
松井 大輔
(監修者経歴)
東京大学 醍醐研究室卒業、株式会社ゼロック 代表取締役、東京大学 先端学際工学専攻 博士課程、EPD検証員、省庁事業や上場企業のLCA関連コンサルティング業務等幅広く対応
要約
- 第三国炭素価格の控除に関する意見募集結果が公表された
- 控除対象制度と排出範囲の整合性が主要論点に
- 日本の制度が控除対象となるかは未確定、まずはデータ整備が重要
概要:「払った」だけでは控除につながらないCBAMの新ルール案
欧州委員会は、2026年5月13日、EU CBAMにおける第三国で支払われた炭素価格の控除に関する実施規則案について、関係各国から寄せられた意見を整理・分析した報告書を公表しました。今回の意見募集結果から見えてきたのは、「どの炭素価格制度を控除対象として認めるのか」という根本的な論点です。
関係者からは、UK ETSや中国ETSのように、制度として明確で検証可能な排出量取引制度は控除対象として認めるべきだという意見が示されました。一方で、一般的なエネルギー税や環境税、任意のカーボンクレジット、オフセットまで広く認めるべきかについては、意見が分かれています。
もう一つの大きな論点は、第三国の制度が対象とする排出範囲と、CBAMが対象とする内包排出量の範囲が一致するかどうかです。制度によって対象ガス、対象工程、対象排出範囲が異なるため、単に「炭素価格を払っているから控除できる」と考えると、過大控除や過少控除、二重計上につながるおそれがあります。
日本企業にとっても、この点は重要です。日本では地球温暖化対策税やGX-ETS、今後導入予定の化石燃料賦課金などがありますが、これらがCBAM上どこまで控除対象として認められるかは、現時点では明確ではありません。なお、今回の報告書では、日本の個別制度がCBAM上の控除対象になるかどうかについて、具体的な判断は示されていません。
UK ETSや中国全国ETSが例示された背景には、制度として排出量、排出枠、価格、提出義務を確認しやすいという点があります。一方で、日本のGX-ETS等については、EU向け製品ごとの内包排出量や実際の炭素コストと結び付けて説明できるかが論点になります。
そのため、現段階では「日本で炭素価格を負担しているから控除できる」と期待しすぎるのではなく、まずは対象製品、製造拠点、対象期間、内包排出量、実際の支払情報を整理できるかを確認することが重要になります。
| 観点 | UK ETS・中国全国ETSが例示されやすい理由 | 日本GX-ETS等で残る論点 |
| 炭素価格制度としての明確性 | 法令に基づく排出量取引制度であり、排出枠の配分・取引・提出の仕組みが確認しやすい | 制度整備は進んでいるものの、CBAM上の控除対象としての扱いはまだ明確ではない |
| 炭素コストの把握しやすさ | 排出枠価格や取引実績を通じて、炭素コストを確認しやすい | 企業ごとの負担額を、EU向け製品ごとの排出量とどう結び付けるかが課題 |
| CBAM対象製品との関係 | 中国全国ETSは鉄鋼・セメント・アルミなど、CBAM対象分野と重なる部分がある | 日本制度は主に事業者単位で管理されるため、製品単位での説明が必要になる |
| 実質負担額の説明 | 無償割当等を踏まえて、実際に負担した炭素コストを確認する余地がある | 無償割当、補助、還付等を差し引いた正味の負担額を説明できるかが論点 |
| EU資料上の位置づけ | 報告書で、堅牢な第三国制度の例として言及されている | 日本の個別制度について、控除対象になるとの判断は示されていない |
背景:排出量の報告から、CBAM証書の購入へ
CBAMは、EU域内企業が負担する炭素コストと、EU域外から輸入される製品とのコスト差を調整するための制度です。2025年末までの移行期間では、対象製品の体化排出量を報告することが中心でしたが、2026年からは本格適用段階に入り、EU域内事業者は、認定CBAM申告者として、体化排出量の申告やCBAM証書の購入・提出に向けた対応が求められるようになります。
CBAM証書の販売は2027年2月から開始され、2026年分の輸入については、2027年9月30日までに初回のCBAM申告と証書提出が求められる見込みです。そのため、2026年は実際の負担発生に向けて、排出量データや証憑情報を整理する重要な準備期間といえます。
一方で、生産国で対象排出量に対して炭素価格が実際に支払われている場合には、一定の条件のもとでCBAM証書の提出量を減らせる可能性があります。ただし、前述のように、実務上はここが大きな論点になります。
EU側で重視されるのは、制度上の名目額ではなく、第三国制度における還付、補助、免除、無償割当などによる実質負担の軽減による負担軽減を踏まえた実質的な負担額です。そのため、CBAM対応では排出量の算定だけでなく、炭素価格に関する支払情報と製品ごとの排出量をひも付けて説明できる管理体制が求められます。
コンサルタントによる解説
今回の意見募集結果を見る限り、CBAMの炭素価格控除は、単なる支払証憑の提出だけで認められるものではありません。そもそもその制度がCBAM上の炭素価格として認められるのか、その制度における排出量計算方法や支払いルールがCBAMと整合しているのかがまず重要です。
この観点から見ると、日本のGX-ETSについても、控除対象になることを前提に考えるのはまだ慎重であるべきだと考えられます。GX-ETSは日本国内のカーボンプライシング制度として重要ですが、EU側がCBAM上どのように扱うかは明確ではありません。また、仮に制度として検討対象になった場合でも、無償割当の扱い、実際に支払った正味の炭素コスト、対象排出量とCBAMの体化排出量との整合性が問われる可能性があります。
したがって、企業としては、GX-ETSによる控除を積極的に見込んでCBAMコストを下げるというよりも、まずはEU輸入者からの照会に答えられるように、製品別の排出量データと炭素価格に関する支払情報を整理しておくことが現実的です。控除を前提にするのではなく、将来の制度判断に備えて説明可能なデータを持っておく、という位置づけが適切です。
第三国炭素価格のうちどれが対象になるかの公表は、最初のCBAM費用支払い期限である2027年9月30日ぎりぎりまでずれ込む可能性もあります。実施規則の検討・採択状況については、ゼロックでも引き続き最新動向の発信を行っていきます。
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参考文献
Carbon price paid in third countries (European Commission, 2026)
Regulation (EU) 2023/956 establishing a carbon border adjustment mechanism (European Parliament and Council of the European Union, 2023)
排出量取引制度の概要(経産省2026)












