらつきやすい | 国内実務に合わせて標準化したため、製品ごとの比較や対外説明がしやすい |
| 主な利用場面 | 国際的な整合性確保 | 国内制度・補助金・取引対応 |
JIS Q 14067と温暖化対策に資する関連規格との関係
図によると、温室効果ガス(GHG)に関する算定・報告の規格が、「組織単位」・「プロジェクト単位」・「製品単位」の3つに整理されていることを示しています。
| JIS Q 14064-1 | 組織全体のGHGインベントリの設計・報告 |
| JIS Q 14064-2 | 排出量の削減や吸収量の増加といったGHGプロジェクトの定量化・報告 |
| JIS Q 14064-3 | GHG声明書の検証および妥当性確認のための仕様と手引き |
| JIS Q 14067 | 製品またはサービス単位でのCFP(カーボンフットプリント)の算定 |
この中でJIS Q 14067は、製品・サービスごとの排出量を算定するための規格です。企業全体の排出量を把握する規格とは異なり、「その製品をつくり、使い、廃棄するまでにどれだけ排出するか」を示す役割を担います。
また、この規格は4067はLCAの基本原則を定める JIS Q 14040・14044 と整合しており、原材料調達、製造、輸送、使用、廃棄までを含めたライフサイクル全体を対象に、各段階で発生する温室効果ガス排出量をCO2換算値として算定します。
つまり、JIS Q 14067は、企業全体の排出量管理(Scope1〜3)と、製品ごとの環境情報開示(CFP)をつなぐ「橋渡し」の規格といえます。特に、取引先への説明やサプライチェーン全体でのデータ連携を進める上で、重要な基盤となります。
「開示」から「設計・取引」へ
今回のJISの制定により主に3つの変化が見込まれます。
| 信頼性・比較可能性の向上 | 国内で算定ルールが統一されることで、製品間・企業間での比較や第三者検証、対外説明がしやすくなる |
| 製品単位での脱炭素の加速 | 製品ごとの排出量を把握しやすくなることで、低炭素な製品・サービスの開発や選択が進みやすくなる |
| 国際市場における競争力の強化 | 国際規格と整合した算定により、日本企業の製品・サービスの環境価値を海外市場でも説明しやすくなる |
CFPの活用はすでに国際的に広がっていますが、JIS化によって国内での共通ルールが制定されたことで、開示だけでなく、製品設計や調達、取引先への説明に活用される実務情報として、国内でさらに活用が進むと考えられます。
コンサルタントによる解説
今回のJIS Q 14067の制定で特に重要なのは、CFPが自社内だけの指標ではなく、サプライチェーン全体でやり取りされる情報として位置づけられつつある点です。原材料調達から製造、輸送、使用、廃棄までを対象とするCFPは、自社だけで完結するものではなく、上流からのデータ取得や下流への情報提供が前提になります。
今後は、CFPを算定して終わりではなく、その前提や根拠を説明し、取引先や投資家に対して信頼性を持って伝えられることが重要になります。JIS Q 14067の制定は、そのための共通基盤を整える大きな一歩といえます。













