
松井 大輔
(監修者経歴)
東京大学 醍醐研究室卒業、株式会社ゼロック 代表取締役、東京大学 先端学際工学専攻 博士課程、EPD検証員、省庁事業や上場企業のLCA関連コンサルティング業務等幅広く対応
目次
要約
- 排出の大半を占めやすい「使用時の排出(Cat.11)」を、目標の中心に据える
- 目標は「排出強度の低減」か「ZEV販売比率の引き上げ」のいずれかで設定
- 算定値の第三者保証と開示要件を業界標準として整理する
概要:使用段階を軸にした新ルール案
SBTiでは、全産業に共通するネットゼロ基準として「Corporate Net-Zero Standard(CNZS)」を土台にしながら、業界の事情に合わせた基準やガイダンスの整備を進めています。すでに最終版が公開されている業界もある一方で、自動車分野は現在、意見募集を通じて要件を詰めている段階にあります。
SBTiは2026年2月3日、自動車産業向けネットゼロ標準の第2次パブリックコメント草案を公表しました。
草案の狙いは、自動車メーカーと主要な部品メーカーが、排出削減目標を「共通のネットゼロ基準(CNZS)+自動車特有の追加要件」で一貫して設計できるようにすることです。特に、自動車では「販売した製品の使用(Scope3カテゴリ11)」の排出量が大きくになりやすい点を重視しています。
なお本草案は、2026年3月22日まで意見募集を行い、並行して試験運用も実施するとしています。最終版は2026年Q3以降の公表見込みとされております。
草案:SBTi AUTOMOTIVE SECTOR NET-ZERO STANDARD Version 0.1 – Second Public Consultation Draft
完成車メーカーの目標は二択に、部品メーカーにも新たな要件
草案では、完成車メーカーの目標の示し方として2通りを提示しています。具体的には、「販売した製品の使用(Scope3カテゴリ11)」に関する排出指標を改善する方向と、ZEV(ゼロエミッション車)の販売比率を高める方向のいずれかを選べる設計を提案しています。
また、総売上の20%以上を自動車部品が占める企業は、部品メーカーとして本草案の基準の対象になる考え方が示されています。例えば、ZEV(およびnear-ZEV)に該当する車両向けに販売している部品の売上構成の評価・開示を求めるほか、「購入した製品・サービス(Scope3カテゴリ1)」についても目標設定を求める方向です。
さらに、エンジンやモーター等を供給するパワートレイン供給企業については、部品メーカーとしての要件に加えて、販売した製品の使用段階(Scope3カテゴリ11)に関する目標設定まで求める方向が示されており、完成車に近い形で「使用段階」の説明責任が増える可能性があります。
算定値の第三者保証と開示を「業界標準」として位置づける
本草案では、目標設定の要件とあわせて、算定値の信頼性と透明性を担保するための枠組みを整理しています。具体的には、草案が参照する全産業共通のネットゼロ基準(CNZS)との整合を前提に、企業が目標を設定・公表する際に、算定に用いた指標や前提条件を第三者が確認できる形で扱う方向性が示されています。
また、完成車メーカーに関しては「販売した製品の使用(Scope3カテゴリ11)」を中心に据えた目標設定を扱う一方で、目標の根拠となる数値の取り扱いとして、第三者保証や情報開示に関する要求事項を明示しています。
これにより、目標そのものだけでなく、目標を構成する算定値の検証可能性や、企業間での比較可能性を高める考え方が読み取れます。
さらに、部品メーカーやパワートレイン供給企業に対しても、該当する基準(APSS)に基づく要件が示されており、対象となる企業は、目標の設定と同時に、算定値の保証や開示に関する整理が求められる構成になっています。
コンサルタントによる解説
今回の草案は、工場での排出削減だけではなく、「売った製品の使用による排出」まで含めて目標を設計する流れが強まっている点がポイントです。完成車や主要部品の企業では、販売後の使用による排出(Scope3カテゴリ11)を、第三者が見ても納得できる根拠で算定できるかどうかが重要になります。
実務では、業界ルールに沿って算定の範囲や考え方を揃えたうえで、社内の前提条件を一本化しておくと手戻りが減ります。使用期間や走行距離、排出係数、地域別の販売構成などは、採用理由とあわせて残しておくと説明がしやすくなります。
また草案では、目標を「使用段階の排出を下げる」だけでなく、「排出しない製品の販売比率を高める」といったKPIで示す選択肢も議論されています。
今後は、目標を「宣言する」だけでなく、その目標を作った数字の根拠(データや計算方法)まで外部に確認される場面が増えていきます。排出係数や計算方法は更新が入りやすいので、変更履歴も残しておくことが重要です。
まずは主要製品から始め、算定とデータ管理の進め方を社内標準にしていく進め方がよいでしょう。
関連記事
参考文献
- Science Based Targets initiative (SBTi). (2026). Automotive Sector Net-Zero Standard (V0.1 Second Public Consultation Draft).
- Science Based Targets initiative (SBTi). (2026). Automotive Sector Net-Zero Standard V0.1 Second Public Consultation: Main Changes Document.
- Science Based Targets initiative (SBTi). (2025). Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 Second Consultation Draft.
- Science Based Targets initiative (SBTi). (2025). Corporate Near-Term Criteria (Version 5.3).












