【ねじ・ボルト等用】CBAM(炭素国境調整メカニズム) 算定ガイドライン解説
公開日 2024.11.07 最終更新日 2024.11.07
松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
「 CBAM(炭素国境調整メカニズム)」とは、EU域外からの輸入品に対して、温室効果ガス排出量に応じた関税の賦課が行われる制度です。今回はCBAMの、ねじ・ボルト等の製品に関するガイドラインについて解説します。
算定対象製品や単位について
ここではCBAMの算定対象となる製品カテゴリや、算定対象となる温室効果ガスについて紹介します。
製品カテゴリ
対象となる製品のカテゴリは以下の通りです。
分野 | 鉄鋼部門 | アルミニウム部門 |
集約商品カテゴリ(Aggregated goods category) | 鋼鉄製品 | アルミニウム製品 |
CN code | 7318 - 鉄製または鋼製のネジ、ボルト、ナット、コーチスクリュー、スクリューフック、リベット、コッター、コッターピン、ワッシャー(スプリングワッシャーを含む)、および類似品。 | 7616 10 00- 釘、鋲、ホッチキス、ネジ、ボルト、ナット、スクリューフック、リベット、コッター、コッターピン、ワッシャーおよび 類似品 |
算定対象となる温室効果ガスと算定単位
ガイドラインが算定対象となる温室効果ガスと算定単位は以下の通りです。
温室効果ガス
- CO2(一部のアルミニウム製品についてはパーフルオロカーボンズ(PFC)を含む)
算定単位
- 対象製品の鉄鋼・アルミ以外の材料重量が 5wt%以下の場合:tCO2/輸出対象製品の全体重量 1t あたり
- 対象製品の鉄鋼・アルミ以外の材料重量が 5wt%を超える場合:tCO2/輸出対象製品に含まれる鉄鋼材・アルミ材の重量 1t あたり
データ収集期間
報告値の対象となるデータの対象期間は、12 か月間(暦年または会計年度における)になります。またCBAM 移行規則では、原則として季節変動や設備の計画停止等の影響を排除するため、暦年の 12 か月間の実績に基づいた報告を求めています。よりデータの信頼性が高いと考えられる場合は、会計年度における 12 か月間の実績値でも可能です。
なおCBAM が定める モニタリングや報告、検証システムに適合している場合は 3 か月の報告期間でも認められます。
システム境界
CBAM 規則におけるシステム境界は、ネジ・ボルト等の製造段階および前駆体(Precursor)の製造段階に限定されます。原材料として算定対象となるのはCBAM対象製品のみであるため、銅や樹脂等の対象外の原材料は含まれません。
出典:ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM 用算定ガイドライン(経済産業省)
確定方法
システム境界を確定させるためには、まず自社製品のうち CNコードとして定義されている製品を特定します。そして原材料の製造および自社の製造工程において、集約商品カテゴリ(Aggregated goods category)に定義される製品を特定し、その中で「生産プロセス(Production Process)」と「装置・設備・施設(Installation)」がどこかを決定する必要があります。
活動量データの収集
CBAMでは、「装置・設備・施設(Installation)」の、CNコード別の排出量を算出しなくてはいけません。そのためにはCNコード別の「装置・設備・施設(Installation)」排出量の生産プロセスへの帰属が求められます。
算定順序は以下です。
- 装置・設備・施設(Installation) 排出量
- 生産プロセス(Production Process) 排出量
- CN コード別排出量
原則として活動量データは、シンプルかつ信頼性の高いものでなくてはいけません。状況に応じて、計測データ、請求書、サンプリング分析等のデータの使用も認められています。また費用対効果も含めて、簡素化することが推奨されています。
以下よりCBAM ガイドラインに則して、ネジ・ボルト業界における一般的な排出量の計算に必要なデータ収集の手順を解説します。自社での熱・電力の生成、廃棄ガスの使用等で、複雑なプロセスが生じる場合は、別途「付属書 I 」に記載の詳細な定義を確認した上でデータ収集を行ってください。
直接排出
直接排出の対象は、燃料の燃焼、燃料の購入に伴う排出です。活動量の根拠となるデータは、測定される計測データまたは請求書ベースでの収集を行います。活動量単位は、原則として熱量(GJ)または重量(トン)で収集し、これらの単位での収集が難しい場合は容量(kL、Nm3 等)で収集を行います。
間接排出
間接排出の対象としては、消費される電力の発電に伴う排出が該当します。活動量の根拠となるデータは、測定される計測データまたは請求書ベースでの収集を行い、排出係数に合わせて使用量(kWh)もしくは熱量(GJ)で収集します。
生産重量
CBAMの報告単位は、生産重量当たりの排出量であるため、CBAM対象製品の生産重量も併せて収集しなくてはなりません。ただし、鉄鋼製品以外の材料重量が 5wt%を超える場合、対象製品に含まれる鉄鋼製品の重量を収集し、アルミ製品についても同様の対応を行います。
前駆体(Precursor)重量
関連する前駆体(Precursor)は、CNコード7318とCNコード7616に対してはCBAM規則で以下のように定義されています。
CN code | 7318 - 鉄製または鋼製のネジ、ボルト、ナット、コーチスクリュー、スクリューフック、リベット、コッター、コッターピン、ワッシャー(スプリングワッシャーを含む)、および類似品。 | 7616 10 00- 釘、鋲、ホッチキス、ネジ、ボルト、ナット、スクリューフック、リベット、コッター、コッターピン、ワッシャーおよび 類似品 |
関連する前駆体(Precursor) | crude steel, pig iron, DRI, ferroalloys (FeMn, FeCr, FeNi) andother iron or steel products | Unwrought aluminium, otheraluminium products |
外注先の排出量データ
ネジ・ボルト業界は、複数の外注先が存在することが想定されるため、 次の2つのケースについてデータの収集方法が提示されています。
- 製造の途中工程を外注している場合
外注分の製造に伴う排出は、自社の「装置・設備・施設(Installation)」の一部としてデータを収集しなくてはなりません。自社と同じく外注先の直接排出および間接排出の活動量データを収集します。なお、外注先が他社製品を製造している、または複数の生産プロセスを有し、CBAM対象外製品を製造している場合は、後述の帰属方式を用いてデータを収集します。
- 外注先が Precursor(線材等)を購入し、加工する場合
外注分の製造に伴う排出は、自社の「装置・設備・施設(Installation)」 の一部として活動量データを収集します。ただし、外注分の製造に使用された Precursor(線材等) の重量データおよび、後述する「特定内包排出量」を収集する必要があります。これは自社製品の排出量の算出において、自社が最終的に生産した重量に相当するPrecursor(線材等) の内包排出量の考慮が必要なためです。
帰属
CBAMでは、「装置・設備・施設(Installation)」 で確定した排出量を、生産プロセスごとに帰属させることが求められます。「装置・設備・施設(Installation)」 で一つの 生産プロセスしか有していない場合は、「Installation における排出量=Production Process における排出量」となります。
一方で「装置・設備・施設(Installation)」 で複数の生産プロセスを有している、または CBAM対象製品と非CBAM 対象製品両方を生産し、生産プロセスの排出量を直接計測できない場合は「装置・設備・施設(Installation)」排出量を、生産プロセスへ帰属させるために、重量・体積等の物理的指標、または時間的指標を用いて帰属させる必要があります。
なおスクラップ、廃棄物には配分しません。
- 物理的指標による Production Process への排出量帰属=(該当期間における Installation の排出量)×(該当期間における Production Processの生産重量または体積/該当期間における Installation 全体の生産重量または体積)
- 時間的指標による Production Process への排出量帰属=(該当期間における Installation の排出量)×(該当期間における Production Processの生産時間/該当期間における Installation 全体の総生産時間)
計算方法
CBAMでは、対象製品の重量当たりの製造にかかった炭素排出量原単位を算出します。
製品原単位の名称は「特定内包排出(単位:tCO2/t)」と呼称し、排出量の計算式は以下のようになります。ただし、自社での熱・電力の生成等に複雑なプロセスが生じる際は、「付属書 I」 に従い、詳細な定義を確認した上で計算する必要があります。
【算定式】
- SEEg = (AttrEmg + EEInpMat) /ALg
特定内包排出(SEEg)は、帰属排出量(AttrEmg, 自社の製造工程からの排出)に、
使用した Precursor の排出量の総和(EEInpMat)を加えたトータルの排出量を、対象期間における対象製品の生産量(ALg)で割ることが必要。
- AttrEmg = DirEm* or IndirEm
帰属排出量(AttrEmg)は、自社の製造工程における直接排出量(DirEm)または間接排出量(IndirEm)から算出する。
- EEInpMat = ΣMi・SEE
Precursor にかかった排出量(EEInpMat)は、対象製品の生産に使用されたPrecursor のうち CBAM規則の対象であるPrecursor の重量に、それぞれの特定内包排出を掛け合わせた値の総和で(ΣMi・SEEi)算出します。
CBAM では計算に使用する排出係数が決められています。以下にそれぞれの活動量に乗じる排出係数を紹介します。
直接排出(DirEm*) | 燃料:CBAM 規則に準ずる冷熱・蒸気:外部から冷熱・蒸気を購入している場合、提供する事業者からCBAM規則の要件に従って算出された排出量の提供を受ける。 |
間接排出※、「グリーン電力証書」や「非化石証書」のようなエネルギー属性証書を計算に反映することはできない。 | ・自家発電の排出係数(EFEL):EFEl = (Σ ADi · NCVi · EFi + EmFGC) /ElprodPPA 事業者からの電力を使用した場合は事業者から提供される排出係数を使用して算出 ・デフォルト排出係数の使用:①欧州委員会の提供する日本の電力平均係数、②日本で公的に入手可能な電力平均係数=SHK 制度における電気事業者別排出係数の全国平均係数 |
Precursor の内包排出量 | 特定内包排出は、それぞれの Precursor のサプライヤーからデータを入手する必要がある。それぞれの Precursor 重量に、それぞれの特定内包排出を乗じることで recursor の内包排出量を算出する。 |
推計 | 推計の具体的な方法は CBAM 規則には示されていない。合理的と判断される推計方法を自社で定めて推計することが必要である。 |
ドキュメント(MMD)作成
報告事業者は、CBAM排出量と生産データを決定するために使用されたモニタリング方法の以下の要素を含んだドキュメント(MMD)を作成します。
- システム境界(Installation, Production Process)の定義
- 各排出源に対して標準の計算ベースを使用している旨
- 生産されるCBAM製品の量、熱、電気の流れ(図での説明が望ましい)
- データ収集方法(計測データ、請求書、在庫実績等)
- 計測メータのメンテナンス・校正
- 使用する計算式
- 使用する標準値とその出展
- 管理方法(four-eyes principle 等)
- データの保存方法(改ざんを防ぐためのセキュリティを含む)
- モニタリング方法の改善に関する定期的な確認(定期的なチェックを推奨)
- 担当者の責任と役割、能力の管理に関する説明
- 品質保証対策(実施チェック項目)
- データギャップが生じた際のデータ置換のための推計方法
- モニタリング方法が適切であるかどうかの定期的なレビュー
- 改訂プロセス
- 製品および前駆体のリストの定期的な見直しと更新の手順
検証
CBAM本格運用開始前に、排出量データに対して検証を行う必要があります。特に以下の点の信頼性・正確性が検証されるため、いまから備えておきましょう。
- 排出量の算出に使用された燃料・電力消費量等
- 排出係数の採用根拠
- 排出量を算出した計算過程
上記に対応するため事業者は次の点を示し、算出のための根拠資料、算出過程、算出手順等のデータを保持することが求められます。
- 報告されたデータに不整合がないこと
- 科学的基準に従ってデータが収集されたこと。
- 関連記録が完全で一貫していること。
報告
報告はEU域内の輸入事業者が行います。最終的には製品の総排出量、CN コード毎の製品の特定内包排出量を報告しますが、鉄鋼製品についてはその他以下のような情報が必要です。
- マンガン、クロム、ニッケル、その他の合金
- 製品中に含まれる鉄鋼以外の材料が 1~5wt%を超える場合、その重量%
- 製品1トンあたりの生産に使用されたスクラップのトン数
- プレコンシューマスクラップの割合
なお、委託品当たり 150 ユーロ未満の製品は免除されます。
CBAMの本運用が始まるのは 2026 年からのため、いまから企業は備えておくことが大切です。