SBTNとは│自然保護目標のガイダンスやメリットを解説
公開日 2024.09.03 最終更新日 2024.09.09
松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
SBTN(SBTs for Nature)とは何かご存じでしょうか。SBTNとは企業の環境活動において、科学に基づいた自然関連設定のフレームワークを提供する国際イニシアチブです。
SBTNを活用することで、経済発展と科学的境界に即した持続可能な目標の両方に沿った行動をとることが可能です。
本記事ではSBTNの概要やガイダンス、メリットをわかりやすく解説します。企業の環境担当の方はぜひご一読ください。
SBTN(SBTs for Nature)とは
「SBTN」は「SBTs for Nature」の略になります。ここでは「SBTN」の概要を「SBT」との違いを含めて解説していきます。
SBTN(SBTs for Nature)は自然関連のフレームワーク
「SBTN」とは、企業の事業活動による自然資本への影響の情報開示するための、科学的根拠に基づいた目標設定フレームワークになります。対象は自然界の「淡水」「陸地」「生物多様性」「海洋」「気候」の5つの分野です。企業の自然資本に対する影響リスクや、それらに対する取り組みを開示・報告することで、持続可能な社会システム実現を目指すものです。
SBTとの違いとは
SBT(Science Based Targets)とは「地球温暖化による気候変動対策を行うための科学と整合した目標」のことです。より詳しく解説すると、パリ協定の数値「1.5度基準」と整合するための指標であり、「気候変動」に特化した基準になります。
SBTi(Science Based Targets initiative)とは、SBT指標を元にしたツール、ガイダンスを提供している国際イニシアチブであり、気候関連目標についてはSBTiが作成しています。
SBTN(SBTs for Nature)のガイダンス
それではここからはSBTNの具体的なガイダンス内容を解説していきます。SBTNの第1回目のリリースではSTEP3までが公開されました。STEP1と2は5つの分野共通のガイダンスであると報告されています。STEP3については「淡水」「土地」「生物多様性」までが公開されている形です。
バリューチェーンの捉え方
バリューチェーンとは、企業の各事業活動を価値創出のための一連の流れとして捉える方法です。
SBTNでは、それぞれのスコープ、例えば「上流フェーズ」「直接オペレーション」「下流フェーズ」のすべてに対して、自然資本への影響を評価する仕組みとなっています。ただし現時点では、対象となるスコープは「上流フェーズ」「直接オペレーション」のみです。
5つのステップから成るプロセス
SBTNは、「淡水」「陸地」「生物多様性」「海洋」「気候」の5つの課題領域に対して、次の5つのステップで評価を実施します。
STEP1. 分析・評価(Assess)
バリュー チェーン全体にわたる自然への影響を評価するため、最も重大な自然影響がバリューチェーンのどこにあるのかを特定します。そして潜在的な環境への影響と目標設定のリスト作成を行います。
【セクターレベルの重要性評価】
SBTNが開発した ツールを使用して、バリューチェーンの「上流フェーズ」「直接オペレーション」の重要部分を把握します。
【バリュー チェーン評価】
重要性評価で特定した自然への影響要因を、サプライ チェーンの階層と場所の両方の観点から、バリュー チェーン全体で影響が発生する場所を推定します。
STEP1による成果 | 環境領域の初期推計や、目標設定のための潜在的な課題分野等の位置付けが可能 |
STEP2. 理解・優先順位付け(Interpret & Prioritize)
STEP1で得られた情報をもとに、業務からバリュー チェーン全体、バリュー チェーンを取り巻く環境に至るまでのアクションを考慮して、全体的に最も大きな影響を与える地域や場所を優先し、順位付けを行います。そのためには、「目標設定の場所を定義する」「優先順位を付けて実現可能性を審査する」ことを企業としてしっかりと検討することが重要です。
STEP2による成果 | 目標設定のための場所の「ショートリスト」作成や、取組に対する初期値を設定 |
STEP3. 計測・設定・開示(Measure, Set & Disclose)
STEP3では、まず優先ターゲットと場所のベースラインデータを収集を行い、次に物質的な影響に応じて、淡水、陸地、気候それぞれの目標を設定します。ただし 気候に関してはSBTi 経由にて実施します。現在海洋に関する目標設定は、2024 年に利用可能の予定です。
淡水に関して現在のガイダンスでは、淡水の水量や水質についての目標設定の手法が示されています。ステークホルダーと協議をし、モデル化手法の選択を行う必要性も組み込まれています。
モデル化とは「水生生物が、健全な状態で過ごせるか」という、問いに対してしっかりとした取り組みを提示することです。
企業は、これらの目標に取り組むプロセス全体の進捗状況を、追跡して報告し、公表します。
STEP3による成果 | ベースラインや目標の記述、目標を達成するための予定や期限の行動プログラム作成 |
STEP4. 行動(Act)
STEP4は、SBTNのフレームワークやこれまでの導入事例を参考に、行動戦略を策定します。回避・削減・回復と再生・変革を中心に、具体的な行動計画を策定する必要があります。
STEP4による成果 | 優先順位による行動計画の実施 |
STEP5. Track(追跡)
STEP5dでは計画の進捗状況を監視し、必要に応じてフィードバックを行いながら、戦略を調整し進捗状況を報告します。SBTNでは、2024年から詳細な測定、報告、検証ガイダンスが利用可能になります。
STEP5による成果 | 取り組みにより得られた知識や、成果を達成する行動及び成功要因の確認 |
SBTN(SBTs for Nature)のスケジュール
- 2020年9月:BTs for Natureの企業向けの初期ガイダンスを公表
- 2023年5月:「STEP1&2」および「フレッシュウォーター」のv1.0、さらに「ランドのv0.3」をリリース開始
- 2025年:SBTs for Natureの開発が完了予定
TNFDとの関連性
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)とは、企業の資金運用を「生物多様性を含めた自然資本を回復させる」ことに変化させるための国際的なイニシアチブです。
TNFDは影響と依存、リスク機会を評価・開示を支援するためのフレームワークやガイダンスを提供していますが、SBTNの自然への影響と依存の定義が採用されています。TNFDの方法論「LEAPアプローチ」SBTNの5つのステップは類似性が高く、SBTNのガイダンスに沿って科学的な根拠に基づく目標を設定することで、企業は取り組みの正当性を確認可能です。そのためTNFDとSBTNの取組みは、同時並行的に行うことが望ましいと考えられています。
SBTNとTNFDの共通点
SBTN(5つのステップ) | TNFD(LEAPアプローチ) | 共通点 |
分析・評価(Assess) | 発見する(Locate) | 事業活動における自然資本への機会やリオス句を把握し、優先順位を作成する等 |
診断する(Evaluate) | ||
理解・優先順位付け(Interpret & Prioritize) | 評価する(Assess) | 財務影響に及ぼす評価に用いるリスクと機会を特定 |
計測、設定、開示(Measure, Set & Disclose | 準備する(Prepare) | 目標設定のためのベースラインや行動計画や報告について等 |
行動(Act) | ||
追跡(Track) | 行動計画に基づいた取り組み情報公開 |
TNFDに関してはこちらで詳しく解説しておりますのでぜひご覧ください。
SBTN(SBTs for Nature)のメリット
SBTNを導入することにより企業として得られるメリットには次のようなものがあります。
- リスク軽減
- 国家戦略との整合やイノベーション促進
- ESG投資の拡大
リスク軽減
ネイチャーポジティブの考え方は国際的に重要視され、各国は生物多様性や自然保護への規制を強化しています。バリューチェーンにおけるそれらの規制は、国内でも強まっていく可能性が高く、対応策としてSBTNを活用することは、リスク軽減にメリットがあります。
国家戦略との整合やイノベーションの促進
生物や自然を保護するための、新たな技術の開発は持続可能な社会を構築するためにも非常に重要です。国内でも人間の利便性追及型社会から、自然生態系に配慮した環境保全型社会にシフトしていくことが必要であると、多自然型工法が推進されています。
政府は2023年には「生物多様性国家戦略 2023-2030」を発表しており、今後は スマート農業技術の社会実装の推進等を進めています。SBTNのような国際的な枠組みにすることは、国家戦略との整合やイノベーション促進に有効です。
ESG投資の拡大
SBTNやTNFDのルール作りの国際的な機運醸成は、ESG投資家にも影響を及ぼしており、ESG 投資分野においてもネイチャーポジティブへの関心が向上しています。今後は生物多様性の保全・回復への投融資が拡大されることが予測され、SBTNの取り組みはますます重要視されると考えられます。
企業のSBTN先行導入や自然保護対策事例紹介
現段階ではSBTNは開発中ですが、すでに自然保護の重要性を受け、TNFDに沿った対策を企業単位で実施している事例は多数あります。またSBTNガイダンス開発のために先行導入を行っている企業もあります。
ここでは国内外の企業事例をいくつかご紹介しましょう。
サントリーホールディングス
「サントリーホールディングス」は、SBTNの方法論開発のために水に関するパイロット・スタディに選出されています。パイロット・スタディでは、原料調達先の水使用のデータを把握するための課題や、解決策を提案しました。またサントリーは、今回のパイロット・スタディで得た水リスク評価の手法を参照して、「水のサステナビリティ」「生態系の保全と再生」「循環経済の推進」「脱炭素社会への移行」を目標とした「環境目標2030」の改定を実施しています。
参照:サントリーホールディングス「サントリーグループのサステナビリティ」
株式会社リコー
リコーグループでは、2030年までに生物多様性の損失を止め回復軌道に乗せる 「ネイチャーポジティブ」と、「森林破壊ゼロ」社会の実現を目指しています。事業活動に伴う環境負荷を削減し、自然環境の再生・維持のため、TNFDに基づいたLEAPアプローチに沿って自然資本へのインパクトの評価やリスク分析を行っています。
株式会社NTTドコモ
株式会社NTTドコモは、TNFDに沿った自然関連の依存・影響、リスク・機会の分析を行い、情報を開示しています。またその結果をもとに、自然関連の機会創出に向けた取組みを行っています。スマート林業の推進に向けた実証事業の実施や、社会全体の持続的な発展と地球環境保全に取り組んでいます。
H&M グループ
H&M グループは、バリューチェーンが関与する生物多様性と自然生態系への全体的な影響を防止し、軽減するよう努めています。そのためSBTNの科学的助言に沿って、生物多様性や自然生態系の保護回復の支援を実施し、影響を継続的にマッピングしています。
またこれらの調査結果を 用いて科学的根拠に基づく目標を設定し、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD) が定めた方法で情報開示を行っています。
ケリング・グループ
ファッション、ジュエリー製品を扱うグローバル・ラグジュアリー・グループ「ケリング」は、SBTNの先行企業に選出されています。初期フェーズでは淡水と陸地に焦点を当て、後期フェーズでは生物多様性や海洋に関する目標を設定しています。
まとめ:企業は自然保護への意識を高め持続可能な社会構築に貢献しよう!
SBTNについてさまざまな角度から解説しました。持続可能な社会を築くためには、気候変動対策のみならず、自然資本への影響を考えなくてはならない時代を迎えています。
本記事を参考にネイチャーポジティブや、自然保護対策を自社で検討してはいかがでしょうか。
株式会社ゼロックでは、企業の脱炭素や環境経営に対して専門的な知識と経験から支援が可能です。ぜひお気軽にお問い合わせください。