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EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは?要件や対象製品まで解説

公開日 2025.05.22 最終更新日 2025.05.22

松井 大輔

株式会社ゼロック 代表取締役 監修

 EUDR (欧州森林破壊防止規則 )とは、 EU域内および世界で取引・消費される主要製品が、森林破壊・劣化 によって生産されたものではないことを証明するための規則です。

2025年12月に適用が予定されており、開始されれば関連事業者は、対象製品などの情報提供の協力を求められる可能性があり、日本も例外ではありません。

本記事ではEUDR (欧州森林破壊防止規則 )の概要や要件、今後の動向から企業の対応策まで解説しますので、ぜひご一読ください。

EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは

EUDR(欧州森林破壊防止規則)とは

 EUDR (欧州森林破壊防止規則 )の概要と設立された背景を解説していきます。

概要

EUDRの正式名称は「EU Deforestation Regulation」であり、「 欧州グリーンディール」や「2030年に向けたEU生物多様性戦略」と同じく、EUの多様な環境政策の一つです。森林破壊に関係のない製品の消費を促進することで、世界の森林破壊と劣化に対するEUの影響を軽減し、森林破壊の終結に貢献するために策定されました。段階的な導入期間を経て、2025年に適用が開始される予定です。

適用が開始されれば、EUで法人設立を行っている日本企業も例外ではありません。日本からEU市場で当該輸出製品を扱う場合は、EUDRの規則に則り情報の開示を求められる可能性があります。

設立背景

EUDRは、 2019年の「世界の森林の保護と回復に向けたEUの行動の強化に関する委員会の通知」で初めて言及され、2023年に設立されました。背景にあるのは世界的な森林破壊です。世界の森林面積は2010年から2020年の間に世界全体で年平均470万ヘクタール減少しています。要因として酪農や農業、木材など、森林資源に由来する製品を生産するために、世界的に森林が切り開かれ、農地が次々と拡大されてきたことが挙げられます。

またEUでは、1990年から2020年の間に欧州の森林面積は9%増加し、バイオマスに貯蔵される炭素は50%増加、木材供給は40%増加したと報告されています。そのため原生林および自然再生林は減少のリスクにさらされ、生態系にも危機を招いています。EUはEUDRの策定により、これ以上の森林破壊を防ぎ、世界の温室効果ガス排出削減と生物多様性の復活に貢献することが狙いです。

目的

EUDRの具体的な目的は次の3つになります。

  • ヨーロッパ人が購入、使用、消費するリストに載っている製品が、EUおよび世界全体で森林破壊や森林劣化に寄与することを回避する。
  • EUにおける関連商品の消費と生産に伴う炭素排出量を年間少なくとも3,200万トン削減する。
  • 規制の対象となる商品を生産するための農業拡大によって引き起こされるすべての森林破壊と森林劣化に対処する。

引用:森林破壊に関係のない製品に関する規制(European Commission)

EUDR(欧州森林破壊防止規則)を満たす3要件 

EUDRの情報証明では、次の3つの要件を満たす必要があります。

  • 森林減少フリー製品である
  • 生産国の関連法規に従い生産
  • デュー・デリジェンス・ステートメントの対象

それぞれを詳しく解説していきます。

森林減少フリー製品である

森林減少フリー製品とは、簡単にいうと森林減少を引き起こしていない製品ということです。EUDRの定義によると「森林減少(deforestation)」とは人為的か否かを問わず、森林を農業利用に転換することです。森林減少フリー製品とは、2020年12月31日以降森林減少されていない、つまり農業利用されていない土地で生産された商品のことを指します。

また木材の場合は劣化が対象となります。森林劣化の定義は、FAO(国連食糧農業機関)によると、原生林または天然再生林を人工林、またはその他の森林地に変更すること、および原生林を人工林に転換することとされています。これらに当てはまる森林は、森林減少フリーとみなされません。

生産国の関連法規に従い生産

製品は、現地の関連法規に従って生産される必要があります。関連法規は、産物の生産区域の状況に影響を与える国内法および、地域法や国際法です。さらに森林・環境関連、人権・労働権、土地利用権・先住民の権利、汚職の有無などのガバナンス関連。そして汚職防止・貿易および関税に関する法規が含まれます。

デュー・デリジェンス・ステートメントの対象

デュー・デリジェンスとは、投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値、リスクなどを調査することをいいます。関連情報をエビデンスとして提供することで、リスクがないこと、または無視できる程度の少なさであることを示さなくてはなりません。

EUDRでは商品の生産地や数量など基本的な情報から、森林破壊を行わずに生産国の法令に従って生産されたものかどうかなど、十分に検証が可能なデータの提供が必要です。

EUDR(欧州森林破壊防止規則)の対象製品 

EUDR対象製品

EUDRでは、牛・カカオ・コーヒー・アブラヤシ・ゴム・大豆・木材の7つの関連商品を含む製品が対象です。ここではEUDRの対象製品や事業者、罰則等について詳しく解説していきます。

対象製品

対象関連商品対象関連製品
生きている牛・牛肉・牛革 
カカオカカオ豆・チョコレート
コーヒーコーヒー
アブラヤシ パーム油・パーム油かす
ゴム ゴム・タイヤ 
大豆大豆・大豆油・大豆かす
木材木材・紙・木製家具

事業者

EUDRでは、事業者は「オペレーター」「トレーダー」に区別されます。デュー・デリジェンスの義務があるのは、オペレーターと大企業のトレーダーになります。オペレーターとトレーダーの定義は以下のようになります。

  • オペレーター

対象製品をEU域内に輸入または輸出するあらゆる自然人や法人のこと

  • トレーダー

オペレーター以外の、対象製品を市場で入手可能にするあらゆる人のこと

EU域内のサプライチェーンにおいて、最初に対象製品をEU域内に輸入した者が「オペレーター」で、その後のサプライチェーンにおいて、同商品を取り扱う者が「トレーダー」です。

トレーダーに関しては、大企業と中小企業で異なる義務が課されます。大企業トレーダー(中小企業以外)は、大企業オペレーターと同じ義務を負います。しかし中小企業トレーダーは、デュー・デリジェンスの義務は負いません。ただし対象商品を提供したオペレーター・トレーダーの名称、住所、連絡先等を収集し、最低5年間保管する必要があります。

対象とならない製品

対象関連商品を含む関連製品であっても、EUDRの「付属書1」に掲載されていなければ次のように対象外となります。

対象製品とならないもの
付属書1に掲載されていない製品パーム油を含む石けん(石けんは対象外)、革張りの車用シート(車用シートは対象外)、天然ゴムタイヤ装着の自動車(自動車は対象外)
付属書1記載の製品であっても対象関連商品7品目を含まない製品新品のゴム製の空気タイヤには、合成ゴムと天然ゴムを混ぜて作られた製品があるが、事業者は天然ゴム成分のみについてデューデリジェンスを実施する
梱包に使用される木材単体の梱包材料として市場に出荷・輸出される木製梱包製品(木製ケース等)は規制対象、ただし他の製品を「保護・運搬」するための梱包材としてのみ使用されるものは対象外となる
中古品ライフサイクルを終えて中古品として用いられなければ廃棄されてしまう製品は規則の対象外。ただし再生紙は、通常、新品のパルプを一定程度含み、全てが再生材でない限りは規則の対象となる
竹・竹製品竹はFAOによると非木材森林商品であるため、竹及び竹のみから作られた製品は対象外となる

罰則

EUDRには罰則も設けられています。 加盟国によって罰則の内容は異なります。罰則の内容は次の通りです。

  • 罰金は、環境被害と関係する商品または製品の価値に比例する
  • 法人の場合、罰金の最大額は、罰金決定前の会計年度における事業者または貿易業者のEU全体の年間総売上高の少なくとも4%とする
  • 事業者および取引業者から関係製品を没収する
  • 当該商品との取引により運営者およびトレーダーが得た収益の没収
  • 最大12ヶ月間の公共調達プロセス、入札、補助金等からの一時的排除
  • 重大な違反や又は違反が繰り返される場合は、対象製品のEU市場への提供の一時的に禁止
  • 重大な違反や又は違反が繰り返される場合は、低リスク国向けの簡素化デュー・デリジェンスの禁止


引用:EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要(欧州連合日本政府代表部)

EUDR(欧州森林破壊防止規則)の動向と対応策

ここからはEUDRの今後のスケジュールや、日本企業としての対応を解説していきます。

今後のスケジュール 

  • 2023年6月29日にEUDRが発効される
  • 2024年12月に12か月の追加段階的導入期間
  • 2025年12月30日から、中規模・大規模企業に適用
  • 2026年6月30日から零細・小規模企業(SME)に適用

日本企業への影響と対応 

EU域内で法人設立を行わない限り、日本企業がオペレーターとなるケースは低く、EUDRによるデュー・デリジェンス義務を負う可能性は少ないでしょう。ただしEU域内に流通する対象製品のサプライヤーである場合には、EUDRの証明を求められる可能性は大いにあります。その場合は、対象製品の生産地や数量など詳しいデータの提出を行わなくてはなりません。

将来的なEUDR適用開始に向けて、日本企業はいまから備えることが重要です。トレーサビリティの確保や、サプライチェーン上の対象製品や企業のマッピングの実施、コンプライアンス違反がないかの確認など。そのためにも自社のサプライチェーン上に、EUDRの適用対象となる製品がないか、データの洗い出しや確保を積極的に行うことが肝要です。

EUDR(欧州森林破壊防止規則)の3ステップ 

欧州森林破壊防止規則(EUDR)の3ステップ 

関連製品をEU市場に輸出する事業者や取引業者、およびEUから輸出する事業者は、あらかじめ次の3つのステップを実施しなくてはなりません。

  • 情報の収集
  • リスク評価
  • リスク緩和措置

それぞれを詳しく解説していきます。

情報の収集

情報の収集には以下の内容が必要です。事業者は以下の情報を収集し、かつ5年間の保存を行わなければなりません。

  •  製品名を含む製品情報
  •  数量(キログラム単位)
  •  生産国
  •  地理情報の詳細
  •  対象製品を取り扱った企業・個人の名称や住所等
  •  森林減少フリー製品であることを確認可能な十分な情報であること
  •  対象製品が生産国の関連法規に基づいて生産されたことを示す確実に検証可能な十分な情報であること

リスク評価

事業者は、収集した情報に基づき、対象製品に対してのリスクを評価しなければなりません。リスク評価には次の内容を参考にします。

  •  生産国を高リスク国、標準リスク国、低リスク国で分類する
  •  生産国の森林の存在の確認
  •  生産国の先住民の存在、先住民との誠実な協議・協力等
  •  生産国における森林減少・劣化の蔓延状況の確認
  •  情報の信頼性・妥当性、出典へのリンク
  •  生産国の汚職、不正等の懸念等
  •  関連サプライチェーンの複雑性等
  •  認証や他の第三者検証の枠組みによる情報を含む補則情報

リスク緩和措置

事業者はリスク評価を行ったら、リスクなしの状態になるよう、次の措置をとる必要があります。

  • 追加情報の要求
  • 第三者による調査・監査の実施
  • モデル・リスクマネージメント・プラクティス、報告、記録、内部管理、コンプライアンス管理
  • 中小企業以外の場合は、上記内部方針等を確認する第三者による監査機能が必要
  • リスク緩和措置に関する決定は文書化し、最低年1回レビューしなければならない


引用:EUのEUDR(森林破壊フリー製品規則)の概要(欧州連合日本政府代表部)

まとめ

 EU域内や世界で取引・消費される製品が、森林破壊や劣化 によって生産されたものではないことを証明するEUDR (欧州森林破壊防止規則 )について、詳しく解説しました。世界の森林破壊は深刻な状況であり、グローバルにサプライチェーンを展開する企業にとってEUDRの知見を深めることは重要です。

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