削減実績量(REP)とは?削減貢献量との違いやメリットを解説
公開日 2025.05.01 最終更新日 2025.05.01

松井 大輔
株式会社ゼロック 代表取締役 監修
目次
削減実績量という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
削減実績量(REP)とは、企業の脱炭素施策を反映した製品における温室効果ガス排出削減量のことです。GX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みにおける価値を示す指標のひとつでもあり、「GX価値」とも呼称されます。
本記事では削減実績量の概要やメリット、そして削減貢献量やカーボンフットプリント(CFP)との違い、今後の展望まで解説します。
削減実績量(REP)とは

削減実績量について概要や背景を解説していきます。
概要
削減実績量とは、英語で「Reduced Emissions of Product」であり、REPと略して表記されることが一般的です。製品のGX価値を表す指標のひとつで、削減実績量や削減貢献量の大きい GX 価値を有するものが「GX 製品」とされています。
削減実績量の基本原則は、「実際に企業の排出量を削減した施策を反映した製品単位排出削減量」になります。そのため価値を独⽴して流通させた上で、他者の排出量を追加的に削減させる効果はありません。
削減実績量を開⽰・主張する場合には、気候変動以外の環境や社会への影響を検討し、悪影響が想定される場合は対策をとることが望まれます。そして ⽬的に応じた明瞭な開⽰を行わなければなりません。
背景
削減実績量が注目される背景には、政府が推進するGX(グリーントランスフォーメーション)があります。
GXは経済産業省によって以下のように定義されています。
- 2050年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取り組みを経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けて、経済社会システム全体の変革
簡単に言うと、脱炭素社会構築の取り組みを通して、経済社会システムを変革させるということです。
GXは日本のみならず世界規模で実現に向けた投資競争が加速しています。そのため経済産業省は、カーボンニュートラルへの挑戦を果敢に行い、国際ビジネスで勝てる企業群がGXを牽引する枠組みとして、GXリーグを設立しました。2024年4月時点で、日本のCO2排出量の5割超を占める企業群が参画しています。
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なぜGXへの取り組みが重要なのか
ではなぜGXへの取り組みは重要なのでしょうか。ここでは以下の2つの視点から解説していきます。
- カーボンニュートラルの達成
- 循環型経済成長拡大の実現
カーボンニュートラルの達成
人間の経済活動で大量に排出される温室効果ガスによる地球温暖化の加速は、いまや危機的状況と言っても過言ではありません。人為的な発生による温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、「実質0」にするためのカーボンニュートラルへの取り組みは、重要性を増しています。
日本の2023 年度、温室効果ガス排出・吸収量は、CO2換算で10 億 1,700 万トンで、2022 年度から 4.2%(4,490 万トン)の減少。2013 年度の我が国の排出量(13 億 9,500 万トン)と比べて、27.1%(3 億 7,810 万トン)減少しています。
日本は2020年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。持続可能な社会の構築を目指し、再エネの推進や低炭素な資源活用などにスピード感を持って取り組むことが肝要です。

引用:2023 年度の温室効果ガス排出量及び吸収量(環境省)
循環型経済成長拡大の実現
どのような資源も無限ではありません。限りある資源を有効に活用し、かつ循環させることで地球環境への貢献が、同時に実現される世界を目指す必要があります。そのためには企業の取り組みから生まれた価値が提供される、新たな市場の創出が不可欠です。新たな市場創出により、生活者の意識・行動変容を引き起こすことができれば、循環型経済成長拡大の可能性が向上します。
GXリーグでの構想では以下のような取り組みを推進しています。
- 食品ロス削減等の発生抑制
- 原料のバイオマス化を含む素材転換
- プラスチック等の分別徹底によるリユース・リサイクル
- 廃棄物処理施設での廃棄物エネルギーの活用
- 再生可能エネルギーの導入
- CO2の利用
- 廃棄物由来燃料の利用
- 素材生産量に及ぼす影響の大きい耐久財の資源効率の向上など
ライフサイクルを適切に考慮した循環経済ビジネスなどの取組は、地域や社会全体の脱炭素化に大きく寄与します。
削減実績量(REP)のメリット

削減実績量には次のようなメリットがあります。それぞれを詳しく解説していきます。
- 競争力の獲得・向上
- 環境価値の向上
- 取り組みの可視化
競争力の獲得・向上
削減実績量は企業が排出削減に成功した量を指します。これは企業の脱炭素戦略において、競争力を獲得・向上させるための大きな要素です。世界を見てもカーボンニュートラル実現への取り組みは加速しており、脱炭素戦略の成否が国家の競争力を左右するといっても過言ではありません。国際的な競争力を獲得・向上するためにも、企業は事業活動において積極的に温室効果ガス削減に取り組むことが重要です。
環境価値の向上
削減実績量を定量的に示すことで、企業は排出削減の進捗や成果を可視化し、外部へのアピールに役立てることができます。また、運営効率の向上や持続可能な成長に繋がる改善の指標としても有効なため、企業の環境価値向上に繋がります。
取り組みの可視化
製品の製造段階における排出削減の実績を定量化し、削減への取り組み結果を可視化することは、製品やサービスのライフサイクル全体での排出削減に結びつきます。サプライチェーン上の各企業の脱炭素の努力が適切に反映されることで、社会全体でこうした価値を有する製品・サービスを選好することに繋がります。
削減貢献量との違い
削減実績量と混同しやすい言葉に「削減貢献量」があります。ここではそれぞれの違いや、カーボンフットプリント(CFP)とカーボンクレジットとの違いも解説していきます。
削減貢献量
削減貢献量とは、「環境負荷の削減効果を発揮する製品等の、原材料調達から廃棄・リサイクルまでの、ライフサイクル全体での温室効果ガス排出量をベースラインと比較して得られる排出削減分のうち、当該製品の貢献分を定量化したもの」と定義されています。
カーボンフットプリント(CFP)
カーボンフットプリント(以下CFP)とは、ライフサイクルアセスメント(以下LCA)で排出される温室効果ガスをCO2に換算し、可視化する手法のことです。「炭素の足あと」とも呼称されます。
CFPは、LCAの仕組みを通じて製品やサービス単位のCO2排出量を定量化することが可能です。またサプライチェーンのどの部分で、CO2を排出しているのか可視化できるため、具体的な対策をたてやすい手法です。また、製品やサービスの脱炭素化を消費者にアピールしやすいというメリットもあります。
カーボンクレジット
カーボンクレジットとは、「温室効果ガスの削減量を、CO2に換算し、証書やクレジットの形として取引する」手法です。具体的にいうと、企業がCO2の削減活動上、どうしても削減できなかった分を「排出許可証」として購入することで、間接的にCO2削減を実施したことになります。このような形で削減量を売買し、資金調達に繋げる取り組みがカーボンクレジットです。
それぞれの違いをまとめると以下のようになります。
名称 | メリット | デメリット | 算定対象 | ルール等 | 表す量 |
削減実績量 | 製品の製造段階における排出削減の実績を定量化し、削減の取組結果を可視化可能 | 基本的な考え方や、算定は法は確立されていない | 製品・サービス | なし | 削減量 |
削減貢献量 | 製品の使⽤段階等での排出削減による社会全体への貢献を定量化し、顧客や消費者への寄与を可視化可能 | ⼀定のシナリオに基づく推量であり、主張には明確な開⽰が必要 | 製品・サービス・技術・プロジェクト等のソリューション | WBCSDガイダンス等や、削減貢献量算定ガイドライン | 削減量 |
カーボンフットプリント | 製品の排出量を定量化し、環境負荷の把握や⽐較を可能にする | 絶対値であり、それだけでは削減量の主張はできない | 製品・サービス | ISO14067, GHGプロトコルや、CFPガイドライン | 排出量 |
カーボンクレジット | ⾃社が創出した削減量を他者に譲渡し、削減価値を経済価値に転換可能 | 削減量移転の場合は、⾃社排出にカウントが必要 | プロジェクト | J-クレジット、JCMクレジット等 | 削減量 |
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LCAとScope1.2.3との関係
削減実績量は自身のScope1・2の削減量から創出された上で、バリューチェーン下流企業のScope3の削減として表されます。独⽴した削減価値として削減実績量をScope1〜3の算定には⽤いることはできませんが、排出削減量の内数には含まれます。これは各サプライヤーが、それぞれの取り組みを通じて、カーボンニュートラルに向けて協働するという観点から重要です。
また削減実績量はLCAを活用して排出量を定量化し、削減量を把握することが基本です。LCAとは、製品やサービスのライフサイクルを通じて、環境負荷を視覚化するための手法です。これらを基本としつつ、発展的⼿法の可能性も議論されることが期待されています。
削減実績量の今後と展望
削減実績量に関する今後の動向や展望についてわかりやすく解説します。
GX製品市場拡大に向けた施策
2050年カーボンニュートラルの国際公約と産業競争力強化・経済成長を同時に実現していくためには、今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要と考えられています。そのため、GX推進戦略の策定・実行やX経済移行債の発行、成長志向型カーボンプライシングの導入、GX推進機構の設立、進捗評価と必要な見直しなどを盛り込んだ「GX推進法」が、2023年5月に成立しました。
これにより官民連携による投資を促進し、脱炭素化技術の開発や導入を加速させ、GX製品市場の拡大を図ることが狙いです。なかでも成長志向型カーボンプライシングの導入では、2033年度から排出権取引制度の導入が本格化する予定です。発電事業者に対して一部有償でCO2の排出枠(量)を割り当て、その量に応じた特定事業者負担金を徴収します。
GX製品市場ロードマップ
製品やサービスのGX価値を視覚化させることで、需要者側に対する具体的なインセンティブに結びつけることが可能です。さらにさまざまな需要創出策を並⾏して打ち出し、時間軸を⾒据えたメリハリのある対応で先⾏者利益を誘引し、GX製品市場の拡⼤につなげます。
そのため以下のような、GX製品市場創出に向けたロードマップが打ち出されています。

まとめ
「GX価値」である削減実績量(REP)について、さまざまな角度から解説しました。GX に果敢に挑戦する企業が、持続可能な脱炭素社会構造の変革を牽引することが可能です。製品ライフサイクル全体での排出削減を通じて、世界全体でのカーボンニュートラルの実現に寄与する時代を迎えています。
本記事で削減実績量について知見を深め、GXへ果敢に挑戦する企業として躍進してはいかがでしょうか。
株式会社ゼロックは、高い専門性でお客様のGXに関するご相談を受けることが可能です。お気軽にお問い合わせください。